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6.社交界の毒花のその後
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もはや二年である。
人々を惹きつけてやまない魅惑の蝶、あるいは男を誘う毒花と言われたイサベル・アルベスが社交界に現れてから二年。様々な噂と憶測を呼んだ二度目の結婚をしてからは、一年だ。人妻になって一年以上が経つというのに、イサベルは未だ社交界の男たちを惹きつけてやまない魔性の女だった。
今夜も、彼女に引き寄せられた男が一人。
「なあ、あなたは本当は、パドロン伯爵なんかでは満足できないんだろう?」
きらびやかな夜会の会場で、着飾ったイサベルに話しかけてきたのは、鼻の下を伸ばした貴族だった。彼は近頃、羽振りがよいのを笠に着て様々な女性に言い寄っている下衆である。普段は夜会でイサベルが一人になることはないのだが、今の彼女はメイドが一人付き添っているだけで夫の姿がない。
「まあ……」
馴れ馴れしく話しかけてきている男に対し、イサベルは困惑したように首を傾げた。サイドに流している髪が一房、頬に垂れたのがまるで閨で乱れた髪のように錯覚させる。うるうるの唇がうっすらと開いていて、なんとも蠱惑的だ。男はごくりと喉を鳴らして、知らずのうちにイサベルへと腕を伸ばしている。その時であった。
「僕の妻に、何か用か?」
ぐっとイサベルの腰を引き寄せながら、もう一人男が現れた。もちろんカリストである。口元は微笑んでいるが、目が笑っていない。
「……パ、ドロン伯爵」
ぎくりとした様子で、男は一歩あとずさりした。
「カリスト様、もう商談はお済みですの?」
「ああ、待たせてすまない」
それまで困惑の表情だったイサベルが、顔を緩めてとろりと微笑む。カリストの腕に自分のものを絡めたイサベルは、うっとりと夫を見つめている。つい先ほどまではかろうじて男に向けられていた視線が、もはやカリストに固定されて動かない。
「君、妻に用事があるのなら、僕に聞かせてもらおうか?」
「い……いえ、なんでもないです」
低い声でカリストが言えば、男はひっと息を呑んで顔を引きつらせる。そのまま、何ごとか言葉を吐きながら逃げるようにして二人のそばを離れていった。
「……全く、あなたを一人にするとろくでもないな。やはりメイドだけでなく、護衛を連れてくるべきだった」
「夜会に護衛つきで来るなんて、王族の方のようですわね」
くすくすと笑いながらイサベルは夫の肩に頭を預ける。
「疲れたか?」
「そうですわね……早く、帰りたくなりました」
「では、馬車に移動しようか」
「はい」
嬉しそうに答えたイサベルを伴って、カリストは馬車に乗りこむ。夜会でカリストがイサベルのそばにいなかったのは、商談のために席を外していたせいだ。
イサベルは相変わらず男たちを惹きつけてやまない魔性の女ではあるものの、普段は夫のカリストがぴったりと張りついて離れないから、誰も彼女にアプローチなどしようとしない。もっとも、アプローチしたところで彼女は夫しか見ていないから無駄である。無謀な者がイサベルに近寄ったとして、悪名高いパドロン伯爵家当主であるカリストに喧嘩を売れば、報復があることは誰もがわかっている。
実際、何名か過去にイサベルと関係を持った、と噂のあった貴族はカリストから痛い目に遭わされているのだ。もっともこれは過去に根も葉もない嘘を言いふらした男に対する仕返しであり、もちろんイサベルが他の男と関係を持ったというのは事実無根である。
おかげでイサベルをめぐる新しい男の影は全くない。この一年彼女の周りの噂といえば、カリストと仲睦まじいというものが主だ。そんなわけで、この一年、相変わらず社交界の毒花として扱われているものの、イサベルは見た目通りの淫乱ではなく、貞淑な女性なのかもしれない、という噂が流れはじめているくらいだった。
「ん……ふ……ぅう……ん、んん」
「イサベル」
「あ……はい……」
帰りの馬車で、諫める声に対して、とろんとしたイサベルがかろうじて返事をする。彼女は今、カリストの膝に乗り上げて、夢中で口づけをしているところだった。
「そんなにしていたら、我慢がきかなくなるだろう。そろそろやめに……」
「いいえ」
ふるふると首を振ったイサベルは、もう一度唇を重ね合わせて、するっと手をカリストの股へと伸ばす。彼女の細い指は、あやしげにまたぐらを探ったかと思えば、熱を持った塊を見つけて嬉しそうに微笑む。
「もう、我慢ができません」
「おい」
制止の声に構わず、イサベルはごそごそとカリストのズボンのボタンを外して彼の肉棒を取り出した。咎めてはいるものの、彼の竿は硬く屹立している。興奮しているのはカリストも同じである。
「イサベル……」
「だって、『僕の妻』なんて……カリスト様がかっこよすぎたんですもの……馬車まで我慢したのを褒めてくださいませ」
「だからといって」
馬車で致すのは、我慢がきいてないだろう。そのツッコミをためらっている間にも、イサベルは自分のドレスのスカートをたくし上げている。
「わたくしがはしたなくっても、カリスト様は許してくださるのでしょう……?」
むっちりとした胸を押しつけながら、上目遣いにイサベルは訴えかける。股の割れたドロワーズは、イサベルがぐっと腰を寄せただけて肉棒の先端が蜜口に当たってしまう。口づけだけで、あるいは夜会の会場でときめいたときからなのか、彼女の股はもはやとろとろだ。もう少し腰を落とせばもう入ってしまうだろう。
「……ああ、そうだな」
そもそも馬車に乗ったあと、彼女がカリストの膝に座ってキスを求めてきた時点で、止めなかったカリストが悪い。今だって言葉で牽制しながらも彼女を押しのけようとはしていないのだから同罪だろう。
「あなたをはしたなくしたのは、僕の責任だ」
「んぁああ……っ」
腰をつかんで、ぐぐっとイサベルを引き寄せ、一気に挿入する。みっちりと蜜壺の中に肉棒がおさまり、それだけで彼女は軽く絶頂したらしい、背をのけぞらせて甘い声を漏らした。だがそれだけで満足するようなイサベルではない。
「カリスト様……動いて、いいですか? んっぅ……ああっ」
返事も聞かずに、イサベルは悩ましげな声をあげて腰を揺らし始めている。その彼女を下から突き上げてやれば、大きい嬌声をあげてよがった。
(イサベルが淫乱っていうのは、ただの噂だったはず、なんだがな……)
彼女に溺れながら、カリストは苦笑する。
「カリスト様……? んんっ」
不思議そうなイサベルをひときわ強く下から突き上げてやる。それだけで浮かんだ疑問は彼女の中から霧散したらしい。カリストにしがみついて、与えられる快楽に夢中になっている。
社交界の毒花は、確かに男漁りはしていない。そこは貞淑だという噂が流れ始めた通りである。だが、その実メイドたちが噂をしていた通り、イサベルは情事に対して積極的で、酷く淫乱だということを社交界で交流する者たちは知らない。とはいえ、その淫乱さが発揮されるのは、夫のカリスト相手だけである。そして、その色香に溺れさせることを許す相手も、カリストだけである。
彼女のいやらしさが屋敷の中以外で噂になることは、これからもないだろう。
人々を惹きつけてやまない魅惑の蝶、あるいは男を誘う毒花と言われたイサベル・アルベスが社交界に現れてから二年。様々な噂と憶測を呼んだ二度目の結婚をしてからは、一年だ。人妻になって一年以上が経つというのに、イサベルは未だ社交界の男たちを惹きつけてやまない魔性の女だった。
今夜も、彼女に引き寄せられた男が一人。
「なあ、あなたは本当は、パドロン伯爵なんかでは満足できないんだろう?」
きらびやかな夜会の会場で、着飾ったイサベルに話しかけてきたのは、鼻の下を伸ばした貴族だった。彼は近頃、羽振りがよいのを笠に着て様々な女性に言い寄っている下衆である。普段は夜会でイサベルが一人になることはないのだが、今の彼女はメイドが一人付き添っているだけで夫の姿がない。
「まあ……」
馴れ馴れしく話しかけてきている男に対し、イサベルは困惑したように首を傾げた。サイドに流している髪が一房、頬に垂れたのがまるで閨で乱れた髪のように錯覚させる。うるうるの唇がうっすらと開いていて、なんとも蠱惑的だ。男はごくりと喉を鳴らして、知らずのうちにイサベルへと腕を伸ばしている。その時であった。
「僕の妻に、何か用か?」
ぐっとイサベルの腰を引き寄せながら、もう一人男が現れた。もちろんカリストである。口元は微笑んでいるが、目が笑っていない。
「……パ、ドロン伯爵」
ぎくりとした様子で、男は一歩あとずさりした。
「カリスト様、もう商談はお済みですの?」
「ああ、待たせてすまない」
それまで困惑の表情だったイサベルが、顔を緩めてとろりと微笑む。カリストの腕に自分のものを絡めたイサベルは、うっとりと夫を見つめている。つい先ほどまではかろうじて男に向けられていた視線が、もはやカリストに固定されて動かない。
「君、妻に用事があるのなら、僕に聞かせてもらおうか?」
「い……いえ、なんでもないです」
低い声でカリストが言えば、男はひっと息を呑んで顔を引きつらせる。そのまま、何ごとか言葉を吐きながら逃げるようにして二人のそばを離れていった。
「……全く、あなたを一人にするとろくでもないな。やはりメイドだけでなく、護衛を連れてくるべきだった」
「夜会に護衛つきで来るなんて、王族の方のようですわね」
くすくすと笑いながらイサベルは夫の肩に頭を預ける。
「疲れたか?」
「そうですわね……早く、帰りたくなりました」
「では、馬車に移動しようか」
「はい」
嬉しそうに答えたイサベルを伴って、カリストは馬車に乗りこむ。夜会でカリストがイサベルのそばにいなかったのは、商談のために席を外していたせいだ。
イサベルは相変わらず男たちを惹きつけてやまない魔性の女ではあるものの、普段は夫のカリストがぴったりと張りついて離れないから、誰も彼女にアプローチなどしようとしない。もっとも、アプローチしたところで彼女は夫しか見ていないから無駄である。無謀な者がイサベルに近寄ったとして、悪名高いパドロン伯爵家当主であるカリストに喧嘩を売れば、報復があることは誰もがわかっている。
実際、何名か過去にイサベルと関係を持った、と噂のあった貴族はカリストから痛い目に遭わされているのだ。もっともこれは過去に根も葉もない嘘を言いふらした男に対する仕返しであり、もちろんイサベルが他の男と関係を持ったというのは事実無根である。
おかげでイサベルをめぐる新しい男の影は全くない。この一年彼女の周りの噂といえば、カリストと仲睦まじいというものが主だ。そんなわけで、この一年、相変わらず社交界の毒花として扱われているものの、イサベルは見た目通りの淫乱ではなく、貞淑な女性なのかもしれない、という噂が流れはじめているくらいだった。
「ん……ふ……ぅう……ん、んん」
「イサベル」
「あ……はい……」
帰りの馬車で、諫める声に対して、とろんとしたイサベルがかろうじて返事をする。彼女は今、カリストの膝に乗り上げて、夢中で口づけをしているところだった。
「そんなにしていたら、我慢がきかなくなるだろう。そろそろやめに……」
「いいえ」
ふるふると首を振ったイサベルは、もう一度唇を重ね合わせて、するっと手をカリストの股へと伸ばす。彼女の細い指は、あやしげにまたぐらを探ったかと思えば、熱を持った塊を見つけて嬉しそうに微笑む。
「もう、我慢ができません」
「おい」
制止の声に構わず、イサベルはごそごそとカリストのズボンのボタンを外して彼の肉棒を取り出した。咎めてはいるものの、彼の竿は硬く屹立している。興奮しているのはカリストも同じである。
「イサベル……」
「だって、『僕の妻』なんて……カリスト様がかっこよすぎたんですもの……馬車まで我慢したのを褒めてくださいませ」
「だからといって」
馬車で致すのは、我慢がきいてないだろう。そのツッコミをためらっている間にも、イサベルは自分のドレスのスカートをたくし上げている。
「わたくしがはしたなくっても、カリスト様は許してくださるのでしょう……?」
むっちりとした胸を押しつけながら、上目遣いにイサベルは訴えかける。股の割れたドロワーズは、イサベルがぐっと腰を寄せただけて肉棒の先端が蜜口に当たってしまう。口づけだけで、あるいは夜会の会場でときめいたときからなのか、彼女の股はもはやとろとろだ。もう少し腰を落とせばもう入ってしまうだろう。
「……ああ、そうだな」
そもそも馬車に乗ったあと、彼女がカリストの膝に座ってキスを求めてきた時点で、止めなかったカリストが悪い。今だって言葉で牽制しながらも彼女を押しのけようとはしていないのだから同罪だろう。
「あなたをはしたなくしたのは、僕の責任だ」
「んぁああ……っ」
腰をつかんで、ぐぐっとイサベルを引き寄せ、一気に挿入する。みっちりと蜜壺の中に肉棒がおさまり、それだけで彼女は軽く絶頂したらしい、背をのけぞらせて甘い声を漏らした。だがそれだけで満足するようなイサベルではない。
「カリスト様……動いて、いいですか? んっぅ……ああっ」
返事も聞かずに、イサベルは悩ましげな声をあげて腰を揺らし始めている。その彼女を下から突き上げてやれば、大きい嬌声をあげてよがった。
(イサベルが淫乱っていうのは、ただの噂だったはず、なんだがな……)
彼女に溺れながら、カリストは苦笑する。
「カリスト様……? んんっ」
不思議そうなイサベルをひときわ強く下から突き上げてやる。それだけで浮かんだ疑問は彼女の中から霧散したらしい。カリストにしがみついて、与えられる快楽に夢中になっている。
社交界の毒花は、確かに男漁りはしていない。そこは貞淑だという噂が流れ始めた通りである。だが、その実メイドたちが噂をしていた通り、イサベルは情事に対して積極的で、酷く淫乱だということを社交界で交流する者たちは知らない。とはいえ、その淫乱さが発揮されるのは、夫のカリスト相手だけである。そして、その色香に溺れさせることを許す相手も、カリストだけである。
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