猫と一緒に

切粉立方体

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6 夢

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 草原の中を歩いている夢をみた。
 今日走り回った草原と、毎年家族で夏休みに訪れている、霜降高原が混じり合っている感じの草原だった。
 霜降高原は、金持ちの親戚が所有する別荘があるので、毎年夏休みに家族と訪れる避暑地だ。
 一昨年からは、何故か幼馴染の早苗も一緒に付いて来ている。

 「健司」

 後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。
 振り向くと、タンクトップに短パン姿の、まだ髪を短くしていた小学生時代の早苗だった。
 タンクトップから可愛いお臍が覗いている。
 ジーンズの短パンからすらりと伸びた腿が眩しかった。
 その頃の僕は、変り始めた早苗の姿に戸惑っていた。
 早苗はスキップする様に僕の前へ走り出て、くるりと振り向いた。
 ん?何故判るのか自分でも良く解らなかったが、振り向いたのは、早苗の外見をしている彩良だった。

「あれ?彩良か、なんで人間になっているんだ」
「私が健司の連れ合いニャ、浮気は良くないニャ」
「えっ?早苗は単なる幼馴染だよ」

 彩良に言い訳する必要はないのだが、何故か反射的に答えていた。

 僕の夢なので、彩良の意思に関係無く夢は勝手に進んで行く。
 早苗との散歩は、次第にじゃれ合いながらの追い駈けっこに変わって行った。
 何だかまるで恋人同士の様な、ドラマやアニメで見るベタな展開なので恥かしいが、夢なのだから仕方がない。
 表面の早苗は嬉しそうにはしゃいでいるが、中身の彩良が怒り狂っているのが解る。
 僕は早苗を捕まえて、もつれるよう草の上に身を投げ出す。
 早苗を抑え付ける様に上に乗り、早苗の頭の後ろに手を回して顔を引き寄せる。
 早苗が目を閉じた、僕はごくりと唾を飲み込み、早苗の唇へ僕の唇を寄せて行く。
 僕の唇が早苗の唇に触れようとした瞬間、早苗の顔が彩良に変わった。
 そして次の瞬間、彩良はあぎとを大きく開けた鰐に変った。

「ぎゃー!」

 僕は飛び起きた、背中に汗を掻いており、心臓がまだドキドキしている。

ーーーーー
彩良

「最後の呪文は、精神侵潜の法と呼ばれる他者の心の中に潜って行く呪文です。極端な驚きや悲しみ、絶望などにより、心の奥深くに潜り込んで、心を閉ざしてしまった者を救い出すために使われる呪文です。詐欺行為の有無の確認や自白の信憑性の確認などの嘘の発見、浮気調査などにも使われることも有りますが、本来の使い方ではありません。被施術者と施術者の間に因果が結ばれ、互いの存在や心に影響を及ぼすこともありますから、注意が必要です」
「はーい先生、私好きな人がいるんですが」
「アリサさん、悪い事考えちゃ駄目ですよ」
「・・・・・はい、先生、私そんなこと絶対にしません」

 ニャニャニャニャニャ、良い事を聞いた。

ーーーーー
 その後毎晩、夢に彩良が出てくるようになった。
 猫の姿ではなく、徐々に早苗の姿に彩良が重ねって行く感じだった。

 講習所の講習はハードで、日々付いて行くのがやっとだった。
 毎日レベルアップしたので疲労が蓄積することは無かったが、この世界に順応したのか、僕の身体能力に変化が現れ始めた。
 まず夜目が利くようなった、鏡を見たら、目が猫のように変化していた。
 耳も少し大きくなり、獣の耳の様に形状が少し変化した。
 俊敏性が増し、背骨に沿って毛が生える様になった。
 聴力が増し、周囲の会話も徐々に聞き取れるようになった。
 熱い物を食べるのも苦手になったが、そんなに困る事は無かった。

 講習所の授業は、狩以外の事も教えてくれた。
 基礎技術として、薬草や植物、生き物等の知識、獲物の解体や革の鞣し方、肉の保存方法なども教わった。
 獲物は魚類、鳥類、両生類、爬虫類で、哺乳類はすべて均等に二足歩行を始めて進化したらしく、文明の担い手になっている。
 魔法も基礎技術として教わった。
 魔法は全ての者が能力を備えているが、得意な系統や魔力には個人差が存在している様だった。
 僕が教わったのは自然系の魔法、水魔法、火魔法、風魔法、熱魔法だ。
 地球での尺度で言えば、化学系の魔法というところか、どちらかと言えば少数派だった。

 多かったのは土魔法と呼ばれる物を動かす魔法を得意とする者だった。
 物を多少軽くしたり、多少重くしたり出来る。
 能力が高い者の中には、空を飛ぶことが出来る者も居るそうだが、勿論極めて少ない。
 地球風に言えば、物理系の魔法だ。

 彩良の治癒魔法は生命力を直接コントロールする能力で、地球にはない系統だ。
 この能力を持つ者は、自然系の魔法の能力者より少なく、貴重な能力だそうだ。

 その他に、魔道具などに使われている刻印魔法もある。
 これは刻印に魔力を流し込むことで魔法が起動するので、魔力を持つ者ならば使う事が出来、この世界の文明の基礎技術になっている。

 職業と魔法技術は、彩良の様な職業以外は特に絶対条件ではないようだった。
 狩人で言えば、接近戦や近くにいる獲物であれば、殺傷力の増す土魔法が有利だし、遠くを早く動く獲物には、正確性を増す風魔法の方が有利だった。

 彩良も日々レベルアップしているようで、日々変化している。
 僕とは逆に、徐々に人化している。
 夢の中の彩良が徐々に獣化しているのに対し、現実の彩良は逆に徐々に人化している感じだ。
 身体も徐々に大きくなり、三回服を買い直した。
 身体は、最初夢の中で見た早苗に近付いて行き、背中や腕の脇に飾りの様に毛が筋になって残っているが、基本的には小学六年生の女の子の身体になっている。

 困った事に、部屋に帰って来たら裸になる習慣が治っていない。
 裸で部屋の中をうろうろされて、目のやり場に困ってしまう。
 しかも夜は、そのまま裸で僕に寄り添って来る。
 僕はロリコンじゃない、だが理性のたががミシミシと音を起てて緩んで来ている。

「彩良、寒くないか。服着た方が良いんじゃないか」
「寒くないニャ」
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