58 / 137
第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編
第08話05 踊る金貨
しおりを挟む
〈おっとぉ?オーナー席から誰かが声をかけていますね。
これはオーナーさんでしょうか?
言語はよくわかりません、これはケットシーの言葉…?〉
そこで魔法の鏡にサイモンの顔が大映しになる。
反射的に思わず小さくしゃがみこんだ。
ちょ、ちょっと待てそんなんアリ!?
観客に俺の顔見られるの絶対やだよ、
トラブルの元だから!!!!
しばらく黙っていると。
〈あっ!ビッグケット選手、戦意喪失!
ブラッディムーン選手に背を向けました!〉
どうやらサイモンの言葉が届いたようだ。
場内アナウンスでビッグケットが
ブラッディムーンを見逃したことを知った。
あとはカーネにも降参してもらうだけ!
{カーネ!!!コボルトさん!!!
いまだ、こうさんするんだ!
ビッグケットになぐりかかって!「参りました」っていって!!!}
小さくしゃがんだまま、またしても大声を出す。
カーネに届いてくれ!
最後あんたを助けられなきゃ意味ないんだ!!
「………ッ!」
もう鏡に映されてないよな?
少しだけ頭を出して確認する。
…よし、鏡はカーネとビッグケットを映している。
サイモンはようやくふぅ、と立ち上がった。
〈ビッグケット選手のオーナーさん、
どうやらカーネ選手にも何か助言したようですね。
カーネ選手が立ち上がりました。降参宣言でしょうか?〉
カトリーヌが胡乱げな声を上げている。
会場中の観客に見つめられながらなんとか立ったカーネは、
しかしブルブル震えていた。
ビッグケットが貸したストールを羽織り、必死に前を合わせて…
{あの、お願いします!えーい!!!!}
そして、意を決したように繰り出された彼女渾身のパンチ。
ビッグケットは無表情のままそれを掴んだ。
途端にカーネの表情がこわばる。
「ッ、マイリマシタ!マイリマシタ!!!!」
完璧な降参宣言。
ビッグケットはその手を離し、
ふわりと抱きしめるようにカーネに両腕を回した。
抱きしめはしない。
べったり血がついてしまうから。
しかし、彼女は確かに優しい声、優しい瞳で言った。
『…もう大丈夫だ。よく頑張ったな』
{う、うっ…ううわぁん…!!!}
〈ぐっ、降参宣言!降参宣言です!
ビッグケット選手はこれも受け入れました!
これにて本日の勝者確定!
降参2名、勝者1名!
本日で2連勝…
ケットシー混血の女性、ビッグケット選手が
2連勝を収めました!!!〉
わあああああああああ!!!!!!
カトリーヌのどこか不満げなアナウンスが響き、
不満半分、おめでとう及びやったぜ及びいい話だなぁ半分。
会場に大きな歓声がこだました。
〈では確認です、本日の観客数は………返還総額は………〉
カトリーヌのアナウンスはまだ終わってないが、
もうそんなものには興味ない。
サイモンはこちらに駆け寄ってくるビッグケット、カーネ、
そして立派に生き残ったブラッディムーンに手を振った。
『オメデトウ!今日モ楽勝ダッタナ』
『もうちょっと歯ごたえが欲しかった…』
『マァマァ。ア、ブラッディムーンヲ見逃シテクレテアリガトナ。
恩ニ着ル』
『…私やこの人(カーネだな)に殴りかかってたら絶対殺したのに』
『ヤメロ、無駄ナコトハ』
ぶつぶつ文句を垂れるビッグケットの背中を、
サイモンがポンポン叩く。
背中側はまだ比較的マシだ…血の粘り気がしない…。
頭から鮮血を被ったビッグケットから若干目を逸しつつ、
功労者の相棒を労う。
そして、
{おめでとう。ぶじかえってこれてよかった。
「参りました」がちゃんといえてよかった}
コボルト語でカーネに声をかける。
カーネはまたストールを羽織って、深々と頭を下げた。
{あの、本当にありがとうございました。
貴方がいなければあんな…っ
私も、あんな風になってたんですね…っ}
途端にガクガク震え始めるカーネ。
目の前で見せられた血の惨劇が相当ショックだったみたいだ。
…いや、あんなん普通にトラウマものだけど。
{ごめん、もうこんなことないはずだから。
わすれて。きょうのこれはあくむってことで}
{無理ですぅ…!!}
鼻をぴすぴす言わせて涙目のカーネ。
ま、親父の言葉じゃないけど、生きてりゃやり直せる。
この記憶もリセットしていつか幸せになれるさ。
あとは…
【アンタ。登録者ト上手ク折リ合イツケラレソウカ?】
茫然自失といった表情のブラッディムーンに、
オーク語で話しかける。
ブラッディムーンは両目を落としそうなくらい真ん丸にして驚いた。
【うわっ、お前オーク語も話せるのか!?すご…きもっ…】
【オイ、ビッグケットニ今スグ八ツ裂キニサセヨウカ?】
【すみません、俺はアンタの豚です奴隷ですお見逃し下さい】
サイモンが両目をすがめて睨むと、
ブラッディムーンはコンマ1秒で床に這いつくばった。
おまけにそのまま動かない。
【セッカク登録者ニワカラナイヨウ話シテ、
不都合ナ内容ガ聞コエナイヨウ配慮シテヤッテンノニ…】
【ありがとうございます、こんな豚にもったいないほどの配慮です。
先程の無礼な発言はどうかお忘れ下さい】
【ヨロシイ】
「…なぁ小僧、お前もしかして今豚語喋ってる?
もはや変態じゃない?言語オタクすぎない???」
そこでヒソヒソ話しかけてきたのは貴族男だ。
その声に顔を向けると、
彼の背後には昨日も見たパターンのオーナーたちの表情。
ほとんどの人間がイライラして、
しかしサイモンのそばに守護神たるビッグケットが控えてるので、
下手なことは言ってこない。
さぁて、こうなれば有象無象には興味ない。
目下用があるのは…
「なぁ、カーネを登録したオーナーはどこだ。
俺と話しようぜ」
サイモンが腕を組み周囲を見回すと、動く影がある。
先程見たゴロツキの人間。
ひょこりと頭を出したそいつは、
苦虫を噛み潰したような顔をしてサイモンを睨んだ。
「…おい、どうしてくれんだ。
俺は登録料独り占めした上で
そいつが派手に死ぬのを楽しみにしてたのに。
犬の獣人なんて汚ねぇの突っ返されても困るんだよ」
「はーん。じゃあこうしよう」
サイモンはにんまり笑い、
肩から下げた鞄の中、
金貨袋からザクッと金貨を掴み出した。
ジャラジャラジャラ!
それを躊躇なく床にばら撒く。
けっこうな量だ。
貴族男、そして他の登録者たちが息を飲む。
サイモンは静かに顎を持ち上げ…
冷たい目でゴロツキ男を見た。
「おい、これ拾え。全部お前にやる」
「あ!?」
「代わりにカーネを俺にくれ。
金で買うんだ、これなら文句ないだろう?」
これはオーナーさんでしょうか?
言語はよくわかりません、これはケットシーの言葉…?〉
そこで魔法の鏡にサイモンの顔が大映しになる。
反射的に思わず小さくしゃがみこんだ。
ちょ、ちょっと待てそんなんアリ!?
観客に俺の顔見られるの絶対やだよ、
トラブルの元だから!!!!
しばらく黙っていると。
〈あっ!ビッグケット選手、戦意喪失!
ブラッディムーン選手に背を向けました!〉
どうやらサイモンの言葉が届いたようだ。
場内アナウンスでビッグケットが
ブラッディムーンを見逃したことを知った。
あとはカーネにも降参してもらうだけ!
{カーネ!!!コボルトさん!!!
いまだ、こうさんするんだ!
ビッグケットになぐりかかって!「参りました」っていって!!!}
小さくしゃがんだまま、またしても大声を出す。
カーネに届いてくれ!
最後あんたを助けられなきゃ意味ないんだ!!
「………ッ!」
もう鏡に映されてないよな?
少しだけ頭を出して確認する。
…よし、鏡はカーネとビッグケットを映している。
サイモンはようやくふぅ、と立ち上がった。
〈ビッグケット選手のオーナーさん、
どうやらカーネ選手にも何か助言したようですね。
カーネ選手が立ち上がりました。降参宣言でしょうか?〉
カトリーヌが胡乱げな声を上げている。
会場中の観客に見つめられながらなんとか立ったカーネは、
しかしブルブル震えていた。
ビッグケットが貸したストールを羽織り、必死に前を合わせて…
{あの、お願いします!えーい!!!!}
そして、意を決したように繰り出された彼女渾身のパンチ。
ビッグケットは無表情のままそれを掴んだ。
途端にカーネの表情がこわばる。
「ッ、マイリマシタ!マイリマシタ!!!!」
完璧な降参宣言。
ビッグケットはその手を離し、
ふわりと抱きしめるようにカーネに両腕を回した。
抱きしめはしない。
べったり血がついてしまうから。
しかし、彼女は確かに優しい声、優しい瞳で言った。
『…もう大丈夫だ。よく頑張ったな』
{う、うっ…ううわぁん…!!!}
〈ぐっ、降参宣言!降参宣言です!
ビッグケット選手はこれも受け入れました!
これにて本日の勝者確定!
降参2名、勝者1名!
本日で2連勝…
ケットシー混血の女性、ビッグケット選手が
2連勝を収めました!!!〉
わあああああああああ!!!!!!
カトリーヌのどこか不満げなアナウンスが響き、
不満半分、おめでとう及びやったぜ及びいい話だなぁ半分。
会場に大きな歓声がこだました。
〈では確認です、本日の観客数は………返還総額は………〉
カトリーヌのアナウンスはまだ終わってないが、
もうそんなものには興味ない。
サイモンはこちらに駆け寄ってくるビッグケット、カーネ、
そして立派に生き残ったブラッディムーンに手を振った。
『オメデトウ!今日モ楽勝ダッタナ』
『もうちょっと歯ごたえが欲しかった…』
『マァマァ。ア、ブラッディムーンヲ見逃シテクレテアリガトナ。
恩ニ着ル』
『…私やこの人(カーネだな)に殴りかかってたら絶対殺したのに』
『ヤメロ、無駄ナコトハ』
ぶつぶつ文句を垂れるビッグケットの背中を、
サイモンがポンポン叩く。
背中側はまだ比較的マシだ…血の粘り気がしない…。
頭から鮮血を被ったビッグケットから若干目を逸しつつ、
功労者の相棒を労う。
そして、
{おめでとう。ぶじかえってこれてよかった。
「参りました」がちゃんといえてよかった}
コボルト語でカーネに声をかける。
カーネはまたストールを羽織って、深々と頭を下げた。
{あの、本当にありがとうございました。
貴方がいなければあんな…っ
私も、あんな風になってたんですね…っ}
途端にガクガク震え始めるカーネ。
目の前で見せられた血の惨劇が相当ショックだったみたいだ。
…いや、あんなん普通にトラウマものだけど。
{ごめん、もうこんなことないはずだから。
わすれて。きょうのこれはあくむってことで}
{無理ですぅ…!!}
鼻をぴすぴす言わせて涙目のカーネ。
ま、親父の言葉じゃないけど、生きてりゃやり直せる。
この記憶もリセットしていつか幸せになれるさ。
あとは…
【アンタ。登録者ト上手ク折リ合イツケラレソウカ?】
茫然自失といった表情のブラッディムーンに、
オーク語で話しかける。
ブラッディムーンは両目を落としそうなくらい真ん丸にして驚いた。
【うわっ、お前オーク語も話せるのか!?すご…きもっ…】
【オイ、ビッグケットニ今スグ八ツ裂キニサセヨウカ?】
【すみません、俺はアンタの豚です奴隷ですお見逃し下さい】
サイモンが両目をすがめて睨むと、
ブラッディムーンはコンマ1秒で床に這いつくばった。
おまけにそのまま動かない。
【セッカク登録者ニワカラナイヨウ話シテ、
不都合ナ内容ガ聞コエナイヨウ配慮シテヤッテンノニ…】
【ありがとうございます、こんな豚にもったいないほどの配慮です。
先程の無礼な発言はどうかお忘れ下さい】
【ヨロシイ】
「…なぁ小僧、お前もしかして今豚語喋ってる?
もはや変態じゃない?言語オタクすぎない???」
そこでヒソヒソ話しかけてきたのは貴族男だ。
その声に顔を向けると、
彼の背後には昨日も見たパターンのオーナーたちの表情。
ほとんどの人間がイライラして、
しかしサイモンのそばに守護神たるビッグケットが控えてるので、
下手なことは言ってこない。
さぁて、こうなれば有象無象には興味ない。
目下用があるのは…
「なぁ、カーネを登録したオーナーはどこだ。
俺と話しようぜ」
サイモンが腕を組み周囲を見回すと、動く影がある。
先程見たゴロツキの人間。
ひょこりと頭を出したそいつは、
苦虫を噛み潰したような顔をしてサイモンを睨んだ。
「…おい、どうしてくれんだ。
俺は登録料独り占めした上で
そいつが派手に死ぬのを楽しみにしてたのに。
犬の獣人なんて汚ねぇの突っ返されても困るんだよ」
「はーん。じゃあこうしよう」
サイモンはにんまり笑い、
肩から下げた鞄の中、
金貨袋からザクッと金貨を掴み出した。
ジャラジャラジャラ!
それを躊躇なく床にばら撒く。
けっこうな量だ。
貴族男、そして他の登録者たちが息を飲む。
サイモンは静かに顎を持ち上げ…
冷たい目でゴロツキ男を見た。
「おい、これ拾え。全部お前にやる」
「あ!?」
「代わりにカーネを俺にくれ。
金で買うんだ、これなら文句ないだろう?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる