傷物令嬢はリップサービスを信じない~政略の婚約者は星に愛を囁く~

かべうち右近

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優しい指先にほだされて ※R18

 エステルは純潔を奪われてからの一連のことを思い出して、震えてしまう。

 熱を出して、何日も寝込んだ。そうして体調が復帰した時には、もう振り切ったと思っていたものが、今さらになってエステルをがんじがらめにする。

「……怖いん、です……あれは、痛いだけ、で……」

「貴女は、初恋の男に望んで純潔を捧げたのではないのか……?」

 強引に股を割っていた腕を解いて、ラウルは気づかわしげに問いかける。

「望んだことではありませんでした」

 その流れを思えば、恐怖で身がすくむほどに。

(……どうして、こんなに……)

 自分が情けなかった。貴族の令嬢として、政略結婚を受け入れた筈だった。婚前ではあるが、ねやを共にすると言われれば、当然受け入れるべきだと、エステルは思った。なのに。

「私の同意もなく唇を奪われ、背を向けさせられた後に、すぐに純潔を散らされたのです。あんなにも痛いだけの行為を、私は……」

(もう、したくない)

 本音を吐露しようとして、エステルの声はそのまま嗚咽になる。

 前戯もなく、睦言もなく、ただ壁に押し付けられて顔も見えないままに後ろからひたすらに腰を振られた。唇を奪われたかと思えば、いきなりスカートをめくられてすぐさま挿入されたから、その痛みはすさまじいものだったと言うのに、声を出すなと脅されて、痛みを訴えても我慢をしろと言われ、中に子種を注ぎ込まれた。それは愛のある行為ではなく、ただの強姦であった。けれど、通常婚約者候補が出てから教えられる性教育を受ける前にあの凶行の被害に遭ったエステルは、そんなことを知らない。だからこそ、夫婦の営みも全て初体験のように恐ろしいものだと思ったのだ。

 エステルの告白に、二人は黙り込んでしまう。部屋の中にはただエステルの押し殺した嗚咽が響いていたが、先に口を開いたのはラウルだった。

「……すまない。つまり貴女は……乱暴をされたのだな。それでは……俺に触れられるのはさぞ怖かっただろう。かっとなって……悪かった」

 ラウルの手が、エステルの頭を撫でる。その手にびくりと彼女の身体は震えたが、彼の手もまた震えていた。気遣うように繰り返し撫でるその手は、先ほどの荒々しさと違ってとても穏やかだ。

「……ごめんなさい」

 おずおずと両手を外したエステルが、小さく呟く。その彼女に、ラウルは苦笑いした。

「謝るのは俺の方だ。こんなに泣かせて……目が赤くなってしまったのではないか?」

 目尻の涙を、指先で拭ったラウルは溜め息を吐く。ランプの明かりでは彼女の目が腫れているかどうかまでは見えないのだろう。

(……侯爵様は、やっぱり優しい方ね……)

 結婚していないとは言え、将来の夫の伽を拒んだのだ。しかも身分はラウルの方が上である。にも関わらず、彼はエステルを労わってくれる。その事実が、自身でも気付かないうちにずたずたになっていたエステルの心にしみる。

 だから余計に、エステルは自身を情けなく感じた。

(泣いている場合ではないわ)

「ラウル様……」

 彼の手にそっと自分のものを重ねて名前を呼べば、ラウルが息をつめたのがわかる。本来優位である筈のラウルの顔が緊張に強張っているのを見て、エステルは自分の心に叱咤を飛ばした。名前を呼ぶのは、せめてのもの誠意だ。

(子作りは、貴族の務めだもの。怖がってなんかいられない。最善を尽くすのよ)

「私、頑張りますから……その、もう一度……」

 決心はしたものの、声が震えてしまう。

(侯爵様の誠意に、応えたいのに……)

「その言葉の続きは、俺に言わせてくれ」

 唇を指で遮られ、ラウルがゆっくりと顔を近づけてくる。

「貴女の肌にもう一度触れてもいいだろうか。……次は、優しくすると約束する。これは恐ろしいものではないのだと、貴女に判ってもらえるように」

 穏やかに問われたエステルは、一度目は答える間を与えられなかったのを思い出す。しかし今度は待ってくれているようだ。

「はい。よろしく……お願いします」

 その答えにわずかに口元を緩めたラウルは、顔を更に近づけてくる。口づけられる、と思って目を閉じたエステルは、額に柔らかに当たった唇に驚いた。ラウルは髪を撫でながら、額からこめかみ、頬へとゆっくりと唇で撫でていく。次は唇かと思ったところで、彼の動きが止まった。

「唇を重ねてもいいか?」

「……はい」

 返事の後には、また柔らかに唇が重なった。彼女の柔らかな唇を、ラウルの唇が軽くついばむようにはんで唇が重なる。何度もそれが繰り返されると、じんわりと熱を持った唇が、唾液で濡れて不思議な感じがした。

(不思議だわ。さっきよりも、怖くない……)

 まだ身体は強張ってしまうが、ラウルの口づけは穏やかで、絶えず頭を撫で続けてくれている手に心地良ささえ覚えてしまう。

「ん……」

 繰り返されるキスに、息を吐いたエステルのわずかに開いた口に、舌がゆるゆると差し込まれる。歯列をなぞったその舌の優しい動きに、エステルは下腹のあたりにじわりと何かが広がるような気がした。同時に酸欠のせいか頭がふわふわとしてくる。顎から力が抜けて、更に開いた口の中をラウルの舌がねっとりと愛撫しはじめる。ちゅるちゅると水音がして、何だか恥ずかしかった。なのに、ラウルの熱い舌が絡んでくるのさえ心地良く感じてくる。

「は……」

 長い口づけの後に、やっと唇を離されたころには、エステルはぼんやりとしている。

「口づけは嫌いじゃないようだな。身体を触ってもいいか?」

「え……? は、い……」

 ふわふわとした意識の中で返事をしたエステルは、胸に触れられた刺激でぴくんと跳ねた。

「あっ……!?」

 寝間着越しではあるが、先ほどの愛撫で中央は硬く尖っている。その敏感になった部分を指先で形を確かめるようにくるくると撫でられると、何故だか下腹がぞわぞわとした。

「嫌ではないか? 怖くは?」

 両の手を使って胸を弄りながら、わざわざラウルは確認してくる。

「……っだ、いじょうぶ……です……んっ」

(全部確認されるのかしら? ……は、恥ずかしいわ)

 羞恥で眉間に皺を寄せたのをどう勘違いしたのか、ラウルは心配そうに顔をのぞきこんできた。

「本当に嫌ではないか? ちゃんと言ってくれ」

「大丈夫……ですから、そのまま、つ、づけてください……」

 ぎゅうっと目を閉じて催促すると、ラウルの手は再び愛撫を再開する。胸はダミアンに触れられなかった部分だ。だから恐怖も少ない。それにラウルの優しい手つきは、どうにもエステルの身体の緊張を解してしまうようだ。

「ふっぅ、んん……」

 強すぎる刺激ではないから、声はまだ抑えられるが、乳首を虐められるのはぞくぞくとした。ラウルの唇はエステルの首元をくすぐるように繰り返し口づけていて、それも身体の奥に何かを訴えかけてくる。

「そろそろ、下に触れてもいいだろうか」

 胸に触れていたラウルの手が、エステルの太ももにそっと触れる。その感触で、エステルは無意識に身を固めた。その緊張を敏感に感じ取ったらしい。ラウルは愛撫の手を止めて、再び彼女の頭を柔らかに撫でる。

「心配するな。今日は貴女の中に無理やり挿れるようなことはしない。痛いことなんて、絶対に起きない。……貴女の身体をどろどろに溶かして、俺とのセックスはただ気持ちのいいものだと覚えてもらうだけだ」

(気持ちいい……?)

 ちゅ、と音をたてて、額に再び唇が落とされる。ラウルの台詞の意味が判らず、疑問が浮かんだが、頭を撫でる手と、額に口づけられた感触の優しさに、強張ったエステルの身体の緊張はゆるゆると解けていった。胸を弄られながら唇を重ねて舌を貪られれば、頭がふわふわとしてエステルは何も考えられなくなっていく。

 胸を愛撫していた手が離れ、その下の腹をなぞり、太ももに至って裾をまくりあげたかと思えば、ラウルは手のひら全体で彼女の下生えのあたりを包みこみ、柔らかに握りこんできた。

「ふぁ……っ!?」

 先ほど強引になぞられたのとは違い、秘部をまるごと全部揉みこむように手を動かされて、じわじわと熱が溜まっていく。

「こ、うしゃくさま」

 何かを訴えようとして呼んだが、柔らかな花弁をマッサージされると言葉にならなくなる。

「嫌ではないか?」

「はい……あっ」

 ほとんど無意識に返事して、また甲高い声をあげる。

(これは、一体何なのかしら……)

 ラウルの触れる場所全てが、痺れるように甘く、下腹を疼かせる。乙女の大事なところを触れられるのは怖い。なのにダミアンの肉棒が無残にエステルを暴いたのと違って、ラウルの手はエステルを恐怖でない何かをのぼりつめさせてくる。

「んん……」

 手全体で揉みこんでくる手の動きは執拗だ。手が動くたびににちゃにちゃとした水音がだんだん大きくなる。その愛撫に、なぜだか、腰が勝手に揺れた。

「ひぁ……っ」

 逃げたのではない。ラウルの愛撫から逃げようとしたのではなかったその腰の揺れは、彼の手をエステルの大事な場所に押し付けるような動作だった。そのせいで高い声をあげた自分に驚いて、エステルは手で口をおさえる。

「もっと欲しいか?」

「も、っと……?」

 それはおうむ返しの疑問符だったにも関わらず、彼はやにわに指を割れ目へと滑らせた。エステルが了承せずとも、熱く熟れた秘部はぐちゅっと音をたてて彼の指を受け入れてしまう。最初は指一本で入り口の筋をなぞるように丁寧に前後させるのを続けていたが、すぐにそれを二本に増やして擦り上げた。

「な……で、あっ」

 熱く熟れた花弁は指を受け入れるかのように溶けている。ラウルの指をぐちゃぐちゃに濡らした愛液が溢れているその自分の身体に、エステルはわけが判らない。入り口を前後する指の動きはただ不思議なだけだったが、ラウルの唇は変わらず首筋から胸元付近に口づけていて、胸をいじられる感覚にただ喘がされた。そうして何度も蜜壺の入り口を前後していた指は、不意に下生えのほうまで滑ってくる。

「……っ!?」

 途端に声にならない叫びをあげて、エステルの身体が強張った。下生えと割れ目の境、そこにある肉の芽に彼の指が触れていた。指ではさみこまれて、にゅく、と動かされると痺れるような刺激が胎から走りぬける。

「こうしゃ……んんん……っ」

「気持ちいいだろう?」

「ゃぁっん……っ」

(変な声が……勝手に出てしまう……!)

「可愛いな、貴女は。そのまま素直に感じてればいい」

 指の動きを止めないままに、ラウルの声がエステルの耳を撫でる。その微かな震えでさえ、今のエステルには愛撫になる。身体を震わせながらもできるだけ喘ぎ声を出すのを耐えていたが、それも次の新しい愛撫で無理になった。

 肉の芽を虐められるのだって言葉にならない刺激なのに、やがて指は彼女の割れ目の奥に入り込んできたのだ。親指で敏感な豆を押され、入り口すぐそばの固い内壁を指で圧されたのは同時だった。

「ふ、ぁっあ……、ぁっぁあ、ああああ……っ!」

 全身をなにかが駆け巡る。その衝撃に背中をピンとしならせて、エステルは今まで一番大きな嬌声をあげた。胎が勝手に揺れ、差し込まれたラウルの指を締め上げて痙攣を繰り返す。そんな自分の身体ではないような快感の絶頂は、長くエステルの身体を震わせた。それが怖くなって、エステルはシーツを握って息を詰める。

「……は……っふ…………ぅ」

 ゆっくりと痙攣が収まってから、ようやくエステルは吐息を吐く。そんな彼女の頭を穏やかに撫でたラウルは、彼女のなかを触れたままだった指をゆっくりと引き抜いた。

「大丈夫か? 無理はしてないか?」

 しっとりと汗の浮かんだエステルの額に柔らかに唇を落として、ごく穏やかな声で尋ねてくれる。まだ身体はふわふわとしていて、倦怠感が全身を包んでいたが、ラウルの労わりにエステルの胸がじんわりと暖かくなった。

(本当に、優しい方……)

「はい、大丈夫です。ラウル様。……ありがとうございます」

 何故だか涙が出そうになる。それをこらえてエステルが言えば、ラウルは目元を緩ませた。

「では今日はこれで終わりにしよう」

「あ、これで、大丈夫なのですか……?」

「充分だ。失念していたが、貴女は病み上がりだろう。これ以上無理をさせるのもよくない。……まだ怖いか?」

 ラウルの指がエステルの首筋を滑って、寝間着に隠された谷間に軽く触れる。それは背中をぞくりと震わせたが、エステルに怯えを産むことはなかった。

「……大丈夫、です」

「ならいい」

 そう告げたラウルは、指を谷間から外すとエステルの頬を愛おしげに撫でた。けれどその穏やかな表情は、不意に一変して赤い瞳が揺れ、怒ったような顔でエステルをうかがう。

(どうされたのかしら?)

「……充分だと言ったが……もう一度口づけるのだけ許してくれ」

「ふふ、大丈夫です」

 怒っていたのではなく、気まずかったようだ。申し訳なさそうに乞うラウルに笑って、エステルは目を伏せる。

(政略結婚でもラウル様となら、うまく暮らしていけるかもしれないわ)

 いつの間にか心内で呼ぶのが爵位ではなく、名前になっている。ごく些細な変化ではあるが、かすかに新しい想いが芽生えはじめていることに、まだエステルは気付いていない。しかしそんな彼女が踏みにじられるのは、わずか一瞬後のことであった。

「愛してる、俺のエステル

 その一言で、エステルの温かった心は凍りつく。言葉と共にもう一度重なった唇は、もはや彼女の胸を震わせてはくれなかった。
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