25 / 29
第2章
#7-C 監視AIの絶望仲間たち その5
しおりを挟む
「グァァァ……」
ペンデヴァーの疲労度は限界を超えている。
前回が八十パーセントだとすると、今回は百二十パーセントだ。いや、途中でフリーズしたからゼロパーセントにリセットされたはずなのに、一気に限界突破してくるあいつはなんなのか。
しかも、頼みの綱のスオウのコントロールが効かない。リクトを嫁扱いする欠陥が思いのほか強力で、彼によるリクトの神格化に歯止めがかからないのだ。問題児が一人から二人に増えた、そんな気分だ。
そうして始まったリクトとセイヌの戦いは、圧倒的リクトの勝利で幕を閉じた。予想通りというよりも、それは予め決められていた、というべきか。
「グァ」
プリンの早食い?
いや、あれはただの掃除機だ。吸引力の変わらない、ただ一つのプリン吸引マシーン。滝のように流れ落ちてくるプリンを一滴たりとも零さず吸い続けさせられた。本人は一口食べれば充分だから残りはペンデヴァーにあげるよなんて、プリンが好きなくせにまったく勝手なことばかり。
傍から見れば人間業ではないことをしていたが、実のところはそうではない。実際、人間であるセイヌはプリンのプールに沈み、甘味地獄を味わった。プリンが詰まって呼吸ができなくなるというのは、幸せなのか、不幸せなのか。昇天する前に引き上げられ、死亡原因欄にプリン死と記載されることを辛うじて免れたことはラッキーだったはず。
「グァァ…」
続く料理対決も酷かった。セイヌが唐揚げ用に選んだ肉は、オウリ・ハルコーン。加熱すれば、その身はどんな鉱石よりも硬くなるが、だからと言って生食すれば菌に侵されて確実に死ぬ。生肉を刃物型に整形し、焼き上げて研ぎ澄ますのが正解なのだが、あれを食材として置いたのは一体誰だ――ああ、そうか、リクトか。ポルポルソースというのも聞いたことがない。あの発言もどうせリクトの適当なものだろうが、それだけで新しいソースを開発させられるこちらの身にもなってほしい。この時点でペンデヴァーのリソースはフリーズ一歩手前だった。
「グァッ……」
トドメはリクトの料理だ。
適当に選んだ材料と調味料を鍋に入れて、調理時間として与えられた二時間、ずっと居眠りしていた。鍋はもちろん置いていただけ。コンロにかけて加熱するなんて、一切していない。
――もう一度言う。
ただ、置いていただけだ。
ペンデヴァーはしかたなく味を調えようとしたところで完全にフリーズした。彼の選んだ材料や調味料がどれもこれも癖の強いものだったからだ。
水と油以上に混ざり合わない調味料、茹でて殻を剥いた身をほぐさなければ食用不可な食材、噛めば痺れる毒性のある実、一滴でも体内に取り込めば即死する毒劇物などなど、食べた人間を一発であの世送りにする気満々な料理――いや、詰め込んだだけなので料理ではなく、単なる鍋詰めだ――は、さすがに出せないだろう。あれを出せば、リクティオとしての社会的地位はさすがに死ぬ。そうなる前に手を加え、なんとか最高の出来栄えにしようとした結果が、あれだ。
フリーズからの再起動に時間がかかったせいで、見た目まで手を加えることができなかった。だが、かえってそれが審査員たちを絶望させる結果に繋がったらしい。
見た目と匂いで絶望させ、おかわりがないことで絶望させ、二度と食べられないということで絶望させる、絶望三段構え。そりゃそうだ。リクトは何もしていない。しつこいようだが、彼は材料を鍋に詰め込んだだけなのだ。
おかわりがない?
当然だ、残らないように盛り付けた。
二度と作れない?
当然だ、キミは作っていないから。
まったく、こんなに神経を使った――言葉の綾だ。AIに神経はないから主にリソースの問題だった。リクトのせいで人間味のある感情がうつってしまっただろうか。
ペンデヴァーはフルフルと、首を振る。その勢いは身体のほうにも伝播し、ほぼ無意識に、反射的に全身をブルブルと震わせた。最後はフリッパーでパタパタする。
「グァ……」
今日はもう疲れた。
負けが確定したセイヌは、ドリステッドとともにチャッロプフゥホヒィアの元に血を吸われる餌として送り込まれることが決定した。どういう罰だ。それは。相変わらずリクトの考えることは適当すぎる。さらに、刑期はリクトがチャッロプフゥホヒィアに一任した。要するに、面倒くさいので早々に手放し、他人任せにしたわけだ。どれだけサボりたいのか。
「グァァァ……」
もうダメだ。今日はペンデヴァーも寝に入ろう。卵の置かれたふかふかの座布団の上にヒョコヒョコと歩いて移動し、卵を抱えるようにして直立し、目を閉じる。再起動後、そのままスリープモードに入ってしまおう。今日はもう何もしたくない――。
ペンデヴァーの疲労度は限界を超えている。
前回が八十パーセントだとすると、今回は百二十パーセントだ。いや、途中でフリーズしたからゼロパーセントにリセットされたはずなのに、一気に限界突破してくるあいつはなんなのか。
しかも、頼みの綱のスオウのコントロールが効かない。リクトを嫁扱いする欠陥が思いのほか強力で、彼によるリクトの神格化に歯止めがかからないのだ。問題児が一人から二人に増えた、そんな気分だ。
そうして始まったリクトとセイヌの戦いは、圧倒的リクトの勝利で幕を閉じた。予想通りというよりも、それは予め決められていた、というべきか。
「グァ」
プリンの早食い?
いや、あれはただの掃除機だ。吸引力の変わらない、ただ一つのプリン吸引マシーン。滝のように流れ落ちてくるプリンを一滴たりとも零さず吸い続けさせられた。本人は一口食べれば充分だから残りはペンデヴァーにあげるよなんて、プリンが好きなくせにまったく勝手なことばかり。
傍から見れば人間業ではないことをしていたが、実のところはそうではない。実際、人間であるセイヌはプリンのプールに沈み、甘味地獄を味わった。プリンが詰まって呼吸ができなくなるというのは、幸せなのか、不幸せなのか。昇天する前に引き上げられ、死亡原因欄にプリン死と記載されることを辛うじて免れたことはラッキーだったはず。
「グァァ…」
続く料理対決も酷かった。セイヌが唐揚げ用に選んだ肉は、オウリ・ハルコーン。加熱すれば、その身はどんな鉱石よりも硬くなるが、だからと言って生食すれば菌に侵されて確実に死ぬ。生肉を刃物型に整形し、焼き上げて研ぎ澄ますのが正解なのだが、あれを食材として置いたのは一体誰だ――ああ、そうか、リクトか。ポルポルソースというのも聞いたことがない。あの発言もどうせリクトの適当なものだろうが、それだけで新しいソースを開発させられるこちらの身にもなってほしい。この時点でペンデヴァーのリソースはフリーズ一歩手前だった。
「グァッ……」
トドメはリクトの料理だ。
適当に選んだ材料と調味料を鍋に入れて、調理時間として与えられた二時間、ずっと居眠りしていた。鍋はもちろん置いていただけ。コンロにかけて加熱するなんて、一切していない。
――もう一度言う。
ただ、置いていただけだ。
ペンデヴァーはしかたなく味を調えようとしたところで完全にフリーズした。彼の選んだ材料や調味料がどれもこれも癖の強いものだったからだ。
水と油以上に混ざり合わない調味料、茹でて殻を剥いた身をほぐさなければ食用不可な食材、噛めば痺れる毒性のある実、一滴でも体内に取り込めば即死する毒劇物などなど、食べた人間を一発であの世送りにする気満々な料理――いや、詰め込んだだけなので料理ではなく、単なる鍋詰めだ――は、さすがに出せないだろう。あれを出せば、リクティオとしての社会的地位はさすがに死ぬ。そうなる前に手を加え、なんとか最高の出来栄えにしようとした結果が、あれだ。
フリーズからの再起動に時間がかかったせいで、見た目まで手を加えることができなかった。だが、かえってそれが審査員たちを絶望させる結果に繋がったらしい。
見た目と匂いで絶望させ、おかわりがないことで絶望させ、二度と食べられないということで絶望させる、絶望三段構え。そりゃそうだ。リクトは何もしていない。しつこいようだが、彼は材料を鍋に詰め込んだだけなのだ。
おかわりがない?
当然だ、残らないように盛り付けた。
二度と作れない?
当然だ、キミは作っていないから。
まったく、こんなに神経を使った――言葉の綾だ。AIに神経はないから主にリソースの問題だった。リクトのせいで人間味のある感情がうつってしまっただろうか。
ペンデヴァーはフルフルと、首を振る。その勢いは身体のほうにも伝播し、ほぼ無意識に、反射的に全身をブルブルと震わせた。最後はフリッパーでパタパタする。
「グァ……」
今日はもう疲れた。
負けが確定したセイヌは、ドリステッドとともにチャッロプフゥホヒィアの元に血を吸われる餌として送り込まれることが決定した。どういう罰だ。それは。相変わらずリクトの考えることは適当すぎる。さらに、刑期はリクトがチャッロプフゥホヒィアに一任した。要するに、面倒くさいので早々に手放し、他人任せにしたわけだ。どれだけサボりたいのか。
「グァァァ……」
もうダメだ。今日はペンデヴァーも寝に入ろう。卵の置かれたふかふかの座布団の上にヒョコヒョコと歩いて移動し、卵を抱えるようにして直立し、目を閉じる。再起動後、そのままスリープモードに入ってしまおう。今日はもう何もしたくない――。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる