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45 太陽神殿の祭り その3
しおりを挟む「ユーリ、お前が行け」
次の日の式典も、先生の代理で出席した。
僕に選択肢も拒否権もなかった。
今日は王族がオーラ様に魔法を奉納する日で、王族が王や貴族に己の優秀さを誇示する場でもあるそうで、傍系の王族にとっては、一年に一度の晴れ舞台だそうだ。
先生が魔法を使っているところを一度も見たことはないが、先生は風魔法の属性を持っており、魔法師としても優秀らしい。
ただ先生は、己を誇示することに何の興味も持っていないので、一度も参加したことが無いそうだ。
奉納は神殿の礼拝堂で行われる。
希望者が一人づつ祭壇へ登り、礼拝堂で見守る王族や貴族の前で魔法を披露する。
王位継承権上位者は、この場で力を示すことを求められているようで、最初に第一王子、そして成人年齢に達している第六王子までが順次魔法を披露した。
呪文を唱える声は朗々と礼拝堂に響き渡るのだが、魔法自体はショボかった。
三人が聖魔法、残りは火魔法、水魔法、土魔法だった。
聖魔法は光るだけ、火魔法は火の玉が出るだけなので問題ないのだが、水魔法でずぶ濡れになった祭壇を清掃員が拭きに上がったりとか、土魔法で飛び出したり敷石を石工が直しに来たりとか、裏方が忙しい展開だった。
王子達の披露が終わると、次は王女の出番なのだが、マロネーゼさん以外は、まだこまかい幼女がぞろぞろ居るだけで、出番はマロネーゼさんだけだった。
たぶん、マロネーゼさん以外の年頃の王女さまは、全て売れてしまったのだろうか。
王子達よりも強い光を放つ聖魔法を披露して、マロネーゼさんが鼻の穴を広げて祭壇から降りて来た。
王女の次は、傍流の王族達の出番となる。
緊張で魔法が発動しないのはまだ可愛い方で、全然魔法の制御が出来ていないくせに規模の大きな魔法をぶっ放すので、火の玉や氷塊、雷撃や石礫が礼拝堂で見ている王族や貴族へ飛んでくる。
自分の身内の席も含んだ広範囲へ飛んで行くので、ライバルの排除と言う訳では無さそうだ。
常に身構えていないと、何が飛んでくるか判らないので、なかなかスリリングだった。
でも一番危ないのは魔法を唱える本人かもしれない。
皆、魔法を一発唱えると泡を吹きながら昏倒し、祭壇の上から神官達によって担ぎ出されている。
倒れて後頭部や顔面を強打している人なんかも居て、なんか命懸けだ。
僕は物凄くビビったが、神官達は慣れているようで、段取り良く淡々と捌いていた。
最後の一人が終わり、やっと妙な緊張感から解放された、やれやれだ。
「マロネーゼ様の隣に座っている小僧、貴様も魔法を披露して見せろ。魔法が使えぬのなら、そこに座る資格はない。とっと失せろ」
マロネーゼさんは僕に引っ付いて座っている。
マロネーゼさんに近い年齢の男だったので、多分嫉妬だろう。
資格が無くなるのなら大歓迎なので、黙殺しようとした。
だが、王子達も僕を邪魔と思っていたようで、わらわらと寄って来て、祭壇の上に押し上げられてしまった。
魔法は、骨に貯まった魔力を頭蓋骨に集め、頭蓋骨で魔力を共鳴させる。
この共鳴を引き起こす方法が音声による呪文の朗詠だ。
ファラ師匠は音声法と呼んで、魔法陣による魔法と区別していた。
僕は半亡者なので魔力が無い。
だから、頭蓋骨を共鳴させる音声法は使えない。
両手を合わせ、掌を上に向ける。
オーラを操作し、その掌の上にオーラの小さな玉を作る。
もちろんオーラの玉は目に見えないので、見た目は普通に魔法を使っているように見える。
玉に向かって呪文を唱えれば、頭蓋骨の中の魔力の代わりに、オーラの中の魔素が玉の中で共鳴する。
ファラ師匠から教わった、疑似的な音声による魔法発動法だ。
大きな魔法の発動は難しいが、正確な球体を作れば、精密な魔法のコントロールが可能になる。
オーラで正確な球体を維持するには、物凄い集中力が必要だ。
オーラの球体の維持だけでも大変なのに、これに呪文を加えるのは結構難しい。
しかも、魔法陣にオーラで魔素を注ぐ方が、少ない量で大きな結果が得られる。
だから、影で魔法陣を描いた方が効率的なのでこの方法はあまり役に立たない。
なので僕は、練習を兼ねた趣味として、魔符を使わない夜の洗濯方法として活用している。
細かいコントロールが必要な洗濯は、この方法と相性が良い。
オーラ様の彫像が火魔法の直撃を何度も受け、すっかり煤けてしまっている。
彫像を洗ってあげることにした。
風魔法を唱えて小さな旋風を作り、水魔法の詠唱も間に混ぜて旋風の中に少し水を入れ、彫像の表面を移動させてオーラ様の汚れを落として行く。
風と水の詠唱を重ねると、見えない鳥が空に大きく翼を広げて舞っているような、凄く美しい響きに包まれる。
僕が洗濯にこの役に立たない魔法を使っているのも、この響きが好きだからだ。
丁度、リュトルを弾きながら歌う感覚と似ている。
ついでに祭壇の敷石も磨いておいた。
ぴかぴかにするのは、何か気持ちが良い。
火魔法を追加し、水を飛ばして汚れを燃やす。
微かな灰は、旋風と一緒に礼拝堂の窓から外へ飛ばす。
火魔法の詠唱が加わると、少し響きが濁るので、僕はあまり好きじゃない。
一仕事終えてほっとしたら、礼拝堂が静まり返っていた。
魔法と言うより芸に近い小さな魔法なので、多分呆れたのだろう。
小さく頭を下げてから、祭壇を降りた。
席に戻ると、王妃様とマロネーゼさんが口を半開きにして僕を見ている。
相当呆れているようだ、このまま解放して貰えるとありがたい。
「ねえあなた、今何をしたの」
怒っているのだろうか、王妃様の目付きが怖い。
「オーラ様が汚れていたんで、綺麗にしてあげようと思って」
「どうやって」
「・・・、こうやって小さな旋風作って、中に水を入れてゴシゴシと。あっ、汚れは燃やしたから大丈夫ですよ」
「風魔法と水魔法と火魔法を使ったの」
「ええそうですけど。あははは、場違いで小さな庶民魔法ですよね」
「・・・・・・、後でお話を聞かせて頂戴」
ーーーーー
神殿長がしどろもどろに式の終わりを告げると、神殿の応接室に連行された。
マロネーゼさんが目をギラギラさせている。
「本当に、風魔法と水魔法と火魔法を使ったの」
「はい」
「さすが、私の旦那様だわ」
「マロネーゼ、ちょっと黙っていて頂戴」
「はい」
「それじゃ、ゆっくりと再現して頂戴」
「はい」
オーラの玉を掌の上に作り、風魔法の呪文を唱える。
声で風の方向をコントロールして旋風を作る。
ハンカチを中に入れ、旋風がはっきり見える様にする。
水魔法の呪文を重ねて旋風に水を注ぎ込む。
「ちょっと、止めて」
急いで火魔法の呪文も重ねて水を飛ばす。
水が完全に無くなったことを確認してから旋風を止める。
「今のは並行詠唱かしら」
「はい、そうですけど」
王妃様がこめかみを抑えている。
「ええと・・・、そうね、普通・・、そう普通は使える魔法の属性は一種類なのよ。知っていた」
「人によって属性魔法が違うのは知ってます。でも得意、不得意の話かと思ってました」
「いいえ、極まれに二種類使える人もいるけど、普通は一種類よ。三種類なんて御伽噺の世界だわ」
・・・・、試して無いけど、たぶん全部使えます。
「それと並行詠唱、良く知られている言葉よ。マロネーゼも聞いたことはあるでしょ」
「・・・・はい、母さん。賢者様の伝説の中で」
うー、困ったことになった予感がする。
「それともう一つ、重要な事なので正直に答えなさい。魔法を使う時、何故魔力が掌に集まっていたの、普通は頭に魔力が集まる筈よ」
このお婆ちゃんには隠し事が出来ないらしい。
取り合えずオーラを使っていることを説明した。
「魔法は頭蓋骨を使った共鳴なのね。聞いた事が無い説だけど、私が見ている魔力の流れと一致しているわ。ええ、私は魔力が見えるの、いいえ、貴方の説明だと魔素だったかしら。ちょうど今は、右下から左上の方向に流れているわ。貴方だけ、骨じゃなくて身体が光っているから不思議に思っていたのよ」
「母さん、それって凄い事なの」
「頭蓋骨の形で魔法が制限されているのなら、真球を作り出せる能力なら制限が無くなるわ。全ての魔法が使えて万能よ。それに、真球ならば、同じ場所に魔法が収束するから、呪文の合成が可能なのかしらね」
「良く判らないけど、旦那様は凄いのね」
「ええ、凄いわよ。マロネーゼ、今日から一緒に住みなさい」
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