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身代わり花嫁と軍服のこじれた初恋
エピソード2『花岡瑠華』
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「よいしょっと」
それは、初めての脱走ではなかった。
「元子様」
東宮殿は雲隠れした光輝の行方が分からず、てんやわんやの大騒ぎ。
「元子様がまた?」
章枝は頭を抱えた。
「困った兄様ね」
「にいたま」
このところ、光輝は度々宮から姿を消しては、皆が大捜査せねばならなかった。
「勉強は、どこまで進んでいる?」
「論語です」
「ならば、少しくらいなら構わぬ。なぁ、姫」
晃嗣はそっとしておけ、そう言って大捜査をやめさせた。
「あれも、たまには息抜きが必要だ」
「ふふ。主上も元子様に甘いですね」
「そうか?あれはよくやっている。遊んでいて、遊んでいるだけではない」
「そうですわね」
優しい光輝は、浮浪児の自立を促す、職業訓練所の設立を考案した。
お陰で、浮浪児が犯罪を犯したり、犯罪に巻き込まれる事件が格段に減った。
「あやつ、最近は戦争や病で身体が不自由になった人間の生活保証の見直しまで言いよった」
「行く末が楽しみですね」
「ああ。必ずや、善き帝になる。そうすれば私は跡目を譲って、そなたや姫と静かに暮らせる」
「ふふ」
そう出来たら、どんなにか幸せだろうと章枝は願う。
「あの、若様」
そこは市場の片隅にある、呉服問屋だった。
「若様じゃなく、光輝だ」
この呉服問屋は、三年前に主を喪った。以後は長女の瑠華と、母で切り盛りしている。
「瑠華、私の正室にならないか」
「え」
「今すぐにとはいかぬから、しばらくは妾という扱いになるが」
「―――でも、私は卑しい商人の娘ですよ」
「この世に、真の卑しい人間はいない。いるとすれば、身分や身なりで人を判断する輩だ」
瑠華の瞳に涙が浮かぶ。
「そなたに必ず、最高の服を着させる」
最高の服。
それはこの帝国では、帝と皇后だけが着ることを赦される、龍が刺繍された王衣だ。
「そんな!それは許されません」
「私が法を変える。いつの日か、民間からも、王衣を着る女人が誕生する」
そして、それは現実のものとなる。しかし、それが認められるにはまだ、五十年という歳月を要した。
「瑠華、後宮へ」
「―――はい」
瑠華は手を取った。
「まさか、花岡家の娘を?」
章枝はなりません、と首を振る。
「元子様、あなたは帝の唯一の皇子ですよ?花岡家といえば」
「分かっております。ですが、母上」
「なりません、正妃は・・太子妃がいるのに・・」
章枝の猛反対を跳ね除け、光輝は瑠華を側室にした。
「また、血の嵐が起きるわ」
「皇后様」
「私は、どうすれば?主上は平穏を望んでいるわ」
瑠華の聡明さ、清らかな心は理解している。
「私は、どうすればよい?」
夜空を見上げ、清華を思った。
「そうだ、清華を呼んで」
「は、長谷川夫人をですか」
「ああ、清華と鏡弥に相談しよう」
こうして、再び清華と鏡弥が後宮に呼ばれた。
後宮の嵐、それはまた別の物語。
それは、初めての脱走ではなかった。
「元子様」
東宮殿は雲隠れした光輝の行方が分からず、てんやわんやの大騒ぎ。
「元子様がまた?」
章枝は頭を抱えた。
「困った兄様ね」
「にいたま」
このところ、光輝は度々宮から姿を消しては、皆が大捜査せねばならなかった。
「勉強は、どこまで進んでいる?」
「論語です」
「ならば、少しくらいなら構わぬ。なぁ、姫」
晃嗣はそっとしておけ、そう言って大捜査をやめさせた。
「あれも、たまには息抜きが必要だ」
「ふふ。主上も元子様に甘いですね」
「そうか?あれはよくやっている。遊んでいて、遊んでいるだけではない」
「そうですわね」
優しい光輝は、浮浪児の自立を促す、職業訓練所の設立を考案した。
お陰で、浮浪児が犯罪を犯したり、犯罪に巻き込まれる事件が格段に減った。
「あやつ、最近は戦争や病で身体が不自由になった人間の生活保証の見直しまで言いよった」
「行く末が楽しみですね」
「ああ。必ずや、善き帝になる。そうすれば私は跡目を譲って、そなたや姫と静かに暮らせる」
「ふふ」
そう出来たら、どんなにか幸せだろうと章枝は願う。
「あの、若様」
そこは市場の片隅にある、呉服問屋だった。
「若様じゃなく、光輝だ」
この呉服問屋は、三年前に主を喪った。以後は長女の瑠華と、母で切り盛りしている。
「瑠華、私の正室にならないか」
「え」
「今すぐにとはいかぬから、しばらくは妾という扱いになるが」
「―――でも、私は卑しい商人の娘ですよ」
「この世に、真の卑しい人間はいない。いるとすれば、身分や身なりで人を判断する輩だ」
瑠華の瞳に涙が浮かぶ。
「そなたに必ず、最高の服を着させる」
最高の服。
それはこの帝国では、帝と皇后だけが着ることを赦される、龍が刺繍された王衣だ。
「そんな!それは許されません」
「私が法を変える。いつの日か、民間からも、王衣を着る女人が誕生する」
そして、それは現実のものとなる。しかし、それが認められるにはまだ、五十年という歳月を要した。
「瑠華、後宮へ」
「―――はい」
瑠華は手を取った。
「まさか、花岡家の娘を?」
章枝はなりません、と首を振る。
「元子様、あなたは帝の唯一の皇子ですよ?花岡家といえば」
「分かっております。ですが、母上」
「なりません、正妃は・・太子妃がいるのに・・」
章枝の猛反対を跳ね除け、光輝は瑠華を側室にした。
「また、血の嵐が起きるわ」
「皇后様」
「私は、どうすれば?主上は平穏を望んでいるわ」
瑠華の聡明さ、清らかな心は理解している。
「私は、どうすればよい?」
夜空を見上げ、清華を思った。
「そうだ、清華を呼んで」
「は、長谷川夫人をですか」
「ああ、清華と鏡弥に相談しよう」
こうして、再び清華と鏡弥が後宮に呼ばれた。
後宮の嵐、それはまた別の物語。
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