女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

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英雄たちの選択 後編 そして、世界の行く末は

違う未来があったなら

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 語尾を荒げたリッジは拳を強く握り、全身は過去の屈辱に震えている。

「忘れもしないあの雨の日……」

 何だか長くなりそうだな、と思ったティナはまず「ふしちょうのつばさ」を解除した。そしてこっそりと懐からまほうのせいすいを取り出してくいっと一気に流し込む。まだ戦闘が開始して間もないので一本だけでMPが元通りになった。
 なおもリッジの演説は続いていく。

「つまりこの世界は弱肉強食であり、安心しておやつを堪能したいと思うのならばとにかく強くなるしかないということを、私はその日に学んだのだ!!」
「なるほど。すごいですね……!」

 ティナとしてはちゃんと聞いているフリをしているつもりらしい。だがそんなやくそうを食べながらの雑な相槌も今のリッジには気にならないようで、過去話は変わらない調子で続いていく。

「……という風にして私は強くなり、いつでも好きな時に誰にも邪魔されることなくおやつを食べられるようになったというわけだ。しかし、私の苦難はこれだけでは終わらなかった」

 HPを回復してもまだ時間が余ってしまったティナは、とっておきの一時的にステータスをアップするアイテムを食べ始めた。植物の種のような見た目をしているが、一口サイズで食べやすく瑞々しい果実のような甘さに頬が緩む。
 そこでさすがに話を聞いていないことに気付いたリッジが、鋭く眼光を輝かせながら睨みつけた。

「おい、貴様聞いているのか?」
「ばっちり聞いてますっ!」
「ならいいが……まったく。それでどこまで話したのだったか……」

 せき払い一つして、リッジは話を再開する。

「何と私は強くなりすぎて、親がおやつをくれなくなってしまったのだ。そこまで強いのなら自分で買いなさいと。今すぐ精霊部隊にでも入隊しなさいと」
「お小遣いで買えばいいんじゃないんですか?」
「私の家庭にはお小遣い制度というものはなかった。だから親の言葉は言い換えれば『もう働いて自立しろ』ということでもある」
「それは何歳の時の話なんですか?」
「十歳だ」
「十歳……」

 返答を聞いて呆然とするティナ。リッジは立ち尽くしたままどこか遠い一点を見つめていた。

「親の言うことが間違っていたとは今でも思っていない。だが十歳にしておやつの為に働かなければならないという現実を突きつけられた私の気持ちは、正論で慰めきれるようなものではなかった」
「私がいればおやつを分けてあげられたのに……」
「ふん。安い同情などいらんわ」

 優しさを容易く跳ねのけてしまったリッジだが、その表情にはどこか先ほどよりも感情が見え隠れしているように思える。言葉と想いに相違があるということなのだろうか。
 もし幼少時代の彼の側に自分がいることが出来れば違う未来もあったのかもしれないと、ティナは考える。所詮たらればであり無意味な妄想であるものの、何となくその未来は今よりも楽しい気がした。

「精霊部隊は貴様らの兵隊とか軍隊といったものほど厳しくはないと話には聞いていたが、それでも怖かった。かといって精霊部隊の他に十歳の子供を雇うような店があろうはずもない。私は途方に暮れた」

 そこでリッジは顔を勢いよくあげると恍惚の表情を浮かべる。これまでが無表情だったこともあって、それはどこか不気味に映ってしまう。

「そんな折、私の目の前に現れたのがゼウス様だった。かの偉大なる最高神様は私にこう仰った。『おやつをやるからモンスターテイマーズに入らんか』と」
「それでほいほいついていったんですか?」

 問いを受け、リッジは真顔に戻ってティナの方を向いた。

「結果的についてはいったが、ほいほいではない。私も最初は、いくら神といえどもそう簡単におやつをくれるのだろうかと、疑いの眼差しを向けたのだ」

 おおよその話の流れは読めてしまうもののティナは沈黙によって先を促す。

「するとゼウス様は神聖魔法で次々におやつを生み出してくださった。ただの一介の少年にしか過ぎなかった私に、わざわざ神聖魔法を使ってくださったのだ……その時、私はこの人に一生ついていこうと決めた」

 いい話だとは思うけど、結局のところそれはほいほいついていってるんじゃ……とティナは思ったが、ゼウスというよりは己に心酔しきっているリッジの姿に恐怖を感じて口には出来なかった。

「そしてモンスターテイマーズに入隊して己の鍛錬とモンスターのテイムに心血を注いでいった。その際には当然下界に降りて人間を目の当たりにする機会もあったわけだが……そこで私は失望した」
「何に、ですか」
「人間の脆弱さに、だ」

 これまで笑っていいのか悪いのかよくわからないような微妙な空気に包まれていた場に、一瞬にして緊張が走る。リッジは無表情に戻り、ティナは眉根を寄せて彼を睨みつけた。

「精霊に比べれば基本的な身体能力が低く、スキルを取得しなければ魔法を武器に乗せることも出来ない。むしろこれまで絶滅しなかったことが奇跡と言うべきだ」
「…………」
「そんなに怖い顔で睨むな、勇者よ。話の肝はここではないのだからな」

 いずれにしろ自分たちを批判されて気分がいいはずもない。ティナの鋭い視線を受けながらも、リッジは何食わぬ態度で話を続ける。

「そんな人間の中にあって、精霊や天使、下手をすれば神すらも上回る力を持つものがいるだろう」
「…………?」

 何を言っているのかわからず口を噤むしかないティナを見据えたまま、リッジは解答を告げた。

「勇者よ、お前だ」
「えっ?」

 それまでの険しい表情から一転して、ティナは素直に驚いてみせた。目を見開き口をわずかに開けたまま固まる。しかし同時に魔王城でのソフィアの話も思い出していた。
 アカシックレコードというのは今のゼウスやソフィアよりも強大な力を持っていた、太古の神が残した遺産。それを破壊できる可能性があるのは「ゆうしゃのつるぎ」だけだと。
 つまりそれは、見方によってはアカシックレコードによってティナに付加された勇者の力が、精霊や天使、ひいては現存する神々すらも上回る力を持っていると言えなくもないということだ。
 ティナはぼそりと、その名前をつぶやいた。

「アカシック、レコード……」
「そうだ。あれは脆弱な人間をも神を超えた領域まで押し上げる至高の装置だと、そうは思わんか?」
「思いません。さっきも言いましたけど、そのせいでゼウス様に魔が差して世界が巻き込まれたんですから」
「ふん。貴様にはわからんか……」

 リッジはティナの反対側へと身体を向けたので、どんな表情をしているのかがわからなくなった。

「私にはな、理解が出来んのだ。ゼウス様はこの世界の生命というのはいずれも無限の可能性を秘めていると仰っていた。しかし人間やモンスターというのは明らかに精霊よりも弱いではないか」
「…………」
「恐らく貴様は至高の力を使ってもなお私には勝つことが出来んだろう。基本的な能力の高い精霊ならともかく、人間やモンスターのどこに可能性の入り込む余地があるのか、私はそれが知りたい」

 そこでリッジは再び振り向き、ティナに視線を寄越した。終始変わらない冷たい双眸が彼女を射抜く。
 数分話を聞いた程度だが、リッジという男は恐らく己の欲望に忠実な精霊なのだろう、とティナは思う。人間やモンスターを見下しているというよりは、自分の知識や経験と照らし合わせれば純粋にそうとしか思えないといった感じだ。
 だから彼の言葉に他意や皮肉は込められておらず、一見して悪意のありそうな言葉の裏にも、子供のような期待や知的好奇心が見え隠れしているように思う。
 リッジはただ単純に知りたいだけなのかもしれない。ゼウスやソフィアが自分たちと同等に並べる存在たるその理由を。

「勇者よ、どんな手段を使ってでもいい。私に勝ち、貴様らの可能性というものを示してみせろ」
「それを示すことで私に何が得られるんですか?」
「おやつだ。そうだな、私が食べる分も残さねばならないから……一週間分ほどやろう。飲み物もつける」
「やります」

 意外にあっさりと難題を受けて立ったティナは立ち上がり、再びていおうのつるぎを構えて戦闘態勢に入る。
 リッジも双剣を構えてゆらりと一歩を踏みながら、ティナに尋ねた。

「勇者よ、貴様クッキーは好きか?」
「チョコの散りばめられたやつは大好きですね」
「そうか。もし違う出会い方をしていれば、親友になれていたかもしれんな……」

 ティナはその独白に答えない。ただ相手を見据え、静かにその時を待っていた。そして。

「いくぞ!」

 リッジの合図と共に戦闘が再開された。
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