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第十四章
第三百七十五話 リテラ大陸
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中央大陸に住む者達の中にとって異大陸にあたる西方大陸は、そのまま〈西方大陸〉と呼ばれている。
〈西方〉と呼んでいることからも分かるように、これは自分達がいる大陸を世界の中心とした上での呼称だ。
だが、その西方大陸に住まう者達が自分達の大陸のことを西方にある大陸などと呼ぶわけがなく、彼ら自身は自分達の大陸を固有名称で呼んでいた。
「西方大陸、〈リテラ大陸〉か。前世の地球を彷彿とさせる名称だな」
再び地球に戻る、という意味でもあるのか、それともただの偶然か。
誰が名付けたか知らないが、この大陸の発展には地球からの〈転生者〉や〈転移者〉達の存在が深く関わっていることを踏まえると、帰れない地球への望郷の念が込められていても不思議ではない。
「そういえば、中央大陸に固有名称が無いのは、他の大陸の存在が一般的ではなくて必要性が無いからか? 南方大陸は文明的な理由で名前が無いんだろうけど……」
そんなふと浮かんだ疑問について考えながら、空飛ぶ居城である精霊天宮ティルナノーグの庭園から、地上に広がるリテラ大陸を見下ろす。
庭園がある王城エリアの位置的に肉眼で地上が見えるわけがないので、ユニークスキル【世界と精霊の星主】の固有特性〈妖星神眼〉に含まれている千里眼能力による視認だ。
「中央大陸の飛空艇に似た乗り物はあるが、形状は前世の飛行機に近いな。航空力学に関してもレベルが高そうだ」
遥か上空に不可視化状態で浮かんでいるティルナノーグに気付くことなく、その真下を飛行機に似た形状の飛空艇──飛行艦が通過する。
中央大陸の飛空艇よりも洗練された技術で作られているみたいだが、外側から確認できる範囲では俺が作る飛空艇に使われている外装性能と然程変わらないようだ。
内側に使われている技術までは分からないが……まぁ、今後調べてみれば分かることか。
リテラ大陸に到着後に解き放った眷属ゴーレム達によって、時間が経つにつれてリテラ大陸の情報は集まり続けている。
カラス型眷属ゴーレムであるフギンムニンによるリテラ大陸のマップの解放はまだ全て終わっていないが、それ以外の眷属ゴーレム達を使った受動的な情報収集方法にも限界がある。
そろそろ自分の足で情報を集めた方がいいだろう。
「この一週間でリテラ大陸の主要言語は全てマスターしたし、まぁ、大丈夫だろう。準備はいいな?」
「ハッ! 主様のために全力を尽くす所存です!」
ティルナノーグの庭園にいるのは俺だけではなく、振り返った先には一人の絶世の美女がいた。
俺と同じ二十代ほどの人族の外見をした美女の名前はヒュスミネ・ディスコルディア。
結い上げた長い金髪を揺らしながら応えたヒュスミネの紫色の目は使命感に燃えている。
そんなにやる気に満ち満ちる必要はないんだが……彼女の生まれを考えれば無理もない、のか?
「……目的は情報収集だから、そんなに力を振るう必要はないぞ。あと、主様と呼ぶな」
「ハッ、失礼しました、父上!」
「いや、それも止めろ」
「では、母上?」
「名前で呼べ、名前で」
「リオン様?」
「……偽名のニグラスと呼べ」
「はい、ニグラス様!」
「様……まぁいいか」
他の眷属を生み出すべきか悩んだが、一度生み出した人型眷属を消すのは少なくない罪悪感を覚えるから我慢するか。
ヒュスミネはユニークスキル【深闇と豊饒の外界神】の内包スキル【眷属創生】で生み出した人型眷属だ。
神域権能級のユニークスキルともなれば人型の眷属すらも生み出すことができ、生まれ落ちた時から成人体なので、分身体以外の人手がすぐに欲しい時に役に立っている。
最初の一人を生み出した時に調べた限りでは、普通の人類と殆ど変わらないようだ。
殆どというからには違う部分も存在しており、その一つが初期レベルだ。
普通の人類はレベル一からはじまるが、ヒュスミネ達人型眷属のレベルは八十と非常に高い。
その代わり、他の眷属と同様に自ら経験値を得てもレベルが上がることはないが、創造主である俺が魔力だけでなく経験値も消費すればレベル九十の状態で生み出すことができた。
レベル九十で生み出すと普通の人類と同様に覚醒称号を獲得でき、ヒュスミネも〈戦闘超人〉という覚醒称号を得ている。
他のレベル九十で生み出した人型眷属も〈戦争超人〉や〈悲嘆超人〉という覚醒称号を得ていた。
前世の神話のとある女神の子供達にピッタリな名前があったので、そこから〈戦闘〉〈戦争〉〈悲嘆〉という名前を付けた。
レベル九十で生み出すには少なくない経験値が必要なので、出来るだけ生み出したくなかったが、このリテラ大陸での活動はリーゼロッテ達にも秘密なので中央大陸から人手を調達するわけにはいかない。
他のマケーとアルゴスは能力的に少し不適格なので、こうして最適な能力を持つ人型眷属を生み出すことにしたわけだ。
「この大陸に主様の姿を知る輩はいませんが、姿を変えるのですか?」
今の俺は黒髪であること以外は顔立ちも含めて普段と容姿が異なる。
普段は非有効化にしている【世界と精霊の星主】の内包スキル【支配ノ黄金】を有効化にしているため、今の俺の目の色は濃紫色ではなく黄金色をしている。
顔立ちもハイエルフに種族変化した際の顔にしているため、素顔よりもかなりの美形なので見た目の印象は結構違う。
種族もハイエルフ族にしないのは、今から活動する場所に人族以外の人類種がほぼいないからだ。
「これから向かう〈グランアス真帝国〉は人族至上主義国家だからな。情報収集をするのに人族以外だと不便だろ? この顔は、容姿が良い方が情報を集めやすいからだよ」
「なるほど!」
他にも相棒であるヒュスミネが絶世の美女なので、少しでも釣り合いが取れる容姿をしていた方がトラブルも少ないと判断したのもある。
まぁ、そこまで説明する必要はないから言わないけど。
「ですが、その顔だと別の問題が起きるかと思います」
「別の問題?」
「ハッ。主に女性トラブルです! 無闇矢鱈に女性を惹きつけると、情報収集活動の際に邪魔になると愚考します」
「そんなわけが……ありそうだな。情報を集めるには良い容姿だから、顔をこのままにしておきたいな。普段は顔を隠す形にするべきか?」
「それがよろしいかと」
現在の俺は魔導具の革鎧以外で目立つアイテムは身に付けていない。
こんなに貧相な装備なのは、現地で魔導具の正確な価値を把握してから正式な装備を決めようと考えていたからだ。
リテラ大陸に魔物は殆どいないと聞いていたが、実際には魔物討伐の生業が成り立つ程度には大陸内には多くの魔物が生息している。
ただ、リテラ大陸の人類国家の繁栄ぶりを見るに、中央大陸よりも魔物の生存圏が縮小しているのは間違いないようだ。
未だに生存している魔物や、その魔物に対する人類側の戦力について詳しく調べるために、俺達はこれから冒険者になるつもりだ。
ヒュスミネを生み出した主な目的も、一人で活動するよりも二人の方が目立たないのと、一人じゃなければ他のパーティーからの誘いを断わりやすくなると判断したからだ。
「異なる大陸の別の冒険者組織だから二重登録にはならないよな?」
「ハッ。問題ないかと」
分かり切ったことを尋ねながら、【無限宝庫】内にある装備を確認していく。
大陸が異なれど、魔物や迷宮といったモノが存在するのは同じなので、冒険者という同名の職業が生まれるのは必然なのかもしれない。
地球から来た者達が原因の可能性もあるが、情報収集活動や財貨獲得手段に使える組織や職業がリテラ大陸にもあるのは、俺にとっては都合の良いことなので深くは考えない。
「取り敢えず今は仮面でも被っとくか」
全身鎧でも装備しようかとも思ったが、新人の段階で目立つ必要はないので目元を隠す仮面を被るだけにしておいた。
「これで良いだろう。では、行こうか、ヒュスミネ」
「ハッ! かしこまりました、主様」
「ニグラスと呼べと言っただろう」
「ハッ! 失礼しました、ニグラス様」
戦闘方面に特化し過ぎたかもしれない、と一抹の不安を覚えつつ、ヒュスミネの手を取る。
その状態でティルナノーグを異界にある固有領域〈強欲の神座〉へと戻す。
俺達が立っていた足場が消失したことで落下が始まるが、すぐに転移を発動させて地上へと降り立った。
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