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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)
一〇話『幸せになる覚悟』
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「艦長、小包です」
「ああ、ありがとう」
その小包が届いたのは、十月の下旬だった。
「花さんから、あ!あれか」
先週、整備の為に数日間だけ自宅に帰ったのだが、花は義孝のセーターを編もうと採寸をしようとしていた。
「良い色だな」
深みのある、濃い灰色と藍色のグラデーションが美しいセーターだった。
「大したもんだな、こんな短期で」
今朝から、急激に冷え込んだ。
「ありがとう、花さん」
何か、返しをしなければ、早速着込み甲板に立つ。
「平気だな」
これから寒さを感じないのは有り難い、朝晩の冷え込みは確実に腹の調子に影響する。
ーーー中に着れば、寒くないかと。
優しい花。
何より、自分以外の人を優先して、行動に出られる。だが、その優しい心は長年、継母と義妹により踏みにじられた。
「何が、喜ぶだろう」
そんなことを考えながら、操舵室に向かった。
✣✣✣◇◇◇◇✣✣✣
「指輪?」
「はい。結婚指輪なんて、どうですか?」
それは、義孝の部屋掃除をする、若い水兵の提案だった。
「実は、僕の姉も先月結婚して、義兄が給料〇か月分で婚約指輪をプレゼントしたんですよ」
「なるほど」
「その時、姉が大泣きしました。いろいろありまして、やっと婚約出来て・・・実は海軍士官なんですけどね。へへ」
「先月?もしや」
「はい」
にっこり、水兵は笑う。
「そうか、参考にするよ」
「はい!」
失礼しました、一礼して水兵は出て行く。
結婚指輪か。
花はどう思うだろうか。
・・・義孝さんは、私に甘いです。
涙いっぱいの目で、花は言った。
これまで、愛されたことがなかった花に、義孝の深い愛情は戸惑いの連続だった。
「そうだな。花さんの寂しさを軽減するのには、良いかもしれんな」
揃いの指輪を付けるのは、少し気恥ずかしくはあるが・・・。花が喜んでくれるならば、悪い気はしない。
「最初の誕生日は、指輪にするか」
義孝は決意した。
「ふだん、奥様はどのような装いでしょうか?」
「装いですか?着物です。旅行は洋装ですが」
「ならば、古風な方ですね。ならば、家事の妨げにならない」
店員が、指輪を何点か出してきた。
「家事をなさらない奥様ならば、石が主張しても構いませんが。家庭的な優しい奥様なら・・・こちらの石が埋め込みの」
「なるほど」
「あと、こちらのデザインも人気ですが」
ふと、義孝は二つのリングが連なる、知恵の輪のような物が気になった。
「あの、これは」
「ああ、それは『ギメルリング』と言いまして、二つのリングが重なり合って出来るリングです。離れることのない生命、連理の枝を連想させるとして。結婚指輪としては縁起物として人気があります」
ーーー離れることのない生命。
「こちらをお願いします」
「畏まりました。イニシャルはどうしますか」
「それも、お願いします」
また、甘やかすと泣くだろう。
ーーーあまり、幸せだと怖い。
また、失うのではと。
捨てられるのでは、と泣いていた。
「喜んでくれるだろうか」
願うのは、涙ではなく笑顔だ。
次の休暇は、花の誕生日だ。
今度は招集が無いことを祈りたい。
◇◇❖❖❖◇◇◇
「そう言えば、今日は花ちゃんの誕生日よね」
「うん」
「旦那様、何か考えてくれてるかな?」
美沙がにっこり笑う。
「さあ、どうだろ?誕生日、教えてないから」
「えっ、なんで?」
美沙が驚く。
「もう、充分だもん。義孝さんは、今まで沢山の贈り物をくれてる。着物に簪に、帯にーーー。私が何も無いから、沢山買ってくれたの。この服も、義孝さんが買ってくれたの」
ーーーこれ以上は、罰が当たる。
「花ちゃん。花ちゃんは、時東さんの奥さんでしょ?なんで、後ろ向きなの」
「え」
「自分に不相応だなんて、どうして思うの?」
「だって、私には何もない」
「『だって』は禁止」
「でも」
「でも、も禁止!とっても、卑屈に聞こえる。あと、けどもダメ」
ーーーーゔ。
「花ちゃん」
「なら、どうしたらいいの。私は何も無い、何も持っていない。令嬢が身につける作法も立ち振る舞いも、何も無い」
「じゃあ、愛情は?」
「愛情」
「時東さんや、お姑さんへの愛情は?」
「ーーーあ、それなら」
「ほら、あるじゃない。惜しみない、二人への愛情。充分じゃない?」
涙がまた、流れ落ちる。
「ね、花ちゃん。二人にあげられるものは、ちゃんと花ちゃんの中にあるの。自信持って」
「ーーーうん」
花は頷いた。
「ありがとう、美沙ちゃん」
「頑張ったよ、もう充分に。これからは、有り余る幸せが来る。花ちゃん、幸せになる覚悟はある?」
「ーーーうん」
幸せになる覚悟。
これまで、花は沢山のことを諦めて手放した。
継母と義妹により、奪われた可能性と機会。
それがこれからは、幸せとなり返ってくる。義孝の深すぎる愛情は、まだ始まったばかり。
「美沙ちゃん。私ーーー覚悟を決める!」
「うん。ーーーあ」
美沙がはにかんだ。
「あ、義孝さん」
花が紅くなる。
「じゃね、花ちゃん」
美沙が帰る。
今日は昭和二十一年十一月十二日、花の二十歳の誕生日だった。
「ああ、ありがとう」
その小包が届いたのは、十月の下旬だった。
「花さんから、あ!あれか」
先週、整備の為に数日間だけ自宅に帰ったのだが、花は義孝のセーターを編もうと採寸をしようとしていた。
「良い色だな」
深みのある、濃い灰色と藍色のグラデーションが美しいセーターだった。
「大したもんだな、こんな短期で」
今朝から、急激に冷え込んだ。
「ありがとう、花さん」
何か、返しをしなければ、早速着込み甲板に立つ。
「平気だな」
これから寒さを感じないのは有り難い、朝晩の冷え込みは確実に腹の調子に影響する。
ーーー中に着れば、寒くないかと。
優しい花。
何より、自分以外の人を優先して、行動に出られる。だが、その優しい心は長年、継母と義妹により踏みにじられた。
「何が、喜ぶだろう」
そんなことを考えながら、操舵室に向かった。
✣✣✣◇◇◇◇✣✣✣
「指輪?」
「はい。結婚指輪なんて、どうですか?」
それは、義孝の部屋掃除をする、若い水兵の提案だった。
「実は、僕の姉も先月結婚して、義兄が給料〇か月分で婚約指輪をプレゼントしたんですよ」
「なるほど」
「その時、姉が大泣きしました。いろいろありまして、やっと婚約出来て・・・実は海軍士官なんですけどね。へへ」
「先月?もしや」
「はい」
にっこり、水兵は笑う。
「そうか、参考にするよ」
「はい!」
失礼しました、一礼して水兵は出て行く。
結婚指輪か。
花はどう思うだろうか。
・・・義孝さんは、私に甘いです。
涙いっぱいの目で、花は言った。
これまで、愛されたことがなかった花に、義孝の深い愛情は戸惑いの連続だった。
「そうだな。花さんの寂しさを軽減するのには、良いかもしれんな」
揃いの指輪を付けるのは、少し気恥ずかしくはあるが・・・。花が喜んでくれるならば、悪い気はしない。
「最初の誕生日は、指輪にするか」
義孝は決意した。
「ふだん、奥様はどのような装いでしょうか?」
「装いですか?着物です。旅行は洋装ですが」
「ならば、古風な方ですね。ならば、家事の妨げにならない」
店員が、指輪を何点か出してきた。
「家事をなさらない奥様ならば、石が主張しても構いませんが。家庭的な優しい奥様なら・・・こちらの石が埋め込みの」
「なるほど」
「あと、こちらのデザインも人気ですが」
ふと、義孝は二つのリングが連なる、知恵の輪のような物が気になった。
「あの、これは」
「ああ、それは『ギメルリング』と言いまして、二つのリングが重なり合って出来るリングです。離れることのない生命、連理の枝を連想させるとして。結婚指輪としては縁起物として人気があります」
ーーー離れることのない生命。
「こちらをお願いします」
「畏まりました。イニシャルはどうしますか」
「それも、お願いします」
また、甘やかすと泣くだろう。
ーーーあまり、幸せだと怖い。
また、失うのではと。
捨てられるのでは、と泣いていた。
「喜んでくれるだろうか」
願うのは、涙ではなく笑顔だ。
次の休暇は、花の誕生日だ。
今度は招集が無いことを祈りたい。
◇◇❖❖❖◇◇◇
「そう言えば、今日は花ちゃんの誕生日よね」
「うん」
「旦那様、何か考えてくれてるかな?」
美沙がにっこり笑う。
「さあ、どうだろ?誕生日、教えてないから」
「えっ、なんで?」
美沙が驚く。
「もう、充分だもん。義孝さんは、今まで沢山の贈り物をくれてる。着物に簪に、帯にーーー。私が何も無いから、沢山買ってくれたの。この服も、義孝さんが買ってくれたの」
ーーーこれ以上は、罰が当たる。
「花ちゃん。花ちゃんは、時東さんの奥さんでしょ?なんで、後ろ向きなの」
「え」
「自分に不相応だなんて、どうして思うの?」
「だって、私には何もない」
「『だって』は禁止」
「でも」
「でも、も禁止!とっても、卑屈に聞こえる。あと、けどもダメ」
ーーーーゔ。
「花ちゃん」
「なら、どうしたらいいの。私は何も無い、何も持っていない。令嬢が身につける作法も立ち振る舞いも、何も無い」
「じゃあ、愛情は?」
「愛情」
「時東さんや、お姑さんへの愛情は?」
「ーーーあ、それなら」
「ほら、あるじゃない。惜しみない、二人への愛情。充分じゃない?」
涙がまた、流れ落ちる。
「ね、花ちゃん。二人にあげられるものは、ちゃんと花ちゃんの中にあるの。自信持って」
「ーーーうん」
花は頷いた。
「ありがとう、美沙ちゃん」
「頑張ったよ、もう充分に。これからは、有り余る幸せが来る。花ちゃん、幸せになる覚悟はある?」
「ーーーうん」
幸せになる覚悟。
これまで、花は沢山のことを諦めて手放した。
継母と義妹により、奪われた可能性と機会。
それがこれからは、幸せとなり返ってくる。義孝の深すぎる愛情は、まだ始まったばかり。
「美沙ちゃん。私ーーー覚悟を決める!」
「うん。ーーーあ」
美沙がはにかんだ。
「あ、義孝さん」
花が紅くなる。
「じゃね、花ちゃん」
美沙が帰る。
今日は昭和二十一年十一月十二日、花の二十歳の誕生日だった。
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