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高年期[二学期・前編]
足利さんは過保護?
しおりを挟む目を覚ますと一瞬ここがどこだかわからなかった。遮光カーテンのお陰で眩しくはないが外が明るく昼間の時間だとわかる。
「お目覚めでございますか薫風様。」
「・・・足利、さん?」
「はい足利でございます。喉は渇いてませんか?」
「あ、・・・水が飲みたい、です・・・」
「こちらをどうぞ。」
ずっと傍にいたのだろうか。頭がまだ覚醒してないうちに声をかけられ一瞬で目が覚めた。・・・ああ、ここは風間くんの寝室か。
身体を起こすとすかさず背中にクッションを挟んでくれた。・・・至れり尽くせり。水の入ったコップをもらい一気に飲み干す。・・・うん、美味しい。
「お腹は空きませんか?只今の時刻は丁度昼を過ぎた頃ですが。」
「4時間程眠ったみたいですね。・・・すみません、ご飯、貰ってもいいですか?」
「勿論です。お連れ致します。・・・失礼します。」
「え?・・・うわぁ!・・・え、あ、あの・・・?」
「大丈夫です、落としたり致しませんので。」
ニッコリ微笑まられお姫様抱っこされたのですが・・・ナニコレ?
あ、でも確かに上半身起こした時に下半身に力が入らなかったから多分歩けなかったと思う。
この人、どこまで把握してるのだろう。・・・でも、だからといって断りもせず急に横抱きされたら心臓に悪いわっ!・・・うん、この人、我を通す人だよね。しかも完璧人間だから反論する隙を作らないよね。・・・はぁ。
「あの、足利さん・・・申し訳ないのですが、何かする時、声を掛けてくれませんか?」
「先程断りを入れたつもりですが?」
「急に抱き抱えられてしまうと驚きますよ・・・」
「それは申し訳ございません。・・・以後、気を付けます。」
ニッコリ笑って・・・反省の色が見えないんですけど・・・うーん、強引だがやってる事は別に悪い事ではないから文句が言えない。うん、この人と口論しても勝てる気がしないな。
それから食卓に着き、ゆっくりと椅子に座らせてもらった。
食事は普通に出されてる物をだしてもらった。うん、風邪など病気になったわけじゃないからね。単なる・・・疲労ですよヒ・ロ・ウ。
サラダと揚げ物を出された。・・・うん、相変わらず美味しいね。あ、そーいえば・・・
「あの、足利さん、後で調理場をお借りできますか?」
「如何致しましたか?・・・料理がお口に合いませんでしたか?」
「い、いいえ!違います!・・・この前、友人に僕が作ったクッキーをあげた事があるんです。」
「ほう・・・クッキー、ですか。」
「はい。それを和彦さんも食べたいと言ってたのを思い出したんです。・・・なので和彦さんが帰ってくる前に作って渡そうかと思いまして・・・」
「・・・」
あ、あれ?・・・返事が返ってこないんですが?チラッと足利さんを覗き見ると驚愕した顔をして固まっていた。・・・なにか変な事言ったか?
あ、貴族は基本、料理しないんだっけ?それで僕がお菓子作る事に驚いてるのかな?
「あの・・・足利さん?」
「・・・申し訳ございません。危険ですので調理場をお貸しする事はできません。」
「え!な、何故ですか・・・?僕は家で何度も料理をしています。お弁当も、和彦さんのも作ってます!」
「え、お弁当、ですか?・・・」
「で、ですので、あの、火を使うのや刃物を使うのは慣れてますので・・・あの、お願いします。」
「っ・・・では、私の監視をお許しくださいますか?」
「!勿論です!有難うございます!」
よし!調理場確保できた!
だって~身体はまだ怠いけど暇を持て余してるんだもん。自分家じゃないし和彦さんに今日1日いるって言っちゃったから帰れないしねぇ・・・
昼食を取り終わり、覚束ない足取りで調理場へと行く。執事さんに腰を支えてもらったが少し恥ずかしかったな・・・あ、いやしっかりと腰を支えてもらいましたよ?エロさは全くありません。
執事さんが気を使ってくれたらしく調理場には通常6~7人いるはずが今は2人しかいなかった。・・・多分、調理の責任者と食料の管理者だろうね。
「ぼ、いや、私の勝手な我が儘を聞いていただき有難うございます。少しの間、調理場をお借り致します。」
「!い、いえ・・・お気になさらずに。・・・調理器具でわからない物があればお申し付けください。」
「有難うございます。」
「あ、私は食材を管理していますので、必要な物をお申し付けください。」
「本当に急に言ってしまい申し訳ないです。・・・宜しくお願いします。」
「は、はい!」
「?」
食材を管理する人、なんか萎縮してない?僕、ちょっと怖いかな?
と、とりあえずクッキーはプレーンとチョコと、あと抹茶と、あればジンジャーを作ろうかな。食後にちょっと間食する感じに4枚ずつ作ろうかな。
食材を頼む。・・・ああ、欲しい物全て揃ってた。さすが風間家。種類豊富に取り揃えてますね。
・・・材料を混ぜてる間、ずっと執事さんが傍でソワソワしながら作る作業を覗いていた。何故か調理場にいる2人も。
あのね、クッキー作る時、オーブン使う以外は混ぜる作業だけで、そんな危ない作業なんて一切ないからね?子供でも作れるんだからね!
チャッチャと作りましょう!
_______
「すみません、これをオーブントーストへ入れてくれませんか?」
「畏まりました。」
「後は焼き上がるのを待つだけです。・・・ね?足利さん、そんな危ない作業はなかったでしょう?」
「・・・手際良いですね薫風様。」
「ん?弁当やお菓子をよく作ってるからね。趣味のようなものだよ。」
「趣味・・・ですか。確かに手慣れてる様子ですね。」
「あ、味見してもらえますか?多分大丈夫だと思うのですが一応、ね。毒味も兼ねて」
「!毒味って・・・」
「ふふ・・・言葉のあやです。皆さんに見られてたのにどうやって毒をいれるんですか?しかもこ・・・恋、人、なのに・・・」
「・・・いえ、疑ってませんが、あまりにも物騒な事を言うので、驚きました。」
「す、すみません・・・冗談のつもりが真に受けられるとは・・・」
まさかの真に受けられたっ!うわっ気まずい!は、早く焼き上がってぇ~!そして自分で言うのはなんだけど『恋人』って言うの、かなり堪えるっ!は、恥ずいぃ~
ー20分後。
「!」
「これは・・・!」
「素朴な・・・でも愛情が籠ってるような気持ちになります~。」
「どうですか?味や食感とか・・・」
上から順に調理場担当者、執事さん、食材管理者の感想をもらえた。・・・うん、食材管理者さん、愛情は申し訳ないが込めてません。ごめんなさい。
店で売る事のできない、ただ家で楽しむ用に作られたクッキー。凝った材料を使わず家庭で手に入る物を使い、家庭用オーブンを使い焼いたクッキー。美味しい紅茶のお供にと作ったクッキーです。いかがでしょうか。
「美味しいです薫風様。あの・・・もう少し作って頂けませんか?」
「え?足利さん何を・・・」
「お手伝い致します。どうか作り方をお教えください!」
「ぼ、僕も!食材もっと持ってきますので、もう少し食べたいです!」
おおうっ!大好評でなにより。・・・なんでこんな素朴なクッキーが、こんなにも人気なんだ?みんな舌は肥えてるはずなんだけどなぁ~?
・・・それからこの屋敷にいる従者に何枚か渡るよう大量に焼く事になった。・・・はい、屋敷全体甘い香りが充満したのはご愛敬。
________
「お疲れ様です。和彦さん。」
「ただいま薫風。」
風間くんが帰ってきたと聞いたので出迎える。うん、満面の笑みを浮かべ抱き締められました。・・・疲れてるみたいだね。早速夕飯を食べに食卓へ。
・・・そして夕飯を少食にしてもらい、食後のお茶に誘う。嬉しいらしくニコニコして僕の腰に手を回して歩いてますよ、はい。
甘いクッキーに合わせスッキリとしたダージリンを用意してもらった。
「僕が作りました。前に食べたいと言ってましたよね。」
「これ薫風が作ったの?・・・うわぁ嬉しいな。・・・いただくよ。」
ちゃんと味見したし、味見してくれたお三方にも太鼓判もらえたし、大丈夫だよね?
「・・・うん、美味しい。これ本当に薫風が作ったの?これお店で売り出せる出来映えだよ!」
「そんな大袈裟な。でも、和彦さんのお口に合うようで安心しました。」
「美味しいよ。特に私はこのジンジャーが好きだな。これは何枚でも食べれる。・・・そうか、だから今日の夕食はいつもより少な目だったのか。」
「勝手な事してすみません。でもクッキーを味わってもらいたくて。」
「あぁ、ふふ・・・嬉しいよ。全然問題ないよ。これ、全部食べていいんだよね?」
「あ、僕も少し別けてください。」
「ああ、一緒に食べよう。」
・・・あーマッタリな一時。こんな時間も良いよねぇ~。あ、でも僕、今日学校サボったんだった・・・。いや!気にしない!体調崩したのは確かだし!うん、気にしない~・・・うぅ。
・・・そして風間くんのお礼は身体で返されました。ん?これもお決まりのパターンだよね・・・はい、諦めます。
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