ぐうたらサボりたいだけの僕ですが、絶望中の企鵝が監視してきます。世界の管理?知らんけど。

獣之古熊

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第2章

#6-B 黒歴史が追加されてしまった

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「おい、あいつらがそうか?」

 物陰に隠れ、銀行強盗たちの動きを見ていた少年は、後ろに控えていた男――ドリステッドのほうを向いて小声で尋ねる。

 突如として銀行の入口に現れた三人の少年。どう見ても女装であることが丸わかりな二人の少年には心当たりはないが、企鵝嘴ペンギンマスクの少年のほうは、心当たりがあるどころか今回の目標ターゲットそのものだ。

 大魔王を討つための戦力として、トップハンターと名高い彼――リクティオをスカウトしにいくも、護衛として連れて行った三人の寝返りによって失敗。どのようにして知ったのか、主の協力者たる元大魔王――ジェイランカが加担していることまでを言い当てている。

 単なる偶然だとは思えない。もしかすると、自身が主を裏切り、ジェイランカのもとに付くという野望さえも、すでに見透かされているのではないか。主はまだ気づいていないが、あの少年が存在していることでそうなるのも時間の問題だ。ならば、邪魔者は始末しておくに限る。なびかない男を捕まえて誘惑する技をネタに、数百年待ちの稀代の占い師の占い優先権を得て、この銀行強盗を自作自演した。

 ここまでは占いの通りに事が運んでいる。この状況シチュエーションを作り上げることで、リクティオヤツが現れるという占いは見事的中した。このあとも、占いどおりに行動すれば、勝ちは確定、邪魔者を排除することができる。

「勇者セイヌ。あの真ん中の少年がそうだ。残りは好きにしていい。ただし、教えた通りに動くんだ」
「わかってるって。そしたら俺はもっと強くなれるんだろ?」

 ニヤリ、と笑みを見せた黒髪の少年――新たにジェイランカが召喚した勇者、セイヌは柱の影からドリステッドが雇った強盗たちのもとへと歩み出す。剣を抜き、やがて走り出すとそのまま男たちに斬りかかっていた。先日雇ったハンター崩れの三人にもジェイランカが特殊な能力を授けていたが、彼らよりもこの少年勇者のほうが使えそうではないか。だが、念には念を、だ。

「おい、わかっているな? あいつがしくじったらお前の出番だ。準備しておけ」
「……」

 悲鳴を上げ、次々とセイヌに斬り伏せられていく男たちを陰から見やったドリステッドは、背後に控えるフードを目深に被った長身の男へと指示を出す。男は無言のまま、革のパンツから出した尻尾を一度だけ左右に振り、それに答えたようだった。ドリステッドはその様子に、ふん、と鼻息を漏らすと、セイヌの後を追って歩き出した。

「さて、あとはあんたらだけだな? 銀行強盗さん」

 セイヌがリクティオに向かって剣を真っすぐ突きつける。すると、それに反応したのは、彼らの背後に控えていた、二人のメイド服の少年立ちだった。

「な、お前……!」
「セイヌくん……!?」
「あぁ?」

 勇者セイヌの目が細められる。突きつけていた剣を自らの肩に載せ、その肩をトントン、と叩く。

「ああ、その格好、なんか見覚えあると思ってたら、やっぱりケントとタスクじゃねぇか。サングラスなんてしてるから気づかなかったぜ。文化祭のメイドカフェほっぽり出してどこに行ったんだと思ってたら、なるほどな。お前らもあのババアに召喚されたってわけか」

 セイヌの言葉にケントとタスクの身体が硬直する。リクティオはというと、彼らの会話にはあまり興味がなさそうだ。欠伸を噛み殺そうとしていたが、失敗して変な呻き声を漏らしていた。

「ってことは、お前らも勇者として召喚されたってわけか。いいじゃねぇか。どっちが本物の勇者か教えてやるよ。虐める相手が消えて鬱憤が溜まってたんだ。このスキルってやつも試し撃ちしてみたかったし、ちょうどいいだろ?」
「なっ!? や、やめろ……!!」
「け、ケント、どうしよう……!」

 震え上がる二人の少年。剣をリクティオではなく、ケントたちのほうへと向けたところで、セイヌの肩に何者かの手が置かれる。

「言ったはずだ。指示通りに動け、と」

 顔だけそちらを振り向けば、そこにはドリステッドが立っていた。その後ろには尻尾の生えた謎の男もいる。

 セイヌはチッと舌打ちをして、剣を鞘に収める。その行動にホッと胸を撫で下ろす二人の少年。だが――。

「俺の強さを見せてやる。お前らとの違いってやつをな! その目ん玉、見開いてじっくり眺めな! ステータスオープン!!」

 ドリステッドに言われていたのは、まずは”ステータスオープン”と唱え、自身の強さを誇示することから始めろという内容だった。その指示にセイヌは従った。すると、その場にいた全員の目前、何もない空間に立体映像が浮かび上がる。

 名前、カマ・セイヌ。男。十五歳。
 十二歳の夏、初恋の相手に告白するも、なぜか間違えて『お母さん』と呼んでしまい、マザコンであることがバレてフラれる。
 十三歳。秋。初恋の相手を忘れようと別の人に恋をした。今度は失敗しないよう事前準備したうえで告白しようと、婚姻届でサインする練習をし、母親に見つかるが母親の名前と相手の名前が同じだったために『お母さんと結婚したいなんて、もう、セイヌったら』と勘違いされてしまう。
 十四歳。冬。バレンタインデーに手作りチョコを作り、ラブレターを添えて準備万端、学校へ向かう。箱を入れる靴箱を間違え、チョコとラブレターはフルイケントのもとへ。おめでとう。

「ばっ、な、なんだよこれ!! 違う、こんなの、俺じゃねぇ!! おい! おっさん! 話が違うじゃねぇか!!」
「こ、これは……」

 その映像を消そうと、顔を赤らめて腕をブンブンと振り回し始めるセイヌ。だが、映像は最後まで再生され、周囲に笑いを巻き起こした。一番微妙な顔をしていたのは、当のケントだ。

黒歴史暴露ステータスオープン。自分から晒すのって勇気がいるよね。でも、いさぎよくて僕は好きだけどなぁ。あ、でも僕のことはお母さんって呼んだらだめだよ?」

 それまで黙っていたリクティオが口を開き、さらに煽ってくる。その行動に周囲がどっと沸き、セイヌの顔がさらに赤くなった。

「てめぇ! ふざけんな! こうなったら燃やし尽くしてやる! くらえ! 深淵に宿りし黒き炎よ!」

 セイヌがリクティオに右腕を伸ばし、その手のひらを向ける。が、何も起こらず、静寂の時間が過ぎる。

「はいはい、ダメダメ。そんなんじゃ。やり直し」
「なっ!? て、てめぇ! は、放しやがれっ!」

 いつの間に距離を詰めたのか、リクティオはセイヌの懐に潜り込み、セイヌの伸ばした手のひらに自身の手を重ね合わせ、指を絡ませて握る。突然のリクティオの行動に、セイヌは何が起きたのか理解できず、慌てて手を振りほどき、俯いて耳まで真っ赤に染め上げる。

「いいかい、魔法はこうやって使うんだよ。僕の真似をしてみて? チェリーボーイだと効果抜群らしいよ? チェリーボーイってどういう意味かは知らないけど」

 そう言ってリクティオはセイヌの耳元で何かを囁く。ヒソヒソ囁きながら、軽く何やらポージングの指導もしている。次第にセイヌの身体が震え出し――。

「んなことできるわけねぇだろうがッ! ふざけんな!」
「いいから、いいから。ほら、騙されたと思ってやってみなよ。すごい魔法出ちゃうから」

 拳を握り締め、しばらく考えるセイヌ。尋常ではない彼の様子に、ケントもタスクも、怪訝な顔をしていた。やがて。

「つ、月が泣いてるっ! わ、わたしのために!」

 声を張り上げ、顔を赤らめつつ。だがしかし、やめようとはしない。まるで何かに取り憑かれたかのように――セイヌは抗おうとする自分の心が何かで塗りつぶされ、圧し負けていくのを感じながら。

「こっ、この胸の、ちくりが、ま、まほっ……! リリィ・バ、バースト……発動ぉ……ッッ!!」

 最後はやけくそだった。両手の指を胸の前で絡め合わせると、首を斜めに傾げて呪文を唱える。いや、果たしてそれは呪文と言えたのか。

 乙女ポーズを取った少年の姿に、周囲にいた者たちはみなポカン、と口を開けて彼を凝視する。たった一人を除いて。

 静寂が、残酷にも彼の心をズタボロに斬り裂いていく。

「……ぷっ」

 吹き出したのはリクティオだ。その反応にセイヌが理解できないとでも言いたげな顔を向け、赤くしたり青くしたりしながら、まるで魚のように口をパクパクとさせる。怒りよりも恥ずかしさが勝り、声も出せないでいるようだ。

 それを見ていたケントとタスクは、二人揃って『あーあ』と、額に手を当てていた。

「まさか本当にやるとは思わなかったよ。うん、ノリがいい子はやっぱり好きだよ。僕の適当魔法、どうだった?」
「どうだったって、は!? 適当魔法!? いや、ちょっと待て、どこからツッコめばいいんだ、これ!?」

 混乱し始めるセイヌ。騙されたことを理解しながらも、明らかにそんなことで騙されるわけないだろう、というような周囲の視線が突き刺さり、痛い。

「あ、でも、一人、今の魔法効いちゃったみたいだね」
「え……?」

 リクティオが指をさす。ケントとタスクにとっては既視感のある光景。初めてそれを経験するセイヌ。三人が嫌な予感を覚えると同時――明らかに先ほどまでとは違う、目つき――ハートマークでも浮かんでいるかのような、そんなうっとりとした顔つきでセイヌをじっと見つめる男が一人。

「ああ! 素晴らしい! 私の太陽!」
「うわっ!? や、やめろ! おっさん!! 何してんだ! 離れろよ!!」

 追いかけてセイヌに抱き着くドリステッド。完全に自我を失っている様子が見て取れる。彼の抱き着きから慌てて抜け出し、逃げ回るセイヌとドリステッドの鬼ごっこが始まる――。

「うーん、ちょっと飽きてきたね。じゃ、スオウ。もういいよ。狩っちゃって?」

 それまでじっと動かず、静かに佇んでいたフードを被った男のほうを向いて、リクティオが笑いかける。すると、彼はやれやれとでも言いたげにかぶりを振ると、パーカーのジッパーを下げ、フードを下ろして素顔を晒した。

 赤い髪をした少年剣士。頭の上には狼耳が生えており、服の下の左胸にはリクティオと同じ、企鵝ペンギンが魚を丸呑みする刻印があり――。

「リクトは俺の嫁。邪魔する奴らは全員――ぶった斬るッ!」

 彼は腰に生やした尻尾をブンッ、と振った。
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