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第三章
第百三十八話 マーレボルジェ
◆◇◆◇◆◇
金峰ホールディングスの裏の仕事を担う部隊は複数存在すると聞いたことがある。
回帰前の一時期、俺も金峰ホールディングスの関連ギルドに所属していたが、配属先は表の部隊であるダンジョン攻略隊の1つだったので、裏部隊が全部で幾つあるかまでは把握していなかった。
だが、裏部隊にいる者達の中でも特に優秀な覚醒者達については、攻略隊に増援で加わることもあったので少しだけは知っていた。
「アイツは弱体化役だったよな。ステータス的にも間違いなさそうだ」
〈月神の賢眼〉の鑑定結果から回帰前の情報が正しいことを確認すると、標的に向けて【悪獄ノ王】を発動させた。
○スキル【悪獄ノ王】
任意発動型特殊スキル。
対象がこれまでに犯した罪に応じた特殊なマイナス効果を一定時間対象に強制的に付与する。解除不可。
また、発動と同時にスキル所有者は悪性存在に対する特効である〈悪ノ爪〉状態になる。
対悪人スキルと言っても過言ではない【悪獄ノ王】の効果により、未来で有力な弱体化役だった探索者に多数のマイナス効果が付与された。
〈ステータス減衰〉〈感知力低下〉〈魔力機能低下〉〈混濁〉などといったマイナス効果が次々と付与され、突然の弱体化によって標的の探索者がフラついた後に、その場に蹲った。
「おい、どうしたんだ!?」
「大丈夫か、グッ!?」
「な、なんだ、これは?」
様子のおかしい弱体化役の元に駆け寄ってきた戦士系探索者達にも、複数のマイナス効果が強制的に付与される。
後衛陣の守りを担当していた戦士系探索者達だけでなく、残りの後衛陣も視界に収めて【悪獄ノ王】を発動させていく。
付与されるマイナス効果の質と数に差はあるが、最も少ない者でも2つのマイナス効果が付与されていた。
全員に〈ステータス減衰〉が付与されていることから、このマイナス効果だけは確定で付与されるのかもしれないな。
「【悪獄ノ王】でも『夢幻の虚像』の魔法効果は消えるのか。まぁ、役目は果たしたから別にいいか」
『夢幻の虚像』と同時に効果が消えた〈冥府ノ外套〉の【幻貌無姿】を再び発動させて姿を隠す。
その僅かな間に弱体化した裏部隊の後衛陣が、エリアボスの取り巻きのモンスターに襲われていた。
【悪獄ノ王】で弱体化する前はエリアボスと戦っている前衛陣の支援をする余裕があったが、今は自分達の身を守るので精一杯になっている。
後衛陣からの支援が断たれたことで、優勢だった前衛陣とエリアボスの戦況にも変化が起きていた。
「押されてはいるが、風刃鬼の今の実力次第では巻き返せそうだな」
回帰前の未来では〈風刃鬼〉の渾名で呼ばれていた裏部隊のリーダーだけはまだ余裕があるように見える。
裏の仕事を担う部隊のリーダーなだけあって実力が高く、肝も据わっているのでこの程度の劣勢では崩れたりしないようだ。
「弱体化のタイミングは……ここだ!」
相対するエリアボス〈紅殻守羅魔蜂将〉の攻撃を紙一重で躱わす、そんなタイミングで【悪獄ノ王】を発動する。
風刃鬼に〈ステータス減衰〉を含めた10を超える数のマイナス効果が一気に付与され、その動きに格段に悪くなった。
「ッ!?」
風刃鬼の身を常に守っている風の鎧が、アスラジェネルが横薙ぎに振るった大鉈の一撃を一瞬止める。
その隙に風刃鬼はマジックアイテムの短剣を振り上げ、アスラジェネルの大鉈を上へと弾き、自分の首を狙った攻撃を防ぎ切った。
「チッ。スピード系は厄介だなッ」
次善の策で具現化しておいた【海獣ノ魔槍】の魔槍を振り被り、体勢を立て直したばかりの風刃鬼に向けて投げ放った。
心臓を狙い穿つ魔槍ゲイボルグが木々の間を駆け抜け、背後から風刃鬼へと迫る。
たぶん当たるだろうが、駄目押しで更に【麻痺の邪眼】も使って動きを阻害した。
すぐに抵抗されてしまったが、その一瞬の停滞の間に、風刃鬼の胸をゲイボルグが貫いていった。
── スキル【魔喰ノ精霊王】が発動します。
──対象への能力行使に成功しました。
──耐久値が10ポイント増大します。
──敏捷値が13ポイント増大します。
──反応値が11ポイント増大します。
──体力値が7ポイント増大します。
──スキル【対人戦威】を獲得しました。
「リーダーッ!?」
風刃鬼と共にアスラジェネルと戦っていた彼の部下の1人が悲鳴のような声を上げる。
その探索者にも【悪獄ノ王】を使って弱体化させると、それから間もなくアスラジェネルに真っ二つにされていた。
今ので魔力が残り1割を切ったので〈天使の雫〉を食べて回復させる。
リーダーの風刃鬼を失ったし、前衛陣もすぐに全滅するだろうから、これ以上は【悪獄ノ王】を使う必要はないだろう。
当たり前のことだが、裏部隊の動向は金峰ホールディングス側は把握しているので、部隊が帰還しない場合はほぼ間違いなく現場を調べられる。
そのため、出来る限り他の人間が現場にいた痕跡は無い方がいい。
アスラジェネルが操る武器の中には槍もあるため、風刃鬼をゲイボルグで殺しても人間にやられたと気付かれる可能性は低いが、出来れば避けたかったところだ。
「エリアボスとの戦闘の痕跡は消しようがないからな。下手に死体を処理すると大事になりかねない。協会まで関わる事態になったら最悪だしな」
死体を完全に隠すならば、戦闘痕も隠さなければ意味がない。
エリアボスのアスラジェネルに関しては、風刃鬼達の死体に怪しい痕跡さえなければ、風刃鬼達が戦った後に戦った何者かに倒されたのだと判断されるはずだ。
「あとは生き証人でもいれば……あの覚醒者とか良さそうだな。非戦闘員っぽいし、逃げ出してもおかしくはない」
裏部隊の中に何故か1人だけ戦闘能力を持たない者がいたので、自然な形で彼を気絶させるのは簡単だ。
それから他の探索者達の近くに放置しておけば、後は勝手に保護されて此処で起きたことを報告してくれることだろう。
「『恐怖』『催眠』」
姿を隠したまま生き証人候補の鈴原とかいう中年覚醒者に近付き、密かに闇属性魔法を使う。
死に対する恐れを増幅させてから、催眠状態に陥った鈴原の耳元で逃げ出すように囁いた。
すぐに悲鳴を上げながら現場から逃げ出した鈴原を追い、適当なところで気絶させて確保した。
気絶した鈴原を【植物支配】で操った草木で覆い隠してから現場に戻ると、裏部隊の最後の1人がモンスターに殺されたところだった。
「お、ちょうどいいタイミングだな。」
エリアボスのアスラジェネルはあまり弱っていなかったが、取り巻きのモンスター達はかなり数が減っていた。
これだけ数が減っていれば、少しは楽ができそうだな。
現場の状況を確認しつつ、ボス戦の前にリリア達と合流すべく移動した。
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