負け犬REVOLUTION 【S】

葦空 翼

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第一章 希望と欲望の街、シャングリラ 前編

第10話07 真紅

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「今日の強化トロルはもう限界、
 攻撃防御共に4倍、スピード6倍だ!
 これ以上は金じゃない、
 純粋に魔導師が捕まらん!

 どいつもこいつも倫理がどうの、
 何に使うんだどうの言ってかけてくれなかった!
 だからこれが実質私たちの最後の戦い、
 今日こそ絶対こちらが勝つ!!」


 ワアア…!!


 大歓声が響くすり鉢状の闘技場。
 貴族男は鼻息も荒く本日のプレゼンをしてくれた。

 貴族男が創り上げた自称混血トロル、
 ルシファーはこれまで以上にガタイが良く、
 凶悪な面をしている。

 いっそバフキメすぎて
 頭がおかしくなったんじゃないかと思うほど、
 目がギョロギョロして、
 もはやマジモンの怪物の域だ。

「あっそうそう、
 今日は狂乱化バーサクの呪文もかけてきたぞ!
 ここぞでビビって戦えなかったらしょーもないからな、
 これで恐怖心ともおさらばだ!!」

 あっなるほど…
 あの見た目もこの男によって作られたものだったのか。
 可哀想に、
 ただ無惨に殺されるためだけにここに連れてこられたなんて。

 サイモンにはそれを娯楽と呼ぶ神経がわからない。
 どいつも、こいつも、
 人間をなんだと思ってるんだ。

(…ま、無駄な殺生が嫌なら
 俺たちもここに来るなって話だけどな…)

 それでも、ここに人々が押しかけるのは。
 みんなどうしても見たい物がある。
 人と人の、命を賭けた本気の殴り合い、
 その凄まじさ、
 尊さを目に焼き付けたいからだ。

〈あーっとビッグケット選手、
 あっという間にマザーファック選手に追いついた!
 首元を掴み、体勢が崩れたところを…

 蹴り上げたー!
 身体が真っ二つに泣き別れー!!!
 凄まじい蹴りの威力!!
 マザーファック選手退場!!〉

 これで6人目。
 今日のビッグケットは過去イチ気合いが入っている。
 それも当然だ、
 素っ裸で屈辱の試合をさせられているんだ。
 とっとと終わらせたい一心だろう。

 例の大鏡にビッグケットの裸体がでかでかと映し出されている。
 あちこちから血飛沫を浴びて、
 もはやどこがなんだかわからない状態になっているものの。
 それは確かに全裸だ。
 他人にこんな風に見られていいわけないものだ。

 見たくない。
 でも、見ないわけにはいかない。
 彼女の頑張りを無駄にしたくないから。
 サイモンは食い入るように中継の大鏡を見つめた。

〈次の標的はトロルのハローグッバイ選手だ、
 速い速い!
 追いつくぞビッグケット選手…ッ

 おおっ?!
 そこにさっきふっ飛ばされたルシファー選手が!
 向かってくる!
 とんでもない速度で割り込んできた!

 またしても一騎討ち!
 他の選手はあまりの迫力に手を出せない!
 さぁここで決まるのか!?〉

 ルシファーはさすがに硬い。
 ビッグケットの恐らく本気の蹴りや突きでも
 すっ飛ぶのが関の山で、
 砕いたりましてや一撃死などまるで無理そうだった。

 今まで誰かにここまで粘られることもそうなかったのだろう、
 ビッグケットの顔に若干焦りの色が見える。

 例えば相手に目に見えてダメージが入っていれば
 落ち着いて捌けるんだろうが、
 何せ相手はバフとバーサクキメまくって衰え知らずだ。
 これがいつまで続くんだ?と思えば、
 さすがのビッグケットでも怯むのだろう。

「行けっ、れ!!お前にいくらつぎ込んだと思ってる!?
 今日こそ猫女をブチ殺せーー!!!」

『ソイツハばーさくノ魔法デ
 恐怖モ痛ミも飛バサレテル!
 トニカク殴レ!イツカ限界ガ来ル!!』

「ウオオオオオオオ!!!!」

レッビッグケット!!!!!』

 両腕をクロスして
 ルシファーの正拳突きを受け止めるビッグケット。
 トロルの腕力4倍だぞ、
 普通の人間ならむしろこっちがバラバラに砕けそうなもんだが、
 ビッグケットはなんとか堪えている。

 裸足で痛いだろうに、
 両脚を踏ん張ってトロルの連撃を耐え…
 あっ、後ろから他の奴が来ている!

『ビッグケット!!!!』

 サイモンが叫ぶまでもなく、
 彼女は後ろの奴に気づいている。
 即座に蹴り飛ばした(そして絶命させた)。
 しかし隙が出来たら当然ルシファーの餌食になる。
 7人目を仕留めた次の瞬間、

「!!!」

 横殴りの重い拳がビッグケットの横っ面にヒットした。
 歓声が一段と大きくなる。
 闇闘技場に来て初めて、
 ビッグケットが他人からの攻撃をまともに喰らった!

「よしっ、いいぞルシファー!!
 そのまま畳み掛けろ!!」

『立テ直セビッグケット!!
 ソンナンデヤラレル奴ジャナイダロ!!!』

 声援が届いたか否か、それは定かじゃないが。
 空中にすっ飛んだビッグケットは、
 そのままくるくる回転して床に着地する。

 その瞬間を狙ったルシファーがダッシュしてくるが、
 血まみれの黒猫は怯まない。
 こちらからも仕掛けた。

『けっこー痛ぇじゃん!!!』

 ゴスン!!!! 

 真正面からの正拳突き。
 綺麗に鳩尾に入ったはずだが、
 ルシファーは倒れない。

 もちろんそんな事、
 今日何度も拳を交えているビッグケットが一番わかっている。
 攻撃の手を緩めることはない。

 左、右、左、右のアッパー!
 2メートルオーバーのトロルから見れば
 170ほどのビッグケットは充分小柄だったが、
 その分すっぽり懐に潜り込める。
 そこから放つ並の男を遥かに越えるラッシュは、
 そうそう耐えられる物ではあるまい。

 ついにルシファーも顎を砕かれ
 脳震盪のうしんとうを起こしたようだ、
 ふらふら後ろに下がっていく。

「あーーーーーッ」

『今ダッ、畳ミ掛ケロ!!!』

 言われなくてもビッグケットは。


『これで決めてやる!!!』
 

 ダンッ!!!!


 一歩駆け寄り左足で踏み切り、高いジャンプ。
 大きく右脚を上げ、
 下半身を捻って綺麗な回転を描いたハイキックが
 ルシファーの頭を狙い、



 ゴシャンッッッ!!!!



 ついに砕いた!!
 もうバフで守るのも限界だったのだろうか、
 トロルの巨体が力なく床に崩折れる。

 ここまでくればもう怖いものなどない。
 ビッグケットに賭けた観客が勝ちを確信して大歓声を上げた。
 そこでふいにサイモンの耳に実況アナウンスが入ってくる。
 試合に熱中しすぎて無意識に排除してたのかな。

〈あーーーッルシファー選手!
 実に健闘しましたがこれが限界!
 ついに頭を砕かれました、退場!
 残りはあと一人です!!〉

(そういやあのパーンの男、来てるんだよな。
 見てるかな…)

 唯一の対抗馬である8人目、
 ルシファーが敗れて残りあと1人。
 真っ赤に染まった、生まれたままの姿のビッグケットは
 最後の1人にすたすた近づき、


 パカンッ


 有無を言わせない速度で頭をかち割った。
 終了。
 ハンデがなんだ、
 ビッグケットは全裸であることなどどうでもいいかのような
 戦いぶりを披露した。

 振り返れば、どいつも最初の勢いはどこへ消えたのか。
 1日目の試合のごとく、
 ルシファー以外全員ビビって逃げまどう中
 順に殺されていった。

 やはり守らなければならない対象がいないと動きも軽快だ。
 囲まれるなどという醜態も晒すことなく、
 ひたすらルシファーを退けながら
 殺して殺して殺しまくった。

〈最後の1人、ハローグッバイ選手も絶命!
 本日の勝者はまたしてもケットシー混血女性、
 ビッグケット選手です!

 この強さ本物!!
 全裸のハンデもものともしません!!
 今日の勝者はビッグケット選手でーす!!!!〉


 ワァアアアアアア…!!!

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