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14、壱弥評
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ロッジに着いた二人は、ロッジの受付を訪ねる。
「すみません、今夜お借りしてる江月の連れなんですけど」
カウンターの奥から無精ひげで伸ばした髪を束ねた男が出て来た。
「あぁ、はいはい、忠也の後輩ね。6番ロッジだよ。温泉から一番近いロッジにしといたから」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げた壱弥は美優の背を軽く押す。
「行こうか、美優ちゃん」
「うん」
壱弥は慣れた足取りで舗装された山道を進んでいく。
美優はその跡をついて行った。
「美優ちゃん足元気を付けてね」
「うん、大丈夫だよ」
ロッジまで5分ほどの道のりを歩いてくと、大きく6番と書かれたロッジに辿り着く。
前回少し会っただけの人達なので少し緊張していた美優の肩を壱弥が優しく抱く。
「大丈夫。ちゃんと一緒にいるから」
耳元で囁かれて、その声の方を振り仰ぐと、優しく笑ってくれている壱弥がいた。
その笑顔にやはり何か照れてしまって、美優は俯いてしまう。
そして小声で答える。
「ありがと……」
「行くよ?」
「うん」
そう言うと、壱弥はロッジの玄関インターフォンのボタンを押す。
ドアの向こうからパタパタと小走りする音がする。
「はぁ~い、待ってね~?」
ガチャリとドアが開く。
「いらっしゃい! 美優ちゃん!」
そう言われると、手を引かれて玄関に引き込まれる。
「こんにちは、穂澄さん」
美優は自分の手を引く穂澄に柔やかに挨拶した。
「待ってたの、美優ちゃん! さ、靴脱いで、スリッパこれね?」
「ありがとうございます」
ロッジに上がり、スリッパを履く。
玄関を入った先にある扉を開くと6人掛けの大きなカウチソファと一人掛けのソファが2脚と低めのテーブルがあった。
それでも広々としたその部屋にはプロジェクターやアンプ、スピーカーが悠々と配置されている。
「お、美優ちゃん、来たか!」
そのリビングの奥にある対面式のキッチンから忠也から声がかかる。
「いらっしゃい、美優ちゃん」
手前の階段から降りて来た棗からも声がかかった。
「こんにちは、忠也さん、棗さん」
キッチンから香ばしい香りが漂って来る。
「今、ローストチキンとローストビーフ焼いてるんだ。頑張って作ってるからいっぱい褒めてね?」
忠也が人懐こい笑顔で美優に言った。
それを聞いて美優の手を繋いだままの穂澄が忠也に言った。
「美味しくなかったら褒めないわよ?」
「お前に褒めてもらえるとは思ってないよ。褒めてくれた事なんかないだろ」
「そ? 毎回何か一個残念なんだもん。仕方ないじゃない」
事も無げに言う穂澄に棗が言った。
「おいおい、美優ちゃん離してあげな? 荷物降ろさなきゃ落ち着かないだろ?」
「ああ、ごめんごめん。荷物は二階の女子部屋に置きに行きましょ?」
そのまま二階に手を引かれて登っていく。
「美優ちゃん、元気だった?」
階段を登りながら穂澄が振り返る。
「はい、穂澄さんは?」
「私は元気よ? 仕事も順調だし人生順風満帆よ」
美優は元気にそう答える穂澄に階段を登りながら微笑んだ。
「よかった。素敵なお店ですもんね、あのブティック」
「そう? そう言ってくれて嬉しいわ。あそこは私の趣味で出してるセレクトショップだから」
「え? あのお店は趣味なんですか?!」
部屋に導かれながら美優は驚き訊ねた。
「ええ、あれは完全に趣味。本職は一応忠也先輩の会社の取締役。壱弥以外は皆そうよ?」
「そうなんですか?」
「うん、大学生の時に立ち上げた会社なんだけど、なんとか上手くいってるの」
「へえ……。壱弥君は参加してないんですね」
「壱弥は大学中退してるから立ち上げ自体に関わってないのよ」
「そうなんですか……」
「それでもうちの会社に投資したりしてくれてるんだけどね。美優ちゃんこのベットでいい?」
穂澄は4つある内の扉側にあるベットを差した。
「はい、ここでいいです」
「窓際のベット寒いのよ。あそこは空けときましょ」
「はい」
「荷物はここのクローゼットに置けるわよ。私達の荷物もあるけど、全然入るから」
「はい」
「あ、温泉行く準備しといてね? 料理作ってくれてる間、女子は温泉行くから」
「……お手伝いしなくていいんですか?」
「いいのよ。図体デカい奴らがキッチンでひしめき合ってるんだから、手伝うなんてむしろ邪魔しちゃうわ。のんびり温泉でも入ってましょ? 楽しみにしてやって美優ちゃんにニコニコ褒めてもらえたらご満悦よ、特に壱弥は」
そう言うと、穂澄は部屋を出て、階下に声をかける。
「なっちゃん~? 温泉行こう~!」
階下から棗が上がってきて、美優に訊ねた。
「早速行くのか。美優ちゃん一休みしなくて大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「じゃ、行くか」
穂澄と棗はクローゼットから洗面用具のセットを取り出す。
美優も荷物から用意してきたセットを取り出した。
3人は階段を降りて、穂澄がリビングに居た忠也と壱弥に声をかける。
「じゃ、行ってくるわ~」
「気を付けて」
壱弥が優しい笑顔で美優を見て言った。
「うん」
「あんた、私達にも声かけなさいよね?」
穂澄が壱弥に冗談めかしながら抗議する。
「美優ちゃんしか心配じゃないから」
壱弥はいつもの優し気な雰囲気ではなく、突き放すように穂澄に言った。
「酷い言い草よね~。私達年頃の乙女だってのにね?」
「棗がいる時点で心配ないけどな!」
忠也が爽やかな笑顔で言ってのける。
「二人は私が守るから心配いらないよ?」
棗もまた当然の事の様に言ってのける。
そう言った所でインターフォンが鳴る。
「はいはい、待ってね」
ガチャリと鍵を捻って玄関の扉を開くと帆高と航生がいる。
「ただいま~」
「お、美優ちゃん、来てたか。温泉行くの?」
帆高が美優を目に止めて言った。
「こんにちは。帆高さん、航生さん。今から棗さんと穂澄さんと行ってきます」
美優は帆高と航生にペコリと頭を下げた。
「こんにちは~、美優ちゃん。穂澄が美優ちゃんに会うの楽しみにしてたんだよね。俺達もだけど」
航生はたくさんの500㎖ペットボトルが入ったビニール袋を両手に持って言った。
「あったか?」
忠也が帆高に声をかける。
「うん、あったあった。百均無くてコンビニで買ったけど、高いわ」
「この辺百均ないからな。お疲れ」
航生はキッチンへ向かい、冷蔵庫にペットボトルを次々入れていく。
「あ、美優ちゃん? ここに入ってる飲み物好きなの勝手に飲んでいいからね?」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
「じゃ、料理楽しみにしてるから。私達は温泉行かせてもらうわね~」
「ほいほい。行ってらっしゃい」
男性陣に見送られてロッジを出ると、やはり補整された山道を3分ほど受付とは逆の方角の階段を上った先に温泉はあった。
「ここの温泉、乳白色で美肌効果ばっちりなのよね~」
「そうなんですね。楽しみです。あ、温泉と言えば、こないだ、壱弥君と皆さんがキャンプに行く時によく行く高速の温泉に行きました。あそこも泉質結構いいですよね?」
穂澄が美優を見て言った。
「ああ、あそこ行ったの? 何? 壱弥ったら美優ちゃんの事色々連れ回してるの? なんで私達も誘わないのよ、あいつ」
「結構急に決まったんです。流星群見に行ったから」
「ああ、確かにあの湖のある山の中腹のパーキングは絶好のスポットよね! どう? 綺麗だった?」
「はい! でも流れ星に3回お願いするのって至難の業ですよね」
「あれは無理よ。願い叶える気全く無いわよね」
「あれは動体視力の鍛錬にいいんだ」
「ロマンの欠片もないわね、なっちゃん」
温泉の女湯の脱衣所で3人は荷物を置き、服を脱ぎながら会話する。
服を脱ぐと、湯殿へと向かい、かかり湯をして温泉に浸かる。
「……ねえ、美優ちゃん?」
穂澄が少し真剣な声音で訊ねる。
「はい、なんですか?」
「……壱弥から聞いてるけど、ご両親が亡くなって大変でしょ? もし何かあったら相談してね? 私達力になるからさ。……壱弥男だし、相談出来ない事もあるでしょう? それにほら、壱弥は美優ちゃんに気がある訳だから、そういう意味でも相談しにくい事もあると思うし」
「壱弥自身は頼りになる男だけどな」
「後で連絡先交換しましょ?」
「はい、ありがとうございます」
美優は嬉しかった。
学校の友人達は両親が亡くなった事で遠巻きになってしまったので、こんな風に声をかけて貰えたのはリアルでは初めてだったから。
そして穂澄の気遣いに感謝したい気持ちでいっぱいだった。
こう言ってくれる人がいるだけで心強く、まだまだ時間のかかりそうな事故交渉にも挑んでいけそうだ。
壱弥だけだと思っていた自分を支えてくれる手は壱弥のお陰でこうして広がっていく。
「ところで美優ちゃん? 壱弥、美優ちゃんの困る様な迫り方してない? 大丈夫?」
穂澄は心配そうに美優の顔を覗き込んで言った。
「はい、大丈夫ですよ。……ただ、照れくさいなって思う事も多いけど」
「そう? ならいいんだけど。あいつがあんな風に人に執着するトコ初めて見たから加減わかってるか、心配なのよね」
穂澄の言葉に棗も頷く。
「確かに、壱弥が誰かに興味持つ事なんて今までなかったから、ちょっと心配だね」
「そうなんですか? ……いつも店員さんとかにも感じよく接していると思うんですけど……」
「そういうトコはちゃんとした男よ? 傲慢な訳ではないからね。でもね。根本的に人が何してようが何思ってようが、本当に関心ないから。私達の事はまあちょっと別位には思ってくれてるみたいだけど」
今度は棗が美優の顔を覗き込んで言い聞かせる。
「壱弥の事も何か困る事があったら相談するんだよ?」
「はい、ありがとうございます」
こんな風に心配されるのは彼氏が出来た時の父親以来久しぶりで何か気恥ずかしい気持ちになった。
でも、やはり自分が接してる壱弥と、穂澄達が言う壱弥はまるで全然違う人物の事を語ってる様に感じる。
「……皆さんと一緒にいる時の壱弥君はどんな人なんですか?」
穂澄と棗は顔を見合わせる。
「……そうね、壱弥は何でもサラリと出来ちゃう有能な男よ? で、結構怠け者」
「確かに、あいつは自堕落な所があるな。最低限出来てたらいいだろ? みたいに思ってる所もある」
「あいつ絶対首席で卒業できたと思うのよ。でもわざわざ赤点取ってたのよね」
「スポーツもそうだ。本気出したらきっといい選手になったと思うぞ」
「ああ、なんか陸上部からスプリンターでって、すっごい誘い来てたんでしょ?」
「私はやれって言ったんだけど、面倒だからイヤだと言って断り続けてたな」
「……そういう感じで世の中適当に渡っていければいいやみたいな、無気力人間なのよ、あいつ」
美優はその二人の言葉に疑問を投げかける。
「……そうなんでしょうか……? 事故対応の相談なんかに乗ってくれた時も凄く親身になってくれてたんです。アドバイスも的確で、弁護士の先生に初動の対応が凄く良くて助かりますって言われた位」
「そうなのよ。きっと誰よりも頼れる出来る男なのに、やらないの。何にも熱を感じないの。……でも、美優ちゃんにだけは熱を感じるの……でもねぇ……」
美優は穂澄に小首を傾げる。
そんな美優を困り顔で笑った穂澄が答えた。
「……ただの杞憂だとは思うから、気にしないで。壱弥自身は身内には頼りがいのあるいい奴な事は間違いないわ。それは保証する」
「すみません、今夜お借りしてる江月の連れなんですけど」
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「あぁ、はいはい、忠也の後輩ね。6番ロッジだよ。温泉から一番近いロッジにしといたから」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げた壱弥は美優の背を軽く押す。
「行こうか、美優ちゃん」
「うん」
壱弥は慣れた足取りで舗装された山道を進んでいく。
美優はその跡をついて行った。
「美優ちゃん足元気を付けてね」
「うん、大丈夫だよ」
ロッジまで5分ほどの道のりを歩いてくと、大きく6番と書かれたロッジに辿り着く。
前回少し会っただけの人達なので少し緊張していた美優の肩を壱弥が優しく抱く。
「大丈夫。ちゃんと一緒にいるから」
耳元で囁かれて、その声の方を振り仰ぐと、優しく笑ってくれている壱弥がいた。
その笑顔にやはり何か照れてしまって、美優は俯いてしまう。
そして小声で答える。
「ありがと……」
「行くよ?」
「うん」
そう言うと、壱弥はロッジの玄関インターフォンのボタンを押す。
ドアの向こうからパタパタと小走りする音がする。
「はぁ~い、待ってね~?」
ガチャリとドアが開く。
「いらっしゃい! 美優ちゃん!」
そう言われると、手を引かれて玄関に引き込まれる。
「こんにちは、穂澄さん」
美優は自分の手を引く穂澄に柔やかに挨拶した。
「待ってたの、美優ちゃん! さ、靴脱いで、スリッパこれね?」
「ありがとうございます」
ロッジに上がり、スリッパを履く。
玄関を入った先にある扉を開くと6人掛けの大きなカウチソファと一人掛けのソファが2脚と低めのテーブルがあった。
それでも広々としたその部屋にはプロジェクターやアンプ、スピーカーが悠々と配置されている。
「お、美優ちゃん、来たか!」
そのリビングの奥にある対面式のキッチンから忠也から声がかかる。
「いらっしゃい、美優ちゃん」
手前の階段から降りて来た棗からも声がかかった。
「こんにちは、忠也さん、棗さん」
キッチンから香ばしい香りが漂って来る。
「今、ローストチキンとローストビーフ焼いてるんだ。頑張って作ってるからいっぱい褒めてね?」
忠也が人懐こい笑顔で美優に言った。
それを聞いて美優の手を繋いだままの穂澄が忠也に言った。
「美味しくなかったら褒めないわよ?」
「お前に褒めてもらえるとは思ってないよ。褒めてくれた事なんかないだろ」
「そ? 毎回何か一個残念なんだもん。仕方ないじゃない」
事も無げに言う穂澄に棗が言った。
「おいおい、美優ちゃん離してあげな? 荷物降ろさなきゃ落ち着かないだろ?」
「ああ、ごめんごめん。荷物は二階の女子部屋に置きに行きましょ?」
そのまま二階に手を引かれて登っていく。
「美優ちゃん、元気だった?」
階段を登りながら穂澄が振り返る。
「はい、穂澄さんは?」
「私は元気よ? 仕事も順調だし人生順風満帆よ」
美優は元気にそう答える穂澄に階段を登りながら微笑んだ。
「よかった。素敵なお店ですもんね、あのブティック」
「そう? そう言ってくれて嬉しいわ。あそこは私の趣味で出してるセレクトショップだから」
「え? あのお店は趣味なんですか?!」
部屋に導かれながら美優は驚き訊ねた。
「ええ、あれは完全に趣味。本職は一応忠也先輩の会社の取締役。壱弥以外は皆そうよ?」
「そうなんですか?」
「うん、大学生の時に立ち上げた会社なんだけど、なんとか上手くいってるの」
「へえ……。壱弥君は参加してないんですね」
「壱弥は大学中退してるから立ち上げ自体に関わってないのよ」
「そうなんですか……」
「それでもうちの会社に投資したりしてくれてるんだけどね。美優ちゃんこのベットでいい?」
穂澄は4つある内の扉側にあるベットを差した。
「はい、ここでいいです」
「窓際のベット寒いのよ。あそこは空けときましょ」
「はい」
「荷物はここのクローゼットに置けるわよ。私達の荷物もあるけど、全然入るから」
「はい」
「あ、温泉行く準備しといてね? 料理作ってくれてる間、女子は温泉行くから」
「……お手伝いしなくていいんですか?」
「いいのよ。図体デカい奴らがキッチンでひしめき合ってるんだから、手伝うなんてむしろ邪魔しちゃうわ。のんびり温泉でも入ってましょ? 楽しみにしてやって美優ちゃんにニコニコ褒めてもらえたらご満悦よ、特に壱弥は」
そう言うと、穂澄は部屋を出て、階下に声をかける。
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「早速行くのか。美優ちゃん一休みしなくて大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「じゃ、行くか」
穂澄と棗はクローゼットから洗面用具のセットを取り出す。
美優も荷物から用意してきたセットを取り出した。
3人は階段を降りて、穂澄がリビングに居た忠也と壱弥に声をかける。
「じゃ、行ってくるわ~」
「気を付けて」
壱弥が優しい笑顔で美優を見て言った。
「うん」
「あんた、私達にも声かけなさいよね?」
穂澄が壱弥に冗談めかしながら抗議する。
「美優ちゃんしか心配じゃないから」
壱弥はいつもの優し気な雰囲気ではなく、突き放すように穂澄に言った。
「酷い言い草よね~。私達年頃の乙女だってのにね?」
「棗がいる時点で心配ないけどな!」
忠也が爽やかな笑顔で言ってのける。
「二人は私が守るから心配いらないよ?」
棗もまた当然の事の様に言ってのける。
そう言った所でインターフォンが鳴る。
「はいはい、待ってね」
ガチャリと鍵を捻って玄関の扉を開くと帆高と航生がいる。
「ただいま~」
「お、美優ちゃん、来てたか。温泉行くの?」
帆高が美優を目に止めて言った。
「こんにちは。帆高さん、航生さん。今から棗さんと穂澄さんと行ってきます」
美優は帆高と航生にペコリと頭を下げた。
「こんにちは~、美優ちゃん。穂澄が美優ちゃんに会うの楽しみにしてたんだよね。俺達もだけど」
航生はたくさんの500㎖ペットボトルが入ったビニール袋を両手に持って言った。
「あったか?」
忠也が帆高に声をかける。
「うん、あったあった。百均無くてコンビニで買ったけど、高いわ」
「この辺百均ないからな。お疲れ」
航生はキッチンへ向かい、冷蔵庫にペットボトルを次々入れていく。
「あ、美優ちゃん? ここに入ってる飲み物好きなの勝手に飲んでいいからね?」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
「じゃ、料理楽しみにしてるから。私達は温泉行かせてもらうわね~」
「ほいほい。行ってらっしゃい」
男性陣に見送られてロッジを出ると、やはり補整された山道を3分ほど受付とは逆の方角の階段を上った先に温泉はあった。
「ここの温泉、乳白色で美肌効果ばっちりなのよね~」
「そうなんですね。楽しみです。あ、温泉と言えば、こないだ、壱弥君と皆さんがキャンプに行く時によく行く高速の温泉に行きました。あそこも泉質結構いいですよね?」
穂澄が美優を見て言った。
「ああ、あそこ行ったの? 何? 壱弥ったら美優ちゃんの事色々連れ回してるの? なんで私達も誘わないのよ、あいつ」
「結構急に決まったんです。流星群見に行ったから」
「ああ、確かにあの湖のある山の中腹のパーキングは絶好のスポットよね! どう? 綺麗だった?」
「はい! でも流れ星に3回お願いするのって至難の業ですよね」
「あれは無理よ。願い叶える気全く無いわよね」
「あれは動体視力の鍛錬にいいんだ」
「ロマンの欠片もないわね、なっちゃん」
温泉の女湯の脱衣所で3人は荷物を置き、服を脱ぎながら会話する。
服を脱ぐと、湯殿へと向かい、かかり湯をして温泉に浸かる。
「……ねえ、美優ちゃん?」
穂澄が少し真剣な声音で訊ねる。
「はい、なんですか?」
「……壱弥から聞いてるけど、ご両親が亡くなって大変でしょ? もし何かあったら相談してね? 私達力になるからさ。……壱弥男だし、相談出来ない事もあるでしょう? それにほら、壱弥は美優ちゃんに気がある訳だから、そういう意味でも相談しにくい事もあると思うし」
「壱弥自身は頼りになる男だけどな」
「後で連絡先交換しましょ?」
「はい、ありがとうございます」
美優は嬉しかった。
学校の友人達は両親が亡くなった事で遠巻きになってしまったので、こんな風に声をかけて貰えたのはリアルでは初めてだったから。
そして穂澄の気遣いに感謝したい気持ちでいっぱいだった。
こう言ってくれる人がいるだけで心強く、まだまだ時間のかかりそうな事故交渉にも挑んでいけそうだ。
壱弥だけだと思っていた自分を支えてくれる手は壱弥のお陰でこうして広がっていく。
「ところで美優ちゃん? 壱弥、美優ちゃんの困る様な迫り方してない? 大丈夫?」
穂澄は心配そうに美優の顔を覗き込んで言った。
「はい、大丈夫ですよ。……ただ、照れくさいなって思う事も多いけど」
「そう? ならいいんだけど。あいつがあんな風に人に執着するトコ初めて見たから加減わかってるか、心配なのよね」
穂澄の言葉に棗も頷く。
「確かに、壱弥が誰かに興味持つ事なんて今までなかったから、ちょっと心配だね」
「そうなんですか? ……いつも店員さんとかにも感じよく接していると思うんですけど……」
「そういうトコはちゃんとした男よ? 傲慢な訳ではないからね。でもね。根本的に人が何してようが何思ってようが、本当に関心ないから。私達の事はまあちょっと別位には思ってくれてるみたいだけど」
今度は棗が美優の顔を覗き込んで言い聞かせる。
「壱弥の事も何か困る事があったら相談するんだよ?」
「はい、ありがとうございます」
こんな風に心配されるのは彼氏が出来た時の父親以来久しぶりで何か気恥ずかしい気持ちになった。
でも、やはり自分が接してる壱弥と、穂澄達が言う壱弥はまるで全然違う人物の事を語ってる様に感じる。
「……皆さんと一緒にいる時の壱弥君はどんな人なんですか?」
穂澄と棗は顔を見合わせる。
「……そうね、壱弥は何でもサラリと出来ちゃう有能な男よ? で、結構怠け者」
「確かに、あいつは自堕落な所があるな。最低限出来てたらいいだろ? みたいに思ってる所もある」
「あいつ絶対首席で卒業できたと思うのよ。でもわざわざ赤点取ってたのよね」
「スポーツもそうだ。本気出したらきっといい選手になったと思うぞ」
「ああ、なんか陸上部からスプリンターでって、すっごい誘い来てたんでしょ?」
「私はやれって言ったんだけど、面倒だからイヤだと言って断り続けてたな」
「……そういう感じで世の中適当に渡っていければいいやみたいな、無気力人間なのよ、あいつ」
美優はその二人の言葉に疑問を投げかける。
「……そうなんでしょうか……? 事故対応の相談なんかに乗ってくれた時も凄く親身になってくれてたんです。アドバイスも的確で、弁護士の先生に初動の対応が凄く良くて助かりますって言われた位」
「そうなのよ。きっと誰よりも頼れる出来る男なのに、やらないの。何にも熱を感じないの。……でも、美優ちゃんにだけは熱を感じるの……でもねぇ……」
美優は穂澄に小首を傾げる。
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