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14、国王の愛妾(三人称視点)
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王太子のアドニスがドルルエ公爵邸を訪れている頃、王宮の一室では一組の男女が何やら密談をしていた。
「随分あの小娘にご執心なのねレオナール。どうして? 王太子殿下の妃になる女だからかしら」
そう言ったのは、鮮やかな赤毛の女である。
匂い立つような色気と男を誘う眼差し。
国王ベネディクテア七世の愛妾の一人ユーリアである。
元はただの町娘だったが、その美貌が国王の目に留まって愛妾となった。
隣に座る美丈夫に寄り添うようにして白い指をその青年の腕に這わす。
相手の男は流れるようなブロンドの髪に、深いエメラルドグリーンの瞳をしている。
女であれば誰でも思わず立ち止まって見入ってしまうような端正な顔立ち。
そして少し危険な香りがする眼差し。
この国の第一王子であるレオナール・エルファンである。
ユーリアは続けた。
「第一、貴方が大嫌いなマリエティーアにそっくりじゃない。いかにも高慢で気位が高い小娘」
女の言葉にレオナールは笑った。
「いいのかユーリア。愛妾のお前が第一王妃を呼び捨てにするなど、知られればただではすまないぞ」
ユーリアは呆れたように答える。
「良く言うわよ。国王陛下の女の部屋に来ている第一王子の方が、よっぽど危険じゃなくて?」
そう言うとユーリアは、部屋に飾られた煌びやかな装飾品を眺める。
「大体、本当は私は気楽な平民暮らしが結構気に入ってたのよ。王様が、どうしても私が好きだっていうから王宮に住んであげてるだけ」
ユーリアはそう言うと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「それよりさ、レオナール。ミーストル侯爵が、娘を貴方に嫁がせたいって言ってるらしいわね。軍にも顔が利く大貴族の娘じゃない。妃に選ぶなら、敵対するドルルエ公爵の娘なんかよりずっとましだと思うけど」
レオナールは長く逞しい腕でユーリアを抱き寄せる。
端正な王子の顔が間近に迫り、国王の愛妾の頬が染まった。
整った鼻先が絡み合い、唇からは吐息が漏れる。
「分かってないな、お前は。敵のモノだから欲しくなる、お前の時と同じようにな。それに、そもそもミーストルはすでに俺の配下だ。だが、ドルルエの娘を奪えばいずれ奴は俺に従うようになる」
「悪い男、この国の王を敵だなんて言って。それにこの指や唇で少し可愛がってあげれば、あんな世間知らずの小娘はすぐに落ちるわよ。貴方がいなければ、どうにもならないぐらいにね」
レオナールは立ち上がると言った。
「数日もすれば、あの小僧と小娘は婚約式を上げるだろう。だがそうなればこっちのものだ、いずれこの国の哀れな民どもが奴を王太子から引きずり降ろしてくれる。俺が代わりに王太子になれば、黙っていても奴は娘を差し出す。一度婚約を破棄した女を娶るのだ、俺のいいなりになるしかなかろう」
ユーリアがクスクスと笑った。
「そう言えば私の昔なじみも、少しは役に立ったみたいね。悪党だったけど、私にはよく貢いでくれたわ。でも盗賊の頭目と第一王子が手を結んでるなんて誰も思わないでしょうね」
「デュークスか、奴は腕が立つ。いずれ俺に仕える聖騎士にしてやるつもりだ。汚れ仕事を厭わん男は役に立つからな」
その時、ユーリアの部屋の扉がノックされる。
「エドラです。ユーリア様」
扉の向こうから聞こえる声を聞いてユーリアはドアを開ける。
王宮の侍女のエドラである。
清楚な顔立ちにそばかすが可愛らしい。
「おいで、エドラ」
レオナールの言葉にエドラは、ユーリアを気にしながら従った。
髪を優しく撫でられて、そばかすのある頬を真っ赤に染める。
ユーリアは呆れたように肩をすくめる。
「物好きだわね、ほんと。私に手を出したかと思えばエドラにまで。あんまりからかうんじゃないわよ、レオナール。そういう子が思いつめたら一番怖いんだからね」
「ち、違います! エドラはレオナール様の側にいられるだけで……」
ユーリアは笑った。
「ほら怖い、貴方のことになると私にまで逆らうんだからこの子は」
「そういじめるなユーリア。エドラ、何か俺に話したいことがあるんだろ?」
ハァハァと息を切らせているのを見ると、大急ぎでやってきたことが分かる。
エドラは胸に手を当てて呼吸を整えると、レオナールを見つめて言った。
「はい、レオナール様。先ほど、マリエティーア様付きの侍女達が話しているのを聞きました。王太子殿下とシャルロッテ様の婚約式は延期されるそうです」
その言葉にレオナールは一瞬、鋭い眼差しを見せたがすぐにエドラに微笑む。
そしてその髪を優しく撫でた。
「教えてくれて助かった、エドラ。さあもうお行き、怪しまれるからな。また今度部屋に呼んでやろう」
「は、はい! レオナール様……あ、あの、エドラはレオナール様の為なら何でも致します!」
エドラは可憐な顔を真っ赤に染めると、そう言って部屋を後にした。
ユーリアはレオナールの背中に身体を預けると、首から艶めかしい腕を絡めた。
「どうするの? どうやら、向こうも馬鹿じゃないみたいよ」
「ふん、まあいい様子をみるとしよう。どんな戦も相手に歯ごたえが無ければつまらんからな」
「随分あの小娘にご執心なのねレオナール。どうして? 王太子殿下の妃になる女だからかしら」
そう言ったのは、鮮やかな赤毛の女である。
匂い立つような色気と男を誘う眼差し。
国王ベネディクテア七世の愛妾の一人ユーリアである。
元はただの町娘だったが、その美貌が国王の目に留まって愛妾となった。
隣に座る美丈夫に寄り添うようにして白い指をその青年の腕に這わす。
相手の男は流れるようなブロンドの髪に、深いエメラルドグリーンの瞳をしている。
女であれば誰でも思わず立ち止まって見入ってしまうような端正な顔立ち。
そして少し危険な香りがする眼差し。
この国の第一王子であるレオナール・エルファンである。
ユーリアは続けた。
「第一、貴方が大嫌いなマリエティーアにそっくりじゃない。いかにも高慢で気位が高い小娘」
女の言葉にレオナールは笑った。
「いいのかユーリア。愛妾のお前が第一王妃を呼び捨てにするなど、知られればただではすまないぞ」
ユーリアは呆れたように答える。
「良く言うわよ。国王陛下の女の部屋に来ている第一王子の方が、よっぽど危険じゃなくて?」
そう言うとユーリアは、部屋に飾られた煌びやかな装飾品を眺める。
「大体、本当は私は気楽な平民暮らしが結構気に入ってたのよ。王様が、どうしても私が好きだっていうから王宮に住んであげてるだけ」
ユーリアはそう言うと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「それよりさ、レオナール。ミーストル侯爵が、娘を貴方に嫁がせたいって言ってるらしいわね。軍にも顔が利く大貴族の娘じゃない。妃に選ぶなら、敵対するドルルエ公爵の娘なんかよりずっとましだと思うけど」
レオナールは長く逞しい腕でユーリアを抱き寄せる。
端正な王子の顔が間近に迫り、国王の愛妾の頬が染まった。
整った鼻先が絡み合い、唇からは吐息が漏れる。
「分かってないな、お前は。敵のモノだから欲しくなる、お前の時と同じようにな。それに、そもそもミーストルはすでに俺の配下だ。だが、ドルルエの娘を奪えばいずれ奴は俺に従うようになる」
「悪い男、この国の王を敵だなんて言って。それにこの指や唇で少し可愛がってあげれば、あんな世間知らずの小娘はすぐに落ちるわよ。貴方がいなければ、どうにもならないぐらいにね」
レオナールは立ち上がると言った。
「数日もすれば、あの小僧と小娘は婚約式を上げるだろう。だがそうなればこっちのものだ、いずれこの国の哀れな民どもが奴を王太子から引きずり降ろしてくれる。俺が代わりに王太子になれば、黙っていても奴は娘を差し出す。一度婚約を破棄した女を娶るのだ、俺のいいなりになるしかなかろう」
ユーリアがクスクスと笑った。
「そう言えば私の昔なじみも、少しは役に立ったみたいね。悪党だったけど、私にはよく貢いでくれたわ。でも盗賊の頭目と第一王子が手を結んでるなんて誰も思わないでしょうね」
「デュークスか、奴は腕が立つ。いずれ俺に仕える聖騎士にしてやるつもりだ。汚れ仕事を厭わん男は役に立つからな」
その時、ユーリアの部屋の扉がノックされる。
「エドラです。ユーリア様」
扉の向こうから聞こえる声を聞いてユーリアはドアを開ける。
王宮の侍女のエドラである。
清楚な顔立ちにそばかすが可愛らしい。
「おいで、エドラ」
レオナールの言葉にエドラは、ユーリアを気にしながら従った。
髪を優しく撫でられて、そばかすのある頬を真っ赤に染める。
ユーリアは呆れたように肩をすくめる。
「物好きだわね、ほんと。私に手を出したかと思えばエドラにまで。あんまりからかうんじゃないわよ、レオナール。そういう子が思いつめたら一番怖いんだからね」
「ち、違います! エドラはレオナール様の側にいられるだけで……」
ユーリアは笑った。
「ほら怖い、貴方のことになると私にまで逆らうんだからこの子は」
「そういじめるなユーリア。エドラ、何か俺に話したいことがあるんだろ?」
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エドラは胸に手を当てて呼吸を整えると、レオナールを見つめて言った。
「はい、レオナール様。先ほど、マリエティーア様付きの侍女達が話しているのを聞きました。王太子殿下とシャルロッテ様の婚約式は延期されるそうです」
その言葉にレオナールは一瞬、鋭い眼差しを見せたがすぐにエドラに微笑む。
そしてその髪を優しく撫でた。
「教えてくれて助かった、エドラ。さあもうお行き、怪しまれるからな。また今度部屋に呼んでやろう」
「は、はい! レオナール様……あ、あの、エドラはレオナール様の為なら何でも致します!」
エドラは可憐な顔を真っ赤に染めると、そう言って部屋を後にした。
ユーリアはレオナールの背中に身体を預けると、首から艶めかしい腕を絡めた。
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