女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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英雄たちの選択 前編 結集、そして決断

勇者パーティーの決断

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 キースを含めた勇者パーティーは適当な部屋を探し当てるまでの間、無言を貫いていた。自分が精霊であることをどのように明かそうかと悩むジンはもちろんのこと、ティナやラッド&ロザリアにも何か思うところがある様子だ。
 玉座の間からヌチャピュリョスと戦った部屋に入り、またそこから出て大きな通路へと差し掛かる。今度はそこを進むようなことはせず、すぐに脇道にそれて適当な部屋を探した。

「よし、ここにするか」

 扉を開けて中を覗き込み、仲間の方を振り返ってからジンがそう口にする。
 幹部などではなく、その配下にあるモンスターの部屋だろうか。非常に質素だが生活に必要な調度品はそろっているようであり、ベッドやテーブルなど座れる場所もあって会議には使えそうだ。
 もし部屋の主がいれば「よし、ここにするか」じゃねえよなどと言いそうなものだが、幸いにもここにはいない。更に言えば、誰かが使っているかどうかすらもわからないほどに、生活の痕跡が見当たらなかった。

 ジンを先頭にして部屋に入ると、全員が何とも言えない難しい表情をしたままでテーブルの椅子に腰かける。何故かキースだけはジンの後ろで突っ立っているが、誰もそこには口を挟まない。
 仲間たちが落ち着く頃合いを見計らって、ジンが話を切り出した。

「さっきソフィア様が言ってたことを話し合う前に、みんなに聞いておいて欲しいことがあるんだ」

 散らばっていた視線が、その一言で一点に集約される。一体何を言い出すのかと全員がジンの顔を見つめていた。
 ジンもそんな仲間たちに視線を返してから、ゆっくりと重い口を開く。

「実は俺……人間じゃないんだ」
「えっ!?」

 声をあげたのはティナだ。ラッドとロザリアは、まずは話を聞こうという姿勢の表れか、口をつぐんだままでいる。

「俺たちは精霊って言って、本来は天界に住んでいる……こんな言い方は癪だからしたくないけど、ゼウスの部下みたいな感じの存在なんだ」

 腕を組んで短くうなずくと、ラッドが尋ねた。

「確かに、出会った時からジンにはいくらか不思議なところがあるなと思ってはいたけれど……そう言われてみると逆に半信半疑、というのが正直なところだね。見た目だって完全に人間じゃないか」
「ああ。実際に人間との違いはそう多くはない。身体能力が優れていたりとかスキルの採り方が違うとかそれくらいだったと思うけど……どうだったかな」

 ジンの横目での視線を受けてキースが口を開いた。

「私もそこまで自信はないが、大体それで合ってると思うぞ」
「そう言えばジン君のお兄様でしたわね。ということはお兄様も」

 ロザリアにお兄様と呼ばれ、口角を吊り上げてうなずくキース。

「そうだ、お兄様も精霊だ」
「誰がお兄様だ、ていうかいい加減名前を名乗れよ。これから真面目な話だってするわけだし」
「それもそうだな……ジンのお兄ちゃんをやっているキースだ、よろしく頼む」

 キースが丁寧に一礼すると、つられてティナたちも座ったまま腰を折った。それから簡単に勇者パーティーが自己紹介を終えたのち、再びジンが口を開く。

「で、精霊ってどんな存在かっていうと、ゼウスが書いたシナリオ……さっきソフィア様からも説明があったけど、世界の時間あるいは歴史をこういう風に進めていこう、っていう筋書きみたいなものだな。それを遂行するための手伝いをする存在みたいな感じだ。今までは人間にその存在を知られてはいけないって決まりのせいで正体を隠してた。で、若い精霊たちは精霊部隊っていう三つに分かれている集団のどれかに所属してそれぞれの仕事をこなしていくんだ」

 ジンはそこで各部隊の概要と自身が「モンスターテイマーズ」に所属していることを説明した。

「各部隊には専用のスキルが与えられるんだけど……この辺りの説明は追々って感じでいいだろ。ちなみに、キースはこんなのだけど『ダンサーズ』の隊長だ」

 ジンがそう言って親指で指し示すも、キースはさして誇らしげにするでもなく無表情を貫いている。

「とりあえず精霊について大体の説明は終わったけど……今のところですぐに気になったこととかはあるか? ほら、俺はお前らが何をわからないのかをわからないから、そういうのは聞いて欲しいんだよ。まあ今は混乱してるかもしれないけど」

 するとティナは「う……」とか「あの……」とか言いながら、頬を朱に染めてもじもじとし出した。何か言いたいのに言い出せないといった様子で口をぱくぱくとさせている。

「ティナ、どうした? 何でも遠慮なく聞いてくれ」
「いや、その……」

 ティナに何が起きているのかわからずに首を傾げるジン。普段なら察しの良いラッドとロザリアですらも、真面目な話をしている最中ということもあってか、ティナの言いたいことに関してあまりピンと来てはいないようだ。
 この中でただ一人それを察している可能性が最も高いのはキースだが、確信が持てないためか静観を決め込んでいる。

「何でもない、です」
「? そうか」

 結局ティナは質問を断念したらしい。そんな彼女を心配する様子のジンに、今度はラッドが問いかける。

「精霊というのは天界? に住んでいたと言ったね。なら、どうしてジンは下界に降りて来たんだい? しかもティナに同行までしているじゃないか」

 鋭い「せいけんづき」を胸にでもくらったかのように、鼓動が跳ねる。
 驚きすぎて逆に動揺が表情に現れていないジンに、どう助けたものかとキースが視線をやった。しかし、ジンは意外なほどスムーズに二の句を継ぐ。

「さっきも言ったけど俺は『モンスターテイマーズ』って部隊に所属してて、ちょうど担当している地区にハジメ村が入ってるんだ。それであの日、たまたま適正範囲外モンスター、つまりテイム対象に襲われてるティナを見つけて助けたはいいんだけど、何だか心配になっちゃってそのまま一緒に……」
 
 勇者をたまたま見かけるなどということがあろうはずもない。精霊ならば誰もが一瞬で嘘と気付く台詞だが、この場に精霊はキースしかいなかった。
 ジンにしては流暢にほらを吹いていたものの、最後の辺りでティナが潤んだ瞳で自分を見つめていることに気付き、言葉尻を急速にしぼませた。
 ティナに一目惚れしたことを誤魔化す為に言い訳をしたのに、結果的に恥ずかしいことを言わなければならなくなったジンである。

 ラッドが「へえ」と口ずさんでから感心したような表情で語り出す。

「じゃあ多少の違いはあれど、ティナとの出会いはそこまで作り話ではなかったんだねえ」
「ジン君……本当に私を心配してついて来てくれたんだね」

 そこまで大嘘というわけでもないが、ただの一目惚れという事実を隠してしまっている部分に罪悪感を覚えるジンに、ラッドは更に問い掛ける。

「じゃあどうして今正体を明かしてくれたんだい? 存在を知られてはいけないという決まりがあるのなら、罰則だってあるんだろう」
「それなんだけど、理由は二つある。ソフィア様が俺たちの側にいて守ってくれるからっていうのと、ゼウスが天界にこもって下界に降りて来ることがなくなったからっていうのとだな」
「私もそう思う」

 キースが鷹揚にうなずくのを横目で見ながら、ジンは説明を続けた。

「本来、正体を知られた精霊はゼウスに消されるってことになってたんだけど、それは神聖魔法によって文字通り『存在そののもを消す』ってことだったんだ。だからあいつが最低でも対象の近くにいないと使えない。そして、ソフィア様の話によればこれからゼウスはこの世界を管理する神じゃなくなるし、万が一の時にはソフィア様が守ってくれる。だからゼウスに消される心配はもうないってことだ」
「すぐには飲み込めないけれど、何となくわかった気がするね」

 ラッドは話を聞いて、難しい顔をしながらそうつぶやいた。

「まあそうだろうな。神や天界、精霊についてはゆっくり理解してくれればいい。で、他に質問はねえか?」
「正直、今は一気に色んなことを知らされて戸惑っているという感じですわね」

 ロザリアの顔にいつもの優しい笑みはなく、長いまつ毛の下からは困惑や不安といった色を帯びた瞳が覗いている。そこで何かに気付いたラッドが再びジンに問いかけた。

「そういえば精霊と、ソフィア様がいっていたアカシックレコードを破壊する手段とはどう関係してくるんだい?」
「それは俺にもちゃんとしたところはわかんねえな。キースはどうだ?」
「その辺りはソフィア様から後で説明があると思うぞ。それよりも、今はお前たちがソフィア様が提示された選択肢のうちどちらを採るのかを話し合うのが先決じゃないのか?」
「だな」

 珍しく大真面目なキースの言葉にうなずくと、ジンは話を本題に移す。

「みんなはソフィア様の話を聞いてどう思った? どちらの選択肢がいいか、意見を聞かせて欲しい」

 少しの間、静寂が部屋を支配する。実のところジンはすでにどちらにするか決めていたが、先に仲間たちの話を聞きたいようだ。
 ティナが膝の上に置いた握り拳に力を込めながらゆっくりと口を開く。

「私は、私たちの手でアカシックレコードっていうのを壊したい」
「僕もそうだね」
「私もですわ」

 そこでティナは顔をあげ、凛とした双眸でジンを射抜いた。

「私たちの世界のことは私たちで何とかしたいし……それに、ソフィア様がこの世界を管理してくださるようになるなら、そっちの方がいい」
「みんな……」

 ゼウスよりソフィア様がいい、という可愛らしくも真剣な提案にティナらしいなと思いつつ、ジンも想いを口にする。

「俺もみんなと同じ気持ちだ。それに、ティナがそうしたいと思ったのなら俺は全力でサポートするだけだ」
「ふっ、ならば私もそんなジンを全力でサポートしよう」

 精霊兄弟の頼もしい言葉に、一同は顔を綻ばせるのであった。
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