女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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英雄たちの選択 中編 天国への回廊

それぞれの闘争

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 木の幹の中へと入ったジンたちの前には、この世のものとは思えない奇妙な光景が広がっていた。
 どのような素材で出来ているのかもわからない、無機質な灰色の床が伸びていっているかと思うと、しばらく行った先で少しずつ上に向かいながら蛇のように不規則にうねっている。
 その横幅は魔王城の大通路以上に広いが、周りに手すりや壁などの空間を区切るものは存在しない。外側は、夕暮れの空を彩る茜色を少し薄めたような不思議な色合いの空で上下左右を囲まれていて、雲も散りばめられている。

 どこまでも果てしなく続く空を見上げたり見渡したり見下ろしたりながら、一同は好奇心と恐怖心を同時に刺激されていた。
 そんな尊い生命たちを少しの間見守ったのち、これからの説明をしようとソフィアが前に出る。が、その背後から別の声が聞こえて来た。

「ロザリア! ロザリア! しっかりするんだ!」
「ああラッド様。このようなところで力尽きる私をお許しください……」
「だめだ。僕を一人にしないでおくれ」
「あなたの腕の中で逝くことが出来て、とても幸せです」

 そこでは一足先にここに来ていたラッドとロザリアがいつものやつをやっているところだった。しかしソフィアは二人を一瞥すると、まるで何事もなかったかのように話を始める。

「え~これから天界に向かって進軍を始めますが、みなさんに一つだけ言っておかなければいけないことがあります」
「はいっ!」
「はいっティナちゃん可愛いっ!」

 びしっと挙手したティナを、ソフィアもソフィアステッキでびしっと示す。思いがけず可愛いと言われたティナは、照れながらも解答をした。

「おやつをちゃんと持っているか確認すること、ですね」
「そう! 『天国への回廊』は歩いて行くには長いと聞いています。おやつを常備していないと、途中でお腹が減って動けなくなるかもしれません」
「よしっ」

 正解したことで、誰にも見えていないつもりで小さく拳を握るティナ。だがジンはもちろんのこと、ソフィアにも注目を浴びていた。

「ふふっ、そんなティナちゃんにはこれをあげましょう」
「わあ、ありがとうございます」

 ソフィアは妖精姿で持つには大きいチョコをどこからか取り出して渡した。それを満面の笑みで受け取るティナを見てほっこりとする一同。
 だがその時、一つの「闇」がその温和な空間を切り裂いた。

「はぁ~やだやだ、いるのよねぇ。こういう女」
「えっ?」

 魔王の隣から嫌味を飛ばしてくるサキュバスの首領に、ティナは戸惑う。

「あざといっていうか、男に媚びてるっていうか。そんな女いるわけないじゃん」
「わっ私、そんなつもりじゃ……」
「おい、ファリス」

 ソフィアが仲良くして欲しいと願うこの状況を自分の部下が乱すとあらば黙っているわけにもいかない。魔王は、即座にファリスに注意した。

「何だてめぇやんのかこら」

 そこに、ティナのことになると途端に沸点の低くなるジンが参戦する。ファリスの前まで歩み出て、睨みをきかせながら見下ろす形だ。
 こういった時ティナは率先してジンを止めるのだが、今は動揺していてうまく言葉を挟めないらしい。

「なっ、何よ。本当のことじゃない」
「どこがだよ。ティナはあざとくねえし媚びてもねえ」

 もはや実力を隠す必要のなくなったジンが怒れば、何度も負けているファリスとしては恐怖の対象でしかない。あからさまに動揺して周囲を見渡し始める。
 魔王はファリスが悪いと思っていて、少し懲らしめられるくらいならむしろ丁度いいくらいに感じている。そして幹部たちは彼のそんな態度にならうつもりのようだ。そう、彼女たち以外には。

「まあまあファリス様ってこういうとこあっからさ。今はわかんねえと思うけど、そんなに悪気があるわけじゃないんだ。今回は勘弁してやってくれよ」
「悪気がなくたって言っていいことと悪いことがあんだろ」
「私もそう思うわぁ。だから次からは怒っていいから、今回だけは……ね?」

 ファリスの部下であるメイとシルビアが間に割って入り、援護に回った。そしてようやく立ち直ったティナもジンをなだめようとする。

「ジン君、私は大丈夫だから」
「……ちっ」

 ティナにそう言われれば引き下がるしかない。ジンは不機嫌そうな顔のまま、それ以上何を言うこともなく元の位置に戻った。

「……ありがと」

 珍しく素直なファリスの感謝を受け、メイとシルビアは微笑みを返す。そこであえて場を静観していたソフィアが口を開いた。

「何とかうまく収まったようですね。ティナちゃん、魔王さん、シルビアちゃん、メイちゃんありがとうございます。それではジン君とファリスちゃん、仲直りの証として握手を交わしましょう!」
「いっ!」

 予想外の展開にジンは変な声を漏らしてそのまま抗議の声をあげる。

「そこまでしなくてもいいでしょう! 大体俺はまだあいつを完全に許したわけじゃ……!」
「ジン君、それはだめです。男らしくありませんよ? 一度引き下がったのですからむしろ『ティナの次はファリスを狙ってやるぜえぐっへっへ』くらいの気持ちでいなければだめです!」
「ティナ以外狙いませんから!」

 思わず叫んでしまった。場が静寂に包まれていることに気付いて周囲を見てみれば、皆がにこにこにやにやとジンを見守っている。
 顔を赤くして俯いてしまったティナを見てやってしまったとはっきり自覚したジンは、ソフィアの提案に従うべくファリスの前に出て手を差し出した。

「悪かったな」
「こちらこそ」

 ファリスもどこかむすっとした表情でその手を取り、握手を交わす。かと思えばそのままティナの方を振り向き頬を朱に染めながら口を開く。

「あっ、あの……悪かったわね」
「私は全然気にしてない、から」

 突然のことに動揺してティナもうまく言葉を紡げていない。が、気持ちは伝わったのか最後には笑みを見せた。

「ありがとね。ファリスちゃん」
「別にあんたの為じゃないから」

 そんな二人を、場の静かながら暖かい空気が包んでいた。

 ようやく場が落ち着いたところで、ソフィアが話を再開する。

「話が逸れてしまいましたが、お話はもう一つあります」

 先程までとは一変して緊張した空気が流れる。各々が真剣な眼差しでソフィアの言葉に聞き入っていた。

「セイラちゃん、ノエル君、キースさん、エアさん以外はそのままでは天界に入ることが出来ません。ジン君は精霊ですが追放扱いを受けていますので。ですから、回廊出口まで到達したら皆さんに支援魔法のようなものをかけますので、それまでは天界には入らずに待機していてください」

 ところどころから様々なタイミングで「はい」「わかりました」「うい~」といった返事が来るのを確認して、ソフィアは顔を綻ばせる。

「それでは参りましょう!」

 ソフィアの合図でばらばらに進軍が開始された。先頭は精霊+勇者パーティーで後ろから魔王軍がついていくようだ。
 最前列を歩いているティナが、ジンに小声で話しかけた。

「ジン君ジン君」
「どうした?」

 そこでティナは顔を近付けて耳打ちをする。

「さっきはありがとね。怒ってくれて」

 咄嗟に取った行動で反省することはあっても、感謝されることはないと感じていたジンの鼓動は距離の近さもあって速くなり、頬を赤らめてしまう。
 ティナが元の態勢に戻ったのを確認して、視線を宙に向けて口を開いた。

「別に。その、大人気なかったかなって反省はしてる」
「たしかに喧嘩はして欲しくないなって思ったけど、ジン君の気持ちは嬉しかったよ」
「そうかい」
「うん」
『久しぶりのイチャイチャ、ご馳走様です……』

 もはやフェニックスの言葉には反応する気すらない二人であった。
 そしてそんなほのぼのとした会話が繰り広げられている後ろでは、修羅場が展開されている。

「ノエル君、私は負けませんからね!」
「はあ」

 ソフィアステッキで勢いよくノエルを示しながら、ソフィアがそう宣言した。
 どうやらフェニックスの上での話し合いでは、今後はセイラの奪い合いをするということで話が決まったらしい。
 もちろんセイラの気持ち的にはノエルの勝利ということで勝敗はすでに決しているのだが、ソフィアの気が済むまでやらせてあげようという計らいだ。
 段々とソフィアの扱い方がわかってきたセイラが、魅惑的な笑みを浮かべながら二人の間に入る。

「まあまあソフィア様、そんなに怒ると可愛いお顔が台無しですよ?」
「えっ、かっ、可愛い……!? そんな、ダメですセイラちゃんこんなところで……ああ、騙されているとはわかっていても、またそこがいい……!」

 照れて首を横に振りながらそう叫ぶソフィアに、こりゃだめだ、と一同は苦笑を浮かべるのであった。
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