女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

文字の大きさ
83 / 207
伝説の武器編 後編 ドキッ! 男だらけの試練の迷宮

なんてったって兄貴

しおりを挟む
「誰が呼ぶか! 気持ち悪いんだよ!」
「ふふふ、いいのかな? そんなことを言って」
「くっ……」

 キースが再び戦闘態勢に入る。
 対して俺はどう動いたものかと考えあぐねてとりあえず間合いを測るものの、こいつにはそれすらも無駄だ。

 各精霊部隊の隊長にはそれぞれ専用のスキルが与えられている。
 それが運輸・運送、情報伝達を担当する移動のスペシャリストたちダンサーズの隊長の場合は「クイックワープ」という短距離転移魔法ってわけだ。
 この「クイックワープ」は端的に言えばどんな場所にでも転移出来る。

 通常転移系魔法と言えば人間はもちろんのこと、ダンサーズ専用スキルのそれですらも使用にはいくらかの制限がある。 
 例えば人間が使える「テレポート」は特定の街の入り口にしか飛べないし、ダンサーズ専用スキル「ワープ」でも使用には制限があると聞く。
 キース曰く「座標を指定しなければならない」とのこと。この辺りは俺も使ったことがないので細かいことはわからない。

 対して「クイックワープ」にはMPを消費する以外の制限がとくになく、視界に映る場所で感覚的に行きたいと思った場所に行けるそうだ。
 逆に言えばキースと戦う時にはやつのMP配分に気を使えばある程度は行動を予想出来るといえば出来るけど、大した参考にはならない。
 さすがに隊長だけあってステータスも全体的に高くMPも例外じゃないからだ。

 「クイックワープ」はMP消費量もそこそこ高いらしいけど、その分キースはMPの最大消費量を底上げするパッシブスキルを優先して鍛えている。

 とあれこれ考えていると、キースがばっと両手を大きく広げて言った。

「さあいくぞ! お兄ちゃんにもっとジン成分を補給させておくれ!」
「だから何なんだよその成分は! ほんっと気持ち悪い野郎だな」
「お兄ちゃんにそんな口をきくのはやめなさい」
「ならもうちょっと兄らしくしてみろよ」
「何を言う! 私以上の兄などこの世に存在しない! そしてジン以上の弟もまた然り!」

 そこでキースの身体が消える。
 「クイックワープ」での出現地点を俺の背後だと決め打ちをして、振り向きざまに大剣を振った。

「『雷刃剣』!!!!」

 だけどキースの姿はそこになく、大剣は虚しく空を切る。
 その瞬間にやはり背後から抱きつかれて頬ずりをされてしまった。

 身体を捻りながら、今度は大剣を振らずにバックステップを踏む。
 キースはすでに俺の正面から少し離れたところに転移していた。

 やつは持ち前のステータスも高いんだけど、それよりも、小さい頃からこの手の喧嘩? ばかりしているせいで俺の動きを完璧に読めるようになっている。
 さっきから俺の攻撃が当たらないのはステータスや技術云々ではなくてそういうことだ。
 負けることはないけど、勝つこともない。おかげでストレスは溜まる一方。

 そろそろMPも尽きてきたのか、MPを回復する消費アイテムのまほうのせいすいを一つ飲み干してからキースが口を開く。

「まあ、これ以上はさすがにお兄ちゃんでもきつい。そろそろジン成分の補充は終わりにするから、下界での話を聞かせてくれないか?」

 俺は油断することなく大剣を構えたままで応じる。

「とかいって油断したところに頬ずりするんじゃねえのか?」
「いや、今日はもうしない。そもそもな、頬ずりだってしたくてやってるわけじゃないんだ。あれが一番効率的にジン成分を摂取できるというだけなんだ」
「意味わかんねえ……まあいい」

 どちらにしろこちらにあいつの行動を防ぐ手立てや算段はない。
 それにこいつは嘘を吐かない。少なくとも俺に対しては。
 戦闘態勢をといて大剣を収めると、今まで離れたところで様子を見ていたオブザーバーズの隊員もこちらに寄って来た。

 このもう一人の精霊がオブザーバーズの隊員だと思ったのは、単純にキースだけだと俺の居場所がわからないからだ。
 他の精霊に聞けば俺が試練の迷宮にいることまではすぐにわかるだろうけど、正確に迷宮のどこにいるのかを把握しようとすると、オブザーバーズの力を借りないといけない。

 恐らくキースがうまいこと俺だけと接触しようとして近くで様子を窺っていたところ、まんまと一人ではぐれてしまった、というところじゃないだろうか。
 まさにカモ襲来じゃねえかよ……くっ、悔しい。

 歯噛みしていると、キースがオブザーバーズの隊員を手で示しながら紹介してくれた。

「こちらはワールドオブザーバーズの隊員で、マイアーという。お兄ちゃんとは歳が近くてな。こういったわがままにいつも付き合ってもらっている」
「マイアーだ。よろしくな」
「ジンだ。よろしく」

 互いに一礼すると至って簡潔な自己紹介は終了。ちょうどいい。今頃ティナたちがどうしてるか気になったのでマイアーに聞いてみよう。

「なあ、今ティナたちはどうしてるんだ?」

 するとマイアーはテイマーズでいう「レーダー」的なスキルである「マップ」を発動したのか、少し俯いて瞑目すると顔を上げて目を開いた。

「特に問題なく正しい順路で進んでいるようだ」
「そうか。ありがとな」

 問題なく、か。まさか俺がいなくなったことに気付いていなかったりするのだろうか。ショックだけど今のティナならありえるかも。
 ためいきをつきながらキースの近くまで来ると、こっそり大剣に手をかけて一気に振りぬいた。やはり当たらない。

 とっさに少し離れた位置に転移したキースが笑い声をあげた。

「はっはっは、無駄だぞジンよ。もう補充はしないんだからやめておきなさい」
「……だよな」

 とりあえず俺たちはその場に腰を落ち着けて少しばかり話をすることにした。



「で、どうなんだ? 勇者との仲は」
「ど、どうって……何でお前にそんなこと教えなきゃいけねえんだよ」
「お兄ちゃんに恋人とどこまで行ったか教えるのは弟の義務だろう」
「こっ、恋人とかやめろばかやろぉ!」
「はっはっはジンは可愛いなはっはっは」

 雑談を始めて数分。話題の中心は俺とティナのことになっていた。
 本当はこんなことをしている場合じゃないし、早くティナたちと合流したいという気持ちはある。
 だけど、正直道が複雑であちこちに罠が設置されている以上、キースに転移魔法で送ってもらった方が早い。

 マイアーもいることだし、二人に頼めばうまいこと合流させてもらえるだろう。
 だから頼みごとをするためにも、今は大人しく「下界での話を聞かせろ」というキースの要求をのんでやっているというわけだ。

「ていうかお前、こっち来るのにゼウスの許可は取ってんのかよ」
「取っているわけがないだろう」
「ないだろうじゃねえよ、お前は仮にも隊長だろうが」
「もちろん一応話はしたのだが、あまりいい返事をいただけなかったのでな。無視して来たのだ」
「俺が言うのもなんだけどゼウスも大変だな」

 そう言ってため息をつくと場が一瞬だけ静まった。マイアーはずっと会話に参加することもなく辺りをきょろきょろ見渡している。
 ダンジョンが物珍しいのか、あまり喋らないから暇つぶしにそうしているのかはわからない。

 会話をしたと言えば最初のティナたちの状況を教えてもらったやつと、ティナたちが変な動きをしたり一番奥の部屋に近付いたりしたら教えてくれとお願いをした時のやり取りくらいだ。

 そこで仕切り直しとばかりに、あぐらをかいた姿勢で膝をぱんと叩いてからキースが口を開いた。

「で、話を戻すが勇者とはどうなんだ。早くお兄ちゃんに教えなさい」
「うるせえなどうもねえよ」
「どうも? ……まあ、手くらいは繋いだだろうが……」
「…………」
「…………」

 俺はキースがいるのとは逆の方向に顔を向けて返事の代わりにした。
 足に触れている石畳の床がやけに硬く、冷たく感じられる。
 壁に反響するのはほとんどが自分たちの声ばかりで、後はたまにどこかで守護者の動く音や声がするばかりだ。

 ちなみに俺の右にキース、右斜め前くらいの位置にオブザーバーズの人がいて、三角を描く形で座っている。
 ややあって、キースの言葉が沈黙を破った。

「……ジン」
「……なんだよ」
「お兄ちゃんは感動した」
「は?」
「その歳になってもまだ純粋なままなんてっ……!!」

 そこで振り向くと、キースは拳を震える程に力強く握って自身の顔の前に掲げている。
 俺は舌打ちをしてもう一度顔を背けてから口を開く。

「うるせえな。別に普通だろうが」
「いや、お兄ちゃんはもうジンぐらいの歳の頃には当時の彼女と最後までよろしくやっていたぞ」
「……だろうな」

 俺からすればただの気持ち悪いクソ兄貴でも、キースはめちゃめちゃモテる。
 単純に見た目がいいのと、面倒見もいいし気も利く。もっとわかりやすく言えばモテる為の要素を大体持っている。
 本当にこいつ、黙ってればただの優しい美男子なんだよなあ。

 その優しい美男子は真剣な面持ちで気持ち悪い言葉を吐き出し始めた。

「ジンはかっこよくて可愛くて最高だから、その気になれば女の一人や二人すぐにおとせると思ったのだが。一体何をそんなに苦戦してるんだ?」

 その質問を受けて視線は合わさず、正面の床を見つめながら考えた。癪だけどこいつが恋愛経験豊富なのは間違いない。
 何でもかんでも恋愛に関する相談をするのは調子に乗りそうだから色々と危険だけど、ティナを怒らせてしまった今の状況をどう打破するかに関してくらいはありかもしれない。

 俺は意を決してキースの方に視線をやって口を開く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)
ファンタジー
まだ遅くない。 オッサンにだって、未来がある。 底辺から這い上がる冒険譚?! 辺鄙の小さな村に生まれた少年トーマは、幼い頃にゴブリン退治で村に訪れていた冒険者に憧れ、いつか自らも偉大な冒険者となることを誓い、十五歳で村を飛び出した。 しかし現実は厳しかった。 十数年の時は流れてオッサンとなり、その間、大きな成果を残せず“とんまのトーマ”と不名誉なあだ名を陰で囁かれ、やがて採取や配達といった雑用依頼ばかりこなす、うだつの上がらない底辺冒険者生活を続けていた。 そんなある日、荷車の護衛の依頼を受けたトーマは――

剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~

島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!! 神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!? これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。

処理中です...