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第一章
第四十九話 異能の序列
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白霊剣オルトレールがウーの身体を斬り裂いた。
だが、その傷は想定したよりも浅い。
両手を斬られた瞬間にウーが全力で後退したのが理由だった。
「逃がさな──」
「ガァアアァッ!!」
「くっ!?」
追撃を仕掛けようと一歩踏み出したタイミングで、ウーから咆哮と共に大量の魔力が放たれる。
純粋な魔力の放出に伴う物理的な衝撃によって出鼻を挫かれた直後、ウーの肉体が変異する。
大柄ではあるが人間の見た目だったウーの身体に、瞬く間に短い獣毛が生え揃っていく。
頭部の形状もヒトではなくなり、その姿形はまさに虎の頭部を持つ人型の異形だった。
現時点がどうかは知らないが、未来である前世におけるウーの二つ名の〈無葬獣〉にある〈獣〉の要素は、この【獣身化】というレアスキルにあった。
【獣身化】の発動に際して齎される副次的な効果によって、斬り落としたウーの両手が再生されている。
その両手からは当然ながら鉤爪武器が失われているが、今のウーの両手は人の五指の手でありながら獣の爪を持っているため、攻撃力が落ちたと考えるのは早計だろう。
このスキルを使われる前に終わらせたかったんだが、そう都合良くはいかなかったか。
「ガァッ!!」
「くっ!?」
獣身化したウーが距離を詰めてその剛腕を振り下ろしてきた。
振り下ろされたウーの爪撃で地面が割れた。
こんなのを喰らったら今の俺では一撃で終わりだな。
オルトレールの【白聖霊起】で身体能力を超強化してもなおギリギリでしか躱わせないので生きた心地がしない。
攻撃の余波だけで防具に傷が刻まれ、露出している肌が裂けて出血する。
第1層能力【魔生変換】で魔力を生命力に変換することで、怪我をして失われた生命力が回復され怪我は瞬時に治癒される。
現在の俺の魔力値は装備込みで300近くあり、魔法系クラスの上級覚醒者でもここまで高い値は滅多にいない。
俺はその魔力値に相応しい量の魔力を保有しているが、そんな魔力も2つのアーティファクトにより実現した空間属性の刃の維持で急激に減少し続けていた。
そのため、いつまでもダメージを受け続けるというわけにはいかない。
「速い……ッ!」
〈月神の賢眼〉には3つの能力がある。
生物非生物問わず自他の情報を鑑定できる能力、空間認識能力、そして先読み能力だ。
後ろの2つは同化中でしか使用できない能力であり、今は空間認識能力だけでなく先読み能力も使っている。
3つ目の先読み能力は、前2つの能力から派生した能力に近く、一定範囲内の空間から収集した情報を元に対象の動きを予測するという仕組みだ。
だが、幾ら先読みができても、その予測に身体がついていけなければ意味がない。
いや、意味がないは言い過ぎだが、これでは先読み能力を十全に役立てることができないのは間違いない。
実際、動きを先読みをしても俺の剣は獣身化状態のウーを捉えることが出来ておらず、一方的に嬲られていた。
【白聖霊起】でウーの身体能力を上回ったと思ったら、【獣身化】によって簡単に逆転されてしまった。
回帰前のウーの情報があっても、そのウーは今のウーよりも強い上に、俺自身が直接対峙して得た情報というわけではないため、【獣身化】の正確な身体強化率など分かるはずがない。
だから、不確定要素の【獣身化】を使われる前に終わらせたかったんだが、ウーの実戦経験と生存本能は俺の予想以上だったため、一転して劣勢の状況に陥っていた。
「はぁ……やはりコレしかないか」
素早い獣を捕らえるには罠を仕掛けるのが最適だ。
その罠に誘い出すには、相応の餌を用意してやる必要がある。
「ッ! 逃がさんッ!!」
獣身化状態になってから初めて聞いたウーの人語を背後に聞きながら逃走を開始する。
とはいえ、身体能力は向こうの方が上なのだ。
そんな敵を相手にして逃走が成功するかと言ったから、答えはただ一つだ。
「ガハッ!?」
背後から急速に迫る気配に振り返ると、頭部を守るためにオルトレールを盾にする。
一直線に突っ込んできたウーは、その剛爪をガラ空きになっている俺の腹部へと突き出してきた。
ウーの爪が腹部を貫通し、迫り上がってきた大量の血を吐き出す。
予測した通りの結果とはいえ、やっぱりスゲー痛い。
「だが、ゴホッ、つーかまえたッ」
腹を貫くウーの腕を掴むと、異能【万物変換】の第6層能力【状態変換】を発動し、ウーの異能【幻想否定】を〈封印〉状態へと変換する。
魔法やスキルといった覚醒者由来の事象を破壊する【幻想否定】は、異能の力に対しても効力を発揮することが分かっている。
だが、全ての異能の力に対して効力を発揮するわけではなく、前世では無効化できない異能も存在していた。
立場の異なる異能持ち覚醒者を集めて検証なんて行えないので正確な理由は不明だが、おそらくは同じ異能という括りの中にも序列があるからだと思われる。
覚醒者自身の成長に伴い異能も成長するため、この序列が永久のものではないだろうが、それに関しては今は置いておこう。
大事なのは、今現在の俺とウーの異能の序列だ。
こればかりは実際に試してみないと確証はなかったが、結果は予想した通りだった。
──異能【万物変換】を発動します。
──対象の状態を変換します。
──対象の変換に成功しました。
──対象:異能【幻想否定】の全能力の状態が〈封印〉状態へと変換されます。
【幻想否定】が〈封印〉されたことで、腹部を突き破られると同時に強制解除されていた身体強化状態が復活する。
更に所持している全ての強化系スキルを発動させると、逃がさないようにウーの腕をしっかりと掴んだ。
「何ッ!?」
自分の異能が使えなくなったことに気付いたウーが動揺している。
獣身化によって虎顔になっていて表情は読めないが、なんとなくそんな気がする。
もし俺の異能が通じなかった場合は、アーティファクトである【貪欲の聖杯】のコピー能力【貪欲なる写し手】を使って【幻想否定】の力をコピーし、同じ能力で打ち消し合わせるつもりだった。
だが、このサブプランだと俺の異能を使った場合以上に【幻想否定】を無力化するまでに時間がかかるため、その前にウーにトドメを刺されてしまう可能性があった。
一見すると賭けに近いものがある二択だが、俺の異能が覚醒者殺しの異能如きに負けるとは微塵も思ってなかったので、実質的に一択だったわけだ。
覚醒者殺ししか出来ない異能と、能力封印という覚醒者殺しも出来る異能ならば、どちらの方が上なのかは明らかなのだから。
【状態変換】を使うには直接触れる必要があるため、ウーを捕らえるにはダメージを負う必要があったが、今度こそ上手くいって良かった。
──異能【万物変換】を発動します。
──対象の状態を変換します。
──対象の変換に成功しました。
──対象:スキル【獣身化】の状態が〈封印〉状態へと変換されます。
思った以上にウーが動揺していたため、その隙に【獣身化】も〈封印〉しておいた。
【幻想否定】という信頼していた強力な力が使えなくなった衝撃がそれだけ大きかったのだろう。
これまでウー自身が他の覚醒者に対してやってきたのと同じようなモノなので、最期に良い経験ができたじゃないか。
ちなみに【獣身化】より先に【幻想否定】を〈封印〉したのは、先に【獣身化】を〈封印〉してしまうと【幻想否定】で〈封印〉状態を解かれる可能性があったからだ。
まぁ、この感じだと杞憂だったかな?
「馬鹿な、こんなことが……」
「じゃあな。強かったぜ、〈無葬獣〉」
獣身化が解けて人間の身体へと戻ったウーに向けてオルトレールを振り下ろす。
呆然としていたウーが慌てて防御態勢を取ろうとするが、もう遅い。
仮に間に合ったとしてもウーの力では絶対切断の刃を防ぐことはできないのだから、まさに無駄な抵抗だな。
前世のウーの最期と同じ様に真っ二つに両断して倒したのは、俺なりのお茶目な戯れというやつだ。
── スキル【魔喰ノ精霊王】が発動します。
──対象への能力行使に成功しました。
──筋力値が10ポイント増大します。
──耐久値が10ポイント増大します。
──敏捷値が10ポイント増大します。
──反応値が10ポイント増大します。
──体力値が10ポイント増大します。
──スキル【幻想壊皮】を獲得しました。
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