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Ⅱ 第二学年
5 ハルの成長
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キングサイズのダブルベットでも五人じゃ狭い、今日も雷子と迷子と舞が撲の部屋に居座っている。
夢野先生の悪夢にうなされて目覚めてしまった撲はトイレに起きてからもう一度ベットに入り直した。
右腕にハルと舞、左腕に迷子と雷子を抱えて布団を被る、うん、ハルと雷子は一緒に抱えると寝ながらでも喧嘩する。
なんか眠れなかったので、みんなの胸を少しずつ揉んで見た。
”モミ、モミ、モミ”
ボリューム順では迷子、雷子、ハルの順番、勿論舞は戦力外だ。
迷子と雷子はともかく、ハルもしっかりとした手応えがある。
式神の持つ存在感は幻術の延長線上と考えていたのだが、ハルにはしっかりとした存在としての手触りがある。
どう考えてもちゃんとした物質として存在している、しかも演技じゃなくて熟睡して可愛い寝息を立てており、しっかり呼吸までしている。
鬼はこの世界に精神体で侵入して来るが、不思議な事に最初から物理攻撃を仕掛ける能力を持っており、次第に実体化して来る。
最初は精神攻撃が幻影をもたらすのだと思っていたが、経験を重ねた今は、ほぼ純粋な物理力だと断言できる。
式神や使い魔についても同様だ、祭夜さんの式神や官九郎やミーが擬人化した状態は確実に実体が存在している。
力量の無い人の式神や弱い使い魔が実体化すると、映像の様に透けてしまって物をすり抜けてしまう。
なので式神や使い魔の実体化は疑似実体化であり、一般的に幻術と光術との複合技と言われている。
でも実際は良く解っていないのだ。
おじさんの様に術式を科学的に解明しようとする研究者はまだ数える程しか居らず、まだ異端扱いされてしまうのが今の陰陽師界の実態なのだ。
もし情報世界への鬼の侵入が無かったら、たぶんおじさんは陰陽師界から弾き出されていただろう。
だがもし精神体や情報体であるハルの様な物理的に存在しない筈の者が物理的な存在を持てるのであれば、そもそもの物理的な存在自体が僕達が思っている大地の様な確実な物ではなく、空気のような希薄で危うい状態なのかも知れない。
事実、そもそも物質の最小単位である素粒子は理論上大きさを持たない、その大きさを持たない筈の粒子間が集まって無から有を生じ、辛うじて僕等の存在が保たれているのだ。
仮に僕等の術式の世界が経験的にこの素粒子の世界のコントロール方法を積み重ねて鬼に対抗しているのであれば、今僕の持っている知識や概念で説明し切れない事が起こっていても不思議じゃないのかも知れない。
「あはーん」
考え事に夢中になってハルの胸をずっと揉み続けていた、ハルが寝ながら甘い喘ぎ声を漏らし始めた、感じているようだ。
慌てて手を離す、情報体が妊娠するかどうかを実験する根性はまだ僕には無い。
数日後、そんな僕の考えをおじさんに話してみた。
事務所のメンバーにも話してみたのだが、皆頭の上に???を並べて相手にしてくれないのだ。
おじさんはじっくりと僕の話を聞いてくれて、しばらく腕組みして考え込んだ。
そして便箋を取り出すと徐に何かを書き始め、メモと一緒に僕へ渡した。
「昔実験のお手伝いをしたことがある先生でな、本人の性格も多少影響してるんだが研究内容が陰陽師界から反発を喰らって大学から追い出された。今はご自宅で細々と研究されているんだがおまえの疑問に答えて下さるだろう。ただし、先生は陰陽師界から目を付けられているから、お前が会いに行った事が噂になればお前も陰陽師界から目を付けられる可能性が高い。先生に殴り倒されるいけないから一応この紹介状を持って気が向いたら行ってみろ」
便箋には外見と違って僕が筋者じゃなくて普通の高校生だとくどくど書いてある、普通の高校生である僕としては酷く傷つく。
メモには簡単な地図と住所が書いてある、京都の同志社大学の近くらしい、ちょうど今週末に大阪出張とおじさんから押し付けられた京都市内の大学での講師がある、講師が終わったら寄ってみよう。
「マスター、ここです。耐震性に問題が有りそうなので避難路確保は必須と思われます」
ハルがちょうど奈良出張だったので一緒に連れて来た、夜は迷子と雷子も合流する。
迷子は神戸なので仕方無いのだが、名古屋出張の雷子は東京に帰れと言ったのだが拒否された。
舞は今頃高松なので大人しく諦めた。
戦前から建っている京の町屋であるが、だいぶ痛んでいる様子だ、呼び鈴を押しても反応が無い。
「すいません、雷羅先生の紹介で伺った雷夢です。心見先生いらっしゃいますか」
「煩いぞ、この野郎」
玄関の戸が開いたと思ったらいきなり殴り掛かられた、白髪の老人で、身長は僕と同じくらいの百八十五センチ前後、研究者と言うよりも大工の親方の様な雰囲気の人だ。
殴り倒す訳には行かないので、暫く受け続ける、技の型が僕と一緒だ。
「はあ、はあ、はあ、貴様も天地一心流か」
「はあ、はあ、はい」
「はあ、はあ、はあ、それで何の用だ」
「はあ、はあ、これおじさんの紹介状です」
「はあ、はあ、はあ、恭平君か。うむ、中に入れ」
「はあ、はあ、ありがとうございます」
やっと中に入れて貰えた。
「まあ、まあ、まあ、まあ、彼方が人を入れるなんて珍しいわね。さあ、入って、入って、後ろの女の子も」
奥さんなのだろうか娘さんなのだろうか、この頑固爺さんに不似合いな陽気そうな若い女性が出迎えてくれた。
「それで自称高校生が儂に何の用だ」
「自称じゃありません、僕は高校二年生になったばかりです」
来訪目的である僕が感じている疑問を説明した。
先生は腕を組んで暫く考え込んでいた。
「お嬢ちゃん、手を見せてごらん」
「はい」
ハルが手を差し出す、心見先生はその手をしばらく眺めてから徐に説明を始めた。
「情報体から完全な精神体に成長しておるな、それに実体もしっかり出来上がっておる。儂のかみさんも狐の使い魔でな、うん、これなら立派に子供が生めるぞ」
「はい、御茶。良かったわね、あなた」
使い魔である奥さんが優しい表情でハルを見つめながらお茶を出してくれた。
「はい」
ハルが嬉しそうに返事をしている、そーか、ハルも妊娠するのか、この間は実験に及ばなくて本当に良かった。
「素粒子の構成要素は知っておるか」
唐突に心見先生から質問された。
夢野先生の悪夢にうなされて目覚めてしまった撲はトイレに起きてからもう一度ベットに入り直した。
右腕にハルと舞、左腕に迷子と雷子を抱えて布団を被る、うん、ハルと雷子は一緒に抱えると寝ながらでも喧嘩する。
なんか眠れなかったので、みんなの胸を少しずつ揉んで見た。
”モミ、モミ、モミ”
ボリューム順では迷子、雷子、ハルの順番、勿論舞は戦力外だ。
迷子と雷子はともかく、ハルもしっかりとした手応えがある。
式神の持つ存在感は幻術の延長線上と考えていたのだが、ハルにはしっかりとした存在としての手触りがある。
どう考えてもちゃんとした物質として存在している、しかも演技じゃなくて熟睡して可愛い寝息を立てており、しっかり呼吸までしている。
鬼はこの世界に精神体で侵入して来るが、不思議な事に最初から物理攻撃を仕掛ける能力を持っており、次第に実体化して来る。
最初は精神攻撃が幻影をもたらすのだと思っていたが、経験を重ねた今は、ほぼ純粋な物理力だと断言できる。
式神や使い魔についても同様だ、祭夜さんの式神や官九郎やミーが擬人化した状態は確実に実体が存在している。
力量の無い人の式神や弱い使い魔が実体化すると、映像の様に透けてしまって物をすり抜けてしまう。
なので式神や使い魔の実体化は疑似実体化であり、一般的に幻術と光術との複合技と言われている。
でも実際は良く解っていないのだ。
おじさんの様に術式を科学的に解明しようとする研究者はまだ数える程しか居らず、まだ異端扱いされてしまうのが今の陰陽師界の実態なのだ。
もし情報世界への鬼の侵入が無かったら、たぶんおじさんは陰陽師界から弾き出されていただろう。
だがもし精神体や情報体であるハルの様な物理的に存在しない筈の者が物理的な存在を持てるのであれば、そもそもの物理的な存在自体が僕達が思っている大地の様な確実な物ではなく、空気のような希薄で危うい状態なのかも知れない。
事実、そもそも物質の最小単位である素粒子は理論上大きさを持たない、その大きさを持たない筈の粒子間が集まって無から有を生じ、辛うじて僕等の存在が保たれているのだ。
仮に僕等の術式の世界が経験的にこの素粒子の世界のコントロール方法を積み重ねて鬼に対抗しているのであれば、今僕の持っている知識や概念で説明し切れない事が起こっていても不思議じゃないのかも知れない。
「あはーん」
考え事に夢中になってハルの胸をずっと揉み続けていた、ハルが寝ながら甘い喘ぎ声を漏らし始めた、感じているようだ。
慌てて手を離す、情報体が妊娠するかどうかを実験する根性はまだ僕には無い。
数日後、そんな僕の考えをおじさんに話してみた。
事務所のメンバーにも話してみたのだが、皆頭の上に???を並べて相手にしてくれないのだ。
おじさんはじっくりと僕の話を聞いてくれて、しばらく腕組みして考え込んだ。
そして便箋を取り出すと徐に何かを書き始め、メモと一緒に僕へ渡した。
「昔実験のお手伝いをしたことがある先生でな、本人の性格も多少影響してるんだが研究内容が陰陽師界から反発を喰らって大学から追い出された。今はご自宅で細々と研究されているんだがおまえの疑問に答えて下さるだろう。ただし、先生は陰陽師界から目を付けられているから、お前が会いに行った事が噂になればお前も陰陽師界から目を付けられる可能性が高い。先生に殴り倒されるいけないから一応この紹介状を持って気が向いたら行ってみろ」
便箋には外見と違って僕が筋者じゃなくて普通の高校生だとくどくど書いてある、普通の高校生である僕としては酷く傷つく。
メモには簡単な地図と住所が書いてある、京都の同志社大学の近くらしい、ちょうど今週末に大阪出張とおじさんから押し付けられた京都市内の大学での講師がある、講師が終わったら寄ってみよう。
「マスター、ここです。耐震性に問題が有りそうなので避難路確保は必須と思われます」
ハルがちょうど奈良出張だったので一緒に連れて来た、夜は迷子と雷子も合流する。
迷子は神戸なので仕方無いのだが、名古屋出張の雷子は東京に帰れと言ったのだが拒否された。
舞は今頃高松なので大人しく諦めた。
戦前から建っている京の町屋であるが、だいぶ痛んでいる様子だ、呼び鈴を押しても反応が無い。
「すいません、雷羅先生の紹介で伺った雷夢です。心見先生いらっしゃいますか」
「煩いぞ、この野郎」
玄関の戸が開いたと思ったらいきなり殴り掛かられた、白髪の老人で、身長は僕と同じくらいの百八十五センチ前後、研究者と言うよりも大工の親方の様な雰囲気の人だ。
殴り倒す訳には行かないので、暫く受け続ける、技の型が僕と一緒だ。
「はあ、はあ、はあ、貴様も天地一心流か」
「はあ、はあ、はい」
「はあ、はあ、はあ、それで何の用だ」
「はあ、はあ、これおじさんの紹介状です」
「はあ、はあ、はあ、恭平君か。うむ、中に入れ」
「はあ、はあ、ありがとうございます」
やっと中に入れて貰えた。
「まあ、まあ、まあ、まあ、彼方が人を入れるなんて珍しいわね。さあ、入って、入って、後ろの女の子も」
奥さんなのだろうか娘さんなのだろうか、この頑固爺さんに不似合いな陽気そうな若い女性が出迎えてくれた。
「それで自称高校生が儂に何の用だ」
「自称じゃありません、僕は高校二年生になったばかりです」
来訪目的である僕が感じている疑問を説明した。
先生は腕を組んで暫く考え込んでいた。
「お嬢ちゃん、手を見せてごらん」
「はい」
ハルが手を差し出す、心見先生はその手をしばらく眺めてから徐に説明を始めた。
「情報体から完全な精神体に成長しておるな、それに実体もしっかり出来上がっておる。儂のかみさんも狐の使い魔でな、うん、これなら立派に子供が生めるぞ」
「はい、御茶。良かったわね、あなた」
使い魔である奥さんが優しい表情でハルを見つめながらお茶を出してくれた。
「はい」
ハルが嬉しそうに返事をしている、そーか、ハルも妊娠するのか、この間は実験に及ばなくて本当に良かった。
「素粒子の構成要素は知っておるか」
唐突に心見先生から質問された。
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