42 / 65
42、甘える
しおりを挟む
壱弥に車で送ってもらって早めにバイト先に着いて、木之崎にストーカーの件を話した。
「そうなんだね、神崎さん、なんか色々大変だね。うん、今日は清水君に代わってもらえるか頼んでみるよ」
「ご迷惑おかけします」
「うちは何も迷惑なんてかかってないよ? そんな目に遭っててもこうしてシフト通り来てくれてホントに助かるよ」
「ホントは今日も林さんのシフト入りたかったんですけど、警察行ったりしないといけなくて……」
「え、警察行くんだ?」
「はい。その方がいいってアドバイス貰ったんで」
「そっか……。まあ、今日は早めに上がってもいいよ? 清水君来たらすぐに帰ってくれて構わないから」
「え? いいんですか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます」
それからいつもの様に業務をこなす。
ただ、いつもよく喋りかけてくれる木之崎が今日は何か少しだけよそよそしい感じがした。
そして、必ず来ているいつも唐揚げ定食を頼む常連客が珍しく顔を見せなかった。
清水がやって来たと同時に早く上がらせてもらい、バイト先を出た。
昼休憩の時に壱弥には早く上がる事を伝えていたので、壱弥は既にパーキングの脇にあるバイク用の駐輪場でバイクに跨って待っていた。
壱弥に駆け寄った美優は、なんとなく壱弥の姿を見つけるとホッとした。
「お待たせ、壱弥」
「バイトお疲れ様、美優」
壱弥はバイクを降りてパニアケースから革ジャケットと手袋、そしてヘルメットを取り出した。
「バイク周りのものも買わなきゃいけないね。体にフィットするものじゃないとあんまり意味ないから」
「どうして革のじゃなきゃいけないの?」
「転けた時に受ける裂傷を軽減する為だよ。バイクは速いけど生身で乗るからね。防具って結構重要なんだ」
「そっか……」
「ちゃんと乗ってればそう危ない乗り物でもないんだけど、自分がどんなに気をつけてても他の人間も走ってる以上どんな危険があるか分からないでしょ?」
「うん。皆が安全運転な訳じゃないもんね」
「そ。だから自分に合ったものをちゃんと着込んだ方が安全性が少しでも上がるでしょ? ましてや大事な美優を乗せるんだ。そんなの絶対ケチっちゃだめな所だよ」
「ありがとう、壱弥」
「当然の事だよ。さ、乗って?」
ジャケットを着、ヘルメットを被って、手袋を嵌めた美優はバイクに跨る壱弥の肩に手を乗せた。
そしてバイクに跨るとバイクのスロットルを回した壱弥はクラッチを切り替えて発進する。
バイクはまるで空に登っていく様な軽快なエンジン音をあげて、あっという間に二人を穂澄のブティックまで運んだ。
店に入ると前回とは違う、セミロングの巻き毛の可愛い感じの従業員の女性が二人に声をかけた。
「何かお探しですか?」
「店長いますか? 鈴志野だと伝えてもらえれば」
「畏まりました。少々お待ち下さい」
従業員の女性は軽く頭を下げるとスタッフルームに入っていく。
すぐにスタッフルームから穂澄が出て来た。
「美優ちゃん! 大変だったわね!」
「穂澄さん」
穂澄は声をかけるのと同時に美優に歩み寄って、その手を取った。
「怖かったでしょ? やっぱり美優ちゃん可愛くて優しくて気遣いが出来ちゃうからそういうのに狙われちゃうのね。壱弥の家で困ってる事ない?」
「大丈夫。壱弥も気遣ってくれるから」
「あら、壱弥って呼ぶようになったのね。私の事も穂澄って呼んでくれない?」
「……ほずみ……? あの、心配してくれてありがとう」
「あんっ! もう、美優ホント可愛いんだからっ! あ、私も美優って呼ぶわね?」
「うん、その方が嬉しいよ」
「私にストーカーする奴がいたら、泣いてごめんなさいって言うまで言葉責めするのに。でもあいつら私みたいなのには絶対ストーキングしないのよね。残念だわ」
「穂澄の言葉責めはホント洒落にならないだろうね。きっと人格の全てを徹底的に否定されるんだ。穂澄ってそういう人間を前にすると尊厳なんて紙より軽くなるよね」
壱弥が無表情で穂澄を眺めて言った。
「人の尊厳無視してる奴の尊厳なんて守ってやる必要ある?」
穂澄がいい笑顔で壱弥に言い放った。
「ま、頼もしい限りだよ。で、美優の買い物任せていい?」
「もちろんよ。じゃ、先ずはうちの店の売上に貢献してもらいましょうか。さ、美優? こっち来て」
VIPが通されるフィッティングルームの中には穂澄が選んだコーデの服が所狭しと並べられている。
「気に入らないのがあったら遠慮なく言ってね? それは省くから」
「え、気に入らないのなんてないけど、こんなにたくさんあっても困っちゃうよ」
「どうせ壱弥の奢りだしいいじゃない。服はたくさん着まわした方が服自体も保つのよ?」
「そ、そうだけど……」
「いつも美優がしてる格好を参考にしてコーデしてみたわ。壱弥とデートする事もあるでしょ? あの白黒男の隣にいるなら美優が鮮やかな色着なきゃ。これでも少ないかなって思ってる位なのよ? で、気に入らないのはない?」
「ないよ。全部素敵。でもね?」
「ホント? じゃ全部包むわね。靴とかも入ってるから。 次はランジェリーショップに行きましょ?」
「え? 全部包んじゃうの?!」
「うん。じゃ、これは私が壱弥の家まで持っていくわ。基礎化粧品も買いましょうね」
「それは、大丈夫だから。ほら、ずっと使うものはお財布とも相談しないといけないから、ね?」
「そう? なら、まあそれは今度にしましょうか。いつも使ってるやつ買いに行きましょ。さ、行くわよ、美優」
VIPルームを出て、穂澄は先ほどの巻き毛の従業員の女性に声をかける。
辺りを見渡しても壱弥はいない。
「あ、VIPルームのコーデ、全部包んでおいてくれない?」
「わかりました、店長」
「包んだものは私の部屋に入れておいてくれたらいいわ」
「はい。これから出られるんですよね?」
「うん、閉店処理任せちゃうわね?」
「はい。行ってらっしゃい」
「よろしく~~」
穂澄は美優の肩を抱いて店をのドアを潜った。
「壱弥はやっておく事があるから一回帰るって。私が買い物の後美優の家まで送っていくわ。そこで壱弥とバトンタッチ」
「うん、ありがとう、穂澄。早く上がらせちゃったね、ごめん」
「ううん、私、忠也先輩の会社の取締役でもあるじゃない? だからこの店にいない事も多いのよ。だけど従業員の子達皆いい子でしっかり者だからいつもお店任せちゃってるのよね。ホント好き勝手させてもらってありがたいわ。だから気にしないで。私いなくても全然問題ないお店だから」
「そんなに軌道に乗せるの大変だったんじゃない? 凄いね、穂澄」
「まあ、人が揃うまでが大変よね。何でもそうよ。たまたま運良くいい人に恵まれたんであって私は自由にさせてもらってただけ」
「ううん、そういう人が集まってくるのは穂澄の人徳だと思うよ? 凄い事だよ」
「……本当に美優は良い子ね。私も美優の事守ってあげるからね? 壱弥が頼りなかったら私のトコに一番に来てね?」
「うん、ありがとう、穂澄」
二人はそんな話をしながらパーキングに向かって穂澄は黄色い少し丸み帯びたオープンカーを電子キーで解錠した。
「さ、乗って?」
「うん」
美優は助手席のドアを開けて車に乗り込んだ。
「これ、オープンカーだよね?」
「そうよ? 開けてみたい?」
「うん。あ、でもまだ寒いかな?」
「大丈夫。案外寒くないのよ。じゃ開けるわね」
穂澄は車を覆ったホロを開けて、エンジンスタートのボタンを押す。
「じゃ、行くわよ~~」
二人の乗った黄色い車はパーキングを出て公道に出た。
車がスピードを上げていき 風が二人の髪を靡かせる。
「ねえ、美優?」
「なに?」
「美優はさ、思い詰めて責任感じちゃうタイプっぽいから言っておくけど、ストーカーされるなんて美優には何の非も無いし、何も責任感じる事ないからね?」
「……ホント言うとね? ちょっと自分が誤解させるような事しちゃったのかなって思ってたんだ」
「そうでしょ? 絶対そんな事ないからね? 本人の気持ちをちゃんと確認もせずに勝手に想いこじらせて付け回してる人間の方がどうかしてるんだから、美優は怒っていいのよ? わかった?」
「うん、ありがとう、穂澄」
「誰を頼っても問題ないから。壱弥に甘える事もこれを機に慣れちゃいましょうね?」
穂澄の言葉に自責の気持ちで落ち込んでいた気持ちが浮上したような気がした。
「で、心当たりはないの?」
「全然。最近バイト先とかで視線を感じるな~~とは思ったの。でも気のせいかなって」
「そう。じゃあホントに付け回されてるのね。今の所バイト先だけ?」
「ううん。家がバレちゃってるのは確実だよ。写真撮られてたから」
「じゃあ、昨日の夜壱弥とバイク乗ってどっか行ったのは見てる可能性は高いわね」
「うん。壱弥はバイクはつけられてないから大丈夫だって言ってた」
「ま、壱弥は尾行されて気付かない様な間抜けじゃないからそれは信用していいわ。じゃ、私達の買い物は安心して楽しめるわね」
「あのね、私そんなにお金持ってないから……」
「何言ってるの? 壱弥にツケるに決まってるじゃない。何も遠慮しなくていいわ。美優に関するものは全部俺が出すからって言われてるの」
「また、壱弥に頼りっぱなしになっちゃうな……」
「いいのよ。それで美優を縛り付ける様な事言う様な矮小な男でもモラハラ男でもないでしょ?」
「うん、壱弥はそんな人じゃないよ? いつも優しくしてくれる」
「壱弥はあんなに美優に惚れてるんだもの。こんな時こそ力になりたいって思ってると思うわよ? だから遠慮なく甘えたらいいわよ」
「……うん。今回は甘させてもらう」
「うん、それでいいのよ。今回と言わず、ずっと頼ってあげたら喜ぶわよ?」
「……うん、でもね? 私なんだか怖くて……」
「ん? 何が?」
「だって壱弥って本当に無条件に私の事甘やかすから……。なんか私がダメになりそうで怖いんだ」
「……そっか。美優は自分の事は自分でちゃんとやらなきゃって思ってるのね?」
「うん」
「私さ、会社の営業担当なんだけど、事務処理は苦手なのよね」
「そうなの?」
「うん。だからさ、事務の子にはまだ任せられない様な書類は航生に丸投げしちゃったりするのよね。しっかり者のお姉さんに見える私もそんな感じで甘えられるトコは甘えちゃってるのよ」
穂澄が自慢気に言うので美優は少し笑ってしまう。
「そっか。穂澄にも得手不得手があるんだね」
「そうよ? 私ホント書類嫌い。読むのはいいんだけど作るのがホント苦手。だから営業事務の子か航生にお願いしちゃうの」
「航生君は書類作るのは得意なの?」
「うん、あいつは外に出て何かするタイプじゃなくて会社の庶務、法務、人事なんかの方が得意なのよね」
「ああ、でもわかる気がする。航生君はいつも皆の空気読んで動いてる人だなって思う」
「そう。細かい事に気が付くのよ。私とは正反対ね」
「……でも私、穂澄も凄く細かい事に気が付く人だなっていつも思ってたよ?」
「そ?」
「ああ、多分、穂澄は人の内面? みたいなものに敏感で、航生君は人の動向? みたいなものに敏感なのかも」
「ああ、なるほどね。それはそうかもしれない。ま、そういう感じで誰でも誰かを頼りにしてる部分はあるのよね。だから美優は安心して壱弥に甘えたらいいわよ」
「……うん、わかった」
車は繁華街の中心部まで進んでいき、大きなショッピングモールの立ち並ぶエリアに行き、立体駐車場に入って行った。
「そうなんだね、神崎さん、なんか色々大変だね。うん、今日は清水君に代わってもらえるか頼んでみるよ」
「ご迷惑おかけします」
「うちは何も迷惑なんてかかってないよ? そんな目に遭っててもこうしてシフト通り来てくれてホントに助かるよ」
「ホントは今日も林さんのシフト入りたかったんですけど、警察行ったりしないといけなくて……」
「え、警察行くんだ?」
「はい。その方がいいってアドバイス貰ったんで」
「そっか……。まあ、今日は早めに上がってもいいよ? 清水君来たらすぐに帰ってくれて構わないから」
「え? いいんですか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます」
それからいつもの様に業務をこなす。
ただ、いつもよく喋りかけてくれる木之崎が今日は何か少しだけよそよそしい感じがした。
そして、必ず来ているいつも唐揚げ定食を頼む常連客が珍しく顔を見せなかった。
清水がやって来たと同時に早く上がらせてもらい、バイト先を出た。
昼休憩の時に壱弥には早く上がる事を伝えていたので、壱弥は既にパーキングの脇にあるバイク用の駐輪場でバイクに跨って待っていた。
壱弥に駆け寄った美優は、なんとなく壱弥の姿を見つけるとホッとした。
「お待たせ、壱弥」
「バイトお疲れ様、美優」
壱弥はバイクを降りてパニアケースから革ジャケットと手袋、そしてヘルメットを取り出した。
「バイク周りのものも買わなきゃいけないね。体にフィットするものじゃないとあんまり意味ないから」
「どうして革のじゃなきゃいけないの?」
「転けた時に受ける裂傷を軽減する為だよ。バイクは速いけど生身で乗るからね。防具って結構重要なんだ」
「そっか……」
「ちゃんと乗ってればそう危ない乗り物でもないんだけど、自分がどんなに気をつけてても他の人間も走ってる以上どんな危険があるか分からないでしょ?」
「うん。皆が安全運転な訳じゃないもんね」
「そ。だから自分に合ったものをちゃんと着込んだ方が安全性が少しでも上がるでしょ? ましてや大事な美優を乗せるんだ。そんなの絶対ケチっちゃだめな所だよ」
「ありがとう、壱弥」
「当然の事だよ。さ、乗って?」
ジャケットを着、ヘルメットを被って、手袋を嵌めた美優はバイクに跨る壱弥の肩に手を乗せた。
そしてバイクに跨るとバイクのスロットルを回した壱弥はクラッチを切り替えて発進する。
バイクはまるで空に登っていく様な軽快なエンジン音をあげて、あっという間に二人を穂澄のブティックまで運んだ。
店に入ると前回とは違う、セミロングの巻き毛の可愛い感じの従業員の女性が二人に声をかけた。
「何かお探しですか?」
「店長いますか? 鈴志野だと伝えてもらえれば」
「畏まりました。少々お待ち下さい」
従業員の女性は軽く頭を下げるとスタッフルームに入っていく。
すぐにスタッフルームから穂澄が出て来た。
「美優ちゃん! 大変だったわね!」
「穂澄さん」
穂澄は声をかけるのと同時に美優に歩み寄って、その手を取った。
「怖かったでしょ? やっぱり美優ちゃん可愛くて優しくて気遣いが出来ちゃうからそういうのに狙われちゃうのね。壱弥の家で困ってる事ない?」
「大丈夫。壱弥も気遣ってくれるから」
「あら、壱弥って呼ぶようになったのね。私の事も穂澄って呼んでくれない?」
「……ほずみ……? あの、心配してくれてありがとう」
「あんっ! もう、美優ホント可愛いんだからっ! あ、私も美優って呼ぶわね?」
「うん、その方が嬉しいよ」
「私にストーカーする奴がいたら、泣いてごめんなさいって言うまで言葉責めするのに。でもあいつら私みたいなのには絶対ストーキングしないのよね。残念だわ」
「穂澄の言葉責めはホント洒落にならないだろうね。きっと人格の全てを徹底的に否定されるんだ。穂澄ってそういう人間を前にすると尊厳なんて紙より軽くなるよね」
壱弥が無表情で穂澄を眺めて言った。
「人の尊厳無視してる奴の尊厳なんて守ってやる必要ある?」
穂澄がいい笑顔で壱弥に言い放った。
「ま、頼もしい限りだよ。で、美優の買い物任せていい?」
「もちろんよ。じゃ、先ずはうちの店の売上に貢献してもらいましょうか。さ、美優? こっち来て」
VIPが通されるフィッティングルームの中には穂澄が選んだコーデの服が所狭しと並べられている。
「気に入らないのがあったら遠慮なく言ってね? それは省くから」
「え、気に入らないのなんてないけど、こんなにたくさんあっても困っちゃうよ」
「どうせ壱弥の奢りだしいいじゃない。服はたくさん着まわした方が服自体も保つのよ?」
「そ、そうだけど……」
「いつも美優がしてる格好を参考にしてコーデしてみたわ。壱弥とデートする事もあるでしょ? あの白黒男の隣にいるなら美優が鮮やかな色着なきゃ。これでも少ないかなって思ってる位なのよ? で、気に入らないのはない?」
「ないよ。全部素敵。でもね?」
「ホント? じゃ全部包むわね。靴とかも入ってるから。 次はランジェリーショップに行きましょ?」
「え? 全部包んじゃうの?!」
「うん。じゃ、これは私が壱弥の家まで持っていくわ。基礎化粧品も買いましょうね」
「それは、大丈夫だから。ほら、ずっと使うものはお財布とも相談しないといけないから、ね?」
「そう? なら、まあそれは今度にしましょうか。いつも使ってるやつ買いに行きましょ。さ、行くわよ、美優」
VIPルームを出て、穂澄は先ほどの巻き毛の従業員の女性に声をかける。
辺りを見渡しても壱弥はいない。
「あ、VIPルームのコーデ、全部包んでおいてくれない?」
「わかりました、店長」
「包んだものは私の部屋に入れておいてくれたらいいわ」
「はい。これから出られるんですよね?」
「うん、閉店処理任せちゃうわね?」
「はい。行ってらっしゃい」
「よろしく~~」
穂澄は美優の肩を抱いて店をのドアを潜った。
「壱弥はやっておく事があるから一回帰るって。私が買い物の後美優の家まで送っていくわ。そこで壱弥とバトンタッチ」
「うん、ありがとう、穂澄。早く上がらせちゃったね、ごめん」
「ううん、私、忠也先輩の会社の取締役でもあるじゃない? だからこの店にいない事も多いのよ。だけど従業員の子達皆いい子でしっかり者だからいつもお店任せちゃってるのよね。ホント好き勝手させてもらってありがたいわ。だから気にしないで。私いなくても全然問題ないお店だから」
「そんなに軌道に乗せるの大変だったんじゃない? 凄いね、穂澄」
「まあ、人が揃うまでが大変よね。何でもそうよ。たまたま運良くいい人に恵まれたんであって私は自由にさせてもらってただけ」
「ううん、そういう人が集まってくるのは穂澄の人徳だと思うよ? 凄い事だよ」
「……本当に美優は良い子ね。私も美優の事守ってあげるからね? 壱弥が頼りなかったら私のトコに一番に来てね?」
「うん、ありがとう、穂澄」
二人はそんな話をしながらパーキングに向かって穂澄は黄色い少し丸み帯びたオープンカーを電子キーで解錠した。
「さ、乗って?」
「うん」
美優は助手席のドアを開けて車に乗り込んだ。
「これ、オープンカーだよね?」
「そうよ? 開けてみたい?」
「うん。あ、でもまだ寒いかな?」
「大丈夫。案外寒くないのよ。じゃ開けるわね」
穂澄は車を覆ったホロを開けて、エンジンスタートのボタンを押す。
「じゃ、行くわよ~~」
二人の乗った黄色い車はパーキングを出て公道に出た。
車がスピードを上げていき 風が二人の髪を靡かせる。
「ねえ、美優?」
「なに?」
「美優はさ、思い詰めて責任感じちゃうタイプっぽいから言っておくけど、ストーカーされるなんて美優には何の非も無いし、何も責任感じる事ないからね?」
「……ホント言うとね? ちょっと自分が誤解させるような事しちゃったのかなって思ってたんだ」
「そうでしょ? 絶対そんな事ないからね? 本人の気持ちをちゃんと確認もせずに勝手に想いこじらせて付け回してる人間の方がどうかしてるんだから、美優は怒っていいのよ? わかった?」
「うん、ありがとう、穂澄」
「誰を頼っても問題ないから。壱弥に甘える事もこれを機に慣れちゃいましょうね?」
穂澄の言葉に自責の気持ちで落ち込んでいた気持ちが浮上したような気がした。
「で、心当たりはないの?」
「全然。最近バイト先とかで視線を感じるな~~とは思ったの。でも気のせいかなって」
「そう。じゃあホントに付け回されてるのね。今の所バイト先だけ?」
「ううん。家がバレちゃってるのは確実だよ。写真撮られてたから」
「じゃあ、昨日の夜壱弥とバイク乗ってどっか行ったのは見てる可能性は高いわね」
「うん。壱弥はバイクはつけられてないから大丈夫だって言ってた」
「ま、壱弥は尾行されて気付かない様な間抜けじゃないからそれは信用していいわ。じゃ、私達の買い物は安心して楽しめるわね」
「あのね、私そんなにお金持ってないから……」
「何言ってるの? 壱弥にツケるに決まってるじゃない。何も遠慮しなくていいわ。美優に関するものは全部俺が出すからって言われてるの」
「また、壱弥に頼りっぱなしになっちゃうな……」
「いいのよ。それで美優を縛り付ける様な事言う様な矮小な男でもモラハラ男でもないでしょ?」
「うん、壱弥はそんな人じゃないよ? いつも優しくしてくれる」
「壱弥はあんなに美優に惚れてるんだもの。こんな時こそ力になりたいって思ってると思うわよ? だから遠慮なく甘えたらいいわよ」
「……うん。今回は甘させてもらう」
「うん、それでいいのよ。今回と言わず、ずっと頼ってあげたら喜ぶわよ?」
「……うん、でもね? 私なんだか怖くて……」
「ん? 何が?」
「だって壱弥って本当に無条件に私の事甘やかすから……。なんか私がダメになりそうで怖いんだ」
「……そっか。美優は自分の事は自分でちゃんとやらなきゃって思ってるのね?」
「うん」
「私さ、会社の営業担当なんだけど、事務処理は苦手なのよね」
「そうなの?」
「うん。だからさ、事務の子にはまだ任せられない様な書類は航生に丸投げしちゃったりするのよね。しっかり者のお姉さんに見える私もそんな感じで甘えられるトコは甘えちゃってるのよ」
穂澄が自慢気に言うので美優は少し笑ってしまう。
「そっか。穂澄にも得手不得手があるんだね」
「そうよ? 私ホント書類嫌い。読むのはいいんだけど作るのがホント苦手。だから営業事務の子か航生にお願いしちゃうの」
「航生君は書類作るのは得意なの?」
「うん、あいつは外に出て何かするタイプじゃなくて会社の庶務、法務、人事なんかの方が得意なのよね」
「ああ、でもわかる気がする。航生君はいつも皆の空気読んで動いてる人だなって思う」
「そう。細かい事に気が付くのよ。私とは正反対ね」
「……でも私、穂澄も凄く細かい事に気が付く人だなっていつも思ってたよ?」
「そ?」
「ああ、多分、穂澄は人の内面? みたいなものに敏感で、航生君は人の動向? みたいなものに敏感なのかも」
「ああ、なるほどね。それはそうかもしれない。ま、そういう感じで誰でも誰かを頼りにしてる部分はあるのよね。だから美優は安心して壱弥に甘えたらいいわよ」
「……うん、わかった」
車は繁華街の中心部まで進んでいき、大きなショッピングモールの立ち並ぶエリアに行き、立体駐車場に入って行った。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
専属秘書は極上CEOに囚われる
有允ひろみ
恋愛
手痛い失恋をきっかけに勤めていた会社を辞めた佳乃。彼女は、すべてをリセットするために訪れた南国の島で、名も知らぬ相手と熱く濃密な一夜を経験する。しかし、どれほど強く惹かれ合っていても、行きずりの恋に未来などない――。佳乃は翌朝、黙って彼の前から姿を消した。それから五年、新たな会社で社長秘書として働く佳乃の前に、代表取締役CEOとしてあの夜の彼・敦彦が現れて!? 「今度こそ、絶対に逃さない」戸惑い距離を取ろうとする佳乃を色気たっぷりに追い詰め、彼は忘れたはずの恋心を強引に暴き出し……。執着系イケメンと生真面目OLの、過去からはじまる怒涛の溺愛ラブストーリー!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる