時の宝珠

切粉立方体

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3 時の宝珠

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 翌朝の夜明け前、目覚めた少女と火の番を交代し、少年は数刻熟睡する。
 その後、陽の少し高くなった中を二人で周囲を散策する。        
 昨日の狼の心配が有るので地上には下りない。
 蔦を伝って上に登り、幹の折れている箇所へと向かう。

 かなり高い場所で折れており、幹が裂けて焼け焦げている。
 落雷による倒木と思われ、倒れた幹の先は地上には至らず、数本先の巨木の枝に引っ掛かって止まっている。
 折れた幹の裂け目に水が溜まっており、飲むと冷えていて心地よい。
 折れた幹の先端に腰掛けて、水を飲みながら周りを見回す。
 周囲は巨木が延々と続いており、下生えの紅葉した藪蔦の中に白い木肌が映え、鮮やかな光景が広がっており、所々に紅葉した大蔦を纏った黒杉も混じり彩を添えている。
 木の間から北方に一面雪を被った険しい山脈が見渡せ、西方、東方にも雪を被り始めた小高い山が彼方に見える。 
 西方の風に乗って微かな瀑布も聞こえて来る。
 南方は森が広がっており、なだらかな尾根が下っている。

「南西に向かって進んで沢に出たら沢沿いを下流に進む。近くに集落くらいは有るじゃろう」
「時間は少なそうじゃな。雪まで二月弱か。山で十月の終わりに雪が降り始める。さほど北では無さそうじゃな」
「山の天気は難しいからの、油断せずに行動範囲を広げるとするか」

 倒れた幹の上を移動し食糧を探す。
 山鳥が食べ残した山ブドウ二房、巨木の間に弱々しく生えた広葉樹の木の実は少年がバンダナに包み、腰に巻く。 
 小型の貂が3匹、リスが2匹、鏃を無くさないような場所に限って狩ったので獲物は少ない。
 陽が落ちる前に洞へ帰り、少年が獲物を捌き少女が枯れ枝を集める。
 蔦を使って籠を編みながら、食事をする。
 火の中で木の実が爆ぜる音を聞きながら黙々と単純な作業を繰り返す。
 食事後は昨日と同様に裸になってのダニの確認。
 今夜は火の番の順番を決め一人ずつ寝る。
 人里に出る時のため、少年はカム、少女はサラと名乗ることにした。
 どの地方でも例外無く多い普通の名前である。
 異性と二人で過ごす生活は二人とも初めての経験であった。

 翌々日には木の上の獲物が無くなる。
 移動可能な木は3本、小動物達は二人の姿を見ると逃げるようになる。
 午前中に見切りを付け、サラが木の上から周囲を見張り、カムが地上での狩を行うことになった。
 蔦を背負って木々を移動し、蔦を使ってカムが地上に降りる。
 サラが周囲を見張り、カムがサラの合図に従って待ち伏せる。

 周囲の狼の注意を怠らなければ、地上の獲物は樹上よりも大きく、二日に一回の戦果でも二人の飢えを満たすのに十二分な肉が得られて、樹上よりも効率が良いことが解った。
 しかも、数日経つとただ邪魔だった下生えの藪も、薬草や茸の宝庫と解る。
 薬草の知識が豊富な二人は、皮鞣しに使える草や虫除け草、腫れ止め、痒み止めの薬草も捜し出す。
 ダニは相変わらず多く、ダニ取りと狩での連携により、互いへの信頼は深くなって行く。

 雨が降った。
 霙の混じりそうな冷たい雨が夜明けから続いている。
 この数日で集めた木の実が豊富に有り、薫製にした肉も煙の通り道にぶら下げてある。
 枯れ枝も十分集めてあり、三日位は外に出ないで過ごせる。

 何の心配も無く、二人は火の前に坐って過ごしている。
 二人の間には昨日運び入れた倒木が置かれており、倒木を挟んで向かい合っている。
 狩った獲物の皮がそれなりに溜まっている。
 寒さが厳しくなり、裸同然で過ごすことが難しくなっていた。
 外に出られないことが丁度良い機会となり、二人で服を作ってみることとなった。
 カムが鏃で穴を開け、サラが皮紐で毛皮を結んで行く。
 鞣して干し上がった毛皮はまだ固いため、倒木の上に乗せて石で叩きながら作業を行う。
 小さな獲物が多かったため作業はなかなか捗らない。
 作業に集中しながらも、二人は取り留めのない話を交わす。
 話が時の宝珠に及んで行き、二人は互いに言い出しかねていた話を紡いで行く。

「あれは恐ろしかった」
「ああ、恐ろしかった。あの隙間に逃げなければ飲み込まれていた」

 二人が見たのは白い石碑の様な四角い壁、壁の脇から無数の金属の触手が出ていて、もの凄い速さで青い光の奔流を摘まんで壁に捻じ込んでいた。
 壁は堅い石の様にも、柔らかい牛乳で作ったゼリーの様にも見え、壁の背後には何も無い闇が広がっていた。
 青い光に飲み込まれた時に痛みも息苦しさも感じ無かった。
 ただ呼吸の出来る水に流される感じで、ただ無感覚に身体が溶けて行くのが感じられた。
 本能的に流されまいと手掛かりを捜し、偶然に互いの身を引き寄せ合っていた。
 極限でも互いの温もりや感触が現実を確認する支えとなり互いの心を励ました。

 目の前の空間に引き込まれて流れて行く天使の遺骸が目に入った。
 髪の毛の幅程の小さな隙間が大天使の遺骸と元の世界との境目に生じていた。
 残った魔力全てを注いで境目を抉じ開け、身体をこじ入れた。
 その瞬間、最後に見たのは追ってくる触手と白い壁に現れた大きな目であった。

「ああ、大部身体を持って行かれたがな」
「ああ、大分溶かされた。伝承を調べた時は単なる触媒と思っていた。冗談じゃない。あれは大掛かりな異次元に仕掛けたエネルギーの吸引装置じゃよ。一定以上のエネルギーが発動条件になっておる魔道兵器じゃろ。多分古代魔道戦争の遺物じゃ」
「古代人は恐ろしい物を作るの」
「エリスの書には時の魔法を発動させると書いておったが、大嘘じゃ。エネルギーを吸い取る宝珠自身の本体が、時の狭間に居座っておるだけじゃ」
「ま、結果的に我らは若返ったがの」
「本当に若返ったのかの、単に溶かされて吸い取られる感触しかなかったがの」
「でも、肌は艶々じゃ、これは子供の肌に違いない」
「傷の治りも早いしな。吸い取られたは我らが時かの。無に戻らなくて良かったの」
「なるほどの。我らは時を吸い取られたじゃな、時の宝珠の名も偽りと言い切れんかの。ただ、魔力もごっそり持って行かれたのは誤算じゃがな」
「ああ、誤算じゃった。それと、これは儂の思い過ごしかも知れんが、あの装置自体が生きてる様な気がする」
「ああ、お主もか、我らを逃して悔しがって睨んでいた様な気がする」
「なんだ、ぬしもそう感じたか」
「生き物として拵えたとすると増々恐ろしい魔道よの」

しばらく会話が途絶え、それぞれのその時の光景を思い浮かべる。

 作業が進み毛皮が身体に巻ける程度の大きさになる。
 早速にサラが巻いて見せ、胸の前で革紐を結ぶ。
 毛が内側である。

「ほー、これは暖かい。なんか嬉しくなるの」

 サラが歓声を上げる。
 カムも早速に身体に巻いてみる。

「おー、これは暖かい。確かに嬉しい」
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