女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

文字の大きさ
77 / 207
伝説の武器編 後編 ドキッ! 男だらけの試練の迷宮

どこかで見た金髪碧眼の美少女

しおりを挟む
「すごいすごい! 今のどうやってやるんですか?」

 レイナルドの技を見たティナが興奮している。ジョゼフィーヌが粉々になったことはあまり気にならないらしい。
 くそっ、本当なら俺だってあれくらい余裕なのにちくしょう。

 レイナルドは柔らかく微笑むと、ティナをたしなめるように口を開く。

「今のは槍専用のスキルなのでお教えすることはできませんが、剣でも使用できそうなスキルや戦闘技術を伝授いたします」
「是非お願いします!」
「ではこちらへ」

 ティナはレイナルドの案内で別の人形の前へと移動する。
 それから戦闘技術に関するレッスンが始まった。
 最初の内は俺もこれを真面目に聞いていたんだけど、途中で眠くなって来てしまったので適当な理由をつけて離脱した。

 まあ、街中だしあのおっさん強いし、ティナを一人で置いて来ても問題はないだろうという判断だ。

 そんなわけで一人でフォースの街をぶらつくことにしたものの、どこにいけばいいかはてんで見当がつかない。
 すぐに戻れるよう、おっさんの家からは近場がいいかな。
 飯もさっき食ったばっかりだし装備屋でも回って時間をつぶすか、とか考えながら歩いていると、ある店の前を通りかかった。

 エルフの里の建物はどれも似たような外観をしているのでわかりづらいけど、扉にかかっている看板からして喫茶店だ。
 軽く茶でも飲んで時間を潰すかと思い立ち、すぐに店に入った。軽快なベルの音に招かれながら店内を練り歩いていく。
 
 時間のせいもあってか、客はまばらだ。
 一つ足を踏み出す度に床の軋む音が響き、香ばしい紅茶の香りが鼻腔に届く。
 適当に空いているカウンター席に腰かけて飲み物を注文した。

 ミツメは店ごとに趣向を凝らしていてすごく賑やかなことになっていたけど、この喫茶店のそれは至ってシンプルだ。
 自然との調和を目指すのはいいけど、もうちょっと凝ってもいいんじゃないだろうか。

 そんなことを考えていると、また一つ入り口でベルの音が鳴った。
 俺は店内を見渡しつつも、耳でこちらに近付いてくるその足音をとらえている。
 
 やがてその足音は椅子を引く音に変わった。どうやらカウンター席に座る俺の横に陣取ったらしい。
 他に空いている席だってあるのに、とちらと入店したばかりの客の方を振り向くと目があってしまった。

 絹糸のように流れる金の髪が店内のわずかな灯りを反射して輝き、優しそうな青の双眸はこちらを穏やかに見つめている。
 口元に微笑みをたたえたそのあどけない容貌は、ティナがいなければ一目惚れしてしまいそうな程の魅力に溢れていた。

 っていうかこの人って……。
 目が合ったまま言葉を失っていると、その小振りな薄桃色の唇がゆっくりと開かれる。

「こんにちは。お一人ですか?」
「あ、はい……えっと、失礼ですけどお名前は」
「フィオーレと申します」

 フィオーレ……ソフィア様じゃないのか。
 いやでもこれどう見てもソフィア様だよな?

 ソフィア様の姿には三通りある。
 
 一つは手のひらサイズの妖精姿。
 これはギルドのシンボルマークになっているくらいだから、冒険者を中心にこの世界では広く知られている。
 あとは女神の姿と人間の姿。
 この二つに関して、見た目に大きな違いはない。じゃあ何が違うのかというと、オーラが出ているかどうかだ。

 言葉じゃうまく説明できないけど、女神、つまり本来の姿のソフィア様は一目見ただけで神とわかってしまうオーラみたいなものが出ている。
 理屈じゃない。それを見ると言うか浴びる? と本能が理解するのだ。目の前にいるのが神であると。

 でも今はその感覚がない。だから少なくとも女神姿じゃないんだろうけど、それにしては見た目が瓜二つだ。
 こんな綺麗な人間がティナ以外にそうそういるわけがない。いや、でもティナは大天使ティナエルの下界での姿だからな。
 
 ティナの正体が大天使なら、ティナ並みに可愛い目の前のこの人は少なくとも大天使以上じゃないといけない。
 大天使以上って色々とどういうことだよ。まあ今はそれは置いておこう。
 
 とにかく、そうでないと俺は普通にただティナ以外の女の子にうつつを抜かしていたことになる。どう考えても最低だ。

 たしかに俺とティナはまだ恋人という関係には至ってないけど、近いうちに結婚はするだろう。
 そうなると、他の女の子にうつつを抜かしていたという事実は夫婦喧嘩の種になってしまう恐れがある。
 だからフィオーレさんの正体は絶対にソフィア様じゃないとだめだ。

 そこまで考えると目の前に意識を戻した。未だにフィオーレさん(仮)はこちらを見据えて微笑んでいる。
 俺は希望を胸に抱きながら問いかけてみた。

「あの~……変なこと聞きますけど。あなたはソフィア様ですよね?」

 するとフィオーレ(仮)さんは一瞬きょとんとした表情をした後、口元に手を添えて上品に笑いながら言う。

「ふふっ、お上手ですね。お食事にでも誘ってくださっているのですか?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんすけど」

 やばい顔が熱い。これ絶対赤くなってるわ。
 違う違うんだティナ……これは浮気とかじゃない、俺が好きなのはお前だけなんだ!!!! まだ付き合ってすらないけど。
 さすがに女神の美貌にうろたえるのは男としてしょうがないと思うんだよ。

 とにかくああいう風に返されるとこれ以上ソフィア様かどうかを確認するわけにもいかない。
 まあ少ないけど周りに人間もいるし、今は気を使っているのかもしれないな。

 あれこれ考えて黙り込んでいると、飲み物の注文を終えたフィオーレさんが話しかけてきた。

「ここへはどんな用事でいらっしゃったのですか?」
「伝説の武器を入手しに」

 まあティナは王国から勇者として認められているわけだし、この辺は隠さなくても大丈夫だろう。
 フィオーレさんは驚いたような表情をした。

「えっ、ということはあなたは勇者様のお仲間……」
「そういうことです」

 するとフィオーレさんはぽんと手を合わせて花が咲くような笑顔を見せる。

「わあ、私勇者様に憧れているんです! もしよろしければお会いして握手などさせていただきたいのですが」
「えっ、それはどうだろうな」

 フィオーレさんの正体がどうであろうと、ティナからしたら初対面の女性と会うことになるわけだからな。
 ティナは人見知りをするタイプの子じゃないけど、いくらか気を使わせてしまうことになると思う。

 どうしたものかと悩んでいるとフィオーレさんは俺の手をそっと両手で包み込むように握り、上目遣いでこちらを見ながら、

「だめ……ですか?」

 そんな風に言い出した。
 これを断れるやつはそうそういない。俺が女でも断れないんじゃなかろうか。
 顔が燃え上がったように熱くなるのを感じながら言う。

「わ、わかりました。じゃあこれ、その、飲み終わったら案内するんで」
「ありがとうございます!」

 そっと手を離されて、少しばかりの安堵のため息をついた。
 
 それから注文した飲み物を飲みつつの雑談が続いていく。
 フィオーレさんがこちらを覗き込むように、少し首を傾げて聞いてくる。

「すいません、まだあなたの名前をお伺いしていませんでしたね」
「そういえばそうですね。ジンです」
「ジンさん、ですか。いいお名前ですね」
「初めて言われました」

 シンプルで覚えやすいってのは自分でもいいなとは思ってる。
 おかげで天界では名前を忘れられた経験がほとんどない。
 名前について掘り下げるようなことも特にないので話題を変えてみる。

「フィオーレさんはここに何をしに来たんですか?」
「観光です」
「女性一人で、ですか?」
「ええ。こう見えても結構魔法を使えるんですよ」

 そう言ってにっこりと微笑むフィオーレさん。
 エアみたいに設定激甘かと思って少し意地悪く聞いたつもりだったけど、やっぱりしっかりしてるな。
 しっかりというか、言い訳しやすいように無難な感じに作っている。

 そしてさっきから笑う仕草とか、飲み物を飲むときの一挙一動とか全てがさまになっていていちいち目を惹かれてしまう。
 いかん、俺にとってティナが全てじゃなかったのか?
 もうこれは相手がどうとか言う問題じゃない。俺のティナに対する気持ちがまだまだ甘いだけなんだ。

 集中しろ。集中するんだ。俺は瞑目する。
 ティナが一人、ティナが二人、ティナが三人、ティナが四人、五人、六人、七人八人九人十人……。
 あっ、ティナ十人との結婚ってティナは許してくれるんだろうか。
 でもその場合、全部のティナに許可を貰わなくちゃだめなのか? だめだ頭がこんがらがってきた。

 そこでフィオーレさんの声で意識を現実に引き戻される。

「御気分が優れないのですか?」

 見れば、少し心配そうな表情でこちらを見つめていた。

「ああ、すいません。少し自分自身と戦ってて」
「自分自身と……何だかかっこいいですね。勝てそうですか?」
「余裕ですね」
「余裕ですか。ふふっ、ジンさんは楽しい方ですね」

 また上品に笑うフィオーレさんを見て自分自身との戦いは佳境を迎える。
 ううっ、この人本当に何が狙いなんだ。もう逃げたい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

処理中です...