女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

文字の大きさ
197 / 207
英雄たちの選択 後編 そして、世界の行く末は

リッジの過去

しおりを挟む
「……という感じでよかったかの?」
「ええ。後はその辺に退避してことの成り行きを見守るとしましょう」

 ジンとミカエルが戦闘を開始してすぐ、取り残された神々は先程までとは打って変わってのほほんとした雰囲気の会話を繰り広げていた。
 ソフィアとゼウスは翼をはためかせ、ゆっくりと飛行しながら周囲で一番高い建物の屋根を目指していく。滅多に拝むことの出来ない『本気』の姿をした神々に、目撃した通行人たちの視線は釘付けになっていた。
 やがて周囲を一望出来る一際高い時計台の上で足を投げ出して座ると、ソフィアは流し目でゼウスを見ながら口を開く。

「わかっていることと思いますが、あなたの罪がなかったことになるわけではありませんよ? まあ、その辺りは『みんなのドンドコ大運動会』が終わり次第、すぐに『幹部会』がやって来て収拾をつけることと思いますが」
「よっこらせっ、と……。そんなことはわかっておるわい」

 ソフィアの隣に並んで腰かけながら、ゼウスががそんな風に言った。
 ゼウスと「切り札」モードのソフィアの力はほぼ拮抗している。世界でこれ以上ないという威力の魔法が二つも同時に炸裂すれば、意図せずとも街一つを破壊するのはそう難しいことではない。
 当然ながらそれは二柱の本意とするところではないし、そもそも互角だとわかっているのに戦おうとすることが無駄だと言える。それらの理由から、ソフィアとゼウスは最初から戦闘をしようなどとは思っていなかった。
 ところが雰囲気的に「私たち戦いません」などと言い出せそうになかったので、「これ……どうします?」「わし、このままかっこよくキメたいのじゃが」「そんなの知りませんよ。あなたが原因なのですし、一芝居うってください」などというやり取りを視線のみで交わし、茶番を演じるに至ったのである。

 それに加えて二柱の神は互いの軍の戦力として、「向こうの神を押さえつける」という役割を果たしていれば問題はない。ソフィアとゼウスが近くにいることで、どちらも神聖魔法が使えないようになる。それだけで充分だ。
 時計台の上からジンとミカエル、ティナとリッジが戦う様子を眺めながらソフィアは少しばかり陰りのある表情を見せた。

「とはいっても、やっぱり心配です。リッジさんには手が出せませんが、せめてミカエルだけでも……」
「やめい。そうなれば本当にお主と戦わなけりゃならんじゃろうが」
「ですよねぇ」

 ソフィアは残念そうに一つため息をついてからつぶやく。

「結局、神というものは彼らに何もしてあげられないのですね」
「それが正しい神の姿、とも言えると思うがの」
「その辺りに関してはあなたと意見が合ってしまうのが残念です」

 そんな他愛もない会話をしながら、ソフィアとゼウスは勇者や精霊たちをただ見守り続けるのであった。



 白銀の双刃と紅蓮の炎がそれぞれに弧を描き、ぶつかり合う。剣戟の音が静まり返った北大通りに響き渡っていた。
 精霊最強と言っても過言ではないモンスターテイマーズ隊長、リッジの猛攻の前にティナは防戦一方となっている。リッジは薄っすらと、笑みすら浮かべて斬撃を繰り出しながら相手に声をかけた。

「どうした勇者よ。他の勇者専用スキルは使わないのか?」
「うっ、ぐっ……」

 額に冷や汗をにじませながら、苦悶に顔を歪めるティナ。
 手数が多過ぎる。それでいて一撃一撃が重く、防ぐのがやっとだ。動きも機敏で仮に「ティナスラッシュ」を撃てたとしても、当たるとは到底思えない。
 それでも……諦めるわけにはいかない!

「やっ!」
「ふん」

 まるで針に糸を通すような感覚で隙を見つけ出して振るわれたティナの剣も、リッジは鼻を鳴らしながら受けてしまう。
 あえて後退し、構えをといたリッジが語りかけた。表情のほとんどない顔に埋め込まれた切れ長の双眸は、値踏みをするかのようにティナを見つめている。

「人間にしては中々やるようだな」
「はぁ、はぁ……」

 体力の消耗が激しく、ティナは呼吸をするので精一杯だ。

「だがこのままでは私にやられるのも時間の問題だろう。どうだ、ここは一つ『ふしちょうのつばさ』でも使った方がいいのではないか?」
「…………」

 どういうわけか、敵は勇者専用スキルにやたらとこだわっているように見える。単純に見たいだけなのか、それとも。
 どこかから懐かしい声が聞こえてくる。

『ティナ、敵の言う通りにするのも癪だが、使っておいた方がいいぞ』
「ぴーちゃん」

 いたんだ……とは言わなかった。なぜか戦闘に突入するまで喋らなかったけど、ずっと自分の周りを飛び交ってくれているのはわかっていたから。
 罠の可能性も高いとはいえ、発動してしまえば鉄壁の防御性能を誇る「ふしちょうのつばさ」だ。それを打ち破るほどのスキルを相手が所持しているのなら、むしろ今の内に見ておいた方がいいだろう。
 ティナはフェニックスと目を合わせてうなずき、声をかけた。

「じゃあぴーちゃん、お願い」
『いいぞ……』

 勇者と不死鳥が融合し、勇者の背中からは朱色に燃え盛る翼が顕現する。途端にリッジは目を見張ったかと思うと両腕を天に向かって広げ、口の端を歪めて不気味な笑みを形作った。

「ふはははは! 素晴らしい! 素晴らしいではないか! これがアカシックレコード……太古の神々によって生み出された力か!」

 ティナはていおうのつるぎを取り出して構えたまま目を細めた。

「……何がおかしいんですか?」
「ふはははは! ふははははははは! ふはーっはっはっは! ふははげほっげほっ」
「…………」

 笑いすぎて咳き込んだリッジは、ようやく顔をあげて問い掛ける。

「アカシックレコードの力というのは素晴らしいと思わないか?」
「たしかにすごいとは思いますけど……でも、そのせいでゼウス様に魔が差して世界が巻き込まれたというなら、素晴らしいとは言えないと思います」

 ティナの返答を受けたリッジは無言で駆けだした。
 再びリッジによる斬撃の応酬が始まる。先刻よりも慣れて来たのか、ティナは少しずつとはいえ相手の攻撃を捌けるようになっていた。とはいえ全てというわけにはいかず、いくつかは彼女の防御をくぐり抜けてしまう。
 すると不死鳥の「再生」という力を融合したティナ自身の身体が、受けた先からダメージを自動的に回復していった。
 攻撃の手を止めることなく、リッジはまたも冷酷な笑い声をあげる。

「ふはは! 素晴らしい、素晴らしいぞ! 本当に傷ついたそばから再生していくではないか!」
「…………」

 ティナは言葉での応答はしない。ていおうのつるぎで、一言一句を拒否するかのように鈍く光る銀の一閃を次々にはじき返していった。
 一連の動きの締めくくりと言わんばかりに、リッジは屈んで二本の剣を身体の内側に引き、最後の一歩を強く踏み込んでスキル名を告げる。

「『雷刃剣』」

 下から振り上げられた双剣と、それを受ける為に置くようにして縦に構えられた剣がぶつかり合う。その瞬間、そこから強烈な電撃が発生したかと思えばティナの身体が後方に舞った。
 「ふしちょうのつばさ」による「保護」、つまり防御力や魔法防御力を大いに上昇させる力がなければ一撃で沈んでいたかもしれないほどの衝撃に、ティナは戦慄しながら身体を起こして片膝をつく。
 そんな彼女の元に、精霊最強と謳われた男が静かに歩み寄りながら口を開いた。

「勇者よ。私はな、おやつが大好きなのだ」
「おやつが?」

 突然の不可解な言葉に、ティナは眉をひそめるしかない。

「おやつなら私も好きですけど……」
「貴様程度のおやつ愛と私のそれを一緒にするな」

 声音は怜悧かつ平静だが、そこには明確なおやつに対する情熱が垣間見えた。しかし次に、物憂げに目を伏せたリッジは静かに話を切り出す。

「あれは、私が幼少の頃だった……」
「えっ」

 どうしていきなり過去の話を、とは思ったがティナは素直に聞き入れておくことにした。たった今受けたダメージを回復する時間と、まほうのせいすいを飲んでMPを回復する時間を稼げると考えたからだ。
 それに、目の前の狂人の過去というものにも純粋に興味がある。

「私は弱かった。身体はまるでミニチョコスティックのように小さく細く、精神もゴーストをかたどったクッキーを見ただけで怯えるほどに脆弱だったのだ」
「ミニチョコスティック……」

 ティナはミニチョコスティックという未知のお菓子に惹かれた。天界には神々によって持ち込まれた別世界のお菓子などもあるのだが、これはその一種で下界にはないため、存在を知らなかったのである。
 ちなみに材料もチョコもフォークロアーには存在するので、作ろうと思えばすぐにでも可能だ。
 あとでミニチョコスティックがどんなお菓子なのか聞いてみようと思っている内にもリッジの独白は続いていく。

「そんな私の日々の楽しみは親から昼の三時に与えられるおやつだけだった。そう……おやつは今も、昔も私の中の全てだった」

 リッジはそこで一瞬だけ、空の遥か彼方を見上げて目を細める。だが、すぐにそれは怒りや悲しみといった苦悶の表情に打ち消された。

「そんなある日のことだ! 私は近所の子供に、楽しみにしていたおやつを全て力ずくで奪われてしまった!」
「そんな……」

 同情してしまったのか、ティナも悲しみに暮れた瞳でつぶやく。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

処理中です...