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前編

『アタシにやらせて』

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 デザートも全て食べ終えて満腹となった俺たちは、ファミレスを後にする。レジで支払いを終えた俺に、二人は「ご馳走様でした。ありがとう」「ごちそうさん」と声をかけてくれた。

「さてと……これからどーする? ボーリングでも行くか?」

「雄君、食べてすぐ動けるの? ちょっと休憩とか歩くとかしようよ」

「俺は平気だけどな……あ、じゃあまたゲーセンでも行くか? ナオは何したい?」

「うーん……ゲーセンがいいかもな」

「よし、じゃあゲーセンにしようぜ。あ、ちょうどいいや。クレーンゲームで琴葉に何か取ってやるよ。それが誕生日プレゼントってことで」

「本当に? じゃあ一番大きくて高いものを取ってもらおっかな?」

「そんなにムズいのはダメだ!」

 どうやら行き先はゲーセンのようだが……正直俺は雄介と同じことを思いついていた。ちょっと頑張ってクレーンゲームで可愛い人形でも取って、花宮に渡したら喜ぶかなと……雄介に先にアイデアを取られてしまった。

 俺たちは駅ビルに入ってゲーセンに向かう。やっぱり考え方が安直だったなぁ……でもまあ俺と雄介両方からもらっても、別にいいよな。そんなことを考えながら歩いているうちに、ゲーセンの入り口にたどり着いた。ところが……なにやら騒がしい。

 何かと思って見てみると、バスケットゴールらしきものが5台も設置されている。バスケットのシューティングゲームのようだった。

 あれ? 前回来たときはこんなのなかったぞ……そんな事を考えながら見ていたが、なにやらイベントらしき事をやっているようだ。

 大音量の音楽の中で、5人のプレイヤーが一斉にシュートを次から次へと放っている。どうやら5人の対決形式らしい。そしてその横ではスタッフらしきお姉さんが、マイクを使って実況中継している。周りの応援も重なり、会場の雰囲気はかなり盛り上がっていた。

 どうやら新しいバスケのシューティングゲームで、たまたま今日は1時から2時までの間、対決型の記念イベントをやっているようだ。どうりでこれだけ騒がしいわけだ。

 お姉さんがマイクを通してルールを解説してくれている。参加費は1回300円、5人対決の1分勝負。そして一番ゴール数が多かったプレイヤーには賞品として……

「あっ、タレにゃんこだ! 可愛い!」

「あれが? 可愛いか?」

「雄君知らないの? タレにゃんこ、いまメッチャ人気あるんだよ! しかも非売品だって!」

 花宮が興奮気味に話している視線の先には、実況のお姉さんが片手に持っている、やる気のないグデンとした猫らしきぬいぐるみがあった。あれが可愛いかどうかは議論の余地はあるが……それも結構デカい。1メートル近くはあるんじゃないか?

 その「タレにゃんこ」が、この記念イベントの賞品らしい。俺はバスケ部でもないし、あまり自信がない。雄介に視線を送ると……

「オレに運動系をやらせないでくれ。クレーンゲームに行こう」

「まあそうだよね。仕方ないっか」

 才能の大半を「頭脳」に集中させている雄介は、早々に見切りをつけて入り口の奥へ入っていき、花宮も後についていく。俺も一緒に行こうとすると……

『ナオ、これやろうよ。ていうか、アタシにやらせて』

 りんが唐突にそう言った。

「……りんに?」

『お願い。今だけナオに憑依させて。それで私にプレーさせてほしい』

「りん、バスケできるのか?」

『こう見えて体育の成績は5以外取ったことないよ。それに中学の時、フリースロー対決でバスケ部のキャプテンに勝ったことだってあるし』

「地味にすげーな……」

 俺は逡巡したが……りんはファミレスの中だって、ずっと俺たちが食べるのを見ているだけだった。こういう時ぐらい、参加させてやってもいいよな。

「よし、やってみるか」

『本当? やったね』

 俺は「気」を整え、りんが憑依するための準備をする。そして……りんが俺の体の中に入ってくるのに、3秒とかからなかった。

「城之内君、どうしたの?」

「これやるのか? ナオ、バスケ得意だっけか?」

 花宮と雄介も来るのが遅い俺を探しに戻ってきた。

「まあちょっとやってみるわ。せっかくのイベントだしな」

 俺はそう言い残して、ゲーム会場の中へ入っていく。参加費300円を払って並んで待っていると、すぐに俺たちの順番が回ってきた。俺は中央の3番ブース。左右には俺よりも身長が高くて、いかにもバスケが上手そうな男子もいる。

『よしっ、なんとかあのデカいタレにゃんこ、ゲットしないとね』

『あのフニャっとした猫みたいなの、人気なのか?』

『知らないの? 女子高生からOLまで癒し系グッズNo.1って、朝のバラエティー番組でもやってたでしょ?』

『俺は見てないから知らんけど』

『琴ちゃんにあげたら、絶対喜ぶよ! だから頑張らないと!』 

 気合十分なりんだった。

『頼りにしてるぞ、りん』

『まっかせなさーい!』

 俺は自分の防御レベルを下げて、その動きをりんに委ねる。実況のお姉さんのカウントダウンが始まった。3、2、1、スタート!
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