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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
最終話『比翼の鳥のごとく』
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霧島家への引っ越しは、海軍から義孝の部下が助っ人として派遣されてきたこともあり、数日のうちに完了した。
鹿江達使用人は、花との思いがけない再会を喜んだ。そして、義孝と千代に対しても、亡き前当主と同じように丁寧に仕えると約束してくれた。義母や義妹にたいしては、なかったことだ。
婚約の許可が下りて間もなく、二人の婚礼の儀は霧島家にて開かれた。
義孝の恩人である中原中将も参列したが、酒は一滴も飲まなかった。中将は『酒がなくとも酔えるのだ』と言い、義孝を前に男泣きしていたという。
そして婚礼の儀の夜、二人は夫婦となった。
戦艦疾風は、件の偽旗艦の掌捕以来、北部鎭守府の軍港に停泊している。乗員達の回復を待ってのことだったが、花達の婚礼の儀が終わる頃には皆すっかり良くなっていた。
戦艦疾風の出港は、義孝の出立でもある。
二人が海と陸に分かれる日は、あっという間に来てしまった。
義孝の出立の日、花は船出を見送るため、共に海へと向かうことにした。出港までの猶予の時間、花は義孝と海辺を歩いた。
ふと、花は思い出した。
(・・・そうだ、私、海に来たかったんだった)
空を映す、青い海。
その空と海との間を縫うように、海鳥達が鳴きながら飛んでいる。
潮騒の音と磯の香りが、爽やかな風に乗って浜辺の砂を撫で、夏の陽射しが螺旋細工のようにキラキラと波間に照り返している。
かつて父が連れて行ってくれて、夢の中で何度も訪れた、あの海によく似ていた。ここは海を埋め立てて作られた軍港で、白い砂浜はないけれど。
(私、どうしてあんなにも海にあこがれていたんだろう)
海を見つめて、花はぼんやりとかんがえる。ずいぶん遠くに来たようなきがして――――そこでハッと気付いた。
(ああ、そうだわ。以前の私にとって、あの海が幸せな思い出の場所だったから・・・ずっといたいと願ってしまう場所だったから・・・でも、いまは)
花は自分の隣に目を向けた。
そこには、義孝がいる。すぐ傍に、手を伸ばせば触れられる距離に、空に浮かぶ雲よりも白い軍服に身を包み、暗闇の中を光で照らす灯台のように、眩く、まっすぐに立っている。
視線に気づいた彼と目が合う。
その瞬間、花の胸に沸き起こったのは、もはや郷愁などではない。
(ずっと、この方と一緒にいたい)
それは、夢の中で抱いていたような『ここに留まりたい』と後ろ向きに翻弄する気持ちとは異なる。
この先に続く人生を、彼と共に歩んでいきたい。そんな風に、未来を見つめる前向きな願いだった。
「花さん、どうしました?」
義孝の顔を、花はじっと見つめる。もうすぐ、彼はこの海の向こうに行ってしまう。
『泣かないで。戦争に行くわけじゃない』
昨晩、寝室で義孝は言った。
・・・離れたくない。
そう願っても、叶うものではない。それは、花も分かっている。
だから、願いを変えた。
海神に願うは、確かに彼の無事の帰還。彼が無事に帰ってきた時には、こうして二人の時間を大事にしたいと思った。
「・・・私。義孝さんが次にお戻りになるまでに、もっと強い人間になります」
あなたが安心して海で過ごせるように、私があなたの戻って来る場所を守れるように。
たとえ共に過ごせる時間が短くとも、生きた時間が短くとも、互いに、出逢えたことを幸せだと思えるように。
花は、笑顔で言った。
「義孝さん、私、お待ちしています」
涙は堪えた。
そう思った瞬間、花の目の前が真っ白になる。義孝に力強く抱き寄せられたからだと気付くのに、時間はかからなかった。
この腕に、胸に、何度も心を救われた。
「戻って来ます、必ず」
「・・・はい」
か細い涙声は、さざ波の音にかき消された。無情な時が迫るが、それでも許す限り、二人は長い間そのまま抱き合っていた。
鹿江達使用人は、花との思いがけない再会を喜んだ。そして、義孝と千代に対しても、亡き前当主と同じように丁寧に仕えると約束してくれた。義母や義妹にたいしては、なかったことだ。
婚約の許可が下りて間もなく、二人の婚礼の儀は霧島家にて開かれた。
義孝の恩人である中原中将も参列したが、酒は一滴も飲まなかった。中将は『酒がなくとも酔えるのだ』と言い、義孝を前に男泣きしていたという。
そして婚礼の儀の夜、二人は夫婦となった。
戦艦疾風は、件の偽旗艦の掌捕以来、北部鎭守府の軍港に停泊している。乗員達の回復を待ってのことだったが、花達の婚礼の儀が終わる頃には皆すっかり良くなっていた。
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二人が海と陸に分かれる日は、あっという間に来てしまった。
義孝の出立の日、花は船出を見送るため、共に海へと向かうことにした。出港までの猶予の時間、花は義孝と海辺を歩いた。
ふと、花は思い出した。
(・・・そうだ、私、海に来たかったんだった)
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その空と海との間を縫うように、海鳥達が鳴きながら飛んでいる。
潮騒の音と磯の香りが、爽やかな風に乗って浜辺の砂を撫で、夏の陽射しが螺旋細工のようにキラキラと波間に照り返している。
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(ああ、そうだわ。以前の私にとって、あの海が幸せな思い出の場所だったから・・・ずっといたいと願ってしまう場所だったから・・・でも、いまは)
花は自分の隣に目を向けた。
そこには、義孝がいる。すぐ傍に、手を伸ばせば触れられる距離に、空に浮かぶ雲よりも白い軍服に身を包み、暗闇の中を光で照らす灯台のように、眩く、まっすぐに立っている。
視線に気づいた彼と目が合う。
その瞬間、花の胸に沸き起こったのは、もはや郷愁などではない。
(ずっと、この方と一緒にいたい)
それは、夢の中で抱いていたような『ここに留まりたい』と後ろ向きに翻弄する気持ちとは異なる。
この先に続く人生を、彼と共に歩んでいきたい。そんな風に、未来を見つめる前向きな願いだった。
「花さん、どうしました?」
義孝の顔を、花はじっと見つめる。もうすぐ、彼はこの海の向こうに行ってしまう。
『泣かないで。戦争に行くわけじゃない』
昨晩、寝室で義孝は言った。
・・・離れたくない。
そう願っても、叶うものではない。それは、花も分かっている。
だから、願いを変えた。
海神に願うは、確かに彼の無事の帰還。彼が無事に帰ってきた時には、こうして二人の時間を大事にしたいと思った。
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あなたが安心して海で過ごせるように、私があなたの戻って来る場所を守れるように。
たとえ共に過ごせる時間が短くとも、生きた時間が短くとも、互いに、出逢えたことを幸せだと思えるように。
花は、笑顔で言った。
「義孝さん、私、お待ちしています」
涙は堪えた。
そう思った瞬間、花の目の前が真っ白になる。義孝に力強く抱き寄せられたからだと気付くのに、時間はかからなかった。
この腕に、胸に、何度も心を救われた。
「戻って来ます、必ず」
「・・・はい」
か細い涙声は、さざ波の音にかき消された。無情な時が迫るが、それでも許す限り、二人は長い間そのまま抱き合っていた。
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