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43 太陽神殿の祭り
しおりを挟むバタバタと毎日走り回っていたら、来週はもう盛夏月の第一週だ。
太陽が天頂を渡り、オーラ様が全ての生きとし生ける物を成長させる月と言われている。
太陽の神殿では、オーラ様の恵みに感謝して、月初めに祭りが催される。
オーラ様は王家の守護神だ。
祭りには王家も聖都へ来て出席し、神官と一緒に女神様にお祈りを捧げる。
祭りが終わると、王家は他の二神殿にも詣で、そのまま避暑を兼ねて聖都に一月滞在する。
軍人や官僚、貴族とその家来もぞろぞろと金魚の糞のように王様に付いてくるので、貴族の別邸が賑やかになる季節でもある。
王様とその家族にとっての別邸は離宮だ。
普段はガランとしている離宮も、この時期には役人たちが忙しそうに行き交い、賑やかになる。
先生は、人付き合いが嫌いな偏屈爺だ。
日々不機嫌となり、そして離宮へ帰らなくなった。
うん、それだけだったら、僕に関係の無い話なのだが、何故か先生は僕の寮へやってきて、空いてる部屋に住み着いてしまった。
「うむ、ここの飯は離宮より旨いな」
偏屈爺さんでも、先生は一応王弟だ。
寮の管理人さんも女子寮の住民も神経を使う。
僕を批判がましく見られても、僕も同じ被害者だ。
普段遠く離れて住んでいる王弟様が近くにいるので、連絡を取ろうと離宮や貴族の別邸から使いがぞろぞろとやって来る。
用件を直接先生へ伝えようとした最初の三人の使者は、瞬時に先生が殴り倒した。
それ伝え聞いた使者達は、僕とキーケルさんに縋って用件を伝えて来る。
放置すると使者がどんどん溜まってしまうので、仕方が無いので、僕達が間接的に先生へ伝える。
「先生、離宮で王様がお呼びですが」
「放っておけ」
「・・・」
使者さんが泣きそうな顔をしている。
「先生、宰相様から伝言が来ております」
「キーケル、お前が代わりに読んで対処しろ」
「えっ、・・・」
使者がキーケルさんに手紙を預けると、嬉しそうに帰っていった。
「先生、魔術師長様と魔技長様が、こちらを訪問したいそうですが」
「忙しいから、来るなと言っておけ」
「うっ、・・・」
使者さんが泣いている。
「先生、儀典長様が祭りの打ち合わせをしたいそうです」
「ユーリ、お前が行け」
「へっ、・・・」
使者さんが、僕の腕をがっしりと掴んで歩き出した。
離宮の大会議室へ連れて行かれた。
部屋に入ると、既に五十人程が着座しており、じろりと睨まれた。
一番上の席に座っている偉そうな神官服を来た爺様と学者風の爺様が、迷惑顔で僕を見ている。
そんな顔をされても困る、文句は先生に言って欲しい。
先生の席なのだろう、その爺さん達の横の席だけが空いていた。
使者が僕をその席へ引っ張って行き、そこに座らされた。
ざわついていた部屋が静まり返った。
「なんじゃそいつは」
「ラクラス様の代理の方です」
「・・・・、うむ、仕方がなかろう。これで全員が揃った、これより、式典の手順について説明する」
僕は必死に手順を暗記し、戻ってから先生に説明しようとした。
「説明はいらん」
「えっ」
「お前が式典に出ろ」
「えー!」
「先生、宰相様に指示を仰いで参りました」
「説明はいらん、キーケル、お前がなんとかしろ」
「・・・・・」
先生は、寮に籠って酒を飲んでいたいらしい。
ーーーーー
ミロは、僕の部屋の風呂とベットがすっかり気に入ってしまった。
毎晩ミロの部屋へ迎えに行き、ミロが朝まで僕の部屋で過ごすパターンが続いたが、面倒くさいので、空間の魔道具をもう一つむこうで買い求め、魔道具の座標を固定してミロの部屋の洋服箪笥と僕の部屋の洋服箪笥を繋げた。
洋服箪笥が背中合わせになっている感じで、僕の部屋の洋服箪笥の扉をあけると、僕の服の向こうにミロの服が下がっており、その奥にミロの部屋の洋服箪笥の扉が見える。
境を白布で覆っておけば、たぶん覗かれても大丈夫だろう。
ミロは完全に僕の部屋もミロの部屋の一部と考えているようで、今も下着姿で床に転がって寛いでいる。
細い胸帯一枚、小さなパンツ一枚という嬉しい格好だ。
踊り子の衣装も似たような物だし、風呂で裸も見ているのだが、下着だと思うとついつい目が行ってしまう。
そんな僕の視線も気にせず、ミロは活字に飢えているようで、何が面白いのか、僕の教科書を一生懸命読んでいる。
「ユーリ、先生が酒を・・・・」
男子寮はずっと僕が一人で住んでいたので、鍵を掛ける必要が無かった。
それが油断だった。
キーケルさんがノックもしないで、突然に部屋に入って来たのだ。
ミロを見て固まっている。
「キーケルさん」
「あっ、すまん。先生に酒を買って来いと命じられた。売ってる場所はお前に聞けと言われたんだが」
「それなら、俺が買って来ますよ」
聖都で酒を扱っているのは、流民街だけだ。
箪笥経由でミロの店へ行って、少し酒を分けて貰おう。
キーケルさんが僕を手招きしたので近づくと、小声で囁かれた。
「ユーリ、流民街から女を連れてくるのは構わないが、子供は不味いぞ。お前はもう成人年齢なんだから、神殿兵に捕まって、懺悔室送りになるぞ」
「・・・一緒に風呂へ入るくらいで、まだ清い交際ですよ」
「・・・一緒に風呂へ入るのは、清い交際とは言わん。完全にアウトだ」
「・・・どうしましょう」
「お前のこれか」
キーケルさんが小指を立てて見せた。
「ええ、一応」
「それなら、従者枠で同居申請しておけば、孕ませても大丈夫だぞ」
「えっ」
「婚約者と同居してる奴は多いぞ。子連れで卒業なんて奴もいるぞ」
「・・・」
「相手の親が、娘を学院へ送り込んで来るんだよ。だから、相手が子供でも、神殿は遠慮して黙認してくれる」
「はい、捕まりたくないんで、検討します」
「それじゃ酒の手配は頼んだぞ」
魔道具がばれるかと思ったが大丈夫だった。
キーケルさんは、例のジョッキを十個置いて、部屋から出て行った。
ーーーーー
盛夏月の第一月曜日、太陽神殿の祭典が始まった。
太陽が天頂に達すると、西参道の吹奏楽隊のラッパの音が響き渡る。
左右から吹奏楽隊に挟まれる形で、太陽神殿の金の神官服を着た王族達が一列に並び、楽の音に併せて参道を登り始める。
先頭をあの助平爺の王様が歩き、その後ろを疲れた顔の、中年の第一王子が続く。
王位継承権順に並んでいるようで、先生の代理の僕は、第八王子の後ろ、正確には第八王子を抱いた乳母の後ろだ。
あの助平爺は、まだ現役で致しているらしい。
僕の後ろには、にこやかな顔をしたお婆ちゃんが歩いている。
この人が王妃様らしい。
「ねえあなた、ラクラス様はお元気。お会いするのを楽しみにしていたのに、逃げ出してしまうんですもの」
「先生は、僕の寮で元気に酒飲んでます。暴力爺で困ってます」
「ねえ、良い人とかいないの」
「酒と刻陣が恋人です」
「ほっ、ほっ、ほっ、昔から変わらないわね。私もあなたの寮へ行って、ラクラス様と一緒に住もうかしら」
「・・・・」
「母さん、国が乱れるから止めて頂戴」
何か、王家も複雑らしい。
白摩石で作られて太陽門を潜って太陽神殿の境内に入った時だった。
境内で王族を迎えるために並んでいた神官達の一画から悲鳴が上がった。
悲鳴が上がった方を見ると、一人の神官が蹲っており、その背中から邪蟲が這い出て来ているところだった。
神殿兵と近衛兵が邪蟲に槍を突き立てるが、半透明の邪蟲身体をすり抜けてしまう。
楽隊員が我先にと逃げ出し、王族達がパニックになっている。
太陽が眩しい、僕は自分の影を手繰って邪蟲の足元へと伸ばし、影で聖の上級魔法陣を作りあげた。
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