15 / 20
新たな記憶 ~むっつめ~
しおりを挟む「図書室の入り口で百香ちゃんと逢いましたよ。何でも美味しい物があるとか?」
「ああ、お前好みだと思うぞ? そこのテーブルに..........」
そう言いつつ振り返った拓真の視界には、重箱を腕の中に抱え込む響。
彼は地味に嫌そうな顔をして阿月を見据えていた。
.....こういう時だけ感情を伝えてくんなや、お前。
「一つで良いですから。ね?」
仕方無さげに重箱を差し出す響。阿月も爪楊枝を取り、そっと大学芋を口にする。
そして瞠目。
「やだ、なにこれっ? 美味しいっ!」
もふもふもふっと咀嚼し、満足そうに呑み込んだ阿月は、じっと響の持つを見つめた。
それに、ふいっと眼を逸らして、響は再び重箱を抱え込む。
残念そうに眉を寄せる阿月。
さすがに見ていられなくなり、拓真が間に入った。
「皆にって持って来てくれたんだろうがっ! ほら、寄越せっ!」
拓真が大学芋に手を伸ばした瞬間、響はバチンっと音をたてて重箱の蓋を閉める。
慌てて手を引っ込めた拓真だが、一瞬遅くば指を挟まれていたに違いない。
「おまっ! 俺の指は商売道具なんだぞっ?!」
「..........おしまい」
.....勝手に決めんなっ!!
しれっと重箱をナイナイする響。それを悔しげな顔で亮が見つめていた。
百香と響の間に横たわる親密間。どう足掻いても割り込めるはずのない繋がり。
.....ずっけぇよな。恋愛が早い者勝ちなんてよ。
響には生まれてからずっと彼女と一緒だったアドバンテージかある。間違いなく百香は響にとって特別な存在だ。
百香もそれと知らずだろうが、響に心の距離を近づけていた。
.....自覚した途端に失恋かよ。
綺麗とか可愛いとか、そういったモノに亮は疎い。正直、異性とか全く興味がない。むしろ集られると煩わしく、鬱陶しいと思っていた。
弱々しいことを武器にし、涙で男を翻弄する生き物。そのくせ、感情が昂るとヒステリックに喚いて醜態をさらす唾棄すべき生き物。
そのように亮は認識していた。彼の生い立ちが、その歪んだ見解を抱かせた。
.....が、百香は違ったのだ。
弱々しくも泣きもしない快活な少女。あの拓真や阿月にすら一目置かせるほど破天荒な生き物。
毎日元気一杯で、見ていて気持ち良い。
周囲に良い家の御令嬢ばかりしかいなかった亮は、にかっと裏表なく笑う彼女に惹かれていく。
亮の母親は、女の醜い部分のみが集まったような女性だったから。
父親の愛や関心を貪欲に求め、思いどおりにならないと幼い亮にすら暴力を振るった。息子を庇おうとする父親の姿がさらに母親の嫉妬を煽ったらしく、陰で随分な目に遇わされた。
罵詈雑言の嵐と陰湿な虐待。
そんな幼少期を過ごした亮は、学校に通うようになって、母親のミニチュアみたいな女の子達に辟易する。
.....小さくても、結局は女なんだよな。
極端な事例ばかりを目にしてきた不運な男の子は、女性不信な青年へと成長した。
そこへ降って湧いた百香。
今まで見たこともない生き物の登場に、亮は面食らう。
いじめに遇っても平然とし、それがどうしたとばかりに突き進む姿は小気味が良い。
何かあればオロオロし、メソメソと泣くか、逆ギレするような女しか知らなかった亮。
全力疾走して駆け抜ける彼女を目撃した時は、呆れるを通り越して笑えた。腹の底から笑った。
その理由がバイトに遅れそうだからと聞き、胸の空く思いだった。
日常に根差した彼女の行動。女の情念と無縁な百香。それは、亮の心の琴線を激しく震わせる。
.....なのに。
彼女には生まれた時から響が側にいた。割り込めない二人の雰囲気を、亮も理解する。
部屋の片隅で黄昏る亮に気づき、ふと響は動きを止めた。
亮の態度の端々に見える百香への想いに響は気づいている。さっきも一瞬頬を染めた彼が響の逆鱗に触れていった。
だが亮が黄昏れている理由は響のせいだろう。
亮は真っ当な男だ。友人の恋慕う女性に横恋慕など出来るわけがない。たとえ、まだ響のモノになっていないとしても。
響は重箱を持ち、そっと亮に差し出した。
「.....少しだけ。やる」
己の懐に抱え込み、いそいそと隠していた百香の大学芋。
思わず眼を見開き、亮は響を凝視する。
何も浮かんでいない鉄面皮。それでも、微かな労りが伝わってきた。
その理由を覚り、亮は眼をすがめる。
「.....俺、平気だから。ちょっと良いなって思ってただけだから」
「うん。.....ごめんな」
「謝んなよっ、惨めになるからっ!」
ぼそぼそと交わされる二人の会話は拓真と阿月に聞こえない。
「.....美味いな」
「うん。でも三つまでな?」
「てめぇっ! それが傷心のダチに言う台詞かっ!」
がばっと響の首に腕を絡めて、亮は彼の頭をワシワシと掻き回す。
何が起きたのか分からない拓真と阿月は肩を竦め、絡み合う二人を微笑ましそうに眺めていた。
そんなこんなで日々が過ぎ、百香のバイト先のファミレスを訪れた亮を除いた幼馴染み三人は、彼女を送りアパート前までやってくる。
「ありがとう。またね」
御礼を言ってアパートの階段を上る百香。彼女が部屋に入り、明かりがついたのを確認して響は軽く息をついた。
「あそこに.....居るんだな」
「ん?」
「良いな..... 暖かい」
幼馴染みの二人は、響の言わんとする事を察して眼を緩める。
失った少女が戻ってきた。凍てついた永久凍土には、これ以上ない至福の春風だろう。
恍惚とアパートの明かりを見つめる響。
.....さて、この辺にさせておかないとな。
それはそれ。これはこれだ。
響の気持ちは分かるが、これを放置するとストーカー一直線である。
すでに、その片鱗の見てえいる響を現実に連れ戻すべく二人が彼の両腕を掴んだ時。
突然、百香の部屋の明かりが消えた。
ばっと顔を上げた三人は怪訝そうに彼女の部屋を見据える。
.....何が起きた? もう寝たのだろうか? .....何時もより随分と早い。
アパートへ送る度に動かなくなる響を必死に連れ帰ろうとしていた二人は、否応なく百香の就寝時間を把握していた。
彼女が寝るまで響はここから微動だにしないからだ。
固唾を呑む三人を余所に、百香の部屋の扉が開き、そっと彼女が部屋から出てくる。
辺りを窺うように一瞥し、出てきた彼女は足取りも軽く階段を降りて、どこかへと向かっていった。
「.....こんな夜更けに何処へ?」
「さあ?」
「...............」
響は冷ややかな眼差して百香の後を追う。
「待て響っ! それじゃ完全なストーカーだぞっ?!」
「かまうもんか。.....逢い引きとかだったら、どうする? それなら相手を確認しないと。騙されてるかもしれないし」
.....こういう時だけ流暢に喋んなよ。
ずんずん進む響を追いかけ、致し方無くついていく苦労性の幼馴染み二人である。
20
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
婚約破棄が聞こえません
あんど もあ
ファンタジー
私は、真実の愛に目覚めた王子に王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を宣言されたらしいです。
私には聞こえないのですが。
王子が目の前にいる? どこに?
どうやら私には王子が見えなくなったみたいです。
※「承石灰」は架空の物質です。実在の消石灰は目に入ると危険ですのでマネしないでね!
「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」
みっちぇる。
恋愛
侯爵令嬢のリコリスは20歳。立派な嫁きおくれである。
というのも、義母がなかなかデビューさせてくれないのだ。
なにか意図を感じつつも、周りは義母の味方ばかり。
そん中、急にデビュタントの許可と婚約を告げられる。
何か裏がある――
相手の家がどういうものかを知り、何とかしようとするリコリス。
でも、非力なリコリスには何も手段がない。
しかし、そんな彼女にも救いの手が……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる