女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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伝説の武器編 後編 ドキッ! 男だらけの試練の迷宮

その正体は

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 喫茶店を出るとそのままレイナルドの家に向かった。
 移動の最中、フィオーレさんがふってくる話題はティナのことばかりだ。
 胸の前で手を組み空を眺めながら、うっとりとした表情で語る。

「あの地上のものとは思えない可憐なお姿、生きているうちに一度でいいから直接この目で拝見したいと思っておりました」
「わかります」

 全くもって同じ意見なので頷いてから続ける。

「俺なんて、毎日のように会ってるのにそれでもいつも会いたいとか顔見たいとか思っちゃいますね」
「あらあら。それはつまり、勇者様を愛している……ということでしょうか?」
「うっ。そ、そうですけど……わざわざ言わせないでくださいよもぉ!」
「ふふっ、ごめんなさい。つい」

 そう言って口に手を添えながら微笑むフィオーレさん。
 くうっ恥ずかしい。この人は本当に何が狙いなんだ。
 それからフィオーレさんはとととっと俺の方に近付いてくると、周囲に人がいないにも関わらず耳打ちをした。

「そして勇者様をあれやこれや好き勝手にしてしまいたいのでしょう?」
「なっ……」

 俺は慌ててフィオーレさんから距離をとった。

「かっ、からかうのはやめてくださいよ。あれやこれやなんて……でっ、できるわけないでしょほんとにもぉ!」

 あれやこれやってなんだろう、よくわからないけど恥ずかしいからとりあえず否定しておこう!
 ていうか本当にこの人ソフィア様なのか? まだそうとは決まってないけど。
 
 俺はゼウスの元を訪ねて来た時の、真面目なソフィア様しか知らない。まあ基本的に神というのは変わった性格をしているしな。
 真面目でしっかり者と評判のソフィア様だけど、こういった一面を持っていても不思議ってわけじゃあない。

「ふふふ、ジンさんは可愛らしい方ですね」

 くそっ、ずっとペースを握られてばかりだ。
 フィオーレさんがフォースにいる間に一矢報いたいところ。
 と、会話をしているうちにレイナルド宅に到着。

 庭では修行に打ち込むティナとそれを見守るレイナルドの姿があった。
 二人のところに歩み寄り片手をあげながら挨拶をする。

「よう、やってるか」
「あっジン君だ」
「ジン殿、お帰りで」

 二人ともこちらを振り向いて返事をしてくれた。少し腹が減ってきたのかレイナルドの口数が少ない。
 そして、俺の後ろからひょこっとフィオーレさんが出て来たので手で示しながら紹介した。

「こちらフィオーレさん。そこの喫茶店で会ったんだけど、ティナのファンで会いたいって言うからきてもらっ」

 とそこまで俺が言うと、フィオーレさんがティナに向かって駆け出した。
 そしておもむろに抱きつく。肩が軽く上下しているから、ティナに頬ずりをしながら息を吸っては吐いてを繰り返しているらしい。

「うひひ~」
「えっ? えっ!?」

 ティナはかなり動揺している。そりゃそうだろうな。
 まさか初対面の女の人に抱きつかれて怪しい声を出されるとは思うまい。
 う、うらやましい……お、俺も……できるわけねえだろばかやろぉ!

 とりあえず止めに入らないと。
 俺はフィオーレさんの肩を背後から掴んで言った。

「ちょっとフィオーレさん!? ティナが戸惑ってるからやめてください!」
「嫌です!」
「ちょっと、こっ……のっ……」

 いやいや何で俺が全力で引き剥がそうとしてるのにびくともしないんだよ。
 この人やっぱりソフィア様で女神の力使ってるだろ。

「ジ、ジン君。何やってるの?」
「えっ?」

 ティナがフィオーレさんの肩越しに俺を戸惑うような視線を向けている。
 気付けば俺はただフィオーレさんを後ろから抱きしめるような形になってしまっていた。

 焦った俺は飛びのくように離れてから口を開く。

「ち、違うんだ。この人はそのっ……」
「何が違うの?」

 あれっ何かティナが今まで見たこともないような表情をしている。
 どこか責めるような。言い訳があるなら言ってみろやおい、的な。
 
 元はと言えばあんたのせいなんだから助けてくれよ、という視線を向けると、フィオーレさんはティナからすっと離れた。
 そして一歩横に動いて俺とティナから顔が見える位置に移動すると、人差し指をぴんと立て、胸を張ってから口を開く。

「大丈夫です! 喫茶店でちょっと口説かれただけの関係ですから!」
「……っ!」
「ちょ、ちょっとフィオーレさん」

 ティナの表情が強張る。俺が止めようとするもその口は動き続けた。

「あなた、ソフィア様ですよね? なんて! も~お上手なんだから~」

 「も~」の辺りから片方の手を頬に当て、もう片方の手を下に向けてへこへこっと折りながらそういうフィオーレさん。
 一方でティナは冷ややかな視線をこちらに向けている。
 それは日の昇る時間にあって、まるで永遠に溶けることのない氷を俺の身に纏わりつかせたのかと思う程に冷たい。

 内容自体は嘘でもないから全く反論もできず、俺は固まるしかなかった。
 するとティナはしかめっ面で口を開く。

「ふ~ん。そうなんだ? フィオーレさん、ソフィア様にそっくりの美人さんだもんね? じゃあ私は修行があるから、もうしばらく二人でゆっくりしてきたら?」

 そう言ってティナはぷいっとそっぽを向くと、そのまま訓練用人形に向かって歩き出してしまう。
 追いかけながら声をかけようとすると。

「おいっ、ティナ。待ってく……」
「『しんくうぎり』!!」
「うおっ」

 ティナが振り返りざま、瞬時に腰の鞘から剣を引き抜き技を放った。
 横なぎに払われた高速の太刀筋が俺に襲い掛かる。
 思わず上体をのけ反らせつつバックステップを踏んで交わすと、剣を構えたままティナがじりじりとこちらに寄ってくる。

 まさかティナと戦うわけにもいかないので、少しずつ後ずさりながら話しかけてみた。

「ティナ?」
「ね? 私の剣じゃ全然だめでしょ? だから『試練の迷宮』に入る前にたくさん修行しなくちゃいけないの。強くて余裕のあるジン君はフィオーレさんと楽しく遊んできていいよ?」

 こ、怖っ……こんなティナ見たことねえ。
 今のティナには表情がない。悲しむでも怒るでもないその顔が、逆に怖さを助長させていた。

 ちらとフィオーレさんを見ると、両拳を握ったまま胸の前辺りに持ってきてにこにこしている。
 楽しくなってきたぞ~二人とも頑張れ~みたいな感じだ。

「謝るからそんなに怒るなよ」
「何が? 全然怒ってないよ? ていうか怒る必要ないし」
「あ~そうだよな。悪い悪い。でさ、その剣そろそろ納めようぜ?」
「…………」

 ティナは剣を納めず、無言で踵を返すとやはり訓練用人形の方に向かった。
 そしてばすんばすんと力一杯人形を切りつけ始める。怖い。 
 話しかけられるような雰囲気じゃないし、そっとしておくか。

 するとその存在が消えかけていたレイナルドが話しかけてくる。

「おや、痴話喧嘩は終わりですかな」
「痴話喧嘩言うな。まあ、しばらくはそっとしておいた方がいいだろうな」
「わかりました。では私は引き続き勇者様に技術を伝授するとしましょう」
「ああ。頼む」

 騒動の間に何か食べてきたのだろう、程よい口数になったレイナルドはそのままティナの方に歩いていった。
 その背中を見送りながら、思わずため息とともに言葉がこぼれる。

「はぁ。どうすりゃいいんだよほんとに……」
「ふふふ、ジン君もティナちゃんも可愛いなぁ」

 横からぬっと出てきたフィオーレさんがそんなことをつぶやく。

「……ジン『君』に『ティナちゃん』? あなたはやっぱり」

 するとフィオーレさんは片目を瞑りながらすっと人差し指を立てて自分の唇に当てる。それ以上は何も言うな、ということだろう。
 ティナとレイナルドとは距離があるからか、少しだけ声を潜めてフィオーレさんことソフィア様が口を開く。

「お久しぶりですね、ジン君」
「やっぱり……」

 また一つため息をつくと、ソフィア様が悪びれた風もなく言った。

「ごめんなさいね、混乱させるようなことをしてしまって」
「本当ですよ」
「ふふっ、だって。ジン君もティナちゃんも可愛いから、つい意地悪をしたくなっちゃうんですもの」
「はあ」
「ティナちゃん柔らかくていい匂いだったなぁ……ひひっじゅるり」
「今よだれ出てませんでした?」

 さっきも思ったけど、こんな一面は知らなかったなあ。
 その心の声を察したのかよだれを拭いたソフィア様が口を開いた。

「驚きましたか?」
「まあ、多少は」
「これでもまだきちんとしているつもりですよ。なにせお仕事のうちですから。妖精姿の時以外は基本的にこんなものです」
「そうなんですか?」
「はい。下界にいる時や自分の担当してる世界にいる時は、基本は好き勝手にやらせてもらっていますよ」

 そういえばここはゼウスが統治してる世界だもんな。
 そこで俺は気になったことを聞いてみることにした。

「お仕事のうち?」
「はい。その辺りはジン君にもその内わかると思いますから。『試練の迷宮』の攻略、頑張ってくださいね」
「頑張るのはティナですけどね」
「そう一筋縄でいきますかねえ……」

 そう言ってソフィア様が微笑むと、話題が尽きて互いに静かになった。
 程よい頃合いだと見たのか、庭の外へ向かってゆっくり歩きだすと、ある程度進んだところで振り返ってからソフィア様は言う。

「それでは後ほど。ティナちゃんにもよろしく伝えておいてくださいね」
「はい……お元気で?」

 まだ色々と聞きたいことはあったけど、何となく言葉を飲み込んだ。
 それからフォースの街並みの彼方へソフィア様が消えていくまで、黙って背中を見送っていた。
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