女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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世界の真実編 後編 突撃!魔王城

勇者 vs 魔王 後編

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 そして魔王に向かって再び剣を振り下ろすも、その表情からは焦りや戸惑いといったものが見て取れる。
 魔王はそんなティナを冷静に見つめながら攻撃を捌いていく。

「どうした勇者よ。随分と剣にキレがないな」

 先刻とあまり変わり映えの無い剣戟。しかしティナの動きは明らかに鈍っていて剣と剣がぶつかる度に戦う気力を失っているようにすら見える。

「ふっ、警戒し過ぎたか。これなら俺が勝ってしまうかもしれんなぁ」

 そう言って口角を吊り上げると、魔王は剣を振る腕に力を込める。
 ティナが吹き飛ばされるのと同時に「ていおうのつるぎ」もその手を離れて宙を舞った。剣と石のぶつかる無慈悲な音が背後から響く。
 魔王はゆっくりと歩み寄り、片膝をついたティナを見下ろしながら口を開いた。

「無様なものだな勇者よ。さあ、これでっ」

 と魔王が剣を振り上げたその時。

「……?」

 どこかから小さく爆発音が響いて玉座の間がかすかに揺れる。魔王は舌打ちをしてから誰にともなく独り言ちる。

「あいつら城を壊す気か。まあこの戦いに負ければ関係は……いや待て、幹部の中に爆発系の魔法を使えるやつなんていたか?」

 考え込んでいるせいか、いつの間にか剣を下ろしている魔王。そしてティナもまた、天井を見上げて心の中でつぶやいた。

(そうだ、みんなは今も……)

 脳裏に思い浮かぶ、今も部屋の外で戦っているであろう仲間たちの笑顔。
 ――――ラッド君とロザリアちゃん。
 これまで誰と旅をしてきたのかを思い出したティナは、「しん・ゆうしゃのつるぎ」の柄を取り出してそこに炎の刀身を宿す。
 その様子に気付いてどうしたことか笑顔を浮かべる魔王。

「ふむ、何があったのかは知らんがそうでなくてはな!」

 今度は勇者と魔王が同時に地を蹴り、駆け出す。
 三度剣と剣が交わる。鈍色の刀身と勇気の炎が鮮やかな弧を描いて幾度なくぶつかり合っていく。
 剣を振りながら、ティナは剣の使い方を教えてくれた人物の顔を思い出した。
 ――――レイナルド師匠。

「ぐっ……どうした、先程までとはまるで別人ではないか!」

 魔王はこの戦いにおいて初めて余裕のない表情を見せる。そこには不安や恐怖、焦りといった感情が見え隠れしていた。
 そして次にティナの脳裏に浮かぶのは、今も自分たちの帰りを待ってくれているあの小さな女の子。
 ――――エリスちゃん。
 ――――お父さんにお母さん。宿屋のお姉さんたちに、道具屋のお姉さんたち、それに……。
 次々に自らを支えてくれた人々の顔が浮かんでは消えていく度に、ティナの剣は輝きを増していく。そして、その鮮やかな太刀筋は遂に魔王を追い詰めた。
 甲高い音を立てて弾かれた「まおうのつるぎ」が宙を舞う。そして。

「やあっ!」

 ティナのこうげき。魔王にそこそこのダメージ!

 斬撃を受けた魔王は堪らず後退し、片膝をつく。それからその表情を苦悶の色に染めつつもどこか諦観の念を見せながら、勇者に視線をやる。

「ぐっ、やはり俺では勝てない、か……」
「観念しなさい。次で最後よ」

 ティナは剣を携えて無造作に魔王の元へと歩み寄っていきながら、まほうのせいすいを取り出し、飲み干した。
 一方の魔王は他に打つ手がなくなったことから最後の抵抗を試みようとティナに手のひらを向ける。その様子を見て取ったティナがフェニックスを呼び寄せた。

「ぴーちゃん」
『いいぞ……』

 勇者が不死鳥と融合して『ふしちょうのつばさ』を発動したのとほぼ同時に、魔王もまたスキル名を宣言する。

「『ぜつぼうのひかり』」

 魔王の手からほんの一瞬、強烈な閃光が発生して視界を白く染めたかと思うと、他には特に何が起きることもなく消えてしまった。
 最初からあまり期待はしていなかったものの、予想以上に大したことのなかったスキルに対し、魔王は自分の手のひらを見つめながら忌々し気につぶやく。

「くっ、やはり役に立たないではないか。どうしてこんなものが……」

 だがその時、ティナには異変が起きていた。それをいち早く察したフェニックスがティナの身体の内から語りかける。

『ティナ、おいティナ、どうした』

 ティナはその場で膝から崩れ落ち、自らの身体を抱きしめる。片方の手に握られた「しん・ゆうしゃのつるぎ」からは刀身が消失していた。
 そしてまるで目の前の景色が見えていないかのような、虚ろな瞳でつぶやく。

「なに、これ……」

 彼女の心は絶望に覆われていた。世界は閉ざされて色を失い、数多ある負の感情の嵐の中にたった一人で投げ出されるような感覚に苛まれる。
 劣勢だった魔王はティナのその様子を見て立ち上がり、そちらに歩み寄りながら幾分か余裕を取り戻したように笑う。

「何があったのかは知らんが勇者よ。形勢逆転といったところか」

 ティナは地面に手をついて必死に後ずさった。その姿はさながら彼女と同じ年頃の冒険者ではない少女が、強大なモンスターと相対した時のようなものだ。

「い、いやっ、来ないでっ!」
『ティナ、おいティナ、本当にどうしたのだっ! 落ち着けっ!』

 魔王専用スキル『ぜつぼうのひかり』。
 勇者に負の感情を送り込むという、ただそれだけのスキルである。特にダメージが発生するわけでもなく、状態異常にかけるわけでもない。そもそも効果も勇者相手にしか発揮されないものだ。
 しかし、ダメージも発生せず状態異常でもないということは、「ふしちょうのつばさ」ですら防げないということでもある。そしてその効果は絶大。
 「しん・ゆうしゃのつるぎ」は使用者の精神に呼応してその刃を強化するという性質を持っている。心が燃え上がれば燃え上がるほどに刃もまた切れ味を鋭くしたり、巨大化したりするということだ。
 逆を言えば、気持ちが完全に落ち込んでいるような状況なら「しん・ゆうしゃのつるぎ」は刀身を現すことさえも出来ない。つまりそれは魔王の「運命の保護」を打ち破る手段がなくなることを意味するわけで、再び勇気が湧かない限り勇者、ひいては人類に勝機はない。

 今のティナは戦うことすらも出来ず、ただ敗北の時を待つのみ。そんな勇者を見下ろしながら魔王は愉快そうに口角を吊り上げる。

「まるで歳相応の少女のようだなぁ。勇者よ」
「ひっ……!」

 牙を折られたティナはただ後ずさることしか出来ない。
 私はさっきまで、どうやってこんな敵と戦っていたんだろう。もう嫌だ、怖い逃げ出してしまいたい、でも足がすくんで言うことを聞いてくれない……。
 魔王の剣が無慈悲にティナに襲い掛かる。

 魔王のこうげき。ティナに大きなダメージ!

「ああっ!」

 悲鳴をあげ、後方に転がっていくティナ。

「さあどうした勇者よ。なんなら命乞いでもしてみるか」
「誰か助けて……」
『ティナっ!』

 身体を起こして片膝をついた状態のティナは、もはや魔王すらも視界に入れず俯いてその身を震わせ、泣きそうな声で助けを求めている。
 その双眸は物理的には目の前にある現実世界の風景を捉えてはいる。しかし、ティナは色の無い、誰もいない、ただひたすらに闇だけが拡がる世界を脳裏から剥がすことが出来ないでいた。
 隔離された孤独の空間。滲む恐怖、迫り来る不安、渦を巻く悲しみ。その全てが結束し絶望となってティナの心を切り裂いている。

『ティナっ! イチャイチャだ! イチャイチャを思い出せっ!』
「イチャ、イチャ……?」

 かろうじてどこかから届いたその言葉を反芻する。それは、セブンスの村長の言葉を思い出したフェニックスの叫びだ。
 イチャイチャ……そうだ、もし無事に生きて帰れたら、好きな人とイチャイチャして過ごしたいな。きっと幸せで楽しいと思う。だけど、私はもしかしたらここで死んじゃうのかもしれない。
 ごめんなさい。お父さん、お母さん、エリスちゃん、そして……。

「あれ、誰だったかな? あともう一人……」

 そうつぶやいたティナは、ふとあるものに気が付いた。
 この閉ざされた、何も見えない、何も聞こえない世界で。ただ一点、自分の胸の辺りにぼうっと温かく、優しい光を発しているものがあることに。
 もちろん実際には光を発しているわけでもなく、温かいわけでもない。ただティナがそこに何かがあると直感しているに過ぎない。
 ティナはゆうしゃのむねあてに手を入れてそれを取り出した。

 それは、世界樹の花だった。

 誰かがくれた、とてもとても大切な、私のお守り。アクセサリーでもないしアイテムとしても特別な効果はないけれど。
 あの人と私を繋げてくれる、枯れることのない、とっても大切な花。
 
 ティナは瞑目し、それをそっと握りしめる。すると瞼の裏には、旅の最初からこれまで自分を支え続けて来てくれた不思議な少年の、あの屈託のない笑顔が浮かんんで来た。
 もう怖くない。ううん、まだ怖いけど戦える。みんなのところに……ジン君のところに、帰る為に!

 ティナは目を開いて世界樹の花をしまうと、傍らにあった「しん・ゆうしゃのつるぎ」の柄を手に取った。彼女が立ち上がるのと同時にまた、そこにも勇気の刃が形成される。
 突然立ち上がったティナにわずかに動揺し、慌てる魔王。

「なっ、なんだまた急に……『ぜつぼうのひかり』!」

 再度強烈な閃光が視界を覆って消えていく。しかし、効果はない。
 何故ならティナはまだ絶望の中にいるから。負の感情に襲われながらも世界樹の花という、まるで決して抜けることのない杭のように打ち込まれた一筋の、けれど決して見失うことのない希望の光によって、己を奮い立たせているに過ぎない。

「魔王、私はまたあの人と会うために……あなたを倒す!」

 「しん・ゆうしゃのつるぎ」の刀身が急速に伸びていく。
 もはや何の迷いもない少女の凛とした瞳に、魔王は驚愕を隠し切れない。そして最後の悪あがきとばかりに剣を構えて駆け出した。
 ティナも、巨大化した勇気の炎を内側に引いてためてから、それを一気に横なぎに払って迎え撃つ。

 ティナのこうげき。ティナスラッシュ!

 魔王の身体が宙を舞い、玉座へと吹き飛んでいく。そして止めを刺そうとティナもゆっくりとそちらへ歩いていった。
 玉座の前で無様に転がる魔王を見下ろすティナは、剣を振り上げながら。

「これで終わりよ」
「……ふっ」

  そして剣を振り下ろしたその時だった。

「『ホーリー・ウォール』」
「!?」

 突如ティナと魔王の間に現れた何者かがその剣を魔法で受け止めて見せた。
 驚いたティナが一歩後ずさり、叫ぶようにその名前を呼ぶ。

「ソフィア様!? どうして、ここに」
「お二人ともここまでです。これ以上争うことには何の意味もありません。まずは私の話を聞いていただきたいのです」

 玉座の間は静寂に包まれた。
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