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4、告白
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再び車に乗り込んだ二人は、港のパーキングに辿り着く。
「美優ちゃん、寒くない?」
「うん、穂澄さんが選んでくれたコート、凄く暖かいから大丈夫」
「じゃあ、ちょっとだけ海見に付き合ってくれる?」
「うん、私も海見たいよ」
車を降りた二人は冬の寒く澄んだ空気の中、波止場を歩く。
「灯りが海に反射してキラキラして綺麗だね」
美優は思いがけず突然海が見られて興奮していた。
何せ両親は車を持っていなかったので、公共交通の発達した場所にはよく連れて行ってくれたが、こんな風に車に乗って海に来たのは初めての事だった。
「うん、潮の流れを見てると、なんか懐かしい気持ちになるんだよね。あんまり海に馴染み無いんだけど」
「ああ、なんかわかるよ。私海見てるとなんだかワクワクしてくる」
小学校の遠足で海にやって来た時、海原の向こうに思いを馳せて、一人波打ち際で立ち尽くしていた自分を懐かしく思い出した。
「来年の夏は一緒に海に行こうか?」
さりげなく、美優の手を取りながら壱弥は訊ねる。
「来年かぁ……。きっと来年は仕事してるからなぁ……。どうなってるのかわからないんだよね」
「内定決まったって言ってたね」
「うん、2次募集で何とか決まったんだ」
「……大学に行かなくてよかったの?」
「うん、お父さんもお母さんもいないし、叔父さんに迷惑も負担もかけたくないから」
「……そっか。困った事があったらいつでも言って? 仕事も紹介出来ると思うから」
壱弥は真剣な眼差しを向ける。
「ありがとう。……壱弥君は心配性だね。……そういえば、壱弥君はどんな仕事してるの?」
「俺? ……そうだなぁ……。色々とやってるけど、投資が主だよ」
「投資って難しいんでしょ? 凄いね」
「そんな事ないよ。資産を右から左に移すだけだから。美優ちゃんは食品会社の事務員さんになる予定なんだよね」
いつの間にか繋がれた手はやはり指が絡められて、しっかりと握られている。
「そうだよ。小さな家族経営の会社で突然就職する事になったから駆け込みだったんだけど、事情を話したら雇ってくれるって。ありがたいよね」
「……美優ちゃん? ホントに困った事があったらすぐに相談してね?」
先程よりももっと真剣な顔つきで壱弥は美優を見つめた。
「うん、わかったよ」
壱弥の過剰にも思える心配を少し嬉しい気持ちで受け止める。
繋いでいる手の平にきゅっと力が篭められる。
そして壱弥は繋いでいる手を持ち上げて、美優の曲げられた指背に唇を寄せる。
瞳を閉じた壱弥は美優の指背に優しくキスをした。
「ホントに何でも相談してね? 絶対に助けるから」
「……っ!! い、壱弥君……っ」
そのあまりの甘い仕草に、美優は顔だけでなく耳まで熱くなるのを感じた。
そんな美優の様子を指背に唇を寄せたまま瞳を開けて見つめた壱弥はクスリと笑った。
「美優ちゃん、ホントに可愛い」
「あの、壱弥君?! こういうのホントダメだよ……?」
手を取られたまま、顔だけ背けた美優はしどろもどろになりながら小さな抵抗を試みた。
「……いやだったら、やめる。……いや?」
再び瞳を閉じて、指背に唇を押し当てた。
「……っ!! い、いやな訳じゃないけど……、あのね? 恋人でもない女の子にこんな事しちゃダメだよ!」
「そっか。それもそうだね。じゃあ、やめようかな」
やっと手を降ろしてくれた壱弥の方をチロリと見上げると、少し意地悪く笑っているのが見えた。
「……ひどい。からかったの?」
壱弥はいつもの優しい笑顔に戻って美優を見下ろした。
「ううん、からかってないよ? 本当に可愛いと思ったから。……でも、ちょっと急ぎすぎたかな。ごめんね」
「……急ぎすぎたって?」
「俺は美優ちゃんに好意を持ってるって事だよ」
壱弥があまりにもサラリと言うので一瞬どういう意味なのか分からず、壱弥を茫然と見つめてしまった。
「俺は、美優ちゃんが好きだよ。もちろん、女の子として」
「……え、だって……、こないだ再会したばっかりなのに? そ、それに壱弥君は大人で……」
壱弥は空いた右手の人差し指と中指で美優の頬にそっと触れる。
「俺、美優ちゃんが思うほど、大人じゃないよ? ……milkちゃんがいい子なのはSNSでのやり取りで充分わかったし、会ってみたら美優ちゃんだったし、しかも一層可愛くなってたし、好きにならない理由がないよ」
次々に出てくる誉め言葉に美優は更に顔を赤くした。
「……真っ赤になって本当に可愛いね」
「……あの、わ、わたし……、その、再会したばっかりで、その……」
壱弥はふいと前を向く。
「じゃあ、考えてみて。ずっと待ってるから」
「あ、あの、いっ……壱弥君はこんなに素敵な人だから、彼女とかいるものだと思ってたの……」
「そんなのいないよ?」
「そ、そうなんだね……」
「うん」
そう言ったきり、壱弥は黙って海を眺めてしまったので、美優も同じ様に海を眺めた。
大型船の汽笛の音が遠くから響いてきた。
闇は更に深くなって、月が空だけではなく海面にもう一つ浮かんでいた。
そのゆらゆらと揺れる月は眺めていたら時間が経つのも忘れるほど幻想的だった。
「……さ、そろそろご飯食べに行こうか」
美優が落ち着いた頃にいつもの優しい笑顔で美優を振り返った壱弥は繋いだ手にちょっとだけ力を篭めた。
「うん、お腹空いちゃった」
美優もいつもの笑顔で壱弥を見上げた。
壱弥の導きで二人は波止場沿いを歩いて行く。
しばらく歩くと煉瓦造りの洋館風の建物の店があった。
そこに二人で入っていく。
「こんばんは。忠也先輩いる?」
壱弥は店のカウンターにいた女性に声をかける。
「いらっしゃい、壱弥君。オーナーから聞いてるわ。二階のいつもの席にどうぞ」
「ありがとう。さ、美優ちゃん、階段登って?」
大きくもなく小さくもない、程よい面積の店内には、二階に上がる階段があった。
壱弥に促されてその階段を登る。
「少し急な階段だから足元気を付けてね?」
「うん」
階段を登り切るとたくさんの窓から海の灯りが見えていた。
きっと昼間はもっとはっきりと海が見えてさぞ壮観な光景が広がる事だろう。
「わぁ……。綺麗だな……」
思わず呟いてしまった美優に壱弥はクスリと笑う。
「美優ちゃんならそう言うと思ってたんだ。このお店、凄く景色いいんだよね」
「こんな素敵なお店、予約でいっぱいじゃないの?」
「ここ紹介制なんだ。オーナーの趣味でやってるお店だから」
「オーナーさんと知り合いなの?」
「そ。中学と高校の時の先輩。あ、その奥のテーブルが一番景色いいんだよ。そこ座ろ」
そう言うと壱弥は美優の肩に手を置いて薦めたテーブルまで促した。
椅子を引き、美優を座らせると向かいの席に自分も座った。
「そうそう、ここね、エビフライが少し他と違うんだ。楽しみにしてて」
「へえ。エビフライ? 私好きなんだ。楽しみ!」
「そっか、今もエビフライ好きだったんだね。よかった」
「憶えててくれたんだね、壱弥君」
「うん、だって昔、『昨日の晩御飯、エビフライだったの』って熱弁してたから」
そんなやり取りをしていると先程カウンターにいた女性が上がってきた。
手にはワインボトルの入ったアイスバケットにワイングラスがある。
「壱弥君、オーナーから伝言で、『絶対に自分が行くまで帰るな』ですって。食事はいつもの感じで出していい?」
「うん、構わないよ。任せる。エビフライだけ頼むね」
「ええ、カダイフのエビフライね。あれ、ホント美味しいもんね」
そういうと女性は階段を降りて行った。
壱弥はテーブルに置かれたワイングラスを美優の前に置いてアイスバケットの中のワインボトルを取り出し中身を注いだ。
無色透明の液体が出てくる。
「中身はお水だよ。ここ、お水こんな風に出て来るし、お客に自分で注がせるし、雑な店なんだ」
壱弥は困った様に笑いながら、自分の分のグラスに水を注いだ。
「ありがとう。フレンドリーなお店だね。そのオーナーさんとは仲良しなの?」
「そうだね、色々とお世話になった先輩なんだ。ご夫婦で仲良くしてもらってるよ」
「ご夫婦とも中学と高校の時の先輩なの?」
「うん、そう。ご主人の方が車好きでさ、俺の車の相談に乗ってくれたのもここのオーナーなんだ」
「そうなんだ。奥さんも車好きなの?」
「ううん、奥さんは車好きじゃないよ。奥さんは今キックボクシングの選手してる」
「ええ!? キックボクシング!?」
「学生時代は空手の選手してたし、小さい頃は合気道もやってたって」
「す、凄いね」
「ストイックに頑張ってるよ。ホント凄い。俺には真似出来ないなぁって思う」
「私、身体動かすのは好きだけど、運動得意な訳じゃないから競技とかダメなんだよね。だからそういう人尊敬しちゃう。壱弥君は何かやってたりするの?」
「学校では何もしてないな。昔習い事で護身術みたいな事やってたけどね。今はここに集まってくるメンツとたまにフットサルやったり、普段はジム行ったり。あ、サラダ来た」
階段の方に目をやると先程の女性がサラダの盛られた透明のボウルとトングにお皿を持って上がってくる。
「お待たせ。シェフのお任せサラダです」
「沙百合さん、ありがとう。美優ちゃん、飲み物任せてくれる?」
「うん」
「じゃあ、俺は白のノンアルで。彼女にはシードルを」
「はいはい。あ、さっきオーナーからまた連絡あったわよ? 『今仕事終わったから速攻で行く』だってさ」
壱弥は苦笑いをする。
「わかった」
沙百合と呼ばれたその女性はサラダ一式をテーブルに並べると階下に降りていく。
それを見送ると壱弥は美優の方に向き直り、再び苦笑いをした。
「先輩、よっぽど美優ちゃんに逢いたいみたいだ」
「え、私?」
「俺が女の子連れて来たの初めてだからじゃないかな?」
「そうなの?」
「うん、ここは数少ない憩いの場所だから、『異物』は入れたくないんだよね」
「……そんな大切な場所に私を連れて来てくれたんだね……。ありがとう」
壱弥は微笑む。
「美優ちゃんは特別だからね」
「美優ちゃん、寒くない?」
「うん、穂澄さんが選んでくれたコート、凄く暖かいから大丈夫」
「じゃあ、ちょっとだけ海見に付き合ってくれる?」
「うん、私も海見たいよ」
車を降りた二人は冬の寒く澄んだ空気の中、波止場を歩く。
「灯りが海に反射してキラキラして綺麗だね」
美優は思いがけず突然海が見られて興奮していた。
何せ両親は車を持っていなかったので、公共交通の発達した場所にはよく連れて行ってくれたが、こんな風に車に乗って海に来たのは初めての事だった。
「うん、潮の流れを見てると、なんか懐かしい気持ちになるんだよね。あんまり海に馴染み無いんだけど」
「ああ、なんかわかるよ。私海見てるとなんだかワクワクしてくる」
小学校の遠足で海にやって来た時、海原の向こうに思いを馳せて、一人波打ち際で立ち尽くしていた自分を懐かしく思い出した。
「来年の夏は一緒に海に行こうか?」
さりげなく、美優の手を取りながら壱弥は訊ねる。
「来年かぁ……。きっと来年は仕事してるからなぁ……。どうなってるのかわからないんだよね」
「内定決まったって言ってたね」
「うん、2次募集で何とか決まったんだ」
「……大学に行かなくてよかったの?」
「うん、お父さんもお母さんもいないし、叔父さんに迷惑も負担もかけたくないから」
「……そっか。困った事があったらいつでも言って? 仕事も紹介出来ると思うから」
壱弥は真剣な眼差しを向ける。
「ありがとう。……壱弥君は心配性だね。……そういえば、壱弥君はどんな仕事してるの?」
「俺? ……そうだなぁ……。色々とやってるけど、投資が主だよ」
「投資って難しいんでしょ? 凄いね」
「そんな事ないよ。資産を右から左に移すだけだから。美優ちゃんは食品会社の事務員さんになる予定なんだよね」
いつの間にか繋がれた手はやはり指が絡められて、しっかりと握られている。
「そうだよ。小さな家族経営の会社で突然就職する事になったから駆け込みだったんだけど、事情を話したら雇ってくれるって。ありがたいよね」
「……美優ちゃん? ホントに困った事があったらすぐに相談してね?」
先程よりももっと真剣な顔つきで壱弥は美優を見つめた。
「うん、わかったよ」
壱弥の過剰にも思える心配を少し嬉しい気持ちで受け止める。
繋いでいる手の平にきゅっと力が篭められる。
そして壱弥は繋いでいる手を持ち上げて、美優の曲げられた指背に唇を寄せる。
瞳を閉じた壱弥は美優の指背に優しくキスをした。
「ホントに何でも相談してね? 絶対に助けるから」
「……っ!! い、壱弥君……っ」
そのあまりの甘い仕草に、美優は顔だけでなく耳まで熱くなるのを感じた。
そんな美優の様子を指背に唇を寄せたまま瞳を開けて見つめた壱弥はクスリと笑った。
「美優ちゃん、ホントに可愛い」
「あの、壱弥君?! こういうのホントダメだよ……?」
手を取られたまま、顔だけ背けた美優はしどろもどろになりながら小さな抵抗を試みた。
「……いやだったら、やめる。……いや?」
再び瞳を閉じて、指背に唇を押し当てた。
「……っ!! い、いやな訳じゃないけど……、あのね? 恋人でもない女の子にこんな事しちゃダメだよ!」
「そっか。それもそうだね。じゃあ、やめようかな」
やっと手を降ろしてくれた壱弥の方をチロリと見上げると、少し意地悪く笑っているのが見えた。
「……ひどい。からかったの?」
壱弥はいつもの優しい笑顔に戻って美優を見下ろした。
「ううん、からかってないよ? 本当に可愛いと思ったから。……でも、ちょっと急ぎすぎたかな。ごめんね」
「……急ぎすぎたって?」
「俺は美優ちゃんに好意を持ってるって事だよ」
壱弥があまりにもサラリと言うので一瞬どういう意味なのか分からず、壱弥を茫然と見つめてしまった。
「俺は、美優ちゃんが好きだよ。もちろん、女の子として」
「……え、だって……、こないだ再会したばっかりなのに? そ、それに壱弥君は大人で……」
壱弥は空いた右手の人差し指と中指で美優の頬にそっと触れる。
「俺、美優ちゃんが思うほど、大人じゃないよ? ……milkちゃんがいい子なのはSNSでのやり取りで充分わかったし、会ってみたら美優ちゃんだったし、しかも一層可愛くなってたし、好きにならない理由がないよ」
次々に出てくる誉め言葉に美優は更に顔を赤くした。
「……真っ赤になって本当に可愛いね」
「……あの、わ、わたし……、その、再会したばっかりで、その……」
壱弥はふいと前を向く。
「じゃあ、考えてみて。ずっと待ってるから」
「あ、あの、いっ……壱弥君はこんなに素敵な人だから、彼女とかいるものだと思ってたの……」
「そんなのいないよ?」
「そ、そうなんだね……」
「うん」
そう言ったきり、壱弥は黙って海を眺めてしまったので、美優も同じ様に海を眺めた。
大型船の汽笛の音が遠くから響いてきた。
闇は更に深くなって、月が空だけではなく海面にもう一つ浮かんでいた。
そのゆらゆらと揺れる月は眺めていたら時間が経つのも忘れるほど幻想的だった。
「……さ、そろそろご飯食べに行こうか」
美優が落ち着いた頃にいつもの優しい笑顔で美優を振り返った壱弥は繋いだ手にちょっとだけ力を篭めた。
「うん、お腹空いちゃった」
美優もいつもの笑顔で壱弥を見上げた。
壱弥の導きで二人は波止場沿いを歩いて行く。
しばらく歩くと煉瓦造りの洋館風の建物の店があった。
そこに二人で入っていく。
「こんばんは。忠也先輩いる?」
壱弥は店のカウンターにいた女性に声をかける。
「いらっしゃい、壱弥君。オーナーから聞いてるわ。二階のいつもの席にどうぞ」
「ありがとう。さ、美優ちゃん、階段登って?」
大きくもなく小さくもない、程よい面積の店内には、二階に上がる階段があった。
壱弥に促されてその階段を登る。
「少し急な階段だから足元気を付けてね?」
「うん」
階段を登り切るとたくさんの窓から海の灯りが見えていた。
きっと昼間はもっとはっきりと海が見えてさぞ壮観な光景が広がる事だろう。
「わぁ……。綺麗だな……」
思わず呟いてしまった美優に壱弥はクスリと笑う。
「美優ちゃんならそう言うと思ってたんだ。このお店、凄く景色いいんだよね」
「こんな素敵なお店、予約でいっぱいじゃないの?」
「ここ紹介制なんだ。オーナーの趣味でやってるお店だから」
「オーナーさんと知り合いなの?」
「そ。中学と高校の時の先輩。あ、その奥のテーブルが一番景色いいんだよ。そこ座ろ」
そう言うと壱弥は美優の肩に手を置いて薦めたテーブルまで促した。
椅子を引き、美優を座らせると向かいの席に自分も座った。
「そうそう、ここね、エビフライが少し他と違うんだ。楽しみにしてて」
「へえ。エビフライ? 私好きなんだ。楽しみ!」
「そっか、今もエビフライ好きだったんだね。よかった」
「憶えててくれたんだね、壱弥君」
「うん、だって昔、『昨日の晩御飯、エビフライだったの』って熱弁してたから」
そんなやり取りをしていると先程カウンターにいた女性が上がってきた。
手にはワインボトルの入ったアイスバケットにワイングラスがある。
「壱弥君、オーナーから伝言で、『絶対に自分が行くまで帰るな』ですって。食事はいつもの感じで出していい?」
「うん、構わないよ。任せる。エビフライだけ頼むね」
「ええ、カダイフのエビフライね。あれ、ホント美味しいもんね」
そういうと女性は階段を降りて行った。
壱弥はテーブルに置かれたワイングラスを美優の前に置いてアイスバケットの中のワインボトルを取り出し中身を注いだ。
無色透明の液体が出てくる。
「中身はお水だよ。ここ、お水こんな風に出て来るし、お客に自分で注がせるし、雑な店なんだ」
壱弥は困った様に笑いながら、自分の分のグラスに水を注いだ。
「ありがとう。フレンドリーなお店だね。そのオーナーさんとは仲良しなの?」
「そうだね、色々とお世話になった先輩なんだ。ご夫婦で仲良くしてもらってるよ」
「ご夫婦とも中学と高校の時の先輩なの?」
「うん、そう。ご主人の方が車好きでさ、俺の車の相談に乗ってくれたのもここのオーナーなんだ」
「そうなんだ。奥さんも車好きなの?」
「ううん、奥さんは車好きじゃないよ。奥さんは今キックボクシングの選手してる」
「ええ!? キックボクシング!?」
「学生時代は空手の選手してたし、小さい頃は合気道もやってたって」
「す、凄いね」
「ストイックに頑張ってるよ。ホント凄い。俺には真似出来ないなぁって思う」
「私、身体動かすのは好きだけど、運動得意な訳じゃないから競技とかダメなんだよね。だからそういう人尊敬しちゃう。壱弥君は何かやってたりするの?」
「学校では何もしてないな。昔習い事で護身術みたいな事やってたけどね。今はここに集まってくるメンツとたまにフットサルやったり、普段はジム行ったり。あ、サラダ来た」
階段の方に目をやると先程の女性がサラダの盛られた透明のボウルとトングにお皿を持って上がってくる。
「お待たせ。シェフのお任せサラダです」
「沙百合さん、ありがとう。美優ちゃん、飲み物任せてくれる?」
「うん」
「じゃあ、俺は白のノンアルで。彼女にはシードルを」
「はいはい。あ、さっきオーナーからまた連絡あったわよ? 『今仕事終わったから速攻で行く』だってさ」
壱弥は苦笑いをする。
「わかった」
沙百合と呼ばれたその女性はサラダ一式をテーブルに並べると階下に降りていく。
それを見送ると壱弥は美優の方に向き直り、再び苦笑いをした。
「先輩、よっぽど美優ちゃんに逢いたいみたいだ」
「え、私?」
「俺が女の子連れて来たの初めてだからじゃないかな?」
「そうなの?」
「うん、ここは数少ない憩いの場所だから、『異物』は入れたくないんだよね」
「……そんな大切な場所に私を連れて来てくれたんだね……。ありがとう」
壱弥は微笑む。
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