上 下
40 / 55
前編

アパートの部屋で勉強会

しおりを挟む
 夏休みも終わり、学校が始まった。大量の宿題を終え安心していたのも束の間、2学期制のうちの学校は、2週間後には期末テストが始まる。

 夏休み明けの初日、席替えが行われた。せっかく花宮と仲良くなったのに、これで席が遠くなってしまうかも……そんな俺の心配は、杞憂に終わった。

 なんの運命の悪戯なのか、今度は俺は花宮の真後ろの席になった。斜め後ろの席から更に近くなったわけだ。おまけに雄介は俺の左隣。しかも最後列から2列目という好位置で、俺と雄介と花宮の3人の席が近くなったのだ。休み時間ともなると花宮が後ろを向いて、俺と雄介と3人で雑談する時間が多くなった。

 俺は相変わらずりんを学校に連れて行くようにしている。りんは俺たち3人の話を聞きながら笑い、たまにツッコミを入れてくる。双方向の会話ではないにせよ、りんなりに楽しんでいるようだった。




「期末テスト、大丈夫かな……また勉強会やらない?」

 翌週期末テストを控え心配になってきたのか、花宮がそう提案してきた。期末テストは中間テストに比べて範囲が広い。俺としても勉強会をやってもらえるのであれば、とてもありがたい。

 雄介は最初面倒くさがっていたが、俺たちが頼み込むと渋々了承してくれた。

「その代わりと言ったらなんだけど……一度俺のアパートで勉強会をやってみないか?」

「城之内くんのアパートで?」

「そうか、ナオ一人暮らしだもんな。部屋の広さは大丈夫なのか?」

「座卓でよければスペース的には問題ない。それで……勉強が終わったら、部屋で軽く食事でもどうだ? 俺が作るから」

 このアイディアは、実はりんからの提案だ。

『せっかく料理が少しできるようになったんだから、この部屋で3人で一緒に食べたら? もちろんその時は、アタシも手伝うから』

 そこまで言われると、やるしかないだろう。それに3人で俺の部屋で食事しているところを想像すると、それはそれで楽しそうだ。

「えっ? 城之内君が作ってくれるの?」

「ああ。といっても大半は前日の作りおきになると思うけど。作るのに時間がかかったら、帰る時間が遅くなるからな。ところで……花宮は門限とか大丈夫か?」

「うん! 城之内君と雄君が一緒だったら、お父さんも安心するから絶対大丈夫だよ」

 その信用はどうなんだろう……とは思いつつ、花宮と一緒に居られる時間が長くなるのはありがたい。あ、雄介もいたんだっけ。

「それは面白そうだな。よし、ご馳走になってやろう。オレはアイスか何か買っていくようにするわ」

「助かる」『できればマンゴーシャーベット、お願いね』

 結局週末の日曜日、俺の部屋で午後から勉強会のあと早めの夕食という運びになった。よし、じゃあ土曜日は頑張って料理しないとな。それに作るメニューはもう決まっている。



 週末の土曜日。日中いろんな所へ食材の買い出しに行ってきた俺は、若干疲れ気味で料理に取り掛かる。

 俺の目の前には牛肉、トマト缶、玉ねぎ、人参、セロリ、ニンニク、スパイス、その他諸々の食材が所狭しと置かれている。料理用の赤ワインは、以前事情を話して環奈先生に買ってきてもらったものだ。そう、これから作るのはハヤシライスだ。

 りんの提案で『あのカフェの味を再現してみようよ』ということで食材を買ってきたのだが、それにしても種類が多い。おまけにおかわりを含めて5-6人分作ることにしたから買い出しの量も多く、買い物だけでクタクタになってしまった。

 最初に野菜をみじん切りにしないといけない。玉ねぎ、にんじん、セロリ……フードプロセッサーなど持ち合わせていない俺にとっては、考えただけでも面倒くさい。

『ねえナオ、これ大変だと思うから、アタシがやろうか?』

「……りんが?」

『うん。アタシがナオに憑依して料理すれば、早くできると思うよ。多分包丁で手を切ることもないし』 

「なるほど……一理あるな」

 俺は一瞬考えたが、ここはりんに手伝ってもらうことにした。正直疲れていたので、手伝ってもらえるなら助かる。防御レベルを下げ、りんの動きに体を委ねる。

『じゃあ始めよっか』

『ああ、よろしく頼む』

 りんは慣れた手つきで玉ねぎの皮をむき、包丁で半分に切る。そして器用に2方向から切れ目を何本か入れた後、まな板の上からトントントントンとリズミカルに包丁を動かしていく。みじん切りの玉ねぎが、あっというまに量産されていった。

『うわっ、すげーな、りん』

『まあこれぐらいはね。量が多いから、手早くやらないと』

 それからりんは人参とニンニクもみじん切りにしていった。その手際が見事だ。今度はそれらの野菜をゆっくり炒めていく。赤ワインとトマト缶を入れて、これがソースのベースになるようだ。

 次にりんは別のフライパンにバターを引いて、牛肉とスライスした玉ねぎ、マッシュルームを炒めていく。それにさっき作ったソースを加え、香り付けの香辛料とローリエと一緒に30-40分煮込んだ。最後に調味料を加えて味を整え、味見をする。

『うん、随分近い味になったんじゃないかな』

『おおっ、まさにあのカフェのハヤシライスの味だぞ』

 出来上がったものは、かなり完成度が高いものだった。俺は一足先に、今日の夕食として試食することにする。もちろんりんにも憑依した状態で一緒に味わってもらう。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

唾棄すべき日々(1993年のリアル)

経済・企業 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

逆行令嬢と転生ヒロイン

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:65

けれど、僕は君のいない(いる)世界を望む

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:0

若妻はえっちに好奇心

恋愛 / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:274

[完結]Re:活 前略旦那様 私今から不倫します

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:28

正当な権利ですので。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:1,102

次は幸せな結婚が出来るかな?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:147

コロッケを待ちながら

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

【R18】ラヴ・トライアングル

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:22

処理中です...