No.8-ナンバーエイト-

偽モスコ先生

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宋華王国の受難

金髪碧眼のおっとり娘

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 冒険者組合総本部は『天界の門』総合管理ビルの中にある。
 総合管理ビルは一階に『天界の門』があって、その前に受付や検査をするゲートや待合スペースのようなものがある。天界にはないけど、地球の空港ってのと似ているらしい。
 
 二階から五階までは、主に観光客をターゲットにした商業施設となっていて、六階に冒険者組合総本部がある。七階以降はホテルや有名企業のオフィス、金持ち用の分譲マンション的なスペースとなっていて、早い話俺には用がないから詳しくは知らない。

 六階につくと、通路にある椅子に腰かけたビットを見つけた。
 歩いて近づいて行き、向こうがこちらに気づくと片手をあげながら挨拶をする。

「よう、ビット。久しぶりだな」
「久しぶり!元気してた?」
「ああ。お前も元気そうだな」
「あれ以来SNSとかじゃラスナの情報は流れないんだもんな。魔法が使えるラスナを早く見てみたいよ」

 ヴァレンティアか七か国連合か、はたまたガイアが情報規制をかけたのかは知らないけど、ビットの言うようにお告げ以来俺の情報は一般市民には流れていないらしい。帰ってから確認してみて俺も驚いたくらいだ。

「まあ、誰のおかげかは知らないけど助かってるよ。いい加減好奇の視線に晒されるのも面倒くさくなってきたところだったしな」
「今日はあの剣は持ってきてないの?」
「持ってきてるけど、ここ数日はもう鞘に入ってもらってる。俺の相棒だしクロスって名前があるから、そう呼んでやってくれよ」
「わかった。それじゃ依頼を見に行こう」

 フロアに入ると、そこには冒険者にとっては見慣れた光景が広がる。
 銀行の接客スペースみたいな感じで依頼の発注や受注、換金等をする為のカウンターとそれに対応する数の職員が並び、そこを境にして向こうが職員の事務用スペース、こちらが冒険者が順番待ちをしたり、壁に張り出された依頼やお知らせを確認するためのスペースになっていた。

 見た目とか雰囲気も銀行に似ているんだけど、微妙に違うのは客用のスペースが銀行よりは広い事かな。

 俺たちは壁の近くをうろうろしながらいい依頼がないか吟味する。
 今日は本格的な依頼を受ける気があまりないから、危険動物討伐系の依頼が望ましい。メインの目的はビットに俺の魔法やクロスをお披露目することだ。

「ラスナ、これなんかいいんじゃない?クレイジーマントヒヒの討伐。場所は宋華王国とサンドラ、ヴァレンティア三国の国境付近で重要な場所だからそこそこ報酬も貰えるよ」
「おっ、いいな。それにするか。ギルドが依頼主だから確認も速そうだ」

 依頼の達成確認方法は依頼の種類によって様々なんだけど、共通しているのはほとんどが直接目で確認するアナログな方法が取られているということだ。

 サントにもあったように、冒険者組合というのは天界中に支部が存在する。その為、依頼の受注発注を始め、達成を確認する方法などを共通したものにしなきゃいけない。

 例えば依頼の達成確認をデジカメで撮影とかいったデジタルな方法にしてしまうと、壁の外の冒険者組合支部が同じ方法を取れなくなるってこと。
 
 だから、危険動物討伐系のクエストは個人が依頼を発注したものだと達成確認が遅くなることが多い。その点、依頼主がギルドだと役員は数がいるし処理も迅速だから、確認は個人に比べてすごく速い。今俺が話してたのはそういうことだ。

 ビットが見つけてくれた依頼の紙を剥がしてカウンターに持っていく。
 今の話と同じで、受注もアナログ。手続きを済ませて冒険者組合を後に……しようとするとエレベーター前で見知った顔に会った。

「あら、ラスナ君にビット君。こんにちは~」

 窓から差し込む陽光を照らして光輝く金色の髪は、透き通るように美しい。
 目じりが少し下がった優しそうな瞳は碧く彩られていた。
 
 この美少女は冒険者仲間のルル。そこまで会う機会もなく仲が良いってわけではないが別段悪くもない。会えば世間話は交わす。というくらいの関係だ。

「久しぶりだなルル。最近の調子はどうだ?」
「ぼちぼちかな~。ラスナ君の方は大変なことになっちゃってるね。SNSで見てびっくりしちゃった」
「見られてたか。っていうかルルもTyoritterとかやってるんだな。アカウント教えてくれよ」
「あ、俺も俺も」

 俺がスマホを取り出してTyoritterを開くと、ビットもそれに続く。

「いいよ~。アカウント名は『残虐嗜好の月姫』だから検索してみて~」
「まじかお前」

 聞かなきゃ良かった……関わらない方がいいやつじゃねえか……。

「ルルは会った頃からそんな感じだよね。おっとりしてるのに突然面白いこと言い出す感じでさ。俺はそういうの好きだよ」
「まあビット君ったら、ありがとう。ふふ。ちょっと変な名前にした方が変な男の人に絡まれないよ~って友達が教えてくれたの」
「それでお前まで変なやつになってどうすんだよ」

 ビットは面白いと言うけど、早い話がルルは思考が読めないってこと。まあ確かに面白い時もあるけど、突然毒舌になる時もあるし……要は天然なんだよな。

「まあいっか。フォロー完了っと……じゃ、俺とビットはこれから討伐に行ってくるから、また今度な」
「あら、そうなの?暇だから私もお邪魔していいかしら」
「全然オッケーだよ!な、ラスナ」
「ああ。構わないけど」
「ありがとう~じゃあ、ちょっとだけ待っててもらえる?」

 突然の申し出に驚きはしたものの、何だかんだルルと行動を一緒にするのは初めてだし、悪くはない提案かな……。掴みどころのないやつだけど可愛いし。

 それから数分ビットと話しているとルルが戻ってきたので、三人でエレベーターにのって地上まで降りるとすぐにバスに乗った。

 目的地はマダラシティの西門から出て数時間ほど行ったところで、今から出れば夜には帰ってこれるくらいの距離だ。そこに発生した大量のクレイジーマントヒヒを討伐するのが今回の依頼になっている。

 クレイジーマントヒヒってのはクレイジーなマントヒヒだ。
 それだけじゃ全く説明になっていないからもうちょっと言うと、体力も筋力もただのマントヒヒと比べて格段に発達しているが、その分頭が悪く、見かけたものには何でもすぐに殴りかかってしまう。見かけたらSNSのアカウント名を『残虐嗜好の月姫』にするやつと同じくらい関わらない方がいいだろう。

 そんなはた迷惑なモンスターが大量発生すればそこはギルドの出番……というのが、依頼が発注されることの多いケースの一つだ。

 馬車の中では俺とクロスの話題で持ちきりだった。

「クロスちゃんって言うのね。触らせてもらってもいい?……わあ、軽いね~」
「次俺だぞールル」
「それで、ラスナ君はこのクロスちゃんでどうやって魔法を使うの?」

 ルルは俺の方を向きながらビットにクロスを引き渡している。

「後で現地で説明した方がいいだろ」
「わ、本当だ!軽いな!スゲー俺もクロスみたいな剣欲しい!」

 俺はもう「実際にはクロスが軽いわけじゃない」ということを説明するのは面倒くさいから諦めている。だからビットの発言もあえて放置だ。

「ガルド国に行ったときのお話とかも聞かせて欲しいな」
「あ、そうだよ~フィーナ様と行ったんだろ?」

 何か急にちやほやされて友達増えたみたいな気になってくるな。ビットもルルもさっきから俺に話をせがんでばかりだ。

 俺は旅の事を二人に話した。
 『風神龍』ルドラが意外に気さくなやつだったこと、ガルド王家のお嬢様に喧嘩をふっかけられてリオクライドで一戦交えたこと、帰って来たら今度はリオハルト王国の使者が偵察に来て戦ったこと。

 元々冒険者をやっているだけあってそういう話が大好きな二人は、俺の話に素直に耳を傾けてくれている。

「へえ~楽しそうだね。いいなあ、次は俺も連れてってくれよ」
「うんうん。私も私も~」
「そりゃ構わないけど。腕利きの冒険者たちが護衛ってんならユキも安心してくれるだろうしな」
「ユキ?……って、どちら様?」

 ルルが、首を傾げながら聞いて来た。

「ああ、ルルは知らないんだっけか。スノウ様のことだよ。ラスナはあの第一王女のスノウ様と幼馴染なんだ。ったく、羨ましい限りだよな~」
「あら、そうなんだ~スノウ様、すごくかわいいよね~」
「でも二人とも、それはありがたいけど金とかは大丈夫なのか?王家からの依頼になる可能性もなくはないけど、当てにはしない方がいいぞ」
「わかってる。俺は余裕あるから大丈夫だよ、それに壁の外なら領内でも平気で危険動物が出るから、いざとなったら向こうで稼げばいいし」
「私も~」
「ならいいんだ。じゃ、今日は出来るだけ稼ぐとするかね。魔石の換金分は山分けでいいか?」

 パーティーを組んで討伐系の依頼をこなす場合、報酬は当然として魔石の取り分に関してもこうやって利益の分配方法を決めておいた方がいい。じゃないとすぐにもめ事になって人間関係が崩壊しかねないからだ。恋と金は人々を狂わせる最たる要因の一つだと俺は思う。

「もちろん」
「オッケ~」

 ビット、ルルと順に頷いてくれた。

 それから国境近くにある町で馬車を降りると、程なくして俺たちは現場に到着した。ビットとルルに俺がクロスにルドラの力を宿して魔法を使う様子を見せてやったり、二人の魔法の使い方なんかも見せてもらったりして、クレイジーマントヒヒ狩りは割と楽しくやれている。

 そこに、不機嫌そうな冒険者二人組が通りかかった。何やらぶつぶつと話しているけど聞き取れない。どうやら知り合いらしく、その様子に何かしらトラブルの気配を感じ取ったビットが話しかけた。

「お~い。どうしたんだ?こんなところで」
「ビット。お前こそどうしたんだよ。お前も検問で追い返されたのか?」

 ここは国境付近とはいっても、人が歩いているというのはそれだけで不自然だ。馬車は基本私物でもない限りは街から街しか行き来しない。だから国境付近で人を降ろすということは基本的にはなくて、つまりこの辺りを歩く人というのは、もっぱら検問に引っ掛かって馬車を降ろされた人が大半だった。

 とはいっても、アナログな壁の外の世界でそんなしっかりとした検問はあまり行われない。不自然な人物や荷物がないか軽くチェックだけして、何か不審者や不審物を見落としてもトラブルはそれぞれの国で処理するべき、検問に責任はないというのが天界での考え方だ。

「いや、俺たちは狩りだよ。討伐系の依頼をこなしてる最中なんだ」
「そうか。いや、宋華王国の検問が異様に厳しくてな。何でも王家や事務局から発行された身分証がないと通さないとか言われて。んなもん普通は持ってるわけねえって言っても通してもらえなくてさ。馬車を降ろされちまった」

 ビットが俺の方を振り向いた。
 俺も宋華のことは全然知らないから肩をすくめて返事の代わりにする。ルルも俺と顔を見合わせるが、何も知らない様子だ。

 その後夕方まで狩りをしてマダラシティに帰ってきたときにはすっかり夜も更けていたので、ギルドへの報告は明日にして、俺たちはそれぞれの帰路に就いた。
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