負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第02話03 “怪力”

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「ナンデバレたと思ッテルな?」

 リザードマンがにたりと笑った。

「うわ、そうだよ思ってるよ」
「素直イイ。俺タチモ素直ニナル」

 すると、トロルがごそごそと懐を探った。
 そこには何かの金属。…鏡、に似た何かだ。
 それが鈍く光っている。

「コレ、金属探知スル。金持チ、スグワカル」
「うわぁ、盗賊が使いそうなアイテム…!」

 それはいわゆるマジックアイテムのようだった。
 主に冒険者なんかが、外で安心安全に冒険を遂行するために使う。
 種類は様々だ。
 便利であるほど高価なので、詳しく見たことも触ったこともないが、
 恐らくそういう類なんだろう。

 こいつらはどちらも体格がいい。
 追い剥ぎにせよ、野盗にせよ、かなり稼いできたと見受けられる。
 …つまり、

(この金、全部とられちまうのか…!?)

 震える腕で革袋を抱きしめると、ふいにそこに触る手があった。
 ビッグケットだ。眉間にシワを寄せている。

『なんだこいつら』
『俺タチガ金持ッテルノ気ヅイタ。ツイテコイ言ッテル』
『そんな必要ない。
 お前がいいと言うなら今すぐこいつらを殺してやる』
「えっ…?」

 目の前の獣人たちが薄ら笑いを浮かべている。

「ドウシタお嬢チャン。怖イカ」
「大丈夫、オマエチョット俺タチトイイコトスル、命トラナイ」

 ひゃひゃひゃ、と二人で馬鹿笑いを始めた。
 どうしよう、ビッグケットの表情を見るに、こいつは本気だ。
 もし勝てるとしてもここで争うわけにはいかない。
 ………。くそ、信じよう。
 こいつの戦闘力を。

「わ、わかった。行く。お前らに着いてく。
 どこまで行けばいいんだ」
「ジャアモット奥かナ。目撃者ガイルと面倒ダ」

 リザードマンの方がくいと指を立てる。
 こっちに来いという意味だ。
 でもそれはこっちも同じこと。
 大樽をやすやすと割る女のやることだ。
 下手したらえらい大惨事だぞ…。

『ビッグケット、アイツラ二着イテイク。
 周リノ人イナクナッタラ好キニシロ』
『わかった』

 高鳴る鼓動を聞かれないよう、静かに立ち上がる。
 こちらを軽く一瞥した後二人がズンズン奥へ、
 ひと気のない方へ向かうので、
 サイモンとビッグケットもそれに倣う。

 通りを一つ、二つ、過ぎていく。
 あっという間に路地が暗くなり…
 いや、少し日が傾いてきたこともある。
 視界はかなり悪くなった。

「ヘヘ、コノ辺ナライイカな」

 ふと立ち止まり振り返り、舌を垂らすリザードマンに、

『サイモン、ぶっ飛ばしていいか?』 

 ビッグケットが囁き、

『アア…イイゾ』

 そう答えた瞬間。



 ゴシャ。



 鈍い音が響いた。
 本当に一瞬の出来事だった。

 驚いて視線を音の方向に向けると、
 頭蓋骨が砕けて頭が半分なくなったトロルが倒れるところだった。

 スローモーションで鮮血が飛び散るのが見える。
 凄まじい、量だ。

 断裂した肉と骨が連続して血溜まりに落ちる。

 ドスン。

 遅れてでかい図体が地面に倒れた。
 勢いよく血溜まりが広がっていく。

「ヒ?!ヒィ!!??」

『トロルの肉は固くて不味いんだよな。
 リザードマンなら少しは美味しいかな』

「こ、コイツ何言ッテるンダ!?」

 薄闇に浮かぶ、静かに凍りつくような目。
 隠されていない右片方の目が、満月のように輝いている。

『お前も死ね』

 そしてビッグケットが片手を振り上げ…


「待て!!」


 サイモンの声が響いた。
 咄嗟にリザードマンが彼を見る。

『モウコイツ怖ガッテル。殺スコトナイ』

 ビッグケットとリザードマンの間。
 サイモン自身よくわからないが、庇う形で割って入った。

『仲間が死んだ。
 あとから私怨で追いかけてくるかもしれないぞ』
『マ、待テ。一応話ヲシヨウ』
『私が危ないと判断したら即殺す』
『待テ、落チ着ケ』

 獰猛な獣のごとく目を光らせるビッグケットをなだめ、
 リザードマンに向き直る。
 本当に俺は何をやっているんだ。

「…悪ぃ、俺もここまでやると思わなかった。
 あの、こいつすごい強いみたいだ。
 無駄にあんたを殺したくないんだけど、
 引き下がってくんないかな」

 何を言っているんだ。
 内心冷や汗をかきながらリザードマンに話しかける。
 だが、相手はもっと焦った顔をしていた、恐らく。

「う、ウワ、ナンダコイツ、化ケ物かよ…!!
 トロルを一撃デ?!嘘ダロ!?」
「ごめん、嘘じゃない」
「ワカッテルよ…!ひ、ヒィ…!!」

 するとリザードマンは一歩ニ歩後ずさり、

《✕✕✕!✕✕✕✕~!!!》

 何かを叫びながら逃げ出した。
 あれはリザードマン固有の言語なんだろうか?
 慌てながらも、トロルが落としたマジックアイテムを
 しっかり回収していったところが抜け目ない。

 …頑張れ。生きろ。
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