女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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世界の真実編 前編 世界の真実とそれぞれの「これから」

ラッドとロザリアの未来(これから)

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 半ばパーティーの二次会のような雰囲気となった歓談も終わり、全員がそれぞれの部屋で寝静まった頃、ロザリアもあれこれと就寝の準備を進めていた。今は化粧台の前に座り、鏡を見ながら髪を梳かしているところだ。
 
 艶のある黒髪が櫛に絡まってはまた静かに解きほぐされていく。その営みを繰り返しながらロザリアは何か物思いにふけっている様子で目は伏せられ、長いまつ毛の下からはどこか物憂げな瞳が覗いている。
 そんな時、部屋の扉を小さく二回叩く音が聞こえてきた。周囲に些細な物音でもあれば埋もれてしまいそうな音量だ。

 こんな時間に誰が……など、考えるべくもない。
 すぐに顔をあげて扉の方に視線を向けたロザリアの頬はほんのりと赤く染まり、瞳は月明かりをその中に集めたかのように輝き始めた。

「ロザリア、僕だよ」

 部屋の中にいる相手を安心させるかのように優しく囁かれたその言葉に、ロザリアは立ち上がって扉の方へと駆け出した。そしてそれが開くと同時にその先にいた人物の胸に勢いよく飛び込んでいく。

「お待ちしておりましたわ、ラッド様」
「う、うむ。僕がいなくて寂しかったかい?」
「ええ、とっても。今、正にラッド様のことを考えておりました」

 思わぬ歓迎のうえ、べたべたに甘えてくるロザリアにたじたじなラッドである。紡がれる言葉も、照れと動揺で震えてしまっていた。

「ととととりあえず中にはひ、入ろうじゃないか」
「はい」

 とても幸せそうな笑顔で返事をしたロザリアは、ラッドから身体を離して部屋の中に入りベッドに腰かける。
 ラッドもロザリアの隣に座ると、目線を合わせてから口を開いた。

「そそそっ、それでぼぼぼぼびのこここ」
「ラッド様、落ち着いてくださいな。何を言っているのかまるでわかりませんわ」

 くすくすと上品に笑うロザリアに、ラッドは顔を赤くしながらも深呼吸を繰り返す。やがてそれが落ち着くと、気取った仕草で前髪をかきあげながら言った。

「僕のことを考えてくれていたなんて嬉しいよ、ロザリア。僕もずっと君のことを考えていて、いてもたっても居られなくなってここへ来たのさ」
「まあ、ありがとうございます」

 頬に手を当てて喜ぶロザリア。しかしそこで不意に頬を赤らめて、もじもじとしながら続けた。

「それは、その……私たちのこれからのことも、考えてくださっていたということでしょうか」
「うむ」
「…………!」

 ロザリアは勢いよくラッドの方へと振り向き、うっとりとした表情を見せる。月明かりや外の街灯に反射して照らし出される瞳が、期待と喜びに揺れていた。
 
 二人はジンの行動に触発を受けたのである。
 もちろん、これまでも旅が終わった後のことを考えていなかったわけではないのだが、改めて気持ちを伝えたり、正式に恋人同士になって結婚を……というのは、今すぐに行動に移す必要はないのではないか、と心のどこかで思っていた。
 
 つまり、勇気のいる行動を先送りにしていたのである。
 しかしこれまで勇気がなくて行動を起こせない者たちの代表格とも言えたジンがまさかの告白を敢行したことで、周囲の者たちは多大なる衝撃を受けた。
 ラッドも、ロザリアも。部屋で一人きりになった際に自然と将来のことを考え、自分も行動を起こさねばと思わされたのであった。

 ラッドもロザリアの方に身体を向けると、その両肩をそっと掴む。細く柔らかい感触に鼓動が跳ねるも、ラッドは気をしっかりと保った。
 それからしっかりとロザリアの潤んだ瞳を見据え、言葉がうわずったりしないように深く、深く呼吸をしてから口を開く。

「ロザリア」
「はい」
「魔王との戦いから無事に帰ってくることが出来たら、僕と……」

 ラッドはそこで右手をロザリアの肩から外して、懐から手のひらに収まる大きさの箱を取り出した。そして左手も肩から外して箱を開けると、中には宝石の付いた指輪が入っていた。
 「まあ」と両手で口を覆う仕草をしたロザリアに、ラッドは続ける。

「結婚してくれないか」

 その時ロザリアの心の中で教会の鐘の音が盛大に鳴り響いた。視界の隅には花が咲き、白い鳩たちが大空へと羽ばたいていく。
 鐘の音が落ち着くと次にオーケストラの演奏が開始される。曲目は、結婚式と言えば誰しもがそれを思い浮かべるような定番のものだ。とはいえ、これらは身も蓋もない言い方をしてしまえばただの妄想だった。
 
 うっとりと自分を見つめたまま固まったロザリアを不思議に思うものの、返事を急かすわけにもいかない。恥ずかしさを覚えながらも、ラッドはその時をじっくりと待ち続ける。
 やがて脳内交響楽団による演奏が終わったらしく、現実に帰還したロザリアが気品のある笑みを浮かべ、その場で一礼をしながら返事を口にした。

「不束者ですが……よろしくお願いします」

 ラッドは立ち上がってガッツポーズを取りながら叫びたい衝動に駆られた。だがここでそれをやってしまっては雰囲気をぶち壊しにしてしまうだろうという判断を冷静に下した彼は、ふと一つの疑問に突き当たる。
 あれ、この後ってどうすればいいんだい? と。

 人によっては「いや~よかったよかった本当に緊張したよ~」と、後日談あるいは感想戦的な会話に移行するのかもしれない。だが、ラッドにそのような選択肢はない。あくまで彼基準でかっこよく告白の場面を終えたいのである。
 そうして必死に思考を巡らせた末、ラッドはある結論に達した。

 キスしかない……と。

 すでに実家でロザリアと経験済みではあるもののまだ一度しかなくやはり緊張はするが、四の五の言わずやるしかない。それに気のせいかもしれないが、返事を終えたロザリアも、何かを期待するような眼差しをこちらに向けている。
 ラッドは指輪の入った箱を閉じてそっと片隅にやると、もう一度ロザリアの両肩に手を置いた。
 ロザリアが目を閉じる。ラッドは生唾を飲み込み、脈が急激に速まる音が身体の内から響いてくるのを聞きながら顔を相手の方へ近付けていく。

 二人の唇がゆっくりと重なった。
 
 ラッドとロザリア、人生二度目となる真正面キスの慣行である。
 だがラッドはそこから先へ……大人のそれへと移行する勇気がなく、あくまで唇が触れ合うだけのものとなった。
 やがて顔を離すと、ロザリアは少しだけ残念そうな顔をする。しかし、そんなラッドの意気地のない行動にすっかり慣れてしまっている彼女はすぐに、男性なら誰もが心臓を射抜かれてしまうような魅惑的な笑みを浮かべて言った。

「『この先』も……ずっとお待ちしておりますわ、ラッド様」

 

 翌日。魔王城の地図を手に入れた一行は一旦ミツメへ帰還すべくフェニックスに乗って空を飛んでいた。フェニックスの頭付近にティナ、ロザリア、エリスの女性陣が固まり、背中の中心辺りにジンとラッドが座っている。
 高いところが苦手なラッドだが、どうやら背中の中心辺りなら下の風景も見えにくく、何とか乗れるらしい。そんなお調子者は早速、昨日の話を青ざめた顔でジンに話しているところだった。

「そんなわけで、遂に僕はロザリアとの婚約を果たしたのさ」
「え、恋人になってないのにいきなり婚約したのか?」
「いやもう僕とロザリアは恋人も同然だからね……細かいことはいいのさ」
「まあお前らがそれでいいならいいけどよ」

 ジンたちの声は風切り音に紛れて、女性陣の元にたどり着くことはない。割と堂々と内緒話が出来るのである。そこでジンはそっとラッドの顔を覗き込みながら、恐る恐るといった感じで尋ねた。

「そっ、それで……その後はどうしたんだ?」
「君ぃ、決まってるだろう?」

 ちっち、と人差し指を左右に振って、ラッドは続ける。

「キスをしたのさ。二度目のね」
「あああああ!!!! ばかやろぉ! 本当にお前ばかやろぉ!」

 顔を両手で覆ったまま、フェニックスの背中の上を転げ回るジン。そこにフェニックスから声がかかる。

『おい、ジンか? 私の背中のうえであまり暴れ回るな』
「悪い悪い」

 ちなみに基本的にフェニックスは心の声で会話をしている。これは恐らく神聖魔法によるもので「テレパシー」や「コンタクト」とはまた性質が異なるようだ。特定の人物にしか聞こえないようにしたり、逆に周囲にいる全員に聞こえるようにも出来るらしく、今のは後者だったらしい。
 前方にいる女性陣の注目を集めながらジンが起き上がると、ラッドはもう全て言い終えたといわんばかりに寝転んでいた。

「ふっ、とにかくだ。ジンも頑張りたまえ……」
「お、おう」

 昨日のことは誰にも話してないけど、この様子だと察してそうだな……と、ジンは芋虫のようになったラッドを眺めながら独り言ちる。
 結局、昨日はあれから二人きりで会話をする機会はなかった。とはいえみんながいてくれてティナも楽しそうだったから、それでいいか、とジンそう思いながら前方にいる彼女に視線をやる。

 するとちょうどティナもジンの方を振り返り、目が合ってしまう。
 互いに一瞬固まったものの、すぐにティナが恥ずかしそうに微笑みながら胸の前で手を小さく振った。ジンも手を振り返すが、顔がどんどん熱くなっていくのを感じたので身体ごと逆に向ける。
 そこにフェニックスの声が鋭く響き渡ってきた。

『今イチャイチャの気配がした気がするのだが……。ちゃんと後で詳しく報告するのだぞ』
「何でだよ! ていうかうるせえよ!」

 ティナは前を向いたまま俯いて顔を赤らめ、ロザリアは苦笑しながらその横顔を見つめている。エリスは余計なこと言わずにそっとしておきなさいよ……と、フェニックスの後頭部を睨みつけていたのであった。
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