君に噛み跡を遺したい。

卵丸

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噛み跡

知りたい

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 絢斗は焼肉を焼いていると先に焼きあがった牛肉を遥が取ってタレが入っている小鉢に入れた。それに文句を言う絢斗に適当に謝って彼女は美味しそうに頬張った。

「俺が焼いた肉なのに!」

「じゃあ、次は食べませ~ん」

「当たり前だろ!・・・箕輪食べてるか?」

「えっはい、いただいています。」

「それなら、いいけど食わなきゃ、こいつが全部食うぞ?」

「箕輪君のは残すわよ!」

 2人の言い合いを眺めながら要はタン塩を噛みながらあの事を絢斗に話すか考えていた。

『裕君の件は解決した事をただ仲の良いだけの人に話していいのかな?』

 絢斗は眉間に皺を寄せ困った顔をしている要に気づき優しく話しかけた。

「どうした?しんどいのか?」

 絢斗に心配されて要は慌てて作り笑いを浮かべて成る可く明るい声を出して言った。

「大丈夫です。心配させてすみません、お肉が美味しくてつい・・・。」

 要は牛肉を口に入れようとしたが自分の手が震えてしまい牛肉がテーブルに落ちて思いっきり割り箸を噛んでしまった。

「!?」

 割り箸の痛みによって口元を押えて蹲っていると2人が心配して要の肩を叩いて絢斗が聞いてきた。

「おい、大丈夫か?」

「割り箸を噛むのは痛いよね・・・・。」

「っ・・・・・・・!?」

 数秒後、痛みがマシになってきた要は涙目になりながら2人に小さい声で口を開いた。

「・・・大丈夫です。心配かけてすみません・・・・。」

「それならいいが珍しいな、お前がこんなドジな事するなんて。」

「・・・はい、考え事をしてたらつい・・・・。」

「・・・考え事って悩み事なら相談に乗るけど、言えない事か?」

 絢斗の心配した表情を見ている内に変に心配かけるなら話した方が良いと思い要は裕一郎の事を話した。

「・・・先週に前の番に会って話しました。」

 要の言葉に絢斗は眉間の皺が深くなり静かな声だが怒りが含んでいる声で呟いた。

「・・・・今更、箕輪の前にのうのうと現れたな。」

「いえ、裕君にも理由がありました。」

 要は裕一郎が他の人に噛み跡を付けた理由を話した。 裕一郎は結衣の幼稚園の先生の事、裕一郎はΩ女性を護る為に噛み付いた事、何年も会ってないのが有り得ないほど昔のように話した事を説明したが絢斗は納得いってなさそうだった。

「でも、会わなかったら箕輪は捨てられて・・・その、悲しくて自殺する可能性もあったかもしれないじゃないか!俺は幼稚園で会わなければ箕輪の噛み跡を忘れるつもりだったかもしれないと思うと納得いかない!!」

「・・・氷室さん」

 怒りを隠しきれてない絢斗に要は困惑していると遥が真剣な表情で絢斗の肩を優しく叩いた。

「絢斗は賢いから分かってるとは思うけどこの件は部外者でしょ?それに箕輪君と裕君だっけ?その件は解決したしアンタが怒っても意味無いでしょ?・・・あの事と少し似てるけど箕輪君と重ねないの。」

 遥の言葉に絢斗は黙っていたが要は彼女の言ってた事が少し気になった。

「・・・あの事って?」

 要が聞くと遥は「しまった」と慌てた表情をして絢斗は遥を横目で睨みつけた。

「・・・・・・・氷室さん、教えてください。」

「えっ?」

「・・・・・あの事って僕と重ねてるって何をですか?」

『我儘なのは分かっているけど氷室さんの知らない事を僕は知りたい』

 要の強い眼差しに絢斗はたじろいたが遥は要を宥めるように焼いていた肉を要の小鉢に沢山ぶち込んだ。

「えっえ・・・・お姉さん!?」

「おい、何してんだよ!!」

「教えてあげなよ・・・でも、あの話は食べながらじゃ胃もたれするからお肉を全部食べてから絢斗ん家で話そうよ。」

「・・・・・本当に自分勝手な奴だな。」

「・・・・・・・・・絢斗のは奢らなーい!」

「なっ人がせっかく泊まらせたのに!!」

 2人の言い合いは周りの客の声に紛れてあまり目立つ事は無く、その後3人は黙々とお肉を咀嚼した。


 ***

 焼肉屋を出て遥がコンビニでお酒を買った後に絢斗が住んでいる創立1年の新しい立派なアパートのドアを開けて手を洗い3人はリビングに進んだ。テレビとテーブルにソファと殺風景な空間だが綺麗に整っていて居心地が良かった。

「結構、いい部屋に住んでますね。」

「でしょ~だから二人暮しも簡単に出来るのよ!」

「いや、遥の家じゃねーのに語るな。」

「ビールあげないよ!!」

 また言い合いが始まったので要は苦笑いをしていると絢斗は気づいて「ごめん」と謝り1回咳払いをしてから真剣な表情をした。その時、遥は笑顔が無かった。

「・・・・少し暗い話になるが大丈夫か?」

「・・・はい、教えてください。」

「・・・・わかった、あれは俺が高校の話だけど結構大きな事件だったしニュースで話題になった話なんだ・・・・。」

 ***

 私立の高校の3階の教室で絢斗は面倒くさそうに黒板を綺麗に消していた。そして深い溜息を洩らし椅子に座って日誌を書いている男子生徒に声をかけた。

「・・・日直って要らないと思うんだよな・・・。」

 するとストレートの黒髪の気弱そうな男子生徒が明るい声で絢斗に言った。

「そうかな、僕は大切な事だと思うけど?」

 その子は笑顔で答えると絢斗はまた溜息を吐いた。

「氷室君、そんなにため息吐くと幸せがどっかに行っちゃうよ?」

 木島 秀悟きじま しゅうごは爽やかな笑みを零して絢斗に囁いた。その言葉を絢斗は消すように言った。

「そんなもん、何処にも行かねーよ!」

「もう、またそんな事を言って!」

 彼は日誌を書き終えて教師の机に置くと安堵の息を吐いた。

「ふぅー終わった。」

 その時、秀悟の項から赤いのが絢斗から嫌でも見えてしまった。

「・・・本当に番になったんだな。」

 絢斗の言葉に秀悟は頬を赤く染めて自分の項にある真っ赤なチョーカーを右手で愛おしそうに撫でた。

「・・・とても嬉しいんだ・・・幼なじみで尊敬してたから・・・・。」

 するとガララと教室のドアが開く音がして振り向くと紺色の縁無し眼鏡をかけた真面目そうな黒髪マッシュの男子生徒が無愛想に秀悟を呼んだ。

「おい、行くぞ」

「あっうん待ってね。」

 秀悟は慌てながらカバンを持つと男子生徒に謝って2人は出て行った。

『確か、あれが木島の番の戸塚 博とづか ひろしか・・・。』

 博と秀悟は同じ剣道部で秀悟は日本大会で10位と良い結果を残した。だが秀悟はΩで大会でも活躍したせいで先輩から妬まれていて度々虐められていたが博が全部助けてくれた。そしてある日、博が秀悟にチョーカーを噛まれないように渡してくれた。

「・・・・何か無愛想な奴だったな・・・・・。」

 小さく呟いた絢斗はカバンを持って教室を出て真っ直ぐ家に帰った。

それから1ヶ月後、秀悟がマンションの6階のベランダから飛び降りて自殺した。
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