女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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英雄たちの選択 前編 結集、そして決断

選択肢の提示

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 部屋にいる者たちをゆっくりと見回しながらソフィアは続ける。

「私から提示出来るのは大きく分けて二つ。一つは、我々神の手でゼウスを拘束してこの世界の管理を他の神の手、もしくは神の主要な意思決定機関、『幹部会』による共同統治に委ねるというもの」

 「二つ」と「一つ」のところで立てていた指をしまうと、ソフィアは自身の言葉に補足をしていく。

「神々の取り決めに従えばこうなるのが自然です。放っておけば次期に神々がやって来てゼウスを拘束し、神界での会議という流れになるでしょう。ですが……正直に言えば、私はこの選択肢をあまり望ましく思っていません。この場合アカシックレコードは貴重なものであるという理由で破壊せずに保存し、神々による経過観察といった形になる可能性が高いからです」
「悪用される恐れがある、ということですね」

 実はジン以外のことに関しては冷静で切れ者なキースが挟んだ鋭い言葉に、ソフィアは一つうなずいてから返事をした。

「その通りです。正直に言えば私ですらそうしてしまうかもしれない、と思うほどですから。ちなみに私の場合、ティナちゃんのみならず世界中の美少女のお尻をいただくぜぇぐっへっへと願ってしまうことでしょう」
「いや真剣な表情でそんなこと言われても。鼻血も出てますし」
「ジン君。気持ちはわかりますが、これは真面目な話なのです。あっ、ありがとうございます……えへへ」

 隣にいるティナに鼻血を拭われ、ソフィアは一気に締まりのない顔になった。
 鼻血を拭ってもらい終わると周囲の呆れや苛立ちといった視線を感じ取ってか、少しばかり頬を赤らめつつせき払いをしてから話を再開する。

「とっとにかくですね、それに加えて神々に統治を委ねなければならないという点も私としては問題があるのです。だってこれは、ここにいる皆さんの世界のことなのですから」

 一瞬緩んで締まった空気が再度引き締まる。そこに、横から魔王が全員が気付きかけている話題を切り出した。

「ということは、もう一つは」
「ええ。ここにいる皆さんと私の手でアカシックレコードを破壊し、シナリオのない、ただあるがままの世界へ変えることです」
「出来るんですか?」

 ジンが半信半疑といった感じで問い掛ける。

「もちろんメンバーを厳選する必要はありますし、破壊した後のことなど問題は色々とありますが……恐らくは、出来ます」
「恐らく、なのですか?」

 聞いたのはキースだ。魔王はソフィアの言うことに静かに耳を傾けているし、正直に言って精霊である二人以外は事態についていくのがやっとだったりついていけていなかったりするらしく、口を挟もうという者はいないように見受けられる。

「はい。先ほど神々の統治に委ねた場合、アカシックレコードは保存することになると言いましたが……あれにはもう一つ理由があります。あくまでも推測に過ぎませんが、あれはティナちゃんの『ゆうしゃのつるぎ』でしか破壊出来ない可能性が非常に高いのです。逆に言えば、ティナちゃんならあれを破壊出来るかもしれないということです」

 全員の視線がティナに向かう。ティナはそれを受けて慌てふためき、自分の顔を指差した。

「えっ、わ、私ですか?」
「はい。じゅるり。あれは太古の神によって造られたものです。ですから通常の魔法やその上位に位置する極大魔法はおろか、神聖魔法ですらも壊せない可能性があるのです」

 ティナが慌てる様子に心の中で悶え、垂れてしまったよだれを拭うこともせずにソフィアがそう言うと、ティナはぱたぱたと手を振る。

「じゃあ私なんて尚更なんじゃ」
「勇者専用スキルと魔王専用スキルは当のアカシックレコードが生み出したものです。その中でも直接の攻撃スキルである『ゆうしゃのつるぎ』……むしろあれを破壊出来るとしたらそこにしか可能性はないと、私は考えています」
「…………」

 ティナは再度俯き、膝の上で拳を握ると押し黙ってしまった。

「私からの提案は以上ですが……」

 そう言ってどうしたものかとソフィアが周囲を見回していると、魔王が心配そうな表情で口を開く。

「あの、ソフィア様。例えば私たちの手でアカシックレコードとかいうものを破壊するという選択肢をとった場合、本来神々が共同でどうにかすべきだったものをソフィア様単独の判断で破壊してしまっていいものなのですか?」
「完全に大丈夫、というわけではありません。ですが今は非常事態ですし、大体はゼウスのせいにしてしまえばいいと思います」

 にっこり、と屈託のない笑みを浮かべるソフィアに、今までその素性を知らなかった数名は少し引いた。

「それに、今神界では『みんなのドンドコ大運動会』が開催されていますから、どちらにしろすぐには『幹部会』は動けません。『幹部会』が動けないから私の判断でやりましたと言えばいいのです」
「だっ、大運動会ですか?」
「ティナ、今はそこに興味を持っちゃだめだ」

 頬を緩めながらのジンの注意に、ティナは残念そうな表情で口をつぐんだ。そんな微笑ましい姿にソフィアもまたほっこりとした顔で頬に手を当てる。

「ふふ、大運動会が気になるのなら後で色々と教えてあげますよ」
「すいません……」

 ティナは所在なさげになって顔を赤くした。次にキースからの質問が飛ぶ。

「もし私たちの手で破壊した場合、世界の管理はどうなりますか?」
「アカシックレコードさえなければ共同統治などをする必要もありませんし、恐らくは私が代理で管理することになるかと。流れとしては緊急事態に気付いた私が急ぎでこの世界の皆さんと一緒にそれに対処した、ということになりますから」
「後始末もソフィア様で、ということですか」

 ジンからの問いかけに、よく出来ましたとでも言わんばかりの微笑みを浮かべるソフィア。

「そういうことです。私としましても、この世界の皆さんにはもう思い入れがありますから……そうなればいいと思っています」
「わっ、私もそう思います!」
「そうなれば私も至福にございます」

 ティナが賛同すると、魔王も負けじと胸に手を当てながら追従した。

「お二人にそう言っていただけると、とても嬉しいです」

 そう言ってソフィアは表情を引き締める。

「これから皆さんでどちらがいいか、相談していただきたいと思います。それで、もし私たちで破壊する選択肢を採った場合、天界や精霊の存在について説明する必要がありますので、その……」

 ソフィアはどうしたものかと、若干困った様子でジンの方を見やった。

「大丈夫です。俺の方から説明しますから、まずは魔王軍と勇者パーティーで分かれて話し合いましょう」
「ジン君……?」

 何を言っているのかと、ティナが少し戸惑った様子でつぶやく。一方でソフィアはジンの言葉を受けて首を縦に短く振った。

「わかりました、それではそうしましょう。私はここで待っていますので」

 ソフィアがそう言いながらテーブルの上に手のひらを向けて何かをしようとして出来なかった様子で「あら?」と首を傾げた。
 ジンはそんな女神の様子にも気付かず、真っ先に椅子から立ち上がる。

「よし、それじゃ適当にその辺の部屋に移動しよう」
「お前に仕切られずともそうするわ」

 魔王の憎まれ口を気に留めることもなく、ジンはキースに尋ねた。

「お前は……まあ俺についてくるよな」
「うむ。色んな意味でな」
「他にどんな意味があるんだよ」

 ティナ、ラッド、ロザリアも未だに事態を把握しきれていない様子で椅子から立ち上がり、ジンについて移動を開始した。
 残った魔王はウォードとムガルの方を見て口を開く。

「じゃあ俺たちは幹部たちも迎えに行かねばならないし、屋上に行くか」
「はい」
「そうっすね~よしチェンバレン、行こう」
「ヒヒイイィィン」

 そうして魔王軍側も移動を開始し、玉座の間には何やら部屋をあちこち眺めまわすソフィアだけが残されたのであった。
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