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それから病は糸が切れたように悪化していき、彼への想いと棗への罪悪感に溺れ朦朧とする日々が続いた。
体内を傷付けながら成長を続ける蔓は、あっという間に皮膚の上まで範囲を広げて葉をつけている。
化け物、そう呼ばれても仕方がない見た目を今の僕はしているのだろう。
常にひどい痛みがあり、血を吐くこともあって。
まともに動けなくなり、このまま独りで死んでいくのだと思っていた。
けれど大学に行けなくなって少し経った頃、何度かインターホンが鳴った後すぐ、ガチャリと鍵が開く音がして誰かが入ってきたのだ。
「…どう、して…」
「大学に来てないって聞いて…合鍵も返し忘れてたし…それで…」
「…っ嫌…見な、い…で…っ」
「花咲病…なのか…?」
ドアの方に目を向けると、そこには棗の姿があった。
あまりに突然すぎる出来事に、愕然としてしまう。
ぽろりと漏らした僕の疑問に棗は答えながら、ゆっくりとベッドに近寄ってくる。
それにハッとして毛布で必死に顔を隠し、思わず声を荒げた。
ガタガタと身体を震わす僕の背中を、動じることなく優しくさすりながら、棗は嫌というほど聞き覚えのある病名を口にしたのだった。
「…知ってる、のか…?」
「本で読んだことがあったんだ…」
「じゃ…発症する、理由…も…」
「…知ってる」
そろりと毛布から顔を出し、恐る恐る問いながら身体の向きを変えれば、しゃがみ込んでいる悲痛な面持ちを浮かべた棗と目が合った。
何も知らずにいてくれたら、どんなに良いだろうと思ったけれど、現実はそう甘くはなくて。
静かな声で返ってきた答えに、絶望感が襲い掛かる。
哀しませない為に選んだ別れだったはずなのに、結局こんな顔をさせてしまった。
「…相手は昔の恋人、だよな?」
「…っな、んで…」
「付き合ってすぐ…だったかな、気付いたのは」
何も言えずに黙り込んでしまえば、重たい空気が全身を包む。
それでもどうすることも出来ず時間だけが経過していくばかりだった中、突然ぽつりと呟くように棗の口から想像もしない台詞が放たれる。
唖然とする僕を少し気にしながらも更に言葉を続け、悔しそうにぎゅっと唇を噛み締めた。
「正直、羨ましいよ。そんなに凛太朗に愛されて」
「…なつ、め…」
「でも俺ね、一番じゃなくても良かったんだ。少しでも愛そうとしてくれた事実が、嬉しかったんだよ」
「ごめ…っごめ、ん…ッご、め…んな…」
今まで一度だって考えもしなかったことが語られていく。
まさか全て知ったうえで付き合っていたなんて。
泣きじゃくる僕の頭をそっと撫でて、凛太朗は何も悪くない、そう言って棗はぎこちない笑みを浮かべている。
そんなことない、何にも悪くないはずがない。
だって彼に関する記憶なんて忘れてしまいたいと思う反面、何処かで忘れたくないと思っている自分がいたのだから。
こんなにも大切に想ってくれていたというのに、勝手な感情に巻き込んで哀しませている自分が許せない。
僕に棗を愛する資格など、最初からなかったのだ。
体内を傷付けながら成長を続ける蔓は、あっという間に皮膚の上まで範囲を広げて葉をつけている。
化け物、そう呼ばれても仕方がない見た目を今の僕はしているのだろう。
常にひどい痛みがあり、血を吐くこともあって。
まともに動けなくなり、このまま独りで死んでいくのだと思っていた。
けれど大学に行けなくなって少し経った頃、何度かインターホンが鳴った後すぐ、ガチャリと鍵が開く音がして誰かが入ってきたのだ。
「…どう、して…」
「大学に来てないって聞いて…合鍵も返し忘れてたし…それで…」
「…っ嫌…見な、い…で…っ」
「花咲病…なのか…?」
ドアの方に目を向けると、そこには棗の姿があった。
あまりに突然すぎる出来事に、愕然としてしまう。
ぽろりと漏らした僕の疑問に棗は答えながら、ゆっくりとベッドに近寄ってくる。
それにハッとして毛布で必死に顔を隠し、思わず声を荒げた。
ガタガタと身体を震わす僕の背中を、動じることなく優しくさすりながら、棗は嫌というほど聞き覚えのある病名を口にしたのだった。
「…知ってる、のか…?」
「本で読んだことがあったんだ…」
「じゃ…発症する、理由…も…」
「…知ってる」
そろりと毛布から顔を出し、恐る恐る問いながら身体の向きを変えれば、しゃがみ込んでいる悲痛な面持ちを浮かべた棗と目が合った。
何も知らずにいてくれたら、どんなに良いだろうと思ったけれど、現実はそう甘くはなくて。
静かな声で返ってきた答えに、絶望感が襲い掛かる。
哀しませない為に選んだ別れだったはずなのに、結局こんな顔をさせてしまった。
「…相手は昔の恋人、だよな?」
「…っな、んで…」
「付き合ってすぐ…だったかな、気付いたのは」
何も言えずに黙り込んでしまえば、重たい空気が全身を包む。
それでもどうすることも出来ず時間だけが経過していくばかりだった中、突然ぽつりと呟くように棗の口から想像もしない台詞が放たれる。
唖然とする僕を少し気にしながらも更に言葉を続け、悔しそうにぎゅっと唇を噛み締めた。
「正直、羨ましいよ。そんなに凛太朗に愛されて」
「…なつ、め…」
「でも俺ね、一番じゃなくても良かったんだ。少しでも愛そうとしてくれた事実が、嬉しかったんだよ」
「ごめ…っごめ、ん…ッご、め…んな…」
今まで一度だって考えもしなかったことが語られていく。
まさか全て知ったうえで付き合っていたなんて。
泣きじゃくる僕の頭をそっと撫でて、凛太朗は何も悪くない、そう言って棗はぎこちない笑みを浮かべている。
そんなことない、何にも悪くないはずがない。
だって彼に関する記憶なんて忘れてしまいたいと思う反面、何処かで忘れたくないと思っている自分がいたのだから。
こんなにも大切に想ってくれていたというのに、勝手な感情に巻き込んで哀しませている自分が許せない。
僕に棗を愛する資格など、最初からなかったのだ。
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