女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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世界の真実編 後編 突撃!魔王城

エピローグ:女神降臨

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 ソフィアがティナと魔王の元に現れた頃の魔王城の屋上では、魔王軍幹部たちを全て気絶させたジンが、ウォードと肩を並べて座り、星空を眺めながら会話をしていた。

「いやー、しかし強えなあ兄弟はよ。まさか全員に買っちまうとはな」
「ヒヒイイィィン」

 そうだそうだと賛同するがごとく鳴き声をあげるチェンバレン。ジンは軽く握り拳を振り上げてそれに応える。

「全員っつってもお前とはやってねえだろ。何なら今からでもやるか?」
「おっ、おいおい何言ってんだよ。俺たちはもう兄弟でマブダチだろ? それよりほらっ、さっきのぱんつ。結局どうすんだよ?」

 まずいと考えたウォードはとっさに話題を変えようと試みる。

「あ? ああ、そういやそんなのもあったな。今のうちに返しとくか」

 試みはうまくいったらしく、ジンはよっこらせと立ち上がりファリスの元へと歩いていく。安堵の息をついてからその後を追うウォード。
 ジンは気絶して横たわるファリスに近寄ると、手に持っていたぱんつをその頭に被せてしまった。

「どうだ、これで返してやったぜ」

 したり顔でそう言い放つジンの肩を叩きながらウォードが笑う。

「ぶはは、やるじゃねえかさすがは兄弟だぜ」
「ヒヒイイィィン」
「その話、詳しく聞かせてもらおうか」
「「!?」」「ブルルッ!?」

 誰もいないはずの背後から聞こえて来た声に二人と一頭が振り向くと、そこには金髪でやや大柄の、端正で中性的な顔立ちをした男が立っていた。
 ジンは驚愕に目を見開いてから口を開く。

「キース!? お前っ、何でこんなところに……」

 不意をついて背後にいたのもそうだが、ジンが何より驚いたのはシナリオの最終局面が進行しているこのタイミングで精霊の、それも一つの部隊の長たる者が現場に赴いているという事実に対してだ。
 これは当然シナリオの進行を妨害することになるわけで、それをゼウスが黙って見ているはずもない。
 ジンがそんな思考をする傍らで、キースはウォードに歩み寄ってぐいと顔を近づけた。

「おいお前、俺を差し置いてジンを兄弟とか呼んでいたな? デュラハンごときが偉そうに」
「は? 誰だお前、いきなり何様だコラ」
「お兄様だ! そしてそんなジンのお兄様はこの世でただ一人、このっ、私だけなのだ!!」

 左手を自分の胸に添え、右手を高く掲げて天を仰ぐキースを、二人はしばらくの間呆然と見つめてしまった。
 一足先に我に返ったウォードがジンに顔を向けて尋ねる。

「えっ、本当にこれ、兄弟の兄弟なの?」
「いやまあそれはどうでもいいとしてよ、キース、お前なんで今ここにいるんだ? ゼウスに天罰くらうぞ」

 キースは姿勢を戻して直立し、真顔になった。

「それはない」
「なんでだよ」
「とりあえず下に行こう。今頃はソフィア様が勇者と魔王を説得してお待ちになっているはずだ。そこでまとめて説明を聞いた方が早い」
「「は!?」」

 突然のわけのわからない展開に声が被ってしまうジンとウォード。二人は顔を見合わせると、階段へと向かって歩き出したキースについていくのであった。

 一方その頃、玉座の間の前の部屋では、目を覚ましたラッドがムガルと対峙していた。というより、ラッドが一方的にムガルを警戒していた。
 剣を構えたまま敵意をむき出しにして睨んでくるラッドに対し、右の真ん中の腕でぽりぽりと頭をかきながらムガルが説得を試みる。

「あのー、落ち着いて」
「ぼっ、僕は騙されないぞ。そうやって油断させて、いきなり急所を突いてくる気なんだろう!」
(う~ん、どうしたらわかってくれるのかなあ)

 考え込むムガルに、ラッドが先制攻撃を仕掛けた。

 ラッドのこうげき。ミス!

「わわっ!」

 ムガルは思わず左腕の上中二本を使ってその剣を掴んでから、押し戻すようにして離してしまった。ラッドの身体は無駄に勢いよく吹き飛び、後方の壁に叩きつけられてしまう。

「ぐっ!」
「あっ、ごっごめんなさい!」

 そして、その衝撃でロザリアも目を覚ました。

「……? っ! ラッド様!」

 よくはわからないがとにかくラッドがモンスターに壁に叩きつけられたらしい、と認識したロザリアがラッドの元へと駆け寄る。そしてその身体を抱き起こすといつものやつが始まってしまった。

「ぐっ……ロザリア、すまない。僕はここまでのようだ」
「そんな! ラッド様、共に生還して私と結婚をしてくださると約束してくださったではありませんか!」
「僕がいなくなった後は、君には別の相手を探して幸せになってほしい。僕の影に縛られて欲しくないんだ……」
「わかりました」

 思いの外あっさり承諾されてしまったことに割とショックを受けたラッドは、演技ではなく本当に身体に力が入らなくなってしまう。
 ムガルはそんな二人の様子を、とても仲良しなんだなぁ、僕もそのうちいい相手が見つかるといいな……と思いながら温かい目で見守っていた。
 期せずして悲劇の英雄ごっこの山場を迎えたことを悟ったロザリアは、泣きそうな顔になって、ラッドの身体を揺すりながら叫ぶ。

「ラッド様……そんな、ラッド様! ラッド様! いやああああぁぁぁぁ」
「おーまたいつものやつやってんのかお前ら。あ、ムガルありがとな」

 そこにジンの登場である。その後ろには見知らぬ、金髪であご髭を生やした大男に何よりも魔王軍幹部であるはずのデュラハンと黒馬がいて、それらを視界に入れたロザリアをぎょっとさせた。何かあったのかと目を開けて同じくそれらを視界に入れたラッドもまた固まってしまう。
 そんな二人にも構わず、ムガルはジンの言葉に応えた。

「いえいえ、ジンさんには以前お世話になりましたから。あれ、でも……いいんですか? 僕と知り合いってこと言っちゃって」

 ジンはその問いに、キースを一瞥してから答える。

「今屋上から歩きながらキースに軽く聞いたんだけど、どうもそうらしい。俺もよくわかってないんだけど、とにかく説明がこれからそこであるってよ」

 あえてソフィアの名はまだ出さない。ムガルと、何よりもラッドとロザリアが余計に混乱する可能性があるからだ。すでに茫然自失しているようなので、今更ではあるかもしれないが。

「なるほど、そうなんですね。キースさん、ウォードさんもお疲れ様です」
「何だムガル、お前も俺の兄弟たちと仲良かったのかよ~早く言えよな」
「えっ、兄弟たち?」

 キースはムガルとウォードのやり取りを意に介すこともなく、ラッドとロザリアに歩み寄って片手を差し出す。

「やあ、ジンのお友達だね。私がジンのお兄ちゃんだ」
「はあ。どうも……ジン君のお兄さん、ですか。お名前は……」
「ジンのお兄ちゃんだ。それ以外の名は捨てた」
「そ、そうですか」

 どうやらキースは兄としてジンの仲間たちに挨拶をしたいだけのようだ。
 困惑を深めていくロザリアに、キースの背後から出て来たジンが助け船を出す。

「やめとけロザリア、こいつは話通じねえから」
「ジン君のお兄様というのは本当なんですの?」
「残念ながらな」

 肩をすくめて不服そうな顔をするジン。

「お兄様……とてもいい響きだ。ありがとう、これからもジンをよろしく」

 感動に震えるキースは跪き、一通りラッド&ロザリアと丁寧な握手を交わすと、気が済んだと言わんばかりのすっきりとした表情で立ち上がる。

「では、行くか」

 そして人間、精霊、モンスターの入り乱れた一団はキースの先導によって、女神と勇者と魔王の待つ玉座の間へと入室したのであった。

 玉座の間では一体どこから持って来たのか、巨大な白い円卓の周りに無数の椅子が並んでいる。そのうちの一角、玉座がある部屋の奥側にソフィア、その右側にティナ、左側に魔王が座していた。
 ソフィアが凛とした面持ちで真っ直ぐに部屋の入口方向を見つめていたのに対してティナは所在なさげに膝の上に手を置いて俯いている。魔王はソフィアの顔をちらちらと窺いながら照れくさそうにしていた。
 全員が部屋に入ると、ティナと魔王がそちらを振り向く。そしてソフィアが柔らかく微笑んでから口を開いた。

「揃ったようですね」
「「ソフィア様……!?」」
「「ソフィア!?」」

 ソフィアを女神として尊敬する人間勢と、敵として認識するのが多数派のモンスター勢の声が被る。その反応は想定済みなのだろう、ソフィアは微笑みの湛えられた口元はそのままに応えた。

「みなさん、突然のことで混乱されているかと思います。まずはゆっくりと順を追って、もうあなたたちが戦う必要はないこと、そして本当に戦うべき相手が誰なのかを説明します。その上でそこから先をどうしたいのか、あなたたちの選択を私に聞かせていただきたいのです」

 その場にいた者たちは思い思いの相手と顔を見合わせ、無言のやり取りを交わして静寂を呼び込む。
 世界の行く末は、もう誰にもわからなくなっていた。
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