万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵

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第二章

第五十八話 模擬戦

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 ◆◇◆◇◆◇


 模擬戦の試合開始と同時に動き出した俺達だが、その移動先に関しては同じではなかった。
 マキナは俺との距離を詰めるために前進し、俺はマキナとの距離を空けるために後退していた。


「危なッ」


 同化中のアーティファクト〈月神の賢眼〉の先読み能力で予測した通り、俺がまだ後ろに飛び退いている間に、俺が試合開始直前までいた空間をマキナの剣が薙ぎ払っていた。
 すぐに後ろへ動いていなければ、一撃で終わることはなくても、初手から試合のペースを完全に握られていただろう。
 〈月神の賢眼〉でマキナのステータスを見たところ、彼女はスピード偏重型の覚醒者であることが分かった。
 その情報などを基にした先読みが正しかったことが証明された。
 ならば、次のマキナの動きも予測できる。

 【思考乖離】で思考が加速されていてなお速いと感じられる動きで、マキナが飛び退く俺を追撃して来ようとしている。
 漸く着地した頃には、マキナは後一歩で剣の間合いに入るほどの距離まで詰めてきていた。
 その動きを見据えつつ、【肉体変換】で能力値をマキナと同じスピード偏重型へと変更させると、魔力を纏わせた模擬刀でマキナの剣を受け止めた。


「速いですね」

「よく避けましたね」


 お互いに同じタイミングで軽口を叩くと、これまた同時に【身体強化】のスキルを発動させた。
 互いに剣と刀を打ち合いながら、模擬戦用スペース内を高速で走り回る。
 先日戦ったウーが【獣身化】を使った時の速さほどではないが、その速さに迫るスピードだ。
 マキナの眼差しを見るに、まだ様子見の段階のようだが、それでいてこの速さと鋭さとは、流石は大型ギルドのNo.3と言うべきか。
 とはいえ、このまま様子見を続けさせるつもりはない。
 全ての力を明かすつもりはないが、彼女達に力を認めさせるには、ある程度の力は見せる必要があるだろう。


──異能【万物変換コンバート】を発動します。
──魔力属性を〈無〉から〈破壊〉へと変換します。
──魔力属性の変換に成功しました。


 マキナと斬り結んでいる最中、魔力の属性を変換する異能の第3層能力【属性変換】を使用し、模擬刀に纏わせている魔力の属性を、〈破壊〉という特殊属性魔力へと変えた。


「ッ!?」


 その結果、マキナの剣を保護していた魔力が、一合目で綻び、二合目で破壊された。
 そして三合目でマキナが使っている模擬戦用の剣に亀裂が入った。
 剣を折るためのトドメの一撃を振るう──のを止めて、身体の正面に刀を構えた次の瞬間、死角からの攻撃による凄まじい衝撃に襲われた。
 盾代わりにした刀では衝撃を受け止めきれず、空中へと吹き飛ばされたが、その途中で一回転して勢いを殺す。
 それでも殺しきれなかった分の勢いは、アーティファクト〈支配の王環〉の念動力を使って無理矢理相殺してから着地した。


「様子見は終わりですか?」

「そうですね。噂が伊達ではないことが分かりましたので、少しだけ本気を出しましょう」


 試合開始から今まで1本の剣しか使っていなかったマキナが、漸くもう1本の剣を抜いていた。
 クエスト報酬からも分かるように、マキナは両手それぞれに剣を持つ双剣スタイルの剣士だ。
 【双剣術】によるスキル補正により、両手持ちから片手持ちへと変わっても剣撃は弱まるどころか、逆に強化されている。
 これは油断でき──。


「【剣爛舞闘】」

「くッ!?」


 咄嗟に再度正面に構えた模擬刀が、纏っている破壊属性魔力ごと刹那の間に破壊された。
 双剣によって十字状に振るわれた斬撃の軌跡の向こう側には、金色のオーラを全身に纏っているマキナの姿が見える。
 能力の発動か攻撃の余波で編んでいた髪が解けており、長い髪が後ろに流れていた。
 その長髪姿と、金色のオーラ、そして双剣を使う女性という情報から、やっとマキナを何処で見たことがあったかが分かった。

 回帰前の未来には、〈隻眼の剣鬼〉という異名を付けられている女性覚醒者がいた。
 探索者IDを発行している探索者協会などの組織を除けば、彼女の本名は誰も知らなかったが、その途轍もない強さと外見的特徴だけは知れ渡っていた。
 何処のギルドにも所属していないが、かつては所属しているギルドがあったという噂は聞いたことがあった。
 隻眼の原因である顔に刻まれた一筋の傷は、そのギルドが壊滅した時に負った怪我だとも言われていたっけ。
 ちなみに、先日俺が倒したウーを回帰前の未来において倒したのも彼女だった。

 髪型や雰囲気、傷跡が目立つ顔、無気力な色を宿した隻眼、必要最低限のことしか喋らない無口っぷりと、未来のマキナと今現在のマキナを結び付けるのは難しい。
 だが、髪色と双剣使い、金色のオーラという共通点から〈隻眼の剣鬼〉だと一度気付いたら、もう同一人物にしか見えなくなった。
 〈隻眼の剣鬼〉が使う力の名称を知っていればもっと早く気付けたんだろうが、回帰前の俺にはそれを知る機会が無かったからな……。
 
 取り敢えず、このままでは勝てないことがよく分かった。
 クエスト報酬を大量獲得するためにも、切り札を使わなければならないようだ。
 

「【煌獣人化ルプスルキス】」


 光属性の白いオーラを身体に纏うと共に、体毛が白銀色に変化し、頭部に狼耳が生える。
 【勇猛戦煌の英雄クーフーリン】の【煌獣人化ルプスルキス】により全身に強大な力が満ちる。
 今の俺ならば、【剣爛舞闘】で強化されているマキナの動きすら捉えることが可能だった。
 剣が破壊された勢いで両手が上がっていた俺へと迫る双剣に対して、その両手を強引に振り下ろすことで迎撃する。


「くっ!?」

「ッと。おお、防げるもんだな」


 後出しでも防御が間に合ったことに胸を撫で下ろす。
 双剣の斬撃を弾いた両手は白いオーラで保護されているため傷一つ無い。
 少なくとも金色のオーラで強化された模擬剣ならば打ち勝てるほどには強靭なオーラのようだ。


「……素敵な格好ですね」

「そうですか? まぁ、そちらの切り札に対抗できる程度には素敵な力ではありますねッ!」

「ッ!!」


 一瞬で間合いを詰めると、マキナに向けて白きオーラを纏う手刀を全力で振り下ろす。
 残念ながら今のマキナを完全に上回れるほどのスピードではないため、攻撃は防がれてしまった。
 だが、この手刀の一撃で双剣は金色のオーラごと砕け散り、マキナは次の一撃を防ぐ手段を失った。
 間髪入れず逆の手による手刀を振るい、膝立ち状態のマキナの首筋へと添えると、すぐに審判であるレイカ先輩の声が聞こえてきた。


「そこまで! この試合、クロヤ君の勝ちよ」


 審判の宣言で勝敗が確定すると、目の前にクエストの結果を知らせるウィンドウが出現した。


──クエスト『己が力を魅せつけよ』が達成されました。
──強者に勝利しました。
──報酬が確定します。
──達成報酬として対戦相手:芹沢マキナからの好感度上昇(中)、スキル【直感】、スキル【双剣術】、スキル【天脚】を獲得しました。
──自らの力を存分に示しました。
──特別報酬:芹沢マキナからの好感度上昇(中)→(大)


 さて、これで本当に好感度は上がったのだろうか?


「大丈夫ですか?」

「大丈夫です。怪我はしておりませんので」


 膝立ちのままのマキナへと手を差し伸べると、彼女は特に躊躇うことなく手を取って立ち上がった。


「レイカお嬢様の人を見る目が節穴ではないようで安心致しました。本装備ではないとはいえ、わたくしに勝てるほどの力があるならば、誰も文句は言えないでしょう」

「それなら良かったです。芹沢さん、模擬戦の相手を務めていただきありがとうございました」

外神とがみ様。わたくしのことはレイカお嬢様と同じようにマキナとお呼びください」

「そうですか? では、マキナさんと呼ばせてもらいます。マキナさんも俺のことはクロヤと呼んでください」

「かしこまりました、クロヤ様」


 彼女の方から名前で呼ぶように言ってきているから、確かに好感度は上がっているのかな?
 表情に変化は無いけど。試合開始前に向けられた敵意が無くなっているから間違いないか。
 そう考えれば、意味のある報酬だったと言えるかもしれないな。


「クロヤ様」

「はい。なんでしょう?」

「お時間のある時で構いませんので、また試合をしていただけますと嬉しく思います」

「ええ、良いですよ」

「ありがとうございます」


 確かに、マキナほどになると対人戦の練習相手を見つけるのも難しいだろうからな。
 俺としても得るものがありそうだし、時間が合えばまた彼女と模擬戦を行うとしよう。



 
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