君に打つ楔

ツヅミツヅ

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5、友人達

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 その後、次々に出てくる料理を美優は感嘆を以て味わった。
 出てくる料理は何をとっても今まで食べた事がない程の美味しさだった。
「どう? 美味しかった?」
「うん、すっごく美味しかったよ! こんなに美味しい料理食べたの初めて!」
「ここは先輩の趣味全開のお店だからね。こだわりが凄いんだ」
「壱弥君が薦めてくれたエビフライ、本当に美味しかった。あんな生地見た事ないよ。サクサクしてて香ばしくて。一緒に付いてたタルタルソースがとっても合ってたし」
「あれ、ホント驚くでしょ? カダイフのエビフライ」
「カダイフって何?」
「あのエビに巻いてあった細い衣。あれカダイフっていう中東や地中海周辺の麵なんだって。天使の髪って呼ばれてる位細くしてあるそうだよ」
 そう言うと壱弥はワイングラスのノンアルワインを口にする。
「へえ! 天使の髪かぁ! 凄く細いもんね。……壱弥君が選んでくれたこのシードルも料理に凄く合ってた」
 美優も壱弥を追いかける様にシードルの入ったワイングラスを手にして口にした。
 壱弥はワイングラスをそっとテーブルに置くと美優に微笑む。
「ここの料理は白ワインに合う様に作ってるんだ。先輩がワイン好きでさ、この店は白ワインに合うお店ってコンセプトで開店させたんだよね。だからシードルなら合うかなって」
「そうなんだ……。ここのオーナーさんは、色々とこだわりのある人なんだね」
「うん、そうだね。車もこだわるしワインも料理もこだわるね。多分凝り性なんだろうね。……、噂をすれば、着いたみたいだよ?」
「え? なんで?」
「車のエンジン音。あれはM3だ」
「え、エンジンの音でわかるの?」
「うん」
 階下からドアベルが鳴り響く。
 話し声が聞こえると会話もそこそこに階段を登る靴音が聞こえて来た。
「おお! ホントに女の子連れて来てる!」
 壱弥よりは落ち着いた茶色い髪色のツーブロックで紺のパーカーを着た青年が壱弥を指差して言った。
「こんばんは、忠也先輩。……棗先輩まで来たの?」
「お前そりゃ、来るだろ? お前が女の子連れて来るなんてどんな子か確認しなきゃならないだろ?」
 男の後ろからゆっくりと階段を登ってきたのはセミロングで青い髪色をした驚く位のキリリとした美人だ。
 彼女はジーパンに白い大きなパーカーをざっくりと着こなして左手をポケットに突っ込んで右手を軽く上げた。
「よっ! 壱弥! あんたもついに彼女持ちか?」
「そうだといいんだけど、今はまだ立候補中なんだ」
 壱弥は朗らかにそう言うと、美優の方を見てにっこりと笑った。
 美優はその言葉で先程の波止場でのやり取りを思い出し恥ずかしくなって俯いた。
「おお、顔真っ赤だ。可愛いね」
 目を細め美優を見てそう言った女の人は壱弥の方を向いた。
「紹介してよ、壱弥」
「彼女は神崎美優(かんざきみゆう)さん。泊高の3年生。美優ちゃん? この人がこの店のオーナーの江月忠也(えづきただなり)さん。で、彼女が奥さんの江月棗(えづきなつめ)さん」
「は、初めまして! 神崎美優です! あの、このお店のお料理、ホントに凄く美味しくて感動しました!」
 忠也は人懐こい笑顔で美優の言葉に応えた。
「ホント? 気に入って貰えて良かった。俺のこだわりの詰まった店だからそう言って貰えたら嬉しいよ」
 次は棗が美優ににっこりと笑いかけた。
「初めまして、美優ちゃん。せっかくのデートなのにごめんね、騒がしくしちゃって」
「いえ、そんな事ないです。お会い出来て嬉しいです」
 そう挨拶していると、また階下でドアベルの音が鳴る。
 やはり簡単な挨拶の会話があった後、足早に階段を上がる複数の靴音がする。
「あ、美優ちゃん、さっきはどうも! ここの料理美味しかったでしょ?」
「あ、穂澄さん、さっきはありがとうございました」
 棗は悪戯っぽく笑いながら穂澄に話しかけた。
「お、雁首揃えて野次馬たちが来たか」
「うん、帆高に乗せてもらった~」
「こんばんは~、で、壱弥の彼女どこ?」
 階段から上がりながら黒髪のベリーショートの好青年が言った。
 その後から上がって来たこげ茶色の髪色のマッシュショートの爽やかな雰囲気の青年は、苦笑いをしながら黒髪の青年を窘める様に言う。
「おいおい、そんなガツガツしたら女の子引いちゃうだろ?」
 その様子を壱弥は呆れ気味に評した。
「なんだ、結局皆来ちゃったのか。美優ちゃん、ごめんね」
「ううん、全然平気だよ?」
「お、この子が彼女?」
 壱弥は少し困った様に笑いながら青年二人に言った。
「まだ彼女じゃないよ。今立候補してるとこ。彼女は神崎美優さん。美優ちゃん、彼は早瀬川航生(はやせがわこうせい)。彼も中学の同級生で穂澄の彼氏なんだ」
 黒髪の青年の方に手の平を差した。
「よろしくね~」
「で、こっちが遠久村帆高(おくむらほたか)。彼も同級生だよ」
 次にこげ茶色のマッシュショートの青年に手を向けた。
「遠久村帆高です。よろしくね、美優ちゃんって呼んでいいかな?」
「あ、はい、全然呼んでください。よろしくお願いします」
 航生が壱弥の方を向いて言った。
「お前が女の子連れて来るとか聞いて仕事さっさと切り上げたわ」
 それに続けて忠也が訊ねた。
「こんな可愛い子とどこで知り合ったんだ?」
「元々幼馴染だったんだ。でもずっと会ってなくて、ネットでやり取りしてた相手がたまたま美優ちゃんでびっくりしたんだよね。ね、美優ちゃん」
 壱弥が話に入りやすい様に話題を振ってくれたのを感じてその優しさに感謝した。
「うん、ホントにびっくりした。ネットでも壱弥君、凄く親身になって相談に乗ってくれて、とっても助かりました」
「へえ? 壱弥が? こんな人間に関心ない奴がネットで人に親切にする事自体が奇跡だわ」
 航生がそう言うと穂澄が同意した。
「そうでしょう? 私もそれ聞いて奇跡じゃないの? って思ったわよ」
「たまには俺だって親身になる事もあるよ」
 壱弥は少し苦笑いをしながら二人に反論した。
「ホントに色々大変だったから凄く助かったんです。壱弥君が親身になってくれなかったら今も困った事たくさん抱えて途方に暮れてたと思うんです」
「……美優ちゃん、いい子だね」
「そうでしょう? 壱弥には勿体ない位のいい子なのよ!」
 壱弥は優し気に笑い、航生と穂澄に言った。
「そ、美優ちゃんは昔から本当にいい子なんだ」
「あんたが言うんだから間違いないわね。なんせホントに人に無関心だもんね」
「壱弥にここまで言わせるとか大したもんだわ」
 航生と穂澄は感心した様に壱弥を見て言う。
 二人の語る壱弥と自分が知る、幼い頃の壱弥や再会してからの壱弥には大きな隔たりがある気がして少し疑問に感じた。
「まあ、壱弥の関心が向く位のいい子だって事だろ?」
 帆高は朗らかにそう言うと美優を見てにっこりと笑った。
「ごめんね、こんな風に色々言ってるけど、壱弥結構いい奴だから。俺達のただの軽口だからあんまり気にしないで?」
 美優もその笑顔に応えて微笑み返す。
「はい、大丈夫です。皆さんとっても仲がいいんですね。 部活が一緒だったとかなんですか?」
 その美優の質問には壱弥が答える。
「そういう訳じゃないんだけど、なんかいつも集まったんだよね。なんでだろ?」
 壱弥は少し思い出そうと視線を天井にやった。
「そうね、そう言われてみればきっかけってなんだったっけ?」
 穂澄もまた腕を組んで考え込む。
「穂澄がほら、初等部の時に合気道やってたから、それで棗さんと知り合ったのは憶えてるわ」
 と航生。
「そもそも俺達元々初等部も一緒だったけど、話した事なかったんだよね」
 と壱弥が言うと帆高が思い出した様に続けた。
「あ、でも、俺壱弥とは遊んだ事あったよ? 校庭で一緒にサッカーしたのが最初で、こいつめちゃくちゃ上手いなって思ったんだ」
「そうだっけ? 全然憶えてないや」
 壱弥は苦笑いして帆高に言った。
「後二人、ここに良く来る拓海と舷太って奴も含めてよくフットサルするんだ。次は美優ちゃんもおいでよ」
 忠也は美優の方を見てにっこりと笑う。
「はい、お邪魔でなかったら、見に行きたいです」
 美優は初めて会ったのに皆に温かく迎え入れて貰えた感じがしてとても嬉しかった。
 何より両親が亡くなってからというものこんな風に楽しく会話する事がなかった。
 心の壁が出来てしまった高校の友人達とはもうこんな風に話す事が出来なくなっていたし、叔父にも迷惑をかけてばかりで、乳飲み子を抱えた奥さんにも無理をさせてしまった。
 そんな思いを一人抱えていた美優にとっては久方ぶりにホッとした時間を過ごせている。
 嬉しさのあまり少し涙ぐんでしまったけど、なんとか笑って涙を誤魔化した。
「……美優ちゃん、明日朝からバイトだよね?」
 壱弥がふいに美優に話を振る。
「え、うん、そうだよ」
「遅くなっちゃいけないからそろそろ送っていくよ」
「え、そうなの? なら早く送ってあげな、壱弥」
 と棗は壱弥に強めに言った。
「うん送ってく。さ、帰ろうか、美優ちゃん。じゃあ、悪いけど今日はこれで」
 そう言うと壱弥は席を立つ。
 美優の後ろにいた帆高が美優の椅子をそっと引いた。そして美優に笑いかけながら言った。
「今度はゆっくり会おうね、美優ちゃん」
「はい、ありがとうございます」
 コートを羽織った二人は階段の方へと歩んでいく。
 皆が手を振って送り出してくれるので、壱弥の後に続いて手を振りながら階段を降りる。
「沙百合さん、今日も美味しかった。また来るよ」
「ホントに美味しかったです。ご馳走様でした」
 沙百合は手を振って美優に言った。
「壱弥君からの紹介だから、もう美優さんもいつでも来てね。壱弥君とじゃなくてもいいから」
「はい、ありがとうございます」
 軽く一礼してお店を出ると、美優は壱弥に向き直り、頭を下げた。
「壱弥君、ホントに美味しかった。ご馳走様でした」
 壱弥は美優の下げられた頭にポンと優しく手を置いて言った。
「喜んでくれたなら本当に良かった」

 暖かい屋内から屋外に出て、冷たい潮風が吹き込んで来たけれど、なんとなく美優の心は暖かい気持ちでいっぱいだった。
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