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世界の真実編 後編 突撃!魔王城
勇者 vs 魔王 前編
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荘厳な石造りの空間は、端の方まで灯りが行き届かない程に広く、天井は見上げねばならない程に高い。
まるでこの世の終わりを待っているかのように静謐な玉座の間の中心には真紅の絨毯が走っていて、その先にある豪奢な椅子には魔物の王が座している。
今一人の勇者が絨毯の上を進み、一歩また一歩と王に近付く。そして遂にその姿を間近で眺めるに至った。
まるで人間のような、大柄な体躯に相応しくない端正な顔立ちをしている。
流れるような美しい銀髪からは禍々しい二本の角が生え、その下には切れ長の双眸が覗いている。口元からは鋭い牙が覗き、その身には闇夜を体現したかのような漆黒の外套を纏っていた。
魔王は、勇者が自身に近付いてきたのを見て取ると立ち上がり、そちらに数歩近寄りながら口を開く。
距離を開けて遂に勇者と魔王が対峙したのである。
「よく来たなぁ、勇者よ。せっかく運命に導かれて出会うことが出来たのだ。まずは歓迎の宴でも催そうではないか」
「ふざけないで。遊びに来たわけじゃないの」
ティナは険しい顔で腰に携えた「ていおうのつるぎ」を鞘から引き抜いた。
勇者専用スキルを多く使うことが予想されるので、MPを温存する為に「しん・ゆうしゃのつるぎ」はここぞという時にしか使わないことにしている。
対照的に魔王は最初から余裕のある笑みを浮かべていた。
「まるで親の仇でも見るような目で俺を見るのだな?」
「当たり前でしょ。あなたは親の仇じゃなくても、人類の仇なんだから」
「ほう……人類の仇、か。くっくっく……」
「何がおかしいの?」
魔王は顔を手で覆って笑い出したかと思うと、すぐに顔を上げて手を大仰に振りながら言った。
「では問おう! 勇者よ、俺が一体人類に何をしたと言うのだ?」
「自分のしたことも覚えてないの? あなたはモンスターを操って各地で私たちを襲い、病気を蔓延させて、散々に苦しめて来たんじゃない!」
「そうか。まあ、モンスターを操って……のくだりは否定出来んが、病気を蔓延だとかいうのはお前が実際にその目で見たのか?」
「そっ、それは……私の村には被害がなかったけど、世界各地では被害報告があがっていて、ミツメの城にも届いてたわ」
痛いところを突かれてティナは若干歯切れが悪い。しかし、世間一般的には書類などの実際に見聞きしたものによって作成された資料もあり、被害が出ているのは紛れもない事実ということにはなっている。
ティナはたまに王城の資料室や図書館などに赴いてはそれらを閲覧し、魔王討伐への使命感を募らせていた。
「ならばこれ以上は話しても無駄だな」
魔王は腰に携えた魔力の込められた特殊長剣「まおうのつるぎ」を鞘から抜き放って構えると、叫ぶように言う。
「何も知らない哀れな勇者よ! 閉じられた生温く、ほろ苦い世界で幸せなまま死んでいくが良い!」
その様子を見てティナも剣を構え、フェニックスもティナの側に寄った。
先制は魔王。剣を持つのとは逆の手のひらをティナに向けて魔法を放つ。
「『ダイアモンドダスト』!」
突如発生した氷雪の嵐がティナを中心に吹き荒れる。生命の存在出来ない絶対零度の世界がティナの肌を侵食し、切り刻んでいく。
視界が白く染まっていく中で、ティナはそのスキルを発動した。
「ぴーちゃん、お願いっ!」
『いいぞ……』
フェニックスが背中からティナの身体に埋まると同時、そこから巨大な一対の翼が出現した。
勇者専用スキル「ふしちょうのつばさ」。
不死鳥と融合することで、その身に彼の「再生」や「保護」の力を宿すことの出来る、規格外なまでに防御に特化したスキルである。
あらゆるダメージを大幅に軽減する上に自動的にHPや状態異常を回復するためゆうしゃ装備一式と合わせれば脅威の防御性能を発揮する。
魔王のこうげき。ダイアモンドダスト! あまりこうかはないようだ。
魔王の攻撃に耐える態勢が整ったティナは剣を構えなおし、地を蹴って駆け出していく。
その様子を見た魔王は口角を吊り上げた。
「ふんっさすがに一筋縄じゃいかんか。ならこれはどうだ、『ヘルファイア』!」
巨大な炎の柱が燃え上がる。業火の牢獄に囚われたティナは一瞬だけ顔を苦悶に歪めるものの、その足を緩めることはない。
そしてティナは遂に魔王の元へと到達し、上段に構えた剣を敵目掛けて一気に振り下ろしていく。
これを右手に構えた剣で受け止めた魔王は、鍔迫り合いになりながら余裕の表情で問い掛ける。
「勇者よ。何故お前は戦う?」
「何故……?」
剣に力を込めているせいで腕が震え、表情にいつもの柔らかさがないティナは即座に解答が出来ない。
おとぎ話の勇者様に、憧れていたから。魔王が憎かったから。
人々を苦しみから解放したかったから。何となく冒険をしていたら勇者になってしまって、みんなの期待に応えなければならないと思ってしまったから。
どれも正解に近いようで、どれもしっくり来ない。
答えを見つけられないまま、ティナの口をついて出た言葉は。
「世界を、救いたかった、から……」
「はっはっは、中々に模範的な解答ではないか!」
高らかな笑い声をあげながら、魔王が押し戻すようにして剣を弾くと、後ずさって一旦態勢を整えたティナが剣を構えたままで問う。
「なら、どうして。どうしてあなたは人々を苦しめて来たというの?」
「欲しいものがあったからだ」
即答だった。若干の敗北感のようなものを覚えながらも、ティナは「ふしちょうのつばさ」を解除しつつなおも問い掛ける。
「それは人々を苦しめなければ手に入らないものなの?」
「そうだ」
「……っ」
あまりにも不遜な物言いに、ティナは思わず舌打ちをしそうになった。自分の欲望の為に多くの人に危害を加えたというのに、その態度はどういうことか。
魔王には世界の真実を話す気など毛頭ない。禁じられているし、話したところで相手が信じるはずがないからだ。先ほどそれらしい話を匂わせたのは、勇者がどこまで何を知っているか、自分が人間たちの間でどういう扱いになっているのかを改めて確認する為であった。
よってこの戦いの結果がどうあろうと、魔王は「魔物を操って災厄を引き起こし人間を苦しめた悪の権化」を貫くつもりでいる。
「じゃあそれは、もう手に入ったの?」
「ああ、だからもう私に未練はない。お前に負けてここで朽ち果てようとも一向に構わん」
「それでもまだ魔物は人々を襲い続けているじゃない。私が負ければ、あなたはまた暴れるんでしょ?」
魔王はまた顔を空いた方の手で覆って笑い出した。ティナは不愉快そうに眉をひそめて尋ねる。
「……何がおかしいの」
「そうだ、その通りだ勇者よ! さあ、これで戦う理由も出来ただろう! 勇者と魔王の戦いという何百年に一度の演目を楽しもうではないか!」
「……!? 何百年に一度? 何をっ」
その問いは剣と剣の衝突によって阻まれてしまう。
魔王は魔法すらも一切使うことなく、自らの足でティナの元へと踏み込んで剣を振り下ろした。その顔には終始、まるで今この時を楽しむかのような不敵な笑みが浮かんでいる。
斬撃の応酬。幾度となく繰り返される激しい剣戟。
気付けば玉座の間には、いつまでも絶えることのない金属の衝突音だけが響き渡っていた。しかし、そんな時にも終わりが訪れる。
「そろそろ決着といくか、勇者よ」
頃合いと見て取ったか、魔王は突然距離を置いてティナの方に手のひらを向けるとスキル名を宣言した。
「『じごくのけっかい』」
「…………?」
ティナは首を傾げた。魔王がスキル名を発したにも関わらず、何も起きる気配がない。MP不足だろうか……などと考えていると。
「ぐっ!」
突如として数々の状態異常に襲われたティナは、膝から崩れ落ちる。
身体は重くなって痺れ、毒に蝕まれ、吐き気を催し、力が抜けていく。身体をくらいつくすような熱が内から発生し、視界も闇に覆われてしまった。
しかしそれも一瞬のこと。ほとんどはすぐにゆうしゃ装備一式によって無効化されてティナはことなきを得る。とはいってもまだHPが減り続けていたり、身体が少しばかり重たかったりするので、スキルを発動しておく。
「ぴーちゃん」
『いいぞ……』
「ふしちょうのつばさ」を発動した瞬間重さは軽減され、HPは少しずつではあるが回復を始めた。このスキルは常時発動型だが、MP消費が激しいのでこまめに解除しているようだ。
ティナが額の汗を拭いながら立ち上がると、魔王は目を細めて勇者の身に纏われた防具を眺めながら口を開く。
「ほう、噂には聞いていたがその防具……本当に『じごくのけっかい』をほぼ無効化してしまうのだな」
ティナは余裕がないのか、その言葉に対する返答をしない。そして剣を構えなおすと再び魔王に向かって駆け出した。
まるでこの世の終わりを待っているかのように静謐な玉座の間の中心には真紅の絨毯が走っていて、その先にある豪奢な椅子には魔物の王が座している。
今一人の勇者が絨毯の上を進み、一歩また一歩と王に近付く。そして遂にその姿を間近で眺めるに至った。
まるで人間のような、大柄な体躯に相応しくない端正な顔立ちをしている。
流れるような美しい銀髪からは禍々しい二本の角が生え、その下には切れ長の双眸が覗いている。口元からは鋭い牙が覗き、その身には闇夜を体現したかのような漆黒の外套を纏っていた。
魔王は、勇者が自身に近付いてきたのを見て取ると立ち上がり、そちらに数歩近寄りながら口を開く。
距離を開けて遂に勇者と魔王が対峙したのである。
「よく来たなぁ、勇者よ。せっかく運命に導かれて出会うことが出来たのだ。まずは歓迎の宴でも催そうではないか」
「ふざけないで。遊びに来たわけじゃないの」
ティナは険しい顔で腰に携えた「ていおうのつるぎ」を鞘から引き抜いた。
勇者専用スキルを多く使うことが予想されるので、MPを温存する為に「しん・ゆうしゃのつるぎ」はここぞという時にしか使わないことにしている。
対照的に魔王は最初から余裕のある笑みを浮かべていた。
「まるで親の仇でも見るような目で俺を見るのだな?」
「当たり前でしょ。あなたは親の仇じゃなくても、人類の仇なんだから」
「ほう……人類の仇、か。くっくっく……」
「何がおかしいの?」
魔王は顔を手で覆って笑い出したかと思うと、すぐに顔を上げて手を大仰に振りながら言った。
「では問おう! 勇者よ、俺が一体人類に何をしたと言うのだ?」
「自分のしたことも覚えてないの? あなたはモンスターを操って各地で私たちを襲い、病気を蔓延させて、散々に苦しめて来たんじゃない!」
「そうか。まあ、モンスターを操って……のくだりは否定出来んが、病気を蔓延だとかいうのはお前が実際にその目で見たのか?」
「そっ、それは……私の村には被害がなかったけど、世界各地では被害報告があがっていて、ミツメの城にも届いてたわ」
痛いところを突かれてティナは若干歯切れが悪い。しかし、世間一般的には書類などの実際に見聞きしたものによって作成された資料もあり、被害が出ているのは紛れもない事実ということにはなっている。
ティナはたまに王城の資料室や図書館などに赴いてはそれらを閲覧し、魔王討伐への使命感を募らせていた。
「ならばこれ以上は話しても無駄だな」
魔王は腰に携えた魔力の込められた特殊長剣「まおうのつるぎ」を鞘から抜き放って構えると、叫ぶように言う。
「何も知らない哀れな勇者よ! 閉じられた生温く、ほろ苦い世界で幸せなまま死んでいくが良い!」
その様子を見てティナも剣を構え、フェニックスもティナの側に寄った。
先制は魔王。剣を持つのとは逆の手のひらをティナに向けて魔法を放つ。
「『ダイアモンドダスト』!」
突如発生した氷雪の嵐がティナを中心に吹き荒れる。生命の存在出来ない絶対零度の世界がティナの肌を侵食し、切り刻んでいく。
視界が白く染まっていく中で、ティナはそのスキルを発動した。
「ぴーちゃん、お願いっ!」
『いいぞ……』
フェニックスが背中からティナの身体に埋まると同時、そこから巨大な一対の翼が出現した。
勇者専用スキル「ふしちょうのつばさ」。
不死鳥と融合することで、その身に彼の「再生」や「保護」の力を宿すことの出来る、規格外なまでに防御に特化したスキルである。
あらゆるダメージを大幅に軽減する上に自動的にHPや状態異常を回復するためゆうしゃ装備一式と合わせれば脅威の防御性能を発揮する。
魔王のこうげき。ダイアモンドダスト! あまりこうかはないようだ。
魔王の攻撃に耐える態勢が整ったティナは剣を構えなおし、地を蹴って駆け出していく。
その様子を見た魔王は口角を吊り上げた。
「ふんっさすがに一筋縄じゃいかんか。ならこれはどうだ、『ヘルファイア』!」
巨大な炎の柱が燃え上がる。業火の牢獄に囚われたティナは一瞬だけ顔を苦悶に歪めるものの、その足を緩めることはない。
そしてティナは遂に魔王の元へと到達し、上段に構えた剣を敵目掛けて一気に振り下ろしていく。
これを右手に構えた剣で受け止めた魔王は、鍔迫り合いになりながら余裕の表情で問い掛ける。
「勇者よ。何故お前は戦う?」
「何故……?」
剣に力を込めているせいで腕が震え、表情にいつもの柔らかさがないティナは即座に解答が出来ない。
おとぎ話の勇者様に、憧れていたから。魔王が憎かったから。
人々を苦しみから解放したかったから。何となく冒険をしていたら勇者になってしまって、みんなの期待に応えなければならないと思ってしまったから。
どれも正解に近いようで、どれもしっくり来ない。
答えを見つけられないまま、ティナの口をついて出た言葉は。
「世界を、救いたかった、から……」
「はっはっは、中々に模範的な解答ではないか!」
高らかな笑い声をあげながら、魔王が押し戻すようにして剣を弾くと、後ずさって一旦態勢を整えたティナが剣を構えたままで問う。
「なら、どうして。どうしてあなたは人々を苦しめて来たというの?」
「欲しいものがあったからだ」
即答だった。若干の敗北感のようなものを覚えながらも、ティナは「ふしちょうのつばさ」を解除しつつなおも問い掛ける。
「それは人々を苦しめなければ手に入らないものなの?」
「そうだ」
「……っ」
あまりにも不遜な物言いに、ティナは思わず舌打ちをしそうになった。自分の欲望の為に多くの人に危害を加えたというのに、その態度はどういうことか。
魔王には世界の真実を話す気など毛頭ない。禁じられているし、話したところで相手が信じるはずがないからだ。先ほどそれらしい話を匂わせたのは、勇者がどこまで何を知っているか、自分が人間たちの間でどういう扱いになっているのかを改めて確認する為であった。
よってこの戦いの結果がどうあろうと、魔王は「魔物を操って災厄を引き起こし人間を苦しめた悪の権化」を貫くつもりでいる。
「じゃあそれは、もう手に入ったの?」
「ああ、だからもう私に未練はない。お前に負けてここで朽ち果てようとも一向に構わん」
「それでもまだ魔物は人々を襲い続けているじゃない。私が負ければ、あなたはまた暴れるんでしょ?」
魔王はまた顔を空いた方の手で覆って笑い出した。ティナは不愉快そうに眉をひそめて尋ねる。
「……何がおかしいの」
「そうだ、その通りだ勇者よ! さあ、これで戦う理由も出来ただろう! 勇者と魔王の戦いという何百年に一度の演目を楽しもうではないか!」
「……!? 何百年に一度? 何をっ」
その問いは剣と剣の衝突によって阻まれてしまう。
魔王は魔法すらも一切使うことなく、自らの足でティナの元へと踏み込んで剣を振り下ろした。その顔には終始、まるで今この時を楽しむかのような不敵な笑みが浮かんでいる。
斬撃の応酬。幾度となく繰り返される激しい剣戟。
気付けば玉座の間には、いつまでも絶えることのない金属の衝突音だけが響き渡っていた。しかし、そんな時にも終わりが訪れる。
「そろそろ決着といくか、勇者よ」
頃合いと見て取ったか、魔王は突然距離を置いてティナの方に手のひらを向けるとスキル名を宣言した。
「『じごくのけっかい』」
「…………?」
ティナは首を傾げた。魔王がスキル名を発したにも関わらず、何も起きる気配がない。MP不足だろうか……などと考えていると。
「ぐっ!」
突如として数々の状態異常に襲われたティナは、膝から崩れ落ちる。
身体は重くなって痺れ、毒に蝕まれ、吐き気を催し、力が抜けていく。身体をくらいつくすような熱が内から発生し、視界も闇に覆われてしまった。
しかしそれも一瞬のこと。ほとんどはすぐにゆうしゃ装備一式によって無効化されてティナはことなきを得る。とはいってもまだHPが減り続けていたり、身体が少しばかり重たかったりするので、スキルを発動しておく。
「ぴーちゃん」
『いいぞ……』
「ふしちょうのつばさ」を発動した瞬間重さは軽減され、HPは少しずつではあるが回復を始めた。このスキルは常時発動型だが、MP消費が激しいのでこまめに解除しているようだ。
ティナが額の汗を拭いながら立ち上がると、魔王は目を細めて勇者の身に纏われた防具を眺めながら口を開く。
「ほう、噂には聞いていたがその防具……本当に『じごくのけっかい』をほぼ無効化してしまうのだな」
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