女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

文字の大きさ
5 / 207
ツギノ町編 第一章 初めてのクエスト

よくわからないけど頑張ってね!

しおりを挟む
 ジャイアントベアーから離れてしばらく。
 このしばらくは、人間の速度でのしばらくだ。

 しかも俺の横を走る小さな女の子に合わせてなので、田園風景の広がる見通しのいいこの街道で、ベアーのいたところが視界から消える程度の距離。

 まあここまで来れば安全と言うことには出来るだろう。
 俺は小さな女の子に話しかけた。

「よし、ここまで来ればとりあえずは大丈夫だ」
「おねーちゃんは!?」

 女の子は泣きそうな表情だ。
 俺は膝を曲げてお姫様だっこをしていた女勇者を地面に下ろした。
 ちびっこもその場に座って一緒に女勇者の顔を覗き込む。

 息はある……恐らく状態異常の一種「気絶」だ。
 HPを大幅に削る程のダメージを受けると一定の確率でなる事がある。
 
 「気絶」は時間が経過すれば自然に治る。
 だからまずはHPを回復する事の方が重要なんだけど……。

「おいちびっこ、HPを回復するアイテムは持ってるか?」

 女の子は無言で首を左右に大きく振った。
 くそっ……俺も装備以外何も持たずに来ちまったからな……。
 こんな事なら回復魔法の一つくらい習得しておけば良かった。

 こうなると後は女勇者がさげている鞄の中を漁るしかないけど……。
 いや非常事態だ、仕方ない。
 そうこれは仕方がないことなんだ……!

「すまん!鞄を開けるぞ!」

 断りを入れてから、俺は女勇者の鞄を開けた。
 何かちょっと女の子っぽい小物とか入っててドキっとするな……じゃなくて!
 回復アイテム回復アイテム……あった!

 小さな女の子は黙って真剣な面持ちで事態を見守っている。
 とその時、タイミングよく女勇者が目を覚ました。
 ゆっくりと瞼が開くが、まだそこまで意識ははっきりしていない様だ。

「うっ……ううっ……」

 ひとまず発見したやくそうを食べさせるべく、俺は声をかける。

「おい!大丈夫か?やくそうを食べさせてやるから頑張れ!」

 そう言って俺は右手に持ったやくそうを女勇者の口元にそっと近付ける。
 俺の言葉が何とか耳に届いているのだろう。
 やくそうが唇に触れると、女勇者の口が少しだけ開く。
 
 俺はそのままゆっくりとやくそうを口の中に入れてや……。
 おお、何か口元が妙に艶めかしくてやばいなこれ……じゃなくて!
 
 やくそうが女勇者の口の中に全て収まると、俺は自分の頬に平手打ちを入れた。
 よこしまな気持ちを振り払う為、自分に喝を入れたのだ。

 それを見た小さな女の子の身体が少し跳ねる。
 どうやら驚かせてしまったらしい。

「おにーちゃんどうしたの!?」
「いいかちびっこ、よく聞け……男というのはな、自分に厳しくしないといけない時というのがあるんだ……」
「よくわからないけど頑張ってね!」

 応援してくれた。どうやらとてもいい子の様だ。
 やくそうを飲み込んで少し経つと、女勇者が今度こそはっきりと目を覚ました。

「……ここは……?」
「おっ、気が付いたか。ここはさっきジャイアントベアーと戦った場所から少し離れたところだ。あいつからは逃げ切ったから、もう心配はないぞ」
「……!!村の女の子は……!?」

 女勇者は目を見開き、勢いよく身体を起こす。
 すぐに横で見守っていた女の子を見付けて安堵の表情を浮かべた。

「良かった……助かったんだね……」

 その言葉を聞いた瞬間、小さな女の子は顔をくしゃっと歪ませ、

「おねーちゃん……ごめんなさい……」

 そう言って女勇者に抱き着いた。
 女勇者はゆっくりと優しく女の子を抱きしめ、頭を撫でてやっている。

「そういう時はね、ごめんなさいじゃなくてありがとうって言うのよ……」

 うん、いい話だな…………で、俺はどうしたらいいんだ。
 ここで「それじゃ!」とか言って去ったら下界に来た意味すらねえし。

 ていうかまず何も考えずに来ちまったし……。
 そうだな、うまく女勇者とパーティーでも組めればいいな……。

 そんな事を考えていると、女勇者がこちらに気付いた。

「あの、あなたは先程の……」
「このおにーちゃんが助けてくれたんだよ!かっこよかった!」

 女勇者から顔を離して俺を指差すちびっこ。
 おっ、いいぞ。その調子でどんどん俺の株を上げてくれ。

「そうでしたか……あの、本当にありがとうございました……」
「いやいや、いいって事よ。困った時はお互い様だ」

 女勇者は尊敬の眼差しってやつで俺を見ている……と思いたい。
 とにかく出会いとしては完璧じゃねえの?これ。
 まあ偶然にも適正範囲外モンスターがいたりとか、タイミングとか運がかなり良かっただけなんだけど。

「よし!それじゃこの女の子を村まで送り届けるとするか!」
「あ、私はその……」

 すぐにでも行こうと俺が立ち上がって意気込むも、女勇者はどこか気まずそうな表情をしている。
 不思議に思ったちびっこが尋ねた。

「どうしたの?おねーちゃん」
「ほら、私みんなに送り出してもらってかっこよく旅立ったから、何だか戻るのは気まずいかなって……」

 まあわからんでもないけど……。

「そういうことなら俺だけで送って来るから、ここで待っててくれるか?ほら、さっきみたいなのがこの先にもいるかもしれないし」

 そう言いつつ「レーダー」を発動。
 どうやらこの辺にはもう適正範囲外モンスターはいないみたいだ。
 この子をここで一人にしていても問題はないだろう。

 何より、こう言っておけばこの子と怪しまれることなくパーティーが組める。

「はい、わかりました……あの、色々と本当にありがとうございます」
「礼なんて必要ないって。それじゃなるべく早く戻って来るから」

 そう言って村に足を向けて一歩踏み出したが、まだ重要な事を聞き忘れていた。
 俺は女勇者の方を振り返って尋ねる。

「君の名前は?俺はジン」
「ティナです。ティナ=ランバート」
「私はケイト!」

 別に聞いてなかったのに小さな女の子まで名前を教えてくれた。
 ティナちゃんか……名前もいいな。

「それじゃティナ、また後でな」
「ティナおねーちゃん、またね!」
「うん、ばいばい」

 ティナは座ったまま、胸の前辺りで小さく手を振って俺たちを見送ってくれた。
 気分は上々。
 俺とケイトはとても上機嫌に村へと戻ったのだった。



 村に着くまでの道中はケイトの歩幅に合わせてゆっくり歩いた。
 そして少しだけティナの事を聞いてみたんだけど……。

「なあケイト、ティナってどんな子なんだ?」
「えー?ティナおねーちゃんはねー、アップルパイが好きなんだって!」

 何のこっちゃ。
 まあ俺の質問の仕方も悪いな……。

 村の入り口まで来ると、何故かちびっこ自警団が集まっていた。
 さっきも俺と最初にやり取りをしたリーダー格の男の子がこちらに気付き、指を差しながら叫んだ。

「あっ!ケイトだ!」

 すると他の子供たちもこちらに気付く。

「ほんとだ!」
「ケイトどこ行ってたんだよ!」
「いなくなったから探してたんだぞ!」

 わらわらとケイトに群がる子供たち。

「村の外にお散歩したくなったから、ちょっと遠出してみたら怖いモンスターがいて……ティナおねーちゃんとジンおにーちゃんに助けてもらったの」

 そう言ってケイトは俺を指差した。
 すると自警団は次々に俺に反応する。

「ししょー!」
「師匠だ!」
「さすが師匠!」

 元から俺に気付いてはいたんだろうけど、ケイトに夢中だったんだろうな。
 それだけ心配してたって事だ。
 そんな仲間思いの子供たちは、ケイトの次に俺に群がって来た。

「師匠!どうやったら師匠みたいに強くなれるんですか!?」
「俺にも教えてください!」
「わたしにも!」

 ぬ……これは意外に困る質問だな。
 正直に言ってモンスターを倒しまくってレベルを上げればいいわけだが……。
 そんな事を言って子供たちだけでモンスターを倒しに行くと危ない。

 う~む。良心が痛むものの、ここは嘘を教えるしかないな。

「そうだな、俺は弱い内は腹筋を鍛えまくったな」
「腹筋ですか!?」
「どういう風に鍛えたんですか!?」
「筋トレするんだよ」
「筋トレだって!すげえ!」

 何がすごいのかわからんが感動されてしまった。

「腹筋を鍛えたらどう強くなるんですか!?」

 さすがに子供でも腹筋がステータスに関係ないことくらいは知っているらしい。
 しかし俺は、一切顔色を変える事なく続ける。

「そりゃお前あれだよ、腹を殴られる時に腹筋に力を込めたらちょっとだけ防御力が上がるんだよ。腹筋ガードだ」
「腹筋ガードですか!?」
「かっけえ!」

 これももちろん嘘だ。
 というかそもそも戦闘中に腹を殴られる様な事態があってはいけない。
 腹を殴られない様な立ち回りの方が重要なのだ。

 さすがに良心のHPが限界に達して来たのでそろそろ切り上げよう。

「じゃ、俺はそろそろ行くからな。お前らも一人で外に出たりするんじゃねえぞ」
「わかりました!」
「ばいばいししょー!」

 踵を返し、片手を上げて挨拶の代わりにしながら俺は村を去った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...