身代りの花嫁と軍服のこじれた初恋

絵麻

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身代わり花嫁と軍服のこじれた初恋

五十一話『嵐の夜に』

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「すごい風」
「早めに板をつけて良かったな」
「はい。窓が割れたら、大変ですからね」

 リーンとベルが鳴る。

「清華、招集がかかった。行ってくる」
「はい」
 雨具を着込み、鏡弥が玄関に向かう。
「鏡弥さん」
 清華が火打ち石をならした。
「行ってくる」
 雨の中、鏡弥は走り出した。

「どうか、無事で」
 扉を閉じる。
「さてと火の元用心と」

 全ての点検を済ませ、清華は写真を抱えて寝室に向かう。

 ピカっ

「きゃ」
 雷鳴に首をすくめた。
「やだ、雷嫌いなのにーー」
 震える清華は、ふと玄関の外に人影を見つける。
「鏡弥さん?」
 忘れ物だろうか、清華は玄関に走る。

「待って、今、開けますから」
 ガラガラと引き戸を開き、そこにいた人影に凍りついた。

 だれ?

 無精髭にボサボサに伸びた髪、清潔感の欠片のない男にゾッと悪寒が走る。

「い」

 悲鳴を上げ、清華は逃げた。

「二次災害にならなくて良かった」
「ああ」
 市民を誘導し、帰宅の途に着く。
「早く帰ってやれ。嫁さん、一人だろ」

 同僚に促され、鏡弥は走り出した。

「!」
 開け放たれた玄関に、鏡弥は戦慄する。
「清華!」
 靴を脱ぎ捨て、廊下を駆け抜ける。

 やだぁ、鏡弥さん

 悲鳴が響いた。
「清華」
 居間では、清華が男にのしかかられていた。
「いやぁーーーー」

 体中の血が、頭が沸騰する思いだった。

 貴様ぁ!

 怒号とともに、鏡弥は男を蹴り飛ばした。

「火事場泥棒発見」
「捕縛!」

 ドタバタと軍人達が続いて、男を袋叩きにした。

「清華」

 やだぁ!

 ガタガタと震え、清華は暴れる。
「来ないで、触んないでぇっ!」
「オレだ、清華」
 しっかりと抱きしめた。小さな体が、ガクガクと震える。
「鏡弥さ」
「ああ、大丈夫だ」
「怖かっ」
 涙がポタポタと落ちる。
「じゃ連行します」
 縄に縛られた男が、引きずられていく。

「鏡弥さん」
「大丈夫だ、ケガは?」
「っく」
 震えが止まらない、もし少し遅ければと思えば血が凍る。

「鏡弥さん、腕から血が!」
「ああ、作業中に引っ掛けた。大事ない」
「薬取ってきます」
 バタバタと押入れに走る。

「良かった。ちょっと、皮がめくれただけで」
 まだ、震えが止まらない。
「殴られたのか」
 口に血が滲んでいた。
「平気、です」
「無理するな、震えてる」
「死にたい、って考えた。こんな男に、されるくらいなら」
「死ぬな、何があったとして。オレは、必ず君に帰るから」
「はい」
(口付けられ、震えがおさまっていく。恐怖でガチガチだった心が、鏡弥さんの温もりに溶かされていく)

 んぅ

「やだぁ」
「痛いか」
「大丈夫ーーあっ」
 ガクガクと体を震わせる。
「だめぇ、深ぁ」
「まだ、キツいか」
「やだ、やめな」
 首を振る。
「大丈夫、今さら止められないさ」

 口付け、抱きしめられる。やがて、清華は眠りに着く。
(この温もりの中には、不安も恐怖もない。ただ、幸せで溶けていく)

 静かな寝息に、鏡弥は額に口付けた。
「おやすみ、清華」
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