奴隷を買うぞ・・異世界煩悩記

切粉立方体

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67 助っ人7

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 他の洞窟からの協力が得られるようになり、土手の造成速度が加速した。
 技術力に優れた洞窟や大きな鉱山を持つ洞窟が多かったので、戦車の増産が可能になり、作戦に投入できる人員が増加したのだ。
 戦車を魚のテリトリーの境界近辺に配置して、洞窟の入り口の周辺を魚の来ない場所に出来たのも大きかった。
 精錬所が作られ、洞窟の中から運び出せない大型の構造物の作成が可能になったのだ。

 土手の上にレールを敷き、その上を戦艦と呼んだ方が良いような巨大な戦車が走る様になった。
 土手幅を広げて複線化し、小型の戦車が洞窟の入り口との間で資材や食糧や水の運搬を担う様な体制にして、大型戦車が前線での土手構築に専念できる様にした。

 当初前線基地を設営してと考えていたのだが、戦車自体が前線基地どころか動く町になり、大型戦車の脇で、商人達が持ち込んで来た公衆浴場車両や酒場車両も営業している。
 僕も指揮官室が与えられ、アメジスタとマリアス親子と指揮官室のベットで楽しい夜を過ごしている。
 うん、女王の名前がアメジスタだ。

 戦車の規模が大きく、筒も数多く設置してあるので、魚の群れが襲って来ても、十分程で倒せてしまう。
 加工場のおばちゃん達は暇を持て余して調理に情熱を燃やしてくれるので、毎日美味しい魚料理を振舞って貰えている。
 兵士達は逆に忙しくなった。
 ほぼ一日中働く体制になったので、四グループに分けて、三交代制で土手作りの作業に当らせている。

 たぶんどの国も国力の多くを割いてこの作戦に協力してくれているのだろう、他の洞窟の王や女王や指導者が、頻繁に視察しに訪れるようになり、戦車の大きさや働く兵士の数の多さに圧倒されて、安心した顔で帰って行く。
 
 そして、作戦がスタートしてから半年、異世界の穴が見えて来た。
 直径が大凡二百メートル、地上から二十メールくらいの高さに虹色に輝く穴がぽっかりと開いていた。
 そしてその穴を守っている主、巨大なウツボの様な魚が穴の下で丸くなっていた。
 頭の高さが百五十メートルくらい、身体の厚さが三十メートルくらい、身体の長さは一キロ以上あると思う。

 この巨大魚のテリトリーなのか、穴の周囲五キロには他の魚の姿はない。
 穴から湧いて出る魚も、急いで穴から遠ざかって行く。
 人がこの圏内に入っても、巨大魚はピクリとも反応しないのだが、戦車をこの圏内に侵入させると、ムクリと起き上って威嚇してくる。

 線路を巨大魚テリトリー内まで伸ばし、巨大戦車の張りぼてを作って突入させてみる。
 すると物凄い勢いで頭から突っ込んで来て、張りぼてを瞬時に粉砕してしまった。
 侵入してから襲われるまでが二十秒前後、戦闘機並みのスピードだ。
 戦闘機並みのスピーデで飛び回る、長さ一キロの化物と僕は戦わなければならないのだ。
 剣と甲冑を与えられ、万歳三唱で洞窟から送り出された昔の勇者達は、本当に気の毒だったと思う。

 何回か張りぼてを突入させて観察した後、作戦会議を開いた。

「勇者殿の必殺技で」
「そんな物ありません」
「それでは、ここは気合と根性で一丸となって、我々が人類の為に一命をなげうつ覚悟で」
「馬鹿な事言ってるんじゃないわよ、だからあんたは魚を捌くのが上達しないのよ」
「今日も一匹切り損ねたでしょ、誤魔化せたと思ったでしょうけど、ちゃんと解るのよ」
「あんたは思考力と集中力が足りないの、魚を捌くのは、刃を入れる場所をちゃんと押さえて、刃を丁寧に引くだけよ。気合も根性も覚悟も関係なし」

 青虎隊長が加工場のおばちゃん連中に怒られている。
 まあ、気合と根性じゃ倒せないので当然と言えば当然だ。

「魚に弱点とかありますか」
「脳天でしょうね。筒から顔を出したところで脳天をガツンと殴る、これが基本よね。あいつら、キュウと言って気絶するわよ」
「後はね、釘を目の少し上に打ち込んで俎板に貼り付けてやると、身体が痺れて動けなくなるみたいよ」
「鉈の刃を入れる場所は、鱗が少し浮いてるわね」
「うーんそれくらいかね。あんまり役に立てなくて御免ね」
「いえいえ、物凄く参考になりました。やっぱり筒が基本ですかね」

 作戦が決まった、基本は極めてシンプルで、筒に頭を突っ込ませて脳天を叩くというプランだった。
 洞窟の大広場で貴族院会議を開いてもらい、一般民衆も傍聴可能な様に取り計らって貰った。
 他の洞窟からも大勢人が聞きに来て、洞窟の一階から三階は人でびっしり埋まっている状態だった。
 
 漠然とした異世界の穴を塞ぐという話が、具体的な主の討伐の方法の説明となり、人々にも現実味を感じられるようになったらしい。
 上の方の洞窟から来た人達は、水不足が切迫した状態になっているようで、必死の形相で僕の説明を聞いていた。

「それで勇者殿、何時頃穴が塞がれるのですか」
「筒とハンマーが完成しだい、主の討伐に向かえます」
「それでしたら、我が国は全鍛冶職人を派遣してご協力いたします。地上に住めるのは何時ぐらいになりますでしょうか」
「霊避けの甲冑の技術と地上に住む普通の魚の討伐方法は確立しました。穴を塞いだ後、地上に雨が降り始めれば移住可能になると思います」

 直径百五十メートル、長さ三百メートルの筒と長さ百メートルのハンマーの作成は急ピッチに進み、一月後には完成した。
 戦艦の様な大型戦車の背にハンマーを乗せ、ばね仕掛けでハンマーを打ち下ろせる発射台の様な装置も設置した。
 筒は台車に乗せて戦車の前を走らせる。

 巨大魚のテリトリー前で一旦停止し、筒を乗せた台車の両脇に一万の兵を乗せて、振り落されないように身体を台車に固定させる。

「始めるぞ。突撃」

 戦車に乗った一万の兵が戦車を動かして、筒が乗った台車を巨大魚のテリトリー内に押し出して行く。
 
「上がれ!」

 巨大魚が起き上がると同時に、戦車を中で押していた兵士達を上の段に避難させる。
 一、二、三・・・二十、”ドーン”
 物凄い衝撃音が筒の出口で響き、巨大魚が筒の中に猛然と突っ込んで来た。
 筒と戦車が物凄い勢いで巨大魚に押されて後退を始める。

 戦車と筒が物凄い勢いで魚と一緒に後ろへ下がっているので、余裕を持って筒から顔を出す魚を待ち受ける。
 
「発射」

 巻き上げ機で溜めてあったバネの力を解放し、長さ百メートルのハンマーが魚の脳天に打ち下ろされた。

”キュー”

”ザザザザザー”

 変な声を上げて巨大魚が気絶する。
 尾が地面に擦れて、物凄い勢いで筒と戦車にブレーキが掛る。

「降りろ!」

 巨大魚が気絶している間に動きを封じる、ここがこの作戦の最大の山場だ、これに失敗したら激怒した魚に皆殺しにされる。

 台車に乗っていた兵士達は急いで飛び降り、半数がワイヤーで筒を地面に固定し、残る半数がワイヤの束を抱えて魚の尾の方へ走り、魚の身体の上にワイヤーを張って、魚の身体を直接地面に張り付ける。
 筒の固定が終わった兵士達は筒に駆け上り、大木槌でパイプの繋ぎ目を深く打ち込んで、筒で魚を締め付けて行く。

 戦車に乗っていた兵士達は、ハンマーにロープを結び、ハンマーを再び戦車の上に引き戻す。
 巨大な鉄杭を担いだ数人の兵士達が魚の頭に駆け上り、おばちゃん達の指示に従って、魚の顔の上に杭を立てる。
 
「よし、発射」

 巨大ハンマーが撃ち込まれ、杭が魚の頭に食い込んで行く。

”ミシ、ミシ”

 魚は気が付いたようだが、ワイヤーと筒が何とか動きを封じてくれている。
 再度ハンマーを戦車の上に引き戻して杭を打ち込んで行く。
 四回程繰り返すと、杭は根元まで食い込み、魚が動きを停めた。

 魚の首を落す仕事は戦車に乗っていた兵士達に任せて、僕はアメジスタとマリアスを両脇に抱えて異世界の穴に向かって走った。
 思った以上に戦車が後ろに押されており、穴までは十五キロ程の距離がある。
 巨大魚の不在に感づいた魚がテリトリーに侵入してくる前に、穴は塞いでおきたい。
 線路の上を戦車が走れれば早いのだが、巨大魚の尾で線路は削り取られている。
 
 役割として割り振ったあった兵士達二千人が、僕と同様に魔法師を担いで穴に向かって走っている。
 避難所替わりに小型戦車の運搬を頼んでおいたが、これはあまり当てにできない様だ。

「迷いし狭間よ正しきを知れ。迷いし狭間よ正しきに戻れ。歪みを伸ばし、正しき間を知れ、歪みを縮めて正しき間に戻れ。邪の力よ消えよ、聖なる力よ宿れ。メシラクルスル、カーサカンテ。ケレスルク、メサ!」

 魔法師二千人が異世界の穴の下に二重の輪を作って呪文を唱える。
 穴の縁が抗う様に波打って伸縮を繰り返し、地上を覆っていた重たく澱んだ大気が、霊と一緒に穴へ吸い込まれて行く。
 四時間程で穴は半分の大きさになり、更に四時間程で拳大の大きさにになり、最後は薄いガラスの板を叩いた様な澄んだ音がして穴が消えた。

 喜んでいる暇は無かった。
 精根尽き果てているアメジスタとマリアスを肩に担いで、僕達は必死に戦車へ向かって走り出した。
 全員が無事、荒い息を吐きながら大型戦車に辿り着く。
 アメジスタとマリアスを床に下してやると、二人はやっと穴を塞いだ実感が湧いてきたらしく、抱き合って泣き始めた。
 
 指揮室へ登って行くと、ちょうど次の魚の群れが現れたらしく、おばちゃん達が手早く捌いていた。

 十数分で魚がいなくなった後、外の様子を見に行って見た。
 霊はすっかり消えてしまい、甲冑を脱ぎ捨てた兵士達が後片付けをしていた。
 巨大魚の処理も終わっており、杭が撃ち込まれた頭と骨だけが筒の中に残されている。

 突然物凄い雨が急に降り始め、兵士達は初めて見る雨を唖然とした顔で見上げている。
 人が地上に戻れるのは、思っていたよりも早くなりそうだ。
 
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