君に打つ楔

ツヅミツヅ

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33、慌ただしい門出

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 卒業式の当日、美優は壱弥と一緒に歩いて最後の通学した。
 壱弥はいつものラフな格好とは違って、薄めの黒のモダンブリティッシュモデルのスーツに白いシャツ、白黒の千鳥格子柄のネクタイを締めたスタイリッシュな姿だ。
 こうしてみるとやはり壱弥はとても容姿端麗だと実感する。どんな格好をしても様になる。
 壱弥は手を繋ごうと言ったが、さすがに学校まで手を繋いで行ったら大騒ぎになってしまいそうだからと、必死で壱弥にお願いして、なんとか許して貰えた。 
 その代わり、後で壱弥のお願いも聞く事を約束させられた。
「俺、美優ちゃんのご両親の代わり、頑張って務めるからね」
「ありがとう。きっと壱弥君が代わりをしてくれて、お父さんもお母さんも喜んでると思うよ」
「そうだといいな。お母さんには小さい頃とはいえ、お許し頂いてるけど、お父さんには許して貰えたかな?」
「う~~ん……、お父さんは私がお嫁に行く想像しただけで怒ったり泣きそうになったりしてたからなぁ……。きっと相手が誰でも許さないかもしれない」
 美優は父親の怒ったり笑ったりする様を思い出しながら笑った。
「そっか。でもそれでも俺は、お父さんに許して貰えるまで頑張ったと思うけどね」
 そう笑った壱弥の瞳はどこか真剣な色を放っていた。
 学校まで着くとやはり壱弥は目立っていて、たまに女子生徒から黄色い声が上がり、父兄も振り返る人がいる程だった。
 そんな視線の集まる中、美優は壱弥に笑いかけた。
「壱弥君? 私、教室行かなきゃ。また後でね」
「わかった。行ってらっしゃい」
 壱弥と別れて歩き出し、教室に向かう。
 それでも壱弥と一緒にいた事が噂になっているのか、たくさんの視線を感じた。
 教室の自分の机に座った途端にたくさんの女子生徒が美優を囲んだ。
「ねえ、神崎さん、あれ前迎えに来てたイケメンだよね?!」
「なんか聞いたんだけど、告られてるんでしょ?! なんで付き合わないの?!」
「え、ちょっとあんなイケメンに告られるとかどういう関係?!」
「幼馴染みのお兄さんだって言ってなかった?!」
 どうやら壱弥が紗雪に言った事が既に噂として広まっていたらしい。
「あ、えっと……、あの……」
 怒涛の質問攻めに戸惑っていると、ちょうど教師が教室に入って来た。
「お前ら自分の席に付けよ。違うクラスの奴はさっさと教室戻れ~~?」
 これを見越していた美優は家をギリギリに出てやり過ごそうと思っていた。
 多分、今日を乗り切れば今後会うのはきっと一緒に過ごす事の多かった友達数人だろう。
 自分の連絡先を交換しているのはその子達と乙川位だ。
 教師が入って来た事で美優を囲んでいた女子生徒達は自分の席に着いたり自分の教室に戻って行ったりした。
 これできっと囲まれるのは式の後だけだ。
 そこさえ乗り切れば、大丈夫だとホッとした。
 担任の教師から今日の段取りと、少し長めの卒業への餞の言葉があって、式の時間になる。
 自分達卒業生の後ろの方に保護者達の観覧席がある。
 その観覧席の端の方に座っていた壱弥はただただ座っているだけなのに一目でどこにいるかわかる程、目立っている。
 保護者の中には壱弥をさり気なくスマホのカメラで撮影してる人もいた。
 式は粛々と進み、特に大きなトラブルもなく、簡単に終わった。
 教室に戻って卒業証書と配られた記念品と鞄を持って急いで壱弥の元に向かう。
 メッセージで校門の前にいるとあったので校門に急いだ。
 足早に廊下を歩いていると男女問わずたくさんの人達から呼び止める声がかかったが、それに曖昧に笑う。
「ねえ、神崎さん! あの……」
「ごめんね、急いでるんだ」
 もしこれが普段なら絶対ある程度付き合うが、今日はもう壱弥優先でいいだろう。
 壱弥も校門の前で女子生徒達に囲まれて、大変な思いをしているかもしれない。
 早く合流して早く帰る方がきっと良い。
 それに皆が迎えに来ているらしくて、M3とディフェンダーを2台校門前の車道に付けているらしいのでより急がなければと思った。
 息を切らして校門の前まで走って行くと、壱弥の周りには女子生徒達ではなくて航生と穂澄と棗がいた。
 あまりにも美男美女達が揃っているので声をかけようと意気込んでいた女子生徒達も気後れしているようだ。
「あ、美優ちゃん、卒業おめでとう!」
 美優を真っ先に見つけた穂澄が手を振った。
 美優は皆の元に駆け寄る。
 壱弥は美優の顔の一回り以上大きな花束を抱えて美優を見て微笑んだ。
 そしてそれを駆け寄った美優に手渡した。
「卒業おめでとう。これ、全員からだよ」
 その花束は本当に立派な物で、今日の卒業生の中でも一番豪華な花束だろう。
「あ、ありがとう……、こんな立派なお花、初めて貰っちゃった……」
 感激で胸がいっぱいになって、思わず涙がジワリと浮かんできた。
「美優ちゃん、せっかくだから看板の前で写真撮ろうか。壱弥と撮ってあげるよ」
 航生が壱弥と美優を卒業式と書かれた看板の前に誘導する。
 壱弥と美優は看板の前に並んで、スマホのカメラを掲げる航生の方を見る。
「撮るよ~? 3、2、1」
 スマホのシャッター音がカシャリと鳴った。
「次は穂澄と棗先輩も入んな~?」
 穂澄は美優の横に立って、その肩を抱き、棗は穂澄の横に並ぶ。
「はい、撮るよ~? 3,2、1」
 またシャッター音が鳴り、航生は画面から目を離して、微笑む。
「OK! 美優ちゃん、友達と写真とか撮んなくていいの?」
「うん、大丈夫だよ」
「神崎!」
 校庭の方から乙川が走って来る。
 美優はその呼びかけに応える様に振り返った
「? 乙川君? どうしたの?」
 乙川は壱弥達を少し気にしつつ、美優の方を見た。
「お前、もう帰んの?」
「うん、迎えに来てくれた人達車なの。車道で待ってくれてるから早く行かなきゃ」
「……車ってあのM3?」
「うん、あれも友達の車だよ」
「……また、連絡するわ」
 乙川と何かやり取りする様な事があったか疑問に思ったが、社交辞令だと思いにこりと笑った。
「うん、またね、乙川君」
 美優は背を向けて校庭に戻っていった乙川に手を振って壱弥達の方を振り返った。
 穂澄がなんだか複雑そうな笑みを浮かべて美優に訊ねる。
「……あの子と写真とか撮ってあげなくてよかったの?」
「? うん。ちょっと最後にお話ししてくれただけだと思うから」
 壱弥がサッと美優の肩を抱く。
「……さ、行こう?」
 そして校庭の方を一瞥し軽く美優の肩を押して車の停めてある車道へと導く。
 航生がポソリと呟いた。
「……甘酸っぱい青春なだけじゃんね~~?……」
「……壱弥もなかなかに大人気ないわ~~……」
 航生と穂澄は壱弥の背中をなかば呆れ返って見つめた。
「……あれM3じゃん……」
「すっげ~~……」
 早々に校舎から出て来ていた男子生徒達が呟いていたのが聞こえる。
 黒いM3の運転席から忠也が美優に手を振った。
「お、来た来た。美優ちゃん、卒業おめでとう!」
「ありがとう、忠也君」
 壱弥が車道に出て、右側の後部座席の扉を開ける。
「さ、美優ちゃん乗って?」
「うん、ありがとう」
 美優が車に乗り込むと自分もそのまま後部座席に乗り込んだ。
 後部座席に窓から校舎の方を覗いていたら、在校生、卒業生、保護者、教師達まで、たくさんの人達がこっちを見ている。
 今日はとても目立ってしまったようだ。
 助手席に棗が乗り込んで、穂澄と航生はその後ろに停まっていた帆高のディフェンダーに乗り込んでファロルへと走り出した。
 運転席から忠也が美優に声をかける。
「なんか早かったけど、友達と写真とか撮れたの?」
「ううん、撮ってないけど壱弥君と棗さんと穂澄さんと撮ってもらったから大丈夫だよ」
「そうなの? 慌てなくてよかったのに」
「壱弥君の事聞きたい女の子達に囲まれそうだったから多分残っても写真とか撮れなかったんじゃないかな?」
 棗が声を上げて笑う。
「はははっ。女子高生には壱弥の見てくれは刺激強いだろうからね~~」
「棗さんの事も男の子達がいっぱい見てたよ?」
「え? 私じゃないでしょ? 穂澄見てたんじゃないの?」
 忠也が呆れて笑う。
「お前ら見た目だけはいいからな~~……。二人とも中身完全に男だけど」
 壱弥が少し拗ねた様に美優の手を握りながら言った。
「美優ちゃんの事も見てる奴もいっぱいいたしね。多分今日告ろうと思ってた奴絶対いたと思う」
「もう……、壱弥君ってば……。そんな人いないってば」
 美優は困り顔で壱弥に微笑んだ。
「いたよ。ホントもうちょっと危機感持って欲しいよ。心配だな」
 壱弥は少し子供の様な顔をして拗ねている。
 その様子に忠也と棗は笑い、美優は困りながら壱弥を宥め、そうしている内に車はファロルに辿り着いた。
 ファロルの店前の扉の前にはCongratulations on your graduation!と書かれたウェルカムボードがあり、本日貸し切りの札が掛けられている。
「忠也さん、今日貸し切りにしてくれたの? ……迷惑かけちゃった?」
「いや? そもそもこういう自由がきくから自分の店作ったんだ。寧ろこういう使い方こそ本望だから」
「……ありがとう。ホントに嬉しい」
 忠也はその言葉に答える様ににっこりと微笑んで扉を開けた。
「どうぞ」
 扉を開けると沙百合がカウンター席に座っていた。
「あら、早かったのね。美優さん卒業おめでとう」
「ありがとうございます、沙百合さん」
「用意出来てるから二階上がって?」 
 早速階段を登り二階に上がると階段を登り切った踊り場はゴールデンピンクとローズのバルーンがアーチ状に組まれている。
 それを潜ると同じ様なカラーのガーランドとバルーンが店中に飾られて照明もいつもより少し落としていて華やかながらシックな雰囲気だ。
 いつもとは違って客席は片付けられていて部屋の中央には料理の並べられたテーブルがある。
「うわぁ……。凄い……」
 プロが作る本気の豪華なパーティ料理に美優は面食らう。
「今回は美優ちゃんの誕生日も、壱弥と美優ちゃん、二人の付き合いだした記念も兼ねてるから。ま、これ位はね」
 美優の後ろで帆高が笑って美優の肩に軽く手を置く。
 美優はその言葉に振り返る。
「こんな綺麗な飾り付け、凄く大変だったんじゃないの?」
 その後に続いて階段を上がって来た航生が笑顔で答える。
「そうでもないよ? この手の物ってセットで売ってるから」
「あ、このパネルだけは特注したけどね。それでもそんな大した手間は無かったよ?」
「そうなんだね……」
 こんなに力の入ったパーティをしてくれるとは思っていなかったので、美優は感激して少し涙目になってしまう。
 沙百合が全員にシャンパングラスを渡して、美優にはシードルを、棗には炭酸水を注ぎ、他の皆にはシャンパンを注いだ。
「皆行き渡ったか? じゃ、改めて、美優ちゃん、卒業と誕生日おめでとう!」
 忠也がグラスを掲げて皆に言葉を投げた。
 それに皆も応えてグラスを掲げる。
「「「「「おめでとう!」」」」」
 皆からかけられるお祝いの言葉に美優は満面の笑顔で答えた。
「皆、ホントにありがとう」

 皆で乾杯をして、パーティは始まった。
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