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プロローグ

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忌々いまいましい奴め。聖女と偽り、家族共々手当てを不正に受給しおって!』

私は足蹴にされ、暴言を浴びている。その様子を趣味の悪い元同僚共が、ニヤニヤと面白そうに眺めている。

私が蹴られるたびに、嬉しそうに歓声を上げている。

『お前の家族への手当てを止めてやったわ!もうお前達、穢らわしい家族はこの国には居場所はないぞ!どこぞに行って、のたれ死ね!』

聖女会館から、放り出された私。叩かれ、蹴られ、身体のあちこちが痛む。口の血を拭いながら、放り出された私の荷物をかき集めた。





12歳になると、街の女の子達は、教会に行き洗礼を受けるしきたりがある。

多分に漏れず、私も母親に連れられて、12歳の誕生日に教会に行く事になった。女神像の前で跪き、神父から洗礼を受ける。

私が跪いている時に、普段は起きない事件が起きた。

女神像が明るく光輝き、その光が輪となり、私の頭上を覆った。私の洗礼の様子を見ていた母親や教会のシスターから驚きの声が上がっていた。

光の輪は、私の頭上をしばらく漂っていたが、次第に光の輪が小さくなり、私の頭に吸収されるように消えていった。

『聖女様の誕生だ!女神様は、この子に祝福を与えたもうたぞ!』

神父が興奮したように大きな声で、高らかに宣言した。

私は何が起こったのか理解出来ず、呆然としていた。




その数日後、私の家に豪華な馬車でお迎えが来たのである。

『ユリナ様、お迎えに参りました。聖女会館執事のタケウチと申します。出立の御準備はよろしいでしょうか?』

教会での、女神像の祝福騒動の後、聖女を崇める聖女会館から、次々と使者が来たのであった。

国家の習わしで、女神像から祝福があった聖女は、聖女会館に所属して、能力の発展に努め、国家の安寧に寄与しなければいけない。

聖女を出した家には、毎月多額の報酬が支払われ、聖女の生家としての名誉が与えられる。

貧しい一般庶民であった私の一家が、断る道理もなく、謹んで聖女会館の申し出を受けたのであった。

豪華な馬車に乗り込み、王都にある聖女会館本部へと目指した。

馬車の移動速度は早いものではなく、王都までは数日の道のりを要する。私は、ガタガタと揺れる馬車の旅を楽しんでいた。

執事のタケウチは寡黙な男で、馬車の中でも必要な事以外喋らない。御者が馬を操る際に発する気合い声が、虚しく響くのみであった。

ようやく王都に辿り着き、私は馬車から見える王都の荘厳な雰囲気に圧倒されていた。

王都の立派な建物の中でも、ひときわ立派な建物の前で、馬車は停まった。

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