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第2章
#6-A 糖分補給? サボりはおやつに入りますけど
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そういえば、昨日、結局モンブランプリンは食べ損ねてしまった。僕がフルイケントとイサクラタスクを勇者として仕立て上げる代わりに差し出すと――無惨にも残っていたのは空のカップのみ。くやしい。
僕は、職員休憩室のソファに寝転がり、新たなプリン購入ミッションの作戦を練っていた。いかに仕事をしているふうを装い、仕事をサボるか。これに尽きる。たとえ休憩中であっても、サボる作戦を練ることに関しては抜かりない。だいいち、仕事をしているからこそサボれるのであって、何もしていない時間にサボる必要は全くない。
「ね、そう思いませんか? 知らないおじさん」
「お前はいっぺん、ドラゴンの巣の中にでも放り込んでやろうか?」
僕の寝転がるソファの前で、新聞を広げてお茶を飲んでいたおじさんに同意を求めると、そんな答えが返ってきた。いったい僕が何をしたというのか。
「あと、上司をフルネームで呼び捨てにするのはやめろ。いい加減、お前は仕事してこい」
おお。まさかの僕の上司だったとは。しかし、フルネームで呼んだ覚えも、呼び捨てにした覚えもないのだが。
知らないおじさんは、広げていた新聞から顔を覗かせ、ずらした眼鏡の上から僕の顔を見つめてくる。そんな目で見てもだめだよ?
いくら子づくりして主夫になりたいからって、僕にだって相手を選ぶ権利はあるんだから。
「あ、こんなところでサボってたんですか、シラナ・イオ部長。ほら、早く仕事してください。承認作業滞ってるんだから、さっさとしないと刺しますよ?」
と、そこに現れたのは、僕よりも少し年上の青年。僕と同じく黒いスーツを着た彼は、僕の目の前にいた知らないおじさんを引っ張って連れ去って行く。なるほど。彼も僕同様、サボっていた口か。サボると刺されてしまうなんて、知らないおじさんも大変だ。
ん? シラナ・イオ部長?
知らないおじさん。
フルネーム?
――そんな、まさかね。
「さてと。僕もそろそろ仕事に戻ろうかな」
ソファからおもむろに起き上がり、僕はハンター管理局本部の正面玄関へと向かった。受付の前で事務員の女性に外回りに行ってくることを伝え、玄関を出る。すると、そこでフルイケントとイサクラタスクに出くわした。
「やっと来たのかよ」
「遅いですよ、イチノセさん」
僕は顔にハテナマークを浮かべ、首を傾げる。はて。二人と出かける予定だっただろうか。そんな約束した覚えはないのだが。
「キミたち何してんの? こんなところで。僕はこれから出かけるから忙しいんだよ」
プリンを買いに行かなきゃいけないんでね。キミたちが食べた分と、今日の分を取り戻さないと。糖分不足で栄養失調になってしまう。
「あのなぁ……。俺たちをハンターにしたのあんただろ」
「イチノセさんに指導を受ける予定になってたんですけど?」
えええ?
そんなの僕は聞いていない。僕に指導なんてできるはずがないだろ。キミたち合格したんだから、あとはもう好きにハンティングなり、サボるなり勝手にしてくれていいのに。むしろ、何もできない僕を巻き込まないで欲しいんだけど。
さすがに二人を連れてプリン屋さんに行くのもなぁ。サボっていることはできるだけバレないようにしたい。うーん。またもや買収するか?
昨日、モンブランプリンをうまいうまいと言いながら食べていた二人だ。あそこのプリンは最高だと知った今、彼らを再び買収するのは容易いのでは。そうだ。今日は、ハンター試験の合格祝いということにすれば、彼らも僕の提案をむげにはできないだろう。
「しかたないね。これから向かうのは秘密の任務だからね。絶対に他言無用だ、いいね?」
僕は二人にそっと近づくと、三人で顔を突き合わせ、ひそひそ話をする。二人は緊張気味に顔を強張らせながら、息を飲んだ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。ドラゴンの巣に特攻するわけでもあるまいし」
「あんたが言うと冗談に聞えねぇから、怖えんだよ!!」
フルイケントのツッコミに、イサクラタスクがうんうんと頷く。彼らに話を聞いたところ、どうやら二人――じゃなかった、もう一人いたけど、誰だったっけ――は、あのあと、にくまんに食べられてしまったらしい。僕はにくまんに遊んでもいいよ、って言ったつもりだったんだけど、にくまんが勘違いしちゃったのかな。今度会ったときに、人は食べちゃだめだぞ、って言い聞かせておかなきゃ。
「今日は都市から出る予定はないよ? 最近物騒な話題が多いし」
「いや、あんたが一番物騒だろ……」
しょうがない。じゃあこうしよう。
「それなら、僕のペンデヴァーをキミたちに預けておくよ。人質ならぬ、企鵝質だ。はい」
左手に抱えていた企鵝のぬいぐるみと化しているペンデヴァーを二人に渡すと、二人は慌ててそれを受け取る。
「うわっ!?」
「重っ!?」
渡した瞬間、前のめりになり、慌てて踏ん張る二人。ペンデヴァーの目がジト目になり、僕に何かを訴えてくる。この無能、またか、って言った?
たまにはいいじゃん。二人を鍛えるためだと思ってさ。二人が強くなってくれれば、僕の護衛としても役に立つかもしれないし。僕が二人に教えることはもうない、って弟子の卒業を見守る師匠を演じることもできそうだし。
「それじゃ、行くよ。ちゃんとついてくるんだよ?」
「う、うるせぇな! 今それどころじゃねぇんだよ!」
「てか、イチノセさん、このぬいぐるみ、片手で軽々抱えてなかった……?」
二人で企鵝よろしく、ペンデヴァーを抱えてよちよち歩きをしている。そんなんじゃ陽が暮れてしまうよ。ペンデヴァーを一羽抱えるだけでそんなに苦労するなんて。心身ともにたるんでいるんじゃないかな。
そうこうしているうちに、僕たちは目的地へとたどり着く。僕御用達の、この都市ではかなり有名なプリン専門店だ。ここで販売されている、毎日五個限定のプリン・ア・ラモードは抽選販売でしか購入できず、幻のプリンと呼ばれているほどだ。あー食べたい。でも購入権が当たらないんだよね。人海戦術で抽選購入権当てられないかな。
「おい、ここって……」
声を発したフルイケントに、僕は唇に指を当てて、シーっというジェスチャーをする。今日のプリンは、なになに――。トルヴォヤンジュのフレンベルプリンだって!?
これは是非買わなければ!
おもむろに財布を取り出し、中に入っているお金と値札を見比べる。
あれ? おかしい。お札が一枚も入っていないではないか。なんでだろう――そういえば、昨日、モンブランプリンに持っている分つぎ込んだんだった。ああ、どうしよう。このままでは買えない。急いでお金を下ろしに銀行に行かなければ。
プリン屋に入ると見せかけて、僕は大通りをそのまま真っすぐ歩いて行く。後ろからペンデヴァーを二人で仲良く抱えて、ひぃひぃ言いながらついてくる彼らに、笑いながら手を振る。
「ほら、早くしないと。敵が来ちゃうよ?」
「敵だと!? どこにいるんだよ! そんなやつ! はぁはぁ……」
「あそことか?」
ここ、中央大陸でもハンター管理局本部のある都市は、高層ビル群を通路でつなぎ合わせ、そこにできた層にまた別の建物を建てるという三層構造で街が発展している。ハンター管理局本部があるのは上層で、割と治安はいいほうだが、ここ最近は強盗などの被害が頻発している、と噂になっていた。もちろん、その強盗たちを狩るのもハンターの役割だ。
ふと、そこで僕がある建物の屋上を指さすと、そこに黒い影が見えた。頭に獣の耳と、すらりとした長身の尻辺りから生えた尻尾のシルエット。後ろから二人が僕に追いついて視線の先を見やるが、すでにその影は消えており、二人は何やら不思議そうな顔をして僕を覗き込んでくる。
「まさか、何かいたのか……?」
「さぁ? 大丈夫だと思うよ」
「嘘くさいんですよ……」
不安がるフルイケント。それに僕は軽く手を振りながら答えると、再び歩き出す。イサクラタスクの呟きもばっちり聞こえていた。心外だな。僕は嘘はつかない、ってウールルちゃんの太鼓判があるんだからね。ほら早く行かないと、僕のプリンが待ってるんだから。
そこから歩くこと十五分。建物は見えていたのに、入口まで遠いのが難点な銀行が見えてくる。
「ついたよ。ここだ」
都市内でももっとも大きな銀行である。無駄に大きな建物であるが、入口は正面に一つしかなく、こんなところに強盗でも入ろうものなら、逃げ場がなくなってしまうのではないか。そんなことを考えていると、後ろから足を引きずるようにしてペンデヴァーを抱える二人がようやく僕に追いついた。二人は僕の前で立ち止まるなり、大量の汗をかき、大きく息をついている。僕は二人の手からペンデヴァーをひったくるように奪い返すと、それを小脇に抱えた。
「まったく、軟弱すぎない? そんなんじゃ勇者になんてなれないよ?」
「う、ううう、うるせぇよッ! ハァッハァッ!」
「なんでこんな重いのを、そんなに軽々と……ハァハァ……」
僕は嘆息し、二人の文句を肩を竦めてそのまま受け流す。銀行の中へ足を踏み入れれば、たくさんの人が床に座り込み、覆面をして銃を持った男たちに取り囲まれている場面が目に入る。
「てめぇら、妙な真似すんじゃねぇぞ! おとなしくしてれば命は助けてやる! 動けば即撃ち殺すからな!」
おお。凄い。テレビドラマで見るようなワンシーンじゃないか。まさかドラマか映画の撮影だろうか。ワクワクしながら周囲を見渡していると、奥にいたリーダー格らしき男が座り込んだ人々に銃を向けて叫んでいた。そこで、ボン、と僕たち三人が白煙に包まれる。
「え? お、おい!?」
「な、何!?」
ザ・ペンデヴァー・チェンジ。
今回は僕だけではなく、ケントとタスクの二人も巻き添えだ。お馴染み企鵝嘴で口元を覆われたハンター姿の僕。二人の少年は、僕が初めて彼らに会ったときと同じ、メイド服姿。その顔はなぜかサングラスで隠されている。
「ああ!? おい! お前ら、遅かったじゃねぇか! さっさと金を集めて袋に詰めて運び出せ!」
「は!?」
「え!?」
なぜかリーダー格の男に仲間と間違えられ、金を詰めるように指示を受ける僕たち。それに慌てるケントとタスク。うーん。これは、なかなか楽しい展開になってきたのでは?
「イチノセさん!? どうするんですか!?」
「やるわけねぇよな!?」
「でもやらないと、僕たちが撃たれそうじゃない? いいよいいよ、代わりにペンデヴァーでも詰めとけば」
あ、でも今はペンデヴァーは僕と合体しているのか。僕が無理じゃん、と思うと同時、企鵝嘴がカタカタと震え出した――。
僕は、職員休憩室のソファに寝転がり、新たなプリン購入ミッションの作戦を練っていた。いかに仕事をしているふうを装い、仕事をサボるか。これに尽きる。たとえ休憩中であっても、サボる作戦を練ることに関しては抜かりない。だいいち、仕事をしているからこそサボれるのであって、何もしていない時間にサボる必要は全くない。
「ね、そう思いませんか? 知らないおじさん」
「お前はいっぺん、ドラゴンの巣の中にでも放り込んでやろうか?」
僕の寝転がるソファの前で、新聞を広げてお茶を飲んでいたおじさんに同意を求めると、そんな答えが返ってきた。いったい僕が何をしたというのか。
「あと、上司をフルネームで呼び捨てにするのはやめろ。いい加減、お前は仕事してこい」
おお。まさかの僕の上司だったとは。しかし、フルネームで呼んだ覚えも、呼び捨てにした覚えもないのだが。
知らないおじさんは、広げていた新聞から顔を覗かせ、ずらした眼鏡の上から僕の顔を見つめてくる。そんな目で見てもだめだよ?
いくら子づくりして主夫になりたいからって、僕にだって相手を選ぶ権利はあるんだから。
「あ、こんなところでサボってたんですか、シラナ・イオ部長。ほら、早く仕事してください。承認作業滞ってるんだから、さっさとしないと刺しますよ?」
と、そこに現れたのは、僕よりも少し年上の青年。僕と同じく黒いスーツを着た彼は、僕の目の前にいた知らないおじさんを引っ張って連れ去って行く。なるほど。彼も僕同様、サボっていた口か。サボると刺されてしまうなんて、知らないおじさんも大変だ。
ん? シラナ・イオ部長?
知らないおじさん。
フルネーム?
――そんな、まさかね。
「さてと。僕もそろそろ仕事に戻ろうかな」
ソファからおもむろに起き上がり、僕はハンター管理局本部の正面玄関へと向かった。受付の前で事務員の女性に外回りに行ってくることを伝え、玄関を出る。すると、そこでフルイケントとイサクラタスクに出くわした。
「やっと来たのかよ」
「遅いですよ、イチノセさん」
僕は顔にハテナマークを浮かべ、首を傾げる。はて。二人と出かける予定だっただろうか。そんな約束した覚えはないのだが。
「キミたち何してんの? こんなところで。僕はこれから出かけるから忙しいんだよ」
プリンを買いに行かなきゃいけないんでね。キミたちが食べた分と、今日の分を取り戻さないと。糖分不足で栄養失調になってしまう。
「あのなぁ……。俺たちをハンターにしたのあんただろ」
「イチノセさんに指導を受ける予定になってたんですけど?」
えええ?
そんなの僕は聞いていない。僕に指導なんてできるはずがないだろ。キミたち合格したんだから、あとはもう好きにハンティングなり、サボるなり勝手にしてくれていいのに。むしろ、何もできない僕を巻き込まないで欲しいんだけど。
さすがに二人を連れてプリン屋さんに行くのもなぁ。サボっていることはできるだけバレないようにしたい。うーん。またもや買収するか?
昨日、モンブランプリンをうまいうまいと言いながら食べていた二人だ。あそこのプリンは最高だと知った今、彼らを再び買収するのは容易いのでは。そうだ。今日は、ハンター試験の合格祝いということにすれば、彼らも僕の提案をむげにはできないだろう。
「しかたないね。これから向かうのは秘密の任務だからね。絶対に他言無用だ、いいね?」
僕は二人にそっと近づくと、三人で顔を突き合わせ、ひそひそ話をする。二人は緊張気味に顔を強張らせながら、息を飲んだ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。ドラゴンの巣に特攻するわけでもあるまいし」
「あんたが言うと冗談に聞えねぇから、怖えんだよ!!」
フルイケントのツッコミに、イサクラタスクがうんうんと頷く。彼らに話を聞いたところ、どうやら二人――じゃなかった、もう一人いたけど、誰だったっけ――は、あのあと、にくまんに食べられてしまったらしい。僕はにくまんに遊んでもいいよ、って言ったつもりだったんだけど、にくまんが勘違いしちゃったのかな。今度会ったときに、人は食べちゃだめだぞ、って言い聞かせておかなきゃ。
「今日は都市から出る予定はないよ? 最近物騒な話題が多いし」
「いや、あんたが一番物騒だろ……」
しょうがない。じゃあこうしよう。
「それなら、僕のペンデヴァーをキミたちに預けておくよ。人質ならぬ、企鵝質だ。はい」
左手に抱えていた企鵝のぬいぐるみと化しているペンデヴァーを二人に渡すと、二人は慌ててそれを受け取る。
「うわっ!?」
「重っ!?」
渡した瞬間、前のめりになり、慌てて踏ん張る二人。ペンデヴァーの目がジト目になり、僕に何かを訴えてくる。この無能、またか、って言った?
たまにはいいじゃん。二人を鍛えるためだと思ってさ。二人が強くなってくれれば、僕の護衛としても役に立つかもしれないし。僕が二人に教えることはもうない、って弟子の卒業を見守る師匠を演じることもできそうだし。
「それじゃ、行くよ。ちゃんとついてくるんだよ?」
「う、うるせぇな! 今それどころじゃねぇんだよ!」
「てか、イチノセさん、このぬいぐるみ、片手で軽々抱えてなかった……?」
二人で企鵝よろしく、ペンデヴァーを抱えてよちよち歩きをしている。そんなんじゃ陽が暮れてしまうよ。ペンデヴァーを一羽抱えるだけでそんなに苦労するなんて。心身ともにたるんでいるんじゃないかな。
そうこうしているうちに、僕たちは目的地へとたどり着く。僕御用達の、この都市ではかなり有名なプリン専門店だ。ここで販売されている、毎日五個限定のプリン・ア・ラモードは抽選販売でしか購入できず、幻のプリンと呼ばれているほどだ。あー食べたい。でも購入権が当たらないんだよね。人海戦術で抽選購入権当てられないかな。
「おい、ここって……」
声を発したフルイケントに、僕は唇に指を当てて、シーっというジェスチャーをする。今日のプリンは、なになに――。トルヴォヤンジュのフレンベルプリンだって!?
これは是非買わなければ!
おもむろに財布を取り出し、中に入っているお金と値札を見比べる。
あれ? おかしい。お札が一枚も入っていないではないか。なんでだろう――そういえば、昨日、モンブランプリンに持っている分つぎ込んだんだった。ああ、どうしよう。このままでは買えない。急いでお金を下ろしに銀行に行かなければ。
プリン屋に入ると見せかけて、僕は大通りをそのまま真っすぐ歩いて行く。後ろからペンデヴァーを二人で仲良く抱えて、ひぃひぃ言いながらついてくる彼らに、笑いながら手を振る。
「ほら、早くしないと。敵が来ちゃうよ?」
「敵だと!? どこにいるんだよ! そんなやつ! はぁはぁ……」
「あそことか?」
ここ、中央大陸でもハンター管理局本部のある都市は、高層ビル群を通路でつなぎ合わせ、そこにできた層にまた別の建物を建てるという三層構造で街が発展している。ハンター管理局本部があるのは上層で、割と治安はいいほうだが、ここ最近は強盗などの被害が頻発している、と噂になっていた。もちろん、その強盗たちを狩るのもハンターの役割だ。
ふと、そこで僕がある建物の屋上を指さすと、そこに黒い影が見えた。頭に獣の耳と、すらりとした長身の尻辺りから生えた尻尾のシルエット。後ろから二人が僕に追いついて視線の先を見やるが、すでにその影は消えており、二人は何やら不思議そうな顔をして僕を覗き込んでくる。
「まさか、何かいたのか……?」
「さぁ? 大丈夫だと思うよ」
「嘘くさいんですよ……」
不安がるフルイケント。それに僕は軽く手を振りながら答えると、再び歩き出す。イサクラタスクの呟きもばっちり聞こえていた。心外だな。僕は嘘はつかない、ってウールルちゃんの太鼓判があるんだからね。ほら早く行かないと、僕のプリンが待ってるんだから。
そこから歩くこと十五分。建物は見えていたのに、入口まで遠いのが難点な銀行が見えてくる。
「ついたよ。ここだ」
都市内でももっとも大きな銀行である。無駄に大きな建物であるが、入口は正面に一つしかなく、こんなところに強盗でも入ろうものなら、逃げ場がなくなってしまうのではないか。そんなことを考えていると、後ろから足を引きずるようにしてペンデヴァーを抱える二人がようやく僕に追いついた。二人は僕の前で立ち止まるなり、大量の汗をかき、大きく息をついている。僕は二人の手からペンデヴァーをひったくるように奪い返すと、それを小脇に抱えた。
「まったく、軟弱すぎない? そんなんじゃ勇者になんてなれないよ?」
「う、ううう、うるせぇよッ! ハァッハァッ!」
「なんでこんな重いのを、そんなに軽々と……ハァハァ……」
僕は嘆息し、二人の文句を肩を竦めてそのまま受け流す。銀行の中へ足を踏み入れれば、たくさんの人が床に座り込み、覆面をして銃を持った男たちに取り囲まれている場面が目に入る。
「てめぇら、妙な真似すんじゃねぇぞ! おとなしくしてれば命は助けてやる! 動けば即撃ち殺すからな!」
おお。凄い。テレビドラマで見るようなワンシーンじゃないか。まさかドラマか映画の撮影だろうか。ワクワクしながら周囲を見渡していると、奥にいたリーダー格らしき男が座り込んだ人々に銃を向けて叫んでいた。そこで、ボン、と僕たち三人が白煙に包まれる。
「え? お、おい!?」
「な、何!?」
ザ・ペンデヴァー・チェンジ。
今回は僕だけではなく、ケントとタスクの二人も巻き添えだ。お馴染み企鵝嘴で口元を覆われたハンター姿の僕。二人の少年は、僕が初めて彼らに会ったときと同じ、メイド服姿。その顔はなぜかサングラスで隠されている。
「ああ!? おい! お前ら、遅かったじゃねぇか! さっさと金を集めて袋に詰めて運び出せ!」
「は!?」
「え!?」
なぜかリーダー格の男に仲間と間違えられ、金を詰めるように指示を受ける僕たち。それに慌てるケントとタスク。うーん。これは、なかなか楽しい展開になってきたのでは?
「イチノセさん!? どうするんですか!?」
「やるわけねぇよな!?」
「でもやらないと、僕たちが撃たれそうじゃない? いいよいいよ、代わりにペンデヴァーでも詰めとけば」
あ、でも今はペンデヴァーは僕と合体しているのか。僕が無理じゃん、と思うと同時、企鵝嘴がカタカタと震え出した――。
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