31 / 55
前編
花宮がやって来た
しおりを挟む
駐車場で待っていると、1台の白い国産車がゆっくりと入ってきた。助手席で手を振っているのは……花宮だ。
「城之内君、久しぶり! 元気だった?」
車から降りてきた花宮は、白のA型ワンピースに水色の薄いカーデガンを羽織っている。スカートの丈は短めで少しだけヒールが高いサンダルを履いているので、スラッと伸びた白い足がとても綺麗だ。
長い黒髪を揺らして、「日差しが強いね」と言いながら麦わら帽子をかぶり、俺にニコッと笑顔を向ける。俺は……美術館の絵画の中から抜け出てきたような美少女に、見惚れてしまっていた。
『ふわぁ……琴ちゃん可愛い。映画の一コマみたいだね』
隣でりんも感心している。俺はなんとか気を取り直す。
「ああ。花宮も元気そうだな。結構遠かっただろ?」
「そうでもないよ。高速乗ったら2時間かからなかった」
久しぶりに会う花宮は、軽くメイクをしていた。艶のある唇に俺の心臓は落ち着かない。
「城之内君だね。娘がいつも世話になっているようで、ありがとう。今回もいろいろと手助けをしてくれたみたいで、本当に助かりました。今日は一日よろしく頼みます」
「そんな……こちらこそお世話になってます」
俺はなんて返事をしていいかわからず、とりあえずそう言って頭を下げる。花宮のお父さんはとても実直そうな、やさしい雰囲気の人だった。頭は剃髪しているが、今日の服装はポロシャツにストレッチパンツという、ゴルフでもできそうなラフなスタイルだ。
俺は二人を連れて社務所へ向かう。お客さんが着いたら連れてきてほしいと、兄貴に頼まれていたからだ。
ちょうど社務所から出てきた兄貴が、花宮のお父さんと挨拶を交わす。数年前に会ったことを、花宮のお父さんも覚えていたようだ。昼食には少し早い時間だが……
「少し早いですが、我が家で昼食でもいかがですか? お嬢さんは尚也に案内させますので、二人で併設のカフェでランチでも食べてもらうというのはどうでしょう?」
兄貴が花宮のお父さんを昼食に誘った。おそらくオヤジも入って精進料理を振る舞うのだろう。
「よろしいんですか? すいません……ではお言葉に甘えて」
兄貴と花宮のお父さんが話しをしながら、寺の奥の自宅へ歩いて行った。花宮と二人きりで残された俺は、緊張を隠しきれない。
「じゃあ案内するよ。寺の境内の向こうにカフェがあるから、そこでランチにしよう」
「うん、ありがとう。楽しみーー。後でおみくじも引こうね」
「え? ああ、そうしようか」
『おー、なんかいい感じじゃん?』
俺は一瞬たじろぐ。例の映画の中ではメインキャストのカップル二人が、ここでおみくじを引いていた。それ以来この寺のおみくじを引くために、多くのカップルが訪れている。
なんかこれ……デートみたいじゃね?
俺は花宮と並んで、寺の境内に向かって歩き出した。手水舎で手を清め、境内でお参りをする。俺は緊張して、何かお願いすることを忘れてしまっていた。
それから俺たちは寺の敷地内を散策しようと歩き出したところ……
「ナオ兄ぃーー!」
『うわっ、また来たよっ』
向こうからポニーテールを揺らしながら、弾丸のように走ってくる小さな体躯。そしてやめろって言ったのに、ドスンと俺の胸に体をぶつけて、そのまま俺の体にしがみついた。
「だから美久、敷地内を走るなって言ってるだろ?」
「ナオ兄ぃ、この人が例の同級生のお友達?……うわっ、綺麗な人……」
美久は花宮を一瞥して、その可憐な美しさに怯んだようだ。まあ気持ちは分かる。
「えっと、城之内君……妹さんかな?」
「ああ、そうなんだ。妹の」
「こんにちは。ナオ兄ぃの数年後の妻の美久です」
「……えっ?」
花宮の目が点になり、視線がそのまま俺の方へ移った。花宮の顔に「説明求ム」と書いてある。
「み、美久、友達と買い物に行くんじゃなかったのか?」
「そうだよ、これから行くの。もうバスに乗らないといけなんだけど、ナオ兄ぃのお友達がどんな人か見たいと思って」
「じゃあもう行けよ。急ぐんだろ?」
「そうだけど……ああ、もう、本当に時間がない! ナオ兄ぃ、ハートの樹洞見たりおみくじ引いたりして、二人で盛り上がったりしたらダメなんだからね!」
「いいから、早く行けよ!」
あーもう! とか言いながら、美久はバス停方向へ小走りで去っていった。嵐が去った後に残された俺と花宮は、お互いの顔を見合わせる。
「ごめんな。悪いやつじゃないんだけど」
「ううん、可愛い妹さんじゃない。お兄ちゃんのこと、大好きなんだね」
『そうそう、一緒にお風呂入るぐらいね』
俺は苦笑いしかできない。それに美久……ネタバレするなよ。ハートの樹洞とおみくじを除いたら、この寺で見るもの無いだろ? 俺は心のなかでボヤいた。
とりあえず俺は、そのハート型の樹洞のある樫の木に花宮を案内する。ここに訪れるカップルのほぼ全組が写真を撮るフォトスポットだ。
「あー本当だ! ここから見ると、綺麗なハート型に見えるね。これは確かに映えるかも」
花宮はそう言ってはしゃいでいる。彼女はその樹洞にスマホを向け写真を撮り始めた。
「俺が撮るよ。花宮も入って」
俺がスマホを預かろうとすると、花宮はちょっと考えた末……
「あ、あのさ。一緒に撮ろうよ」
そういって花宮は自分の隣に俺を手招きする。俺は……ぎこちなく彼女の隣に立った。花宮の長い黒髪から、シャンプーのいい香りがする。缶に詰めて販売すれば、絶対に儲かるのに。
『あーいいなー! アタシも撮ってほしいのに!』
花宮はセルフィーモードにしたスマホを俺と花宮、後ろに回ったりんの3人に向けた。上手にハートの樹洞をバックに入れてシャッターを押す。2-3回カシャッという音がスマホから聞こえた。
「今Limeで送るね」
「ああ」
送られてきた写真を俺は自分のスマホで確認する。俺の横で学園のアイドル様が微笑んでいた。背景のハートの樹洞もいいアングルで写っている。残念ながらりんは写っていなかったが。
『うわー、もろカップルじゃない。琴ちゃん本当に綺麗……ナオ、ちょと不釣り合いだよ?』
うるせーよ。そんなこと俺が一番分かってるわ……俺は心のなかで毒づいた。
「城之内君、久しぶり! 元気だった?」
車から降りてきた花宮は、白のA型ワンピースに水色の薄いカーデガンを羽織っている。スカートの丈は短めで少しだけヒールが高いサンダルを履いているので、スラッと伸びた白い足がとても綺麗だ。
長い黒髪を揺らして、「日差しが強いね」と言いながら麦わら帽子をかぶり、俺にニコッと笑顔を向ける。俺は……美術館の絵画の中から抜け出てきたような美少女に、見惚れてしまっていた。
『ふわぁ……琴ちゃん可愛い。映画の一コマみたいだね』
隣でりんも感心している。俺はなんとか気を取り直す。
「ああ。花宮も元気そうだな。結構遠かっただろ?」
「そうでもないよ。高速乗ったら2時間かからなかった」
久しぶりに会う花宮は、軽くメイクをしていた。艶のある唇に俺の心臓は落ち着かない。
「城之内君だね。娘がいつも世話になっているようで、ありがとう。今回もいろいろと手助けをしてくれたみたいで、本当に助かりました。今日は一日よろしく頼みます」
「そんな……こちらこそお世話になってます」
俺はなんて返事をしていいかわからず、とりあえずそう言って頭を下げる。花宮のお父さんはとても実直そうな、やさしい雰囲気の人だった。頭は剃髪しているが、今日の服装はポロシャツにストレッチパンツという、ゴルフでもできそうなラフなスタイルだ。
俺は二人を連れて社務所へ向かう。お客さんが着いたら連れてきてほしいと、兄貴に頼まれていたからだ。
ちょうど社務所から出てきた兄貴が、花宮のお父さんと挨拶を交わす。数年前に会ったことを、花宮のお父さんも覚えていたようだ。昼食には少し早い時間だが……
「少し早いですが、我が家で昼食でもいかがですか? お嬢さんは尚也に案内させますので、二人で併設のカフェでランチでも食べてもらうというのはどうでしょう?」
兄貴が花宮のお父さんを昼食に誘った。おそらくオヤジも入って精進料理を振る舞うのだろう。
「よろしいんですか? すいません……ではお言葉に甘えて」
兄貴と花宮のお父さんが話しをしながら、寺の奥の自宅へ歩いて行った。花宮と二人きりで残された俺は、緊張を隠しきれない。
「じゃあ案内するよ。寺の境内の向こうにカフェがあるから、そこでランチにしよう」
「うん、ありがとう。楽しみーー。後でおみくじも引こうね」
「え? ああ、そうしようか」
『おー、なんかいい感じじゃん?』
俺は一瞬たじろぐ。例の映画の中ではメインキャストのカップル二人が、ここでおみくじを引いていた。それ以来この寺のおみくじを引くために、多くのカップルが訪れている。
なんかこれ……デートみたいじゃね?
俺は花宮と並んで、寺の境内に向かって歩き出した。手水舎で手を清め、境内でお参りをする。俺は緊張して、何かお願いすることを忘れてしまっていた。
それから俺たちは寺の敷地内を散策しようと歩き出したところ……
「ナオ兄ぃーー!」
『うわっ、また来たよっ』
向こうからポニーテールを揺らしながら、弾丸のように走ってくる小さな体躯。そしてやめろって言ったのに、ドスンと俺の胸に体をぶつけて、そのまま俺の体にしがみついた。
「だから美久、敷地内を走るなって言ってるだろ?」
「ナオ兄ぃ、この人が例の同級生のお友達?……うわっ、綺麗な人……」
美久は花宮を一瞥して、その可憐な美しさに怯んだようだ。まあ気持ちは分かる。
「えっと、城之内君……妹さんかな?」
「ああ、そうなんだ。妹の」
「こんにちは。ナオ兄ぃの数年後の妻の美久です」
「……えっ?」
花宮の目が点になり、視線がそのまま俺の方へ移った。花宮の顔に「説明求ム」と書いてある。
「み、美久、友達と買い物に行くんじゃなかったのか?」
「そうだよ、これから行くの。もうバスに乗らないといけなんだけど、ナオ兄ぃのお友達がどんな人か見たいと思って」
「じゃあもう行けよ。急ぐんだろ?」
「そうだけど……ああ、もう、本当に時間がない! ナオ兄ぃ、ハートの樹洞見たりおみくじ引いたりして、二人で盛り上がったりしたらダメなんだからね!」
「いいから、早く行けよ!」
あーもう! とか言いながら、美久はバス停方向へ小走りで去っていった。嵐が去った後に残された俺と花宮は、お互いの顔を見合わせる。
「ごめんな。悪いやつじゃないんだけど」
「ううん、可愛い妹さんじゃない。お兄ちゃんのこと、大好きなんだね」
『そうそう、一緒にお風呂入るぐらいね』
俺は苦笑いしかできない。それに美久……ネタバレするなよ。ハートの樹洞とおみくじを除いたら、この寺で見るもの無いだろ? 俺は心のなかでボヤいた。
とりあえず俺は、そのハート型の樹洞のある樫の木に花宮を案内する。ここに訪れるカップルのほぼ全組が写真を撮るフォトスポットだ。
「あー本当だ! ここから見ると、綺麗なハート型に見えるね。これは確かに映えるかも」
花宮はそう言ってはしゃいでいる。彼女はその樹洞にスマホを向け写真を撮り始めた。
「俺が撮るよ。花宮も入って」
俺がスマホを預かろうとすると、花宮はちょっと考えた末……
「あ、あのさ。一緒に撮ろうよ」
そういって花宮は自分の隣に俺を手招きする。俺は……ぎこちなく彼女の隣に立った。花宮の長い黒髪から、シャンプーのいい香りがする。缶に詰めて販売すれば、絶対に儲かるのに。
『あーいいなー! アタシも撮ってほしいのに!』
花宮はセルフィーモードにしたスマホを俺と花宮、後ろに回ったりんの3人に向けた。上手にハートの樹洞をバックに入れてシャッターを押す。2-3回カシャッという音がスマホから聞こえた。
「今Limeで送るね」
「ああ」
送られてきた写真を俺は自分のスマホで確認する。俺の横で学園のアイドル様が微笑んでいた。背景のハートの樹洞もいいアングルで写っている。残念ながらりんは写っていなかったが。
『うわー、もろカップルじゃない。琴ちゃん本当に綺麗……ナオ、ちょと不釣り合いだよ?』
うるせーよ。そんなこと俺が一番分かってるわ……俺は心のなかで毒づいた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる